先日の記事で川金ホールディングス(5614)のMBOに際しての事業計画の管理人による補間結果を当初のものより更新(EBITを新たに算出)しました。そこで、この更新された結果に基づいて、改めて川金ホールディングスの事業計画について検証を行い、算定書のDCF法評価の問題点について確認したいと思います。

 初めに確認になりますが、当ブログでの検証内容は以下の3つの前提に基づいています。

 1.検証を行っているのは株式価値算定書のDCF法評価の内容についてのみ。
 2.売上高の見通しが適切かどうかについては検証を行っておらず、売上高は正しいものと仮定して算定書を検証。
 3.免振・制振用オイルダンパーに係る製品補償引当金については事業計画期間中に生じる対策費用と継続期間中に生じる対策費用の内訳が不明なため考慮していない。

 なお、当ブログでこれまでアップした検証シートは管理人以外には全体の構造が理解できないのではないかというほど難解な構造をしており、今回から(おそらく多少は)分かりやすいようにシートの構造を若干変更しております。

 検証結果はこちらです。このシートに基づいて売上原価、販売費及び一般管理費から順番に検証していきます。

 それぞれ過去の原価率に基づいて、売上原価については原価率を、販売費及び一般管理費については回帰式を求めて事業計画の売上高に当てはめて検証しました。なお、減価償却費については川金ホールディングスの有価証券報告書からは売上原価に帰属するものと販管費に帰属するものとを分離することができないのですが、過去の川口金属工業の有価証券報告書を見る限りそのほとんどが売上原価に帰属していると考えられるため、全額を売上原価に帰属させています。計算の結果、事業計画における売上原価と販管費の合計額は管理人の推定額と極めて近い金額となりました。従って、売上原価と販管費についてはこれを適正なものと認めるとともに、以下の分析において売上原価と販管費について事業計画にある数値を用いることとします。

 次に、設備投資(固定資産への投資支出)について推定を行います。償却性固定資産については事業計画から算出される減価償却費と償却性固定資産に対する減価償却費の実績値から推定を行いました。償却率の実績としては前期の15.5%は過去の実績と比べてやや高い印象を受けますので、直近四半期の14.8%を用いました。また、減価償却費は期中の償却性固定資産から生じると考えるのが理論的には正しいのですが、計算が循環するのを回避するために期初の償却性固定資産から生じるものとしています。ほか、以前にアップしたシートと異なり、事業性の有価証券への投資も設備投資に含んでいます。(追記:減損損失については以前のシートでは過去の実績に基づいて計画期間中一定の金額を計上していましたが、EBITの算出において減損損失を考慮せずに妥当な数値が算出されたことから、今回は計画期間中に減損損失は生じないと仮定しています。)

 そして、運転資産については、運転資産=売上債権+たな卸資産-仕入債務の式で計算を行いました。たな卸資産と仕入債務の推定に用いた売上原価については先ほど管理人が計算した推定値を用いています。こちらについても売上債権については過去の売上高との比率の実績を延長するなどして推定を行っています。なお、ここでは季節性の排除の観点から比率の実績には前期末の数値を用いています。

 これらの推定結果を用いて管理人によるフリー・キャッシュ・フローの推定を行うとともに、事業計画におけるフリー・キャッシュ・フローの数値との比較を行ったところ、2021年3月期の残り9ヶ月のフリー・キャッシュ・フローが管理人の推定金額12億円に対して事業計画ではおよそ34億円と、22億円近く過大になっている一方で、計画期間全体のフリー・キャッシュ・フローの合計値については1億円未満しか差額が生じませんでした。従って、事業計画におけるフリー・キャッシュ・フローの推移はやや不可解なものであると同時に、DCF法評価結果には必ずしも大きな影響を与えるものではないと考えられます。

 投下資本利益率(ROIC)についても推定を行います。本来求めたいものは新規の投資に対する投下資本利益率(RONIC)なのですが、真の値を容易に推測できるものではないので、最善の推定として簿価投下資本に含み益を加えるとともに繰延税金資産・負債を控除する方法によって簡易にRONICを推定しています。また、繰延税金資産の純額は前期末の金額が継続するものと仮定しました。

 その結果、RONICは5.2%となり、株式価値算定書のDCF法評価における割引率7.24~8.84%を大きく下回っています。これはすなわち他に7.24~8.84%の収益率を見込める案件があるにもかかわらず5.2%の収益率しか見込めない事業に投資を行い続けることを意味するもので、今回のようなMBOの局面など経営者の信任義務遵守が求められる局面では決して採用してはいけない前提を採用しているということになります。

 以上の検証結果から、川金ホールディングスのMBOに際してのDCF法評価の問題点は割引率(WACC)と投下資本利益率(ROIC)のバランスの悪さの1点にほぼ限定されるといってよいと考えられます。

 シートの最後に対フリー・キャッシュ・フローの還元性向についても最後に計算しています。以前アップした計算結果とは、フリー・キャッシュ・フローの計算に事業性投資有価証券の取得を反映したことと、負号の誤りを正したことから若干計算結果が異なっています。もっとも、川金ホールディングスの還元性向が極めて低いのではないかという以前の記事での結論自体は維持されるものであり、このような配当政策の結果形成された市場株価をMBOの際のTOB価格の参照とすべきではないと考えられます。MBOに際しての開示資料では他のMBO案件との比較でプレミアムが遜色ない水準と謳われていますが、そもそも還元性向が他の案件よりもかなり低いのではないかと、検証は行っていませんが直感的に感じるところです。このような場合、他のMBO案件とそのプレミアムの水準を比較することは意味がないのではないかと考えられます。