昨日取り上げたJSR(4185)による医学生物学研究所(4557)に対するTOBに関する株式価値算定書ですが、本日、野村證券作成のものについてもEDINETを通じて開示されました。

 内容を確認したところ、DCF法評価の前提とした事業計画については記載のない一方で、算定に必要な他の要素については公開買付けに係る開示資料よりも記載が充実しています。そこで、プルータス・コンサルティングが採用した事業計画でのフリー・キャッシュ・フローを野村證券におけるDCF法評価プロセスに当てはめてみることにします。

 野村證券は永久成長率法とマルチプル法の2つの手法によるDCF法評価を行っており、それぞれの株式価値レンジを記載しています。そこで、永久成長率法とマルチプル法とを別のシートで計算することにします。割引率は共通の7.00~8.00%、永久成長率は-0.25%~0.25%、EBITDAマルチプルは7.0~9.0倍です。重要な記載として「ネット有利子負債等は、2020年9月30日時点の「有利子負債-現預金」で計算しております。」との記述があります。そこで、このネット有利子負債を事業価値と株式価値の差額と考え、その金額は2020年9月30日時点の財務諸表より現金及び預金3,338,344(千円)-(短期借入金574,912(千円)+長期借入金200,384(千円))=2,563,048(千円)とします。

 永久成長率法による算定結果はこちらです(※)。1株当たり4,364~5,216円となり、算定書の4,084~4,812円よりも高い算定結果となりました。マルチプル法による算定結果はこちらです。1株当たり4,608~5,746円となり、こちらの算定書の4,322~5,318円よりも高い結果となりました。

 野村證券によるものとプルータス・コンサルティングによる評価額レンジに差異が生じていることから、野村證券の前提とした事業計画におけるフリー・キャッシュ・フローの金額と、プルータス・コンサルティングが採用した事業計画におけるフリー・キャッシュ・フローの金額は異なっていると考えられます。これに関しては、プルータス・コンサルティングが採用した事業計画については上場関連費用の削減効果が反映されていると開示資料中に明記されているのに対し、野村證券のものについてはこの点が不明ですので、上場関連費用の削減効果の違いによるものの可能性もあります。

 また、事業価値と株式価値の差額をネット有利子負債と考えその金額を約26億円としましたが、昨日行ったプルータス・コンサルティングの行ったDCF法評価の検証では事業価値と株式価値の差額は約9億円と推定されました。この差額は1株当たり評価額に換算すると315円の差となるものです。野村證券の株式価値算定書には「法務、財務税務、ビジネスデューデリジェンスの結果等」を使用したとの記載がある(6ページ)ので、財務デューデリジェンスの結果に基づいた適正な金額であると言ってしまえばそれまでなのですが、対象会社においては売上債権や棚卸資産が多額に抱え込まれるのに対して仕入債務は少額で、一般的な必要運転資金の推定式を当てはめても(こちらです。)多額の現預金が運転資金として手許に必要な気もします。資金繰り表など会社の内部資料を確認しない限り確かなことは言えませんが、野村證券が現預金の全てをネット有利子負債等の計算に用いたのは疑問のあるところです。あるいは、シナジー効果を考慮しないとの開示資料中の記述とは異なり、必要運転資金部分に完全子会社化に伴うシナジー効果が実は反映されているのではないかという気もします。

※当初のファイルで事業価値最小評価額の計算が誤っておりましたので、差し替えております。ご了承ください。