ビルマのカチン州・シャン州での出来事 written by 菅光晴

ビルマ旅行は、ヤンゴン、パガン、インレー湖、マンダレーあたりを巡って来られればそれでよし、という人が多いですが、マンダレーから北(カチン州)や東(シャン州)に進んでいくと、まるで別の世界が広がります。カチン州やシャン州で日々起きている事を、できる限り紹介していきたいと思います。

首都ネピドー市で携帯電話の使用が解禁される

 10月9日、首都ネピドー市内における携帯電話の使用が解禁された。しかし、通信郵便電信省から携帯電話の使用許可を得るのに155万チャット(約14万円)もかかるため、この解禁を機に携帯電話が一般市民に普及するとは考えにくい。ネピドー市内に住む国軍将校の多くは、従来どおりトランシーバーを主たる通信手段としている。

ビルマ初の“ミニカー専用サーキット”

 10月30日、ヤンゴン市ティンガンジュン地区のウェーザヤンダー通り沿いに、広さ26,000㎡のミニカー専用サーキット「ギャラクシー・レーシング・カーツ・グラウンド」がオープンする。同サーキットの所有者であるシュエポンポン社のティン・アウンミン社長は、「私たちは日本から輸入した最高時速80kmのミニカー20台を用意しており、レーシングスーツの貸し出しや、インストラクターによる運転講習も行う予定である。営業時間が午前7時から午後10時までと長く、喫茶店やレストランもあるので、多くの人に楽しんでもらえると思う」と語っており、10月23日の記者会見でさらなる詳細を明らかにする予定である。
 

「世界報道自由ランキング」でビルマは下から5番目

 フランスのパリに本部を置くNGO「国境なき記者団(RWB)」は10月20日、「世界報道自由ランキング」を発表した。これによると、ビルマは175か国中171位で、その下には、イラン(172位)、トルクメニスタン(173位)、北朝鮮(174位)、エリトリア(175位)と錚々たる国が続いた。ちなみに、1位には、デンマーク、フィンランド、アイルランド、ノルウェー、スウェーデンの5か国が同率で並び、日本は17位であった。

 RWBアジア担当のヴァンサン・ブロッセル氏は、「この1年間、ビルマの報道環境には何の改善も見られなかった。ビルマ国内で活動するジャーナリストは依然として、不当な検閲や脅迫や投獄に苦しめられている。来年ビルマでは総選挙が実施されるが、選挙運動におけるメディア利用がどのくらい許可されるか、注目したい」とコメントしている。

 ビルマでは、民間の出版物はすべて、政府の「検閲委員会」による頒布前検閲を受けなければならない。

カチン州の15年:天然資源の宝庫が停戦協定締結により貧困化、ケシ栽培の増加へ

 カチン州の経済は、金鉱、ヒスイ鉱、チーク材、稲作の4本柱で成り立っている。これらの資源や収穫は、国軍と「カチン独立軍(KIA)」による停戦協定締結(1994年2月24日)の前まで、完全にカチン族の手中にあった。ところが、停戦協定締結後、これらの資源や収穫は、国軍によってカチン族の手から次々と奪われていった。

 州都ミッチーナ市の南東80kmに位置するワインモー郡ナムサンヤン村には金鉱があり、付近住民らは1994年まで、その採掘に関わって裕福に暮らしていた。しかし、採掘権を完全に軍事政権側に奪われた今、彼らはまったく別業種の会社や工場に勤めているが、1日8時間働いて2,000~4,000チャット(200~400円)の報酬しか得られない。この金額では、1人の2食分の食費にしかならないため、家族を養っていくには副業をしなければならない。軍事政権の収奪によって貧窮したカチン州の住民らがこぞって精を出している副業、それはケシ栽培である。

 畑1エーカー(約4,000㎡)の畑から収穫できるケシは1~7ビス(1.6~11.2kg)で、ケシから作られるアヘンは、1ビス(1.6kg)あたり1000万チャット(約100万円)以上で売れる。カチン州内では、アヘンの需要が増大している(常習者が増加している)こともあって、新たにケシ栽培を始める住民が跡を絶たない。

首都ネピドー市で「ポリエチレン袋不使用キャンペーン」始まる

 ヤンゴン市に本部を置く環境NGO「森林資源環境開発保全協会(FREDA)」の提言を受けて、マンダレー市は今年6月21日から、首都ネピドー市は10月6日から、「ポリエチレン袋不使用キャンペーン」を実施している。両市とも、市職員らがマーケットなどを巡回して、商品包装にバナナやハスの葉を用いるよう呼びかける一方、ポリエチレン袋を見つけしだい没収している。

 石油を豊富に産出するビルマでの「ポリエチレン袋不使用キャンペーン」、日本人も少し見習うべきではないだろうか?

カチン族武装組織「ラサン・オン・ワー停戦グループ」が国軍傘下の国境警備隊に

 国軍北部軍管区司令官のソー・ウィン少将は10月16日午前11時、カチン州ミッチーナ市北郊のラワーヤン村で、2004年1月4日に「カチン独立軍(KIA)」から分離・独立して結成された武装組織「ラサン・オン・ワー停戦グループ(総員154人)」を、国軍傘下の国境警備隊「ラワーヤン民兵団」に再編成する式典を開催した。

 「ラワーヤン民兵団」は、「ラサン・オン・ワー停戦グループ」の154人に国軍将校10人を加えた164人で構成され、ラワーヤン村とその近郊のグィートゥー村に配置される。
 
 現在、カチン族の各武装組織は、国軍傘下の国境警備隊に再編成することの可否をめぐって揺れている。これに関しては、ビルマ内外のカチン族のリーダーらも賛否両論を展開しており、このうち「カチン民族機構(KNO)」のボムワン・ラロー議長(英国在住)は、9月15日に発表した「すべてのカチン族へ」という声明の中で、「KIAも国軍傘下の国境警備隊に再編成すべき」と述べている。

ヤンゴン市で「子どもの権利条約」採択20周年を記念する写真コンテスト

 1989年11月20日の国連総会で「子どもの権利条約」が採択されてから、もうすぐ20年になる。これを記念して、「ミャンマー写真家協会」と「国連児童基金(UNICEF)」が、ヤンゴン市で写真コンテストを共同開催する。テーマは「子供たちの健康な生活」、「子供と教育」、「危険にさらされた子供たち」、「子供と自然災害」の4つで、優勝者に70万チャット、第2位に50万チャット、第3位に30万チャットの賞金がそれぞれ支給される。ビルマは1991年に「子どもの権利条約」を批准した。

不法滞在ビルマ人を暴行する瑞麗市警察

 中国雲南省瑞麗市で商店を経営しているビルマ人、マー・グランさんによると、9月以降、警察による不法滞在ビルマ人の扱い方が暴力的になったという。不法滞在しながら工場で働いていたミョー・ウィンさんは、職場で数人の警察官に逮捕された際、無抵抗であったにもかかわらず、棍棒で袋叩きにされて重傷を負った。その後、罰金300元を支払って釈放され、ビルマに帰ったミョー・ウィンさんは、「以前は瑞麗市内で不法滞在者が警察官に暴行されることなどなかった」と、警察による取締り方法の変化に首をかしげている。

 これについて、「カチン発展ネットワーキンググループ(KDNG)」のオン・ワー議長は、「8月末にビルマ国軍がシャン州コーカン地区ラオカイ市一帯を武力制圧したことにより、同市住民の90%以上を占める中国系住民が避難を余儀なくされた。瑞麗市におけるビルマ人不法滞在者への暴力的な取締りは、中国当局による報復と見ることもできる」とコメントしている。

カチン州北部で“ユーリークー”

 カチン州北部のキンドーン郡およびダグールム郡では、竹の開花に伴って異常繁殖したネズミが農作物を食い荒らし、生活の糧を失った農民らが頭を抱えている。両郡(計16村)には189世帯(1086人)が暮らしており、このうち135世帯(792人)で農作物が全滅し、残りの54世帯(294人)でも一部の農作物に被害が出た。これに対し、カチン族の反政府武装勢力「カチン独立機構(KIO)」は10月初旬、キンドーン郡およびダグールム郡に非常事態を宣言して、住民への食料・医療支援を開始した。

 1977年にカチン州で同様の事態が発生した際には、農村部の住民ら数千人がミッチーナやプーターオなどの都市部に流出した。こうしたネズミによる農作物被害を、カチン人たちは「ユーリークー(大飢饉)」と呼んでいる。

カチン州東部で「世界食糧デー」を記念する式典

 カチン州東部の中緬国境付近の町で10月16日、「カチン発展ネットワーキンググループ(KDNG)」が、「世界食糧デー(国連食糧農業機関(FAO)の設立日)」を記念する式典を開催した。同式典には、地元のキリスト教会の牧師ら15人が参加し、KDNGのオン・ワー議長が、FAOの活動内容や、今年の世界食糧デーのテーマ「危機の時代における食品安全」についてスピーチをした。

 カチン州の住民は、国産品より安価な中国産の食料・飲料を好む傾向がある。それらには、健康被害を及ぼす可能性が指摘されるものも少なくないが、住民の多くは、安全性より値段の安さを優先している。

タン・シュエ議長に憲法改正の意思なし

 軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長は10月9日、首都ネピドー市内で退役軍人会の会合に出席した際、「2010年の総選挙前に憲法を改正せよとの声が国内外から上がっているが、現憲法は2008年5月の国民投票で92.48%の賛成を得て承認されたものであるから、改正の必要はない」と述べた。

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アンフェタミンの過剰摂取で24歳の女性が死亡

 10月13日午後8時頃、カレン州パヤートンズー市シュエウー・ダウンカン地区の住宅内で、アンフェタミン常習者の女性(24歳)が死亡しているのが発見された。この女性は2005年に夫とともにヤンゴンから引っ越してきて、借家住まいをしていたが、次第に違法薬物売買に手を染めるようになり、みずからも常習者となっていった。近隣住民によると、彼女は最近夫とうまくいっておらず、ノイローゼ気味で、アンフェタミンの摂取量が増えていたという。

中級米の価格が3か月で1.5倍に

 ビルマでは夏以降、「ポーチュエー」や「ンガーセイン」といった中級米が、輸出需要の増大に伴う国内供給の不足から価格高騰を続けている。これらの品種は7月まで、1袋(49kg)12,000チャットで販売されていたが、8月初旬に14,500チャットになり、現在は18,000チャットにまで値上がりしている。一方、「ポーサンムェー」をはじめとする高級米は、1袋(49kg)26,000チャット前後で推移しており、ほとんど価格変動がない。

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ビルマには手で御飯を食べる習慣がある

農地没収で麻薬汚染が進むカチン州

 「食卓に並べる物がないので家に親戚を招くこともできない」。カチン州北西部にあるフーコン渓谷の中心地、ダナイ市の住民の言葉である。軍事政権は2006年、カチン州を南東から北西に貫く「レド公路」沿いにあるナーマティ郡、ドゥンバン村、ノーンミ村、サトゥーズッ村、ワラズッ村、ティンコー村、バンコッ村、コーンラ村、ダナイ市の農地計20万エーカー(約810k㎡)以上を没収して、親軍政財閥「ユザナ・グループ」に売り渡した。

 以後、ユザナ・グループは、これらの農地でキャッサバやサトウキビを大規模に栽培しているが、土地を奪われた農民らは都市での就労を強いられ、常に豊富な農産物に囲まれた生活は過去のものとなった。彼らの中には、貧困から抜け出すためにケシ栽培を始めた者も少なくない。ダナイ周辺の金鉱に多くいる薬物常習者に、アヘンは1ビス(1.6kg)あたり100万チャット(約10万円)で売れる。

 カチン州はビルマ第4の穀倉地帯といわれ、レド公路沿いにも稲作農家が多かった。しかし、彼らは今、生きるために、作り慣れた米よりも単価の高いケシを栽培している。彼らの多くはカチン族のキリスト教徒であり、アヘンを売って生活費を稼ぐことに少なからぬ良心の呵責を覚えているが、背に腹は変えられないのが実情である。

北部シャン州軍(SSA-North)の司令官、射殺体で発見される

 10月12日朝、国軍と停戦中のシャン族武装組織「北部シャン州軍(SSA-North)」のサイノーン司令官(64歳)が、シャン州ティボー市内の自宅で射殺体で発見された。同司令官は、頭部を横から銃で撃たれていたが、司令官宅の内外に銃声を聞いた者はおらず、さらに司令官自身の拳銃が遺体の近くに落ちていたこともあって、サイレンサー銃による暗殺なのか拳銃自殺なのか判然としない。サイノーン司令官の葬儀は10月14日、ティボー市内で行われた。

 サイノーン司令官は、1945年3月22日にシャン州クッカイ郡で生まれ、1963年10月19日からシャン族反政府武装組織内で活動していた。

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サイノーン司令官

車2台で武器を運搬していたグループを逮捕

 10月初旬、ラカイン州タウンゴウッ市内の国軍検問所で、兵士らが、ヤンゴンからシットウェーへ向かう民間車両をチェックした際、車内に多数の武器が隠されているのを発見した。兵士らは、何事もなかったかのように車を通過させて、すぐに尾行し、シットウェー空港の近隣にある僧院内で、車から降りてきた数人を逮捕するとともに、車内から手榴弾7個と銃41丁を押収した。さらに兵士らは、数分後に同僧院内に入ってきた別の車からも多数の武器を発見・押収し、乗っていた数人を逮捕した。

 一味は、取り調べに対して、「ラカイン州に社会不和をもたらしているロヒンギャ族を殲滅するために武器を運んでいた」と供述しているが、真偽のほどは不明である。本件に関連して、ヤンゴンやシットウェーなどで計100人以上が逮捕されたとの情報もある。

ミャンマー連邦商工会議所が中国南寧市に事務所を開設

 「ミャンマー連邦商工会議所(UMFCCI)」はきたる10月20日、中国南部にある広西壮族自治区の首府南寧市に連絡事務所を開設する。これは、10月20日から24日にかけて同市内で「第6回中国ASEAN博覧会」が開催されるのに合わせたものである。今年7月にヤンゴン市と南寧市が友好都市の盟約を締結したこともあって、中緬両国の経済交流は今後ますます促進されるものと見られている。

 中国の統計によれば、2008年中の中緬両国の貿易額は、前年比26.4%増の26億2600万米ドルで、このうち、中国からビルマへの輸出額は19億7800万米ドルであった。また、2009年1~5月における中国の対ビルマ投資額(契約ベース)は13億3100万米ドルで、対象別に見ると、鉱物資源が8億6600万米ドル、発電事業が2億8100万米ドル、石油・天然ガス開発が1億2400万米ドルであった。

カチン族の反政府勢力のリーダー2人が相次いで入院

 反政府武装勢力「カチン独立機構(KIO)」のラニョー・ゾーンラー議長(74歳)が9月末、カチン州ライザ村のKIO本部で執務中に突然体調を崩し、同村内で静養していたものの回復しなかったため、10月初旬、スムルッ・ガムKIO教育部長に付き添われてマンダレー市内の病院に入院した。

 他方、別の反政府武装勢力「カチン防衛軍(KDA)」のマトゥー・ノー総司令官も10月初旬、シャン州コンカー郡にあるKDA本部で執務中に脳出血で倒れ、同州ラショー市内の病院に搬送された。マトゥー・ノー総司令官は、麻痺や発作等の症状もあったため入院治療を続けていたが、数日前に昏睡状態に陥り、マンダレー市内の病院に急送された。

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ラニョー・ゾーンラーKIO議長


 ラニョー・ゾーンラーKIO議長は、1935年にカチン州スンプラブム郡で生まれ、高校卒業後、州都ミッチーナ市にある「カチン・バプテスト神学校」に入学した。同校卒業後、1955年にヤンゴン大学に入学し、大学卒業後は、故郷スンプラブム郡で役人として勤めていたが、1963年にKIOに入隊した。KIOでは、1976年に総書記、2001年に副議長、2006年に議長に就任して現在に至っている。

ビルマにおける金価格、4年間で2倍以上に

 先日、ビルマ中央統計局が物価統計を発表した。同統計によると、ビルマ国内における物価は、ここ数年著しい上昇傾向にあり、中でも金の価格は、2005年10月1日に1チャタ(16.3グラム)あたり286,660チャットだったのが、2009年10月1日には596,500チャットと2倍以上に跳ね上がった。

 こうした金価格高騰の原因について、経済学者のキン・マウン・ニョー氏は、「ビルマでは国民が銀行を信用していないため、資産を金地金で蓄える傾向がある。金地金は、土地や自動車と違って売買しやすいうえ、価格が景気変動の影響を受けにくいため魅力的なのだ」と指摘している。

 国際通貨基金(IMF)の統計によると、ビルマの平均消費者物価指数は以下のように推移している。10月1日から5,000チャット紙幣が流通し始めたのも、インフレが進んだ証拠であろう。

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フーコン渓谷のトラ、絶滅の危機

 カチン州北西部のフーコン渓谷およびその周辺は2004年、米国の野生動物保護協会(WCS)によって「トラ保護区(約22,000k?)」に指定されたが、トラの毛皮や骨を目的とした密猟が跡を絶たないうえ、トラの餌となるシカやイノシシも乱獲されていて、トラは減る一方である。さる10月7日のWCSの発表によると、同保護区内のトラはついに100頭未満になったという。1980年頃には、ベンガルトラやインドシナトラなど3,000頭以上のトラが生息していたといわれており、異常な激減ぶりに驚かされる。

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