ビルマには少なくとも135の民族がいるといわれており、それぞれが民族独自の言語を使用している。小学校をはじめとする公教育の場ではビルマ語以外の使用が禁じられているものの、各少数民族にとって自民族の言葉はアイデンティティとも結びついた大切な財産である。ヤンゴン大学日本語学科を卒業したビルマの人気女性歌手、レベッカ・ウィン(24歳)は、ビルマ族の父親とカチン族の母親の間に生まれたハーフであるが、カチン族としてのアイデンティティを強く持っており、カチン語を大切にしたいという思いを「ツォーラーアイ(カチン語で“愛してる”の意)」という歌に込めている。この歌の歌詞を日本語に訳すとだいたい以下のとおりである。

 

 

抑えてきた恋心

私ひとりだけが知っている

あなたの笑顔の下で 私は空しく

心を萎縮させている

 

ひとつの言葉を

胸の中でつぶやいている

いろいろなことを夢見ながら

あなたに聞こえるように時々言っている

 

彼は知っているだろうか 私の秘めてきた恋心を

とても言葉にはできなかった思い

 

信じてくれなくても 理解してもらえなくても

精一杯の愛で 小さな声で言いたい

Nang hpe ngai tsaw ra ai

 

 

生まれつき正直な性格だから

気持ちを偽ることができない

“好きでたまらない” この一言を

あなたに理解してもらいたい

 

私がひとりで言うから

あなたもひとりで受け止めてほしい

“好きでたまらない” この気持ちを理解してほしい

あなたに聞こえるように今後も時々言うから

彼は知っているだろうか 私の秘めてきた恋心を

とても言葉にはできなかった思い


信じてくれなくても 理解してもらえなくても

精一杯の愛で 小さな声で言いたい

Nang hpe ngai tsaw ra ai

 

 

 この歌に1人称で出てくる女性も、彼女が思いを寄せている男性も、ともにカチン族なのであろう。ビルマ語で異性に想いを伝えると、周囲のビルマ族に聞かれた場合たいへんなことになってしまうが、カチン語で想い伝えれば、そのような心配は無用となる。そこで彼女は、思いを寄せる男性にこっそり近づいてカチン語で「Nang(あなた)・hpe(を)・ngai(私は)・tsaw ra ai(愛している)」と言おうと決心している。

 

 レベッカ・ウィンは1986215日にカチン州モーガウン郡で生まれ、メー・ニン・ヌーと名づけられた。6歳のとき家族でヤンゴン市に引越し、母親に連れられてキリスト教会に通うようになり、やがて聖歌隊に入って讃美歌を歌っているうちに“歌う楽しさ”に目覚め、歌手になることを決心する。そして2004年、ラジオ局「ヤンゴン・シティFM」主催の音楽コンテストへの出場を契機に芸能界デビューを果たし、現在に至っている。


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カチン族の民族衣装に身を包んだレベッカ・ウィン

 

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 キリスト教会のクリスマス礼拝で

 讃美歌を歌うレベッカ・ウィン



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レベッカ・ウィンは

 ビルマのファッション・リーダーの1人でもある