ノナプルナイン(R18)
ノナプルナイン アウト・オブ・オーダー(EXTENDED ALLAGE)
(サークル:ノナプルナイン 著者:ノナプルナインさん)難易度:Lunatic
サイエンス感たっぷりのオリジナルゲーム作品です。
『ノナプル』とは“九つの”という意味であり、
つまり、ノナプルナインとは直訳で“九つの九(999999999)”となります。
これは主人公である少女の被験体番号であり、
記憶を失った彼女の暫定的な名前となっています。
『ノナプルナイン』は2019年1月8日時点で
本編となるR18の『ノナプルナイン』の体験版、そして
別時間軸の番外編である『ノナプルナイン アウト・オブ・オーダー』の
体験版のみが公開されており、
製品版は現在鋭意開発中であるとのことです。
http://nonuple9.net/
本作について、僕はまず番外編を遊ばせていただき、
それから本編を遊ばせていただいたため、
発表された時系列とは逆転する形にはなってしまいますが、
まずは番外編の感想から書いて行こうかと思います。
ノナプルナイン アウト・オブ・オーダー(EXTENDED ALLAGE)
――白昼のオフィス街で、女性の頭部が突如破裂。
そんなショッキングな事件の紹介から、
このゲームは始まります。
頭部が破裂した女性の勤務先は、
世界に名だたる工業製品会社であるIMI(石村マテリアル工業)。
その会社が保有するビル『東北R&Dセンター』において
人体実験が行われているという噂が、
ゴシップ誌のリークから広がっていく。
……そんな中、主人公である少女は、
IMI所有のビルの中で目を覚ます。
彼女は目覚める前の記憶を失っていて――という感じのお話です。
概要を説明した時点で臭い立ってくる謎の気配が、
否応なしにプレーヤーの興味と好奇心に揺さぶりを掛けてきます。
そして僕が特に感銘を受けたのが、伏線や謎の貼り方でした。
主人公は、ドローンを通じて、自分と同じ『被験者』である
“オクト”と名乗る女性とコンタクトを取ります。
最初は彼女たちの他にも居るらしい『被験者』と合流し、
一緒にビルから逃げ出そうとするのですが、
探索を買って出たオクトから、
思いがけない情報がもたらされるのです。
――どんなに上に登っていっても、辿り着くのは『32階』。
――私たちは永遠に続く『32階』に閉じ込められている、と。
この『32階』のループという舞台設定が実に良い。
同じところをループし続けるゲームというと、
『P,T』が思い浮かぶかと思いますが、
本作におけるループ世界は、科学室の無機的な清潔感があるが故、
どちらかというと『CUBE』っぽさを感じます。
提示される謎は物語を読み進めていくにつれ増えていきますが、
そのいずれもが不可解かつ魅力的なため、
ドンドン物語にのめり込んでいく感覚を覚えました。
そしてここもまた上手だな、と感じた部分なのですが、
そうした不条理に立ち向かうことになる
登場人物のキャラ付けが絶妙なのです。
本作は基本的に、ノナプルナインならびにオクトプルエイトという
2人の登場人物の掛け合いによって進んでいきます。
この2人は共に『被験者』であり、記憶喪失者なのですが、
その記憶喪失の度合いに違いが持たされています。
ノナプルナインは、一般常識さえ欠落している状態なのに対し、
オクトプルエイトは、(恐らくは)得意分野である科学知識に関して
すんなりと思い出すことができる程度に留められています。
これにより、2人の役割に明確な差異を持たせています。
つまり、ノナプルナインは言わば『プレーヤーの分身』として何も知らない状況から
知識を獲得していくキャラクターであるのに対し、
オクトプルエイトは『先導者』として、
ノナプルナインやプレーヤーが知り得ない情報を伝える、
という役割を持ったキャラクターとなっているのです。
この設定により、プレーヤーはストレスなく、かつテンポよく
物語を読み進めていくことが可能になっています。
こうした物語の進め方は基本的に抑えておくべきポイントだと思っているのですが、
そうしたポイントをきっちりと抑えてくれているところは、
読み手に取ってありがたいと思います。
しかし本作においては、この基本的な構図を更に深彫りすることで、
ノナプルナインという主人公を魅力的に見せる手法を確立しています。
それはまとめると、以下の2つとなります。
・いわゆるアホ可愛さの確立
・ノナプルナインという個体の特異性(あるいは異常性)
・いわゆるアホ可愛さの確立
基本的なノナプルナインの言動は、ある意味ギャグやボケのようなズレを感じさせます。
聞き間違いや勘違いを連発するアホ可愛いキャラクターです。
これによって、ともすればシリアスに寄り過ぎるであろう空気を緩和させ、
プレーヤーが終始緊張しっぱなしで疲れてしまうというリスクを回避しています。
・ノナプルナインという個体の特異性(あるいは異常性)
これは実際にプレイしていただくとすぐに判るのですが、
ノナプルナインは単なるアホではなく、
『極端に記憶を欠落してしまっているため、
一般的な教養や知識がごっそり抜け落ちている』キャラです。
これは、彼女自身の頭が悪いこととイコールではありません。
現に作中で彼女は様々な違和感に即座に気付いて
思考を膨らませたり、時には子供のような好奇心を発揮して
一般人には至ることのできない考えを展開したりします。
これにより、プレーヤーはそれまでアホだと思っていた彼女の
意外な一面をギャップとして捉えることに繋がり、
キャラクター造形とそれに対する理解を深めることになるのです。
こうした手法で主人公の魅力を生み出す手法は、
なかなか一般的なものではありません。
そう言った部分も、上手いなと率直に感じた点です。
また、本作を語るうえで、いい意味で同人らしからぬ
気合の入ったアニメーションや、キーワード提示のセンスなども
欠かすことはできないでしょう。
こちらについては、百聞は一見に如かず。実際に見ていただく方が判りやすいかと思いますが、とにかくぬるぬる動いて、まったく違和感を感じさせません。
また、随所に込められた小ネタも、見つけるたびクスッと笑わせてくれます。
科学を大元にした、シュタインズ・ゲートを彷彿とさせる
雰囲気や魅力的な謎の数々が、とにかく知的好奇心を刺激する作品です。
残念なことにこちらは本編に付随する外伝的な位置づけなため、
作中で提示される伏線や謎は回収されないままですが、
それでも実に堪能させていただきました。
オススメです。
ノナプルナイン(R18)
ここからは本編となるノナプルナインの体験版についての
感想を記載していきたいと思います。
成人向け作品となるので、未成年の方はブラウザバックをお願いします。
今すぐにだ。早く。
さて、本編となるノナプルナインは、
アウト・オブ・オーダー(EXTENDED ALLAGE)とは
また違った時間軸での物語が展開されて行きます。
基本的な世界観の設定や主人公に変更はないのですが、
(こっちが本編なので、厳密には因果関係は逆なのですが)
物語の中心的な登場人物は、ノナプルナインと“ガイド”と呼ばれる
IMI側の女性、そして“観測者”という現時点では謎の多い人物となります。
基本的にはノナプルナインがガイドと会話の掛け合いをすることによって
物語が進んでいきますが、どうもこの関係性にはしっくり来ませんでした。
それはガイドと、アウト・オブ・オーダーにおけるオクトとは
明確に立ち位置が異なってしまう点です。
オクトは、ノナプルナインより少し知識のある程度の同志です。
しかしガイドは、ノナプルナインを『被験者』として扱う、
いわば黒幕的なポジションにある女性です。
本編においても、ノナプルナインは家に帰るために
様々なアクションを起こすのですが、
それは、基本的にガイドの目的とは合致していません。
そんな2人がバディのようにタッグを組んで掛け合いをすることで、
物語が弛緩し過ぎてしまっているのが気になりました。
適度に抜くべき緊張感が、あまりにも抜けすぎてしまっているのです。
こうした不思議な関係性が成り立っている、というのは目新しいので評価すべきだとは思いますが、他の『被験者』を容赦なく殺したり冷徹に見殺しにするようなガイドが、ノナプルナインとは茶番のような会話をしているというのは、どうしても違和感を拭いきることができませんでした。
『先導者』の役割を与えるキャラは、やはり(仮に表面的にでしかなく、後々裏切るなどの展開を用意するとしても)ある程度、ノナプルナインと共通の目標を持っていて欲しいところです。その方が、物語のキレが増すかと。
また、この物語における最大級に魅力的な謎である『ループする32階』という設定ですが、
こちらは本編体験版において、2度に分割された状態で提示されます。
1度目は、ノナプルナインが自分の足で階段を上り下りして、32階にしかたどり着けないことを確認するシーン。2度目はエレベーターを起動したノナプルナインが、エレベーターから降りたシーン。
これにより、プレーヤーに32階が永遠に続くという異常性を提示しているのですが、アウト・オブ・オーダーでの衝撃に比べると、なまじタイムラグもあるだけにインパクトが弱まってしまっているように感じました。ここも残念に感じた点です。
更に本編はR18作品となるのでエロが解禁されていますが、
正直なところ、そのエロに関してはあまり良いとは感じられませんでした。
問題点を以下に列挙します。
・女体に対するありがたみがない
・ミニゲームが単調かつエロくない
・女体に対するありがたみがない
アウト・オブ・オーダーにおいては、バイオハザードのミラ・ジョヴォヴィッチ的なバンデージだけの謎衣装を着ていたノナプルナインですが、本編においては最初から最後まで全裸です。
エロに関しては個々人の好みやフェティッシュが大いに関係してくるところなので、単純な一元化ができないところではありますが、個人的には終始全裸というのは逆にエロくないと思うのです。理由としては、見慣れちゃうし見飽きちゃうからです。ここは純粋にもったいないな、と感じたところです。
・ミニゲームが単調かつエロくない
本作の設定として、『記憶を取り戻すために性的興奮が必要となる』というものがあります。
この設定自体は面白いし、オリジナリティもあるし、物語を進めていく上でエロシーンを避けては通れないものにするという点で悪くないのですが、ミニゲームそのものには、何だかなぁというモヤッと感を覚えてしまいました。
エロゲームなだけに、様々な相手やギミックが出ては来るのですが、
体験版時点で6種類あるエロミニゲームの全てが、
要は『タイミングよく股間をクリック』するだけなので、
非常に単調に感じます。
物語が進むにつれて、要求されるタイミングがシビアになってきますが、
単純なクリックゲーとしてのゲーム性こそ上がれど、それが逆に女体を責めるという感覚から乖離してしまっている要因になっているのは、残念なところです。
また、ミニゲーム中のBGMも何となくギャグシーンのような
コミカルなものだということも、エロさを感じない要因でしょう。
この辺りは、改善されることを望みたいと感じてしまいます。
最後に、『性的興奮によって記憶を取り戻す』設定に関連して、
ノナプルナインが記憶を取り戻していくシーンですが、
彼女が取り戻す記憶があからさまに「過去の話」なので、
それをモチベーションとして現在の行動を変化させることに、
どうしても違和感を覚えてしまいました。(特に機動隊のくだり)
この辺りは、物語を理解し、かつ物語自体を先に進めていく重要なファクターとなってくるので、ノナプルナインが置かれている目の前の状況と密接にリンクさせてほしいと感じてしまいます。(あるいは彼女が思い出す記憶が、彼女自身ではなく“観測者”に関係してくるのかもしれませんが、そうだとしてもあからさまに過去だとプレーヤーには判る記憶に対し、一喜一憂するノナプルナインにはやはり違和感があります)
さて、色々長々と言及して参りましたが、
気合の入ったゲーム開発やアニメーションの作成、
続きが非常に気になる伏線の張り方など、
とても魅力的に感じ楽しませていただいたので、
どちらの体験版も一気に読み進めてしまいました。
製品版の完成を、今か今かと楽しみにさせていただきたいと思います、というところでまとめとさせていただきたく思います。
長くなりましたが、以上で『ノナプルナイン(R18)』『ノナプルナイン アウト・オブ・オーダー(EXTENDED ALLAGE)』の感想を終わります。
ここまで付き合っていただき、ありがとうございました。
Not too BAD, Not too GOOD
(サークル:折葉坂三番地 著者:銅折葉さん)難易度:Normal
紫苑ちゃんと女苑ちゃんのカップリング作品です。
末吉でした(オマケとしておみくじが付いてくるのです。粋)
本作は短編3作品の連作となっております。
女苑の一人称パート、紫苑の一人称パート、そして2人が賭場に赴くパートです。
作品としては全体を通してもかなり短くまとまっておりますが、
それでも色々な感情を抱かされ、色々と考えさせられ、
読み応えとしては充分な作品として仕上がっております。
通読したうえで連想したのが、騙し絵のような感覚でした。
1人の輪郭を色濃く描くことで、
空白部分に片割れが浮かび上がるような、そんな感じ。
そのような感覚を抱くことが即ち、
この作品がカップリングを意図して書かれたことの証左であるように感じるわけです。
あぁ、この2人はどう足掻いても表裏一体で、2人でひとつなんだなぁ、と。
個人的に好きだったのが、p17辺りでした。
女苑ちゃんが茶屋で働いていることが匂わされた辺りで
「これってもしかして……?」と思ってたら、
案の定、茶屋は茶屋でも出会い茶屋でした。という辺り。
こういうスパッとハマった演出はニクいですね。
また、2人が賭場に赴くところも、
破滅的でハラハラさせられます。
金・暴力・S○X!! ってな具合に三拍子揃っており、
手に汗握るシチュエーションです。
女苑ちゃんが身に付けてる金品をブチブチ千切って
賭け事に興じる様に、背徳的なエロスを感じました。
ストリップとか野球拳みたいな。
僕だけ?
少し気になるかな、と思った点として、賭場でどんな賭け事をやってるのかが、あまりよく判らなかったところです。順当に読み解けば花札かな? というような気もしたのですが、テーマや装丁的に「表裏一体」であることが挙げられるので、それと博打の種目が絡められているような気もするし……メンコ? いや、そんなわけないしなぁ、ってな感じで。
そこが主たる部分じゃないので賭け事の内容は大して重要じゃないことも判ってはいますが、ちょっと気になりました。
カップリングの描き方としても面白いし、
手軽に読めるのに十二分に楽しませてくれる一冊です。
存分に堪能させていただきました、というところでまとめとさせていただきたく思います。
長くなりましたが、以上で『Not too BAD, Not too GOOD』の感想を終わります。