2010年08月26日

8/26の小説技法

 中山市朗です。

 25日(水)の小説技法の報告です。
 いつもの合評です。
 なのですが、今回はこの問題について。

 デビュー。

 作家志望者の憧れです。夢です。目標です。
 みな、デビューしたいと言います。
 で、問題が起こります。
 キミはデビューするための小説を書くのか、
 書きたいものがあるから、作家になりたいのか。

 実は今回の合評で思うことがありました。
 Aさんの作品。
 彼女の持ち込み用の小説が、合評の卓上に上がりました。
 当然、みんなからは読んだ感想が飛び交います。
 すると、彼女の書きたいもの、書こうとしているものと、みんなが求めるもの、あるいは意見との間にギャップが生まれたのです。
 彼女は、かたくなに何かを守ろうとしている。
 しかし作品は、どこかで見た世界観、なんだか知っているキャラクター、よくある設定・・・。
 つまりはAさんらしくない。オリジナリティがない。
 意見が飛び交う中、氷解したことがありました。
 Aさんは、すでに某出版社の編集さんに作品を見てもらい、相談し、プロットを提出して「じゃあ、それ書いてきてよ」と言われたそうなんですね。そこで決まっていたことをみんなに否定されちゃったわけです。Aさんとしたら「あれれれ?」ですよね。
 どうも求められているのは、ライトノベルズによくあるパターン。世界観。
 ファンタジーものなんですが。

 Aさんは、そうとう書いているので、ある意味書き慣れています。テンポもよくてサクサク読ませます。おもしろいんです。でも本屋で買うかとなると・・・。
 塾生からは「これって○○ですよね」「△△に似てるなあと思うんですけど」という意見が出ます。確かに新鮮さが何かない。
「テーマは?」
 そういう質問が出ました。
 すると、おもしろそうなテーマが出たんです。ちょっと地味そうなんだけど、独特の世界観があって、小説だからこそ表現できる世界。でも、おそらくそれ、ラノベ向きじゃないかもしれない。だからそこを編集さんから「それだけでは地味だからダメだ。アクションをもっと入れて、それじゃあ読者にウケない、キャラクターはこう・・・」
 おそらく色々指導を受けたのでしょう。で、そうなるとよくあるパターンになってしまった。真相はわかりませんが、おそらくそうなのでしょう。
 編集さんはそのノベルズの特色、編集方針、読者層、そして今まで売れた作品の傾向に従って注文をつけてきます。そしたらよくあるパターン、いかにもなキャラクター、新鮮味のない世界観になってしまった、のだと思うのです。でも出版社側からすれば、それが一番失敗しない方法なのでしょう。無難というか。でもその分、作家の個性が犠牲になります。

 デビュー前の作家の個性?
 そんなものいらない。要は売れればいい。
 
 編集さんの言い分はそうかもしれません。
 これ、思案のしどころです。
 つまりデビューするために編集さんの言うとおりにするのか、それとも書きたいものを主張して戦うのか。
 Aさんは早くデビューしたいのです。そういう熱い思いは伝わってきます。
 でも焦りは禁物、という気がします。

 しかし編集さんの言うことは、どこまで信用すればいいのか。
 鵜呑みにして大変なことになっちゃった、という教え子もいました。マンガ家の子でしたけど。編集さんのイエスマンになって、目標にしていたメジャー誌でデビューしたけど、これは俺の作品じゃないと悩んで悩んで、コミックは何冊か出たものの、消えてしまった・・・。

 私の場合、デビュー作は『新耳袋』。
 もちろん編集さんから言われたことがありました。それは、
 一冊に百話の怪談、関西弁の多様、匿名表記、あったことのみを書く。
 今となってはそれが『新耳袋』の特色なんですが、「それをすべてやめてくれ」と言われたんです。つまり「星新一さんのショートショートでも百話にしたら、2冊分になる。上下巻に分ける気か?」「全国で販売する本だから関西弁は困る」「Aさん、Bさんでは実話としての説得力がない」「怪談も物語なんだから、もっと脚色、作りこみをしてくれ」
 もしその指示に従っていたら、もちろん書籍にはなっていたでしょうが、夏にコンビニに置いてある怪談本のひとつ、として出て、今は完全に忘れ去られていたことでしょう。今の私もない。
 でも私も木原も、作家になりたいんじゃなくて、本物の怪談、自分たちの読みたい怪談をただ書きたかっただけで、だから意思を貫いたんです。納得させる原稿を書いたんです。まあ今と違う出版界の事情もあって、そういうことができた時代だったのかもしれません。

 だから編集さんに逆らえ、というのではなく戦ってほしい、とは思うんです。
 合評で交わされた意見の中には、ホントに辛らつなものもあったと思いますが、それは読者としての意見でもある。買ってくれるのは読者です。今はネットでの読者の意見で、その売れ行きや評価が決まったりもします。
 あるいは塾生のなかには、Aさんのほかの作品を読み続けている上での、Aさんの作家性としての可能性をわかっている上での、意見具申もあったと思います。私も随分彼女の作品は読んでいますから。

 いち新人の投稿者からすれば、編集さんは一人ですが、編集さんからすれば、大勢の投稿者のうちの一人です。ひょっとしたら前に言ったアドバイスを完全に忘れていることだってあるでしょう。おそらくほとんどの投稿者はそこで言われたとおりに修正してきて、そこにまたアカ入れられてを繰り返す結果になるように思うのです。でも「私の書きたいのはこういうものです」と戦うと、印象に残ったりするものです。そうなるともしその編集方針に合わないものなら、合う編集さん、出版社を紹介してもらうことだってあるようです。
 また戦うとしたら、ロジックで戦うこと。ただ書きたいと突っぱねるのは編集さんに「もういいよ」と拒否されかねません。そのロジックを鍛える場でもあるのです。合評は。

 そしてこれはAさんの作品を読んでの私の率直な意見。
 一般論ですよ。そして紅顔な(?)少年時代をかつて過ごした男子の意見。
 
 ライトノベルズで中高生の少年が読者層ということですが。

 少年は、少女の主人公ものは読まない。
 男の子は、オトコの生き方、カッコよさ、ダンディズム、みたいなものに憧れ、そのヒーローが恋する美少女に擬似恋愛する。もちろん同性愛も読まない。ボクキャラな少女なんて論外。

 だから、そこは研究すべきです。男の子の研究。
 あれだけ書いて、努力しているAさんには大いに期待しています。
 だからこそ、いっそう上のレベルで戦ってほしいのです。

 キミは、
 デビューするために書いているのか。
 書きたいものがあるから作家になりたいのか。


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kaidanyawa at 21:09│Comments(1)

この記事へのコメント

1. Posted by 青谷 圭   2010年08月27日 15:09
 合評ではかなり時間を割かせてしまい、すみませんでした。色々と意見がきけて助かりました。

 一応、少年向けレーベルに女の子主人公というのは結構ありますし、最近はヘタレ男と強い女の子という組み合わせも多いようですが、一般的かと言われると、確かに違うかもしれません。(特にボクキャラ)

 やりたい題材をつきつめていくと、やはり女の子向けになりそうですし、無理に少年向けと言い張るのはやめにします。

  
 デビューはもちろん最終目標ではないですが、だからこそ余計に「デビューしないと始まらない」という焦りがあったのは確かです。
 作家を職業にするなら自己満足だけではいけないし、他人の意見をきかないなら読んでもらう意味もない(頑固なので変えないところは変えませんが)という考えもあり、押さえていたところもあります。
 
 色々と難しいところもありますが、もう一度、自分のやりたいことや書きたいものを見つめ直してみたいと思います。
 
 どうもありがとうございました。

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プロフィール
中山市朗(なかやまいちろう)

作家、怪異蒐集家、オカルト研究家。
兵庫県生まれ、大阪市在住。


著書に、
<怪 談>




<オカルト・古代史>




などがある。
古代史、聖徳太子の調査から、オカルト研究家としても活動している。






作家の育成機関「中山市朗・作劇塾」を主宰。



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