2012年01月20日

1/18の作劇ゼミ その1

 中山市朗です。

 お待たせしました。
 1月18日(水)の作劇ゼミの報告をいたします。

 2012年最初のゼミでしたので、今後の日本の社会、そんななかで我々の生きるクリエイターの業界はどうなるのか、ということを考えてみました。

 先日、久しぶりに大学時代の友人たちと会ってきました。
 マンガ家、CMの製作会社、フリーの映像ディレクターとそれぞれクリエイターの道で食っているようですが、彼らを取り巻く環境はなかなか苛酷なようです。
 彼らと話していて思ったのは、やはりこれからのメディアを知っておくこと。戦略をたてること。やりたいことを見定める、ということが無いと淘汰されるよな、ということ。
 私たちが大学で学んだ約30年前とは、メディアの様子も媒体も随分変わっています。その頃と同じやり方では、今はもう通用しない・・・。
 マンガ家の奴も、コミックが出ても初版はこれだけしか、なんてボヤいていました。聞けば悪い数字じゃないけど、それでも15年、20年前のコミック市場のことを考えると、落ち込んだなあと思うわけです。

 今の社会、二極化、格差社会、と言われています。
 米国などでは90年代から格差問題が起こっていましたが、日本はまだ自分たちのことを信じていました。戦後の日本は特に富の分配、再分配は比較的公平な社会でした。国民全体が中流意識をもった時代です。
 いい大学に入る、一流企業に入る、結婚し子供をつくる、マイホームを持つ、定年後は退職金と年金で孫のいる悠々自適な老後・・・。
 でもそのケインズ型分配社会は、今や崩壊しました。
 日本は今やハイエク型傾斜分配社会に移行しています。
 ハイエク型とは、資本主義の論理に基づく弱肉強食の市場原理を理想とする社会です。新自由主義、あるいはアメリカ流新自由主義とも言います。

 そうなったのは今から10年前、小泉構造内閣からのようですね。
 バブルが崩壊し、なかなか立ち上がれないでいる日本経済を何とか立て直そうと、竹中平蔵大臣は「市場の自由競争に参入すべし」と規制緩和、自由競争を推し進めました。

 その根底には、こんな理論があったように思われます。
 まず自由競争の中で冨める者をつくり、今度は冨める者が貧者を救う。だから小泉首相は「改革には痛みが伴う」と言ったわけです。
 ところが、その後10年で冨める者はますます裕福になり、貧者はますます貧者になり、脱出できない、という社会になってしまいました。アメリカが抱えた問題を日本も同様に抱えることになりました。

 ちなみに竹中氏は『日本経済余命3年』(PHP研究所)に、経済立て直しは2012〜13年が最後のチャンスで、1100兆円を上回る国債発行がなされると、日本は財政破綻へ向かう、としています。

 今考えると、あの公共事業というのはケインズ型分配社会に必要なものだったんですね。あれは地方への再分配でもあった。それを無駄遣いだと断罪した当時の野党やマスコミによって悪とされ、公共事業が止まった途端、どうにもならなくなったんです。しかし一方、国内需要から世界の市場に目を移し、国力を上げようとするとそれだけでは限界となる。だから公共事業を縮小させたというのもあるのでしょう。
 まあ私、そのあたりの専門家ではありませんので、笑われそうですが、そうは間違っていないと思うんです。
 問題は政治家の名誉と票取りのための公共事業が行なわれてしまったこと。私の田舎の近くに空港があるようですが、誰も使っていません。

 例えばバブル崩壊後、日本はやるべき公共事業がありました。あのとき、全国隅々にわたって光ファイバーのインフラをやっておくべきでした。そしたら今は世界一のインターネット大国になって、経済効果も相当あったと思われます。今はエネルギー、環境問題、こういったことは個々に解決できるものではありません。関連事業に補助金を出し、推進させ日本のノウハウにして国外にも売り出すべきでしょう。それを怠ると日本の企業はトップシェアから落ちていくことになりましょう。オーランチオキトリウムはどうなってるのかな?

 ともかく、今のままでは格差社会はどんどん広がっていき、歯止めが利きません。
 私の身近にいる若者たちを見ると、非正規雇用が拡大し、経済だけでなく人的資源をも劣化させているように思えます。彼らは未来への希望を見れず、今身近で起こっている現実に対処することに追われています。

 そうなるとこんな不安がよぎります。
 この状態はこれからも拡大する一方なのか?
 一度落ちたら、二度と這い上がれない格差社会なのか、それとも努力すればその分が報われる格差社会なのか?
「それはキミらの意識次第だよ」と塾生たちに言いました。

 さて、私や周りの仲間たち、教え子たちはどこの会社に所属するでもなく、一人で作品をつくって出版なり配信なり、あるいは放送でライブでパフォーマンスを見せる、聞かせる、読ませる稼業です。
 プロスポーツ選手や音楽家、芸術家、役者、演出家、技術者といった人たちもそう。
 つまり才能と努力があれば報われる世界なのです。

 とはいえ、我々の世界も業界でなりたっています。
 この業界は特殊な世界でございまして、労働基準法なんて無きに等しい。ゲームの下請け会社でシナリオやキャラクター製作をしている若者なんて、月に2万円ももらえない、なんて聞いたことがあります。雇うほうの言い分は、能率給、成功報酬だというんですね。いや、誰もが通るのが最初は無給という仕事。しかしこれはチャンスをもらえることであり、実績を積み重ねることなので、なんとか食らいつくわけです。
 そんななかで、ほとんどのクリエイター志望者は使い捨てられ、結果100人に一人も残らない、という過酷な業界でもあるわけです。「そんななかでも、この世界でやっていく根性あんのかよ」と試されるわけですね。
 昔、吉本興業の会長の林正之助氏(1991年に92歳で死去)は若手芸人に向かって「お前らにやる金があったらドブに捨てるほうがマシ」と言ったとか。

 それを思うと、クリエイターの世界はサイショから格差社会の原理が働いているといっていいのかもしれません。作家やマンガ、芸能界でもヒットを飛ばす一部の人と、全然売れない大多数の人によって構成されていますから。

 ただ私が日本の格差社会の話を塾生たちの前に持ち出したのは、作品を作るのは個々であっても、作品を商品とするにはこの業界が今どうなっているのか、前途はあるのか、新しいインフラが整備されているのか、危ない業者はどこなのかを見据えて、選択することが必要だと思ったからです。
 作品をつくるのはクリエイター個々の仕事ですが、これを商品として流通させるには、出版社、メーカー、製作会社、代理店、放送局、興行界のシステムが必要なわけです。個人がネットや同人誌などで発表したり売ったりできる時代になっていますが、ちょっとこの問題は後日考察することにします。

 さて、まず出版界ですが、もう皆さんご存知のように、不況知らずの業界神話はとうに崩れ、1990年代をピークに後退しています。特に出版社の屋台骨を支えていた週刊誌やコミック雑誌といった雑誌が売れなくなったんですね。今生き残っている雑誌も広告収入も減って、赤字を抱えているのが多いようです。

 一方、今の出版界は、世相を反映してか、極端な二極化となっています。
 つまり、特定の書籍は爆発的に売れてミリオンセラーズとなるが、その他はまったく売れないという二極化です。
 これを「メガヒット現象」と呼びます。

 なぜ、このような現象が起きるのでしょう。
 そしてもう一つ、出版業界そのものに問題はないのでしょうか?
 それを考えるには、出版業界がどのようなシステムで成り立っているのかを、知っておく必要もありましょう。
 
 ところで塾生たちは、このあたりのことをどこまで知っているのでしょう?
 例えば、出版界には再版制度というシステムが働いています。
 このシステム自体に問題がありそうです。
 では再版制度とはどのようなものでしょう?

 あれれ、知っているのは一人だけ?

 うーん。
 じゃあその説明からいきますか。
 でもまた字数食っちゃったので、次回に。
 
 

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kaidanyawa at 22:17│Comments(5)

この記事へのコメント

1. Posted by 20話の男   2012年01月21日 21:48
話を読んで真っ先に浮かんだのは、以前先生が提唱された『関西陣』でしょうか。詳細は2009年7月号に記されていますが、「○○が出来ます」「私は▽△の専門家です」「じゃあ各々が得意分野を活かし、大きなプロジェクトに取り組もうじゃないか」という一連の動き。個人で出来ることは、たかが知れている。資金や行動面、更には精神面やアイデアに至るまで、互いの得意分野を終結・協力して物事を進め、自分達の立場を作っていく、といった内訳だったと記憶しています。
……残念ながら先生の骨折を境に中断したままとなっていますが、そこで何故「中山さんが動けない分、我々が頑張ります。復活したらまた参加して下さい」とならなかったのか。「じゃあ代わりに私が」と挙手しなかったのか。待ちの姿勢、誰かが何かしてくれるのを期待するだけでは、幾ら壮大なプロジェクトを立てても、絵に描いた餅に過ぎない。そして今も「仕事が無い、金銭面で苦しい…」とグチっているだけでは、結局は苦しい現状を望んでいたのかと思わざるを得ない。関係者ならずとも歯痒さを覚えたものです。
これは何も「大阪や、そこで活躍するクリエイターの飛躍を願ってのプロジェクト」といった縛りだけの話では無いでしょう。クリエイターを取り巻く環境そのものが、まさに「協力なしには立ち行かなくなる」危険をはらんでいる昨今、現状維持のまま突き進むのは、業界全体の衰退を自ら作り出しているようなものではないでしょうか。
2. Posted by 中山市朗   2012年01月22日 03:36
20話の男さん。

実は「関西陣」は自ら解散させました。
原因は夢が語れなかったこと。集まったメンバーがたまたまそうだったのでしょうが、何かを提案しても「それはいくらになる」「じゃ、中山さんが見本見せてよ、うまくいくようなら協力しましょう」というノリなんです。明日のことでキュゥキュゥしています。東京で仕事をしたことのない人もいて、大阪の現実を客観視できない。その上塾の実態を知って「ボランティアで教えるなんて偽善だ」なんて言われました。
ああ、やっぱり大阪はあかんのかな、と失望したんですが、あきらめたわけではありません。チームで動く時代であることは間違いありませんので。
ただ・・・、大阪にはプロデューサーがいない。だから人が集まっても何も動かない、という現実もあるわけです。
難しいですわ。
3. Posted by ひお   2012年01月22日 18:11
確かに協力して動かねばならない時代だと思います。
ただ、率先して動こうという人が一人しかいない状態だと続かないと思うんです。
確実に採算が取れなきゃ動かないとなると、ちょっと違うなぁと思います。
確かに最終的には儲けを出せなきゃ意味がないことにされてしまうと思いますけども、新しい事に挑戦していくのが大切なんですけどねー
まぁのんべんだらりと生きてる自分が言うのはなんなんですが…

今現在、自分でできる事の一つとして、これまでにお近づきになれた方々を引き合わせて、そこからのビジネス…とまではいきませんが、小さくとも雇用をうんだりできればなと思って小規模ながら他業種との交流会などを開催しています。

関西でロフトのような、毎日何かイベントやってる場を作るのを目標にして、日々自身の仕事もちまちまと進めている状態です。

今週水曜あたりにでもご挨拶と近況報告を兼ねてお伺いしたいと思います。
4. Posted by 20話の男-2   2012年01月22日 19:01
そうでしたか……かなり残念な結果に終わったんですね。古傷をほじくり返すような無礼、連投と共にお許し下さい。
以前にもワインバー・テラで話させて頂いたことで、上記ひおさんと考えが被るかもしれませんが、「夢を実現させるためのコーディネーターが居れば」と感じるんです。皆の意見を聞き、まとめ、その上で何を行うかを提案する人物が居るだけで、随分物事が進展するのではないかと。甘い考えかもしれませんが。

それにしても、いい大人が偽善などとよく言えるなと逆に感心しますね。先生の仰る「人材無くして業界無し」を他人事と考えている証拠。先を見通す能力の欠如、経営者感覚の無さかもしれませんが、人が育たずして偽善もヘッタクレも無いでしょう。好きで飯を食う以前に、媒体が疲弊すれば末端まで影響されるのにソレも分からないとは。危機感の無さに呆れました。

ですがまだ希望はあります。大阪は出版社が皆無ではありませんし、都市部として機能している。であれば、それを活用しないテはありません。ネットがこれだけ普及しているのですから、東京と大阪で一つの題材を違う側面から扱うことも可能。他にも……あぁ言い足りない!
どうか先生には希望を持ち続けて頂きたいと願わずには居られません。
5. Posted by 中山市朗   2012年01月22日 23:47
ひおさん。

採算を合わせることは必要ですが、我々は商売人ではないもんね。
ロフトのようなイベントを関西でも、とういう言葉もいろんなところで聞きますが、やっぱりバラバラなので実現しない・・・。
キミたち教え子に期待しています。

20話の男さん。

いえいえ古傷でもなんでもありません。サバサバしたもんです。

大阪は都市として機能している、いろいろな文化発祥の地、ユニークな人材はたくさんいる・・・、そう思って大阪に踏ん張っているんですけども。
希望は懲りずに持っています。持続こそが力だとも思っています。まあ好きなことを楽しくやろうかと思っています。
ご協力ください。

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プロフィール
中山市朗(なかやまいちろう)

作家、怪異蒐集家、オカルト研究家。
兵庫県生まれ、大阪市在住。


著書に、
<怪 談>




<オカルト・古代史>




などがある。
古代史、聖徳太子の調査から、オカルト研究家としても活動している。






作家の育成機関「中山市朗・作劇塾」を主宰。



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