2013年06月06日

父として男として

 中山市朗です。

 父が永眠いたしました。85歳。なんや難しい病名を告げられましたが、老衰といっていいでしょう。同じ年の生まれには、映画監督のロジェ・ヴァイディム、スタンリー・キューブリック、作家の田辺聖子、映画音楽家の佐藤勝、エンニオ・モリコーネ、マンガ家の手塚治虫、小島剛夕、俳優のジェームズ・コバーン、政治家の浜田幸一といった人たちがいます。こう並べると親父がすごく見えますが、高校の事務職員でした。
 真面目、実直、裏表のない、優しく、穏やかな人で地味な人生を送りました。祖父は画家で好きに生きた人でしたから、私は隔世遺伝でしょうか。
 まあ、親父のことをここに書いても誰も興味はないでしょうが、こんなエピソードがありました。

 私が中学生の頃、列車通学をしていましたが、同じ駅に高校がありまして、これがまあ、ちょうどそのころ流行っていました『愛と誠』の舞台となった悪の花園実業のような学校。
 リーゼントで眉を剃り、ペッタンコのカバンを持ったおニイさんたちが、7、8人でいつも通勤通学客で満員となる先頭車両を占拠しておりました。私と悪友たちはそんなん平気で車両に乗り込んでいたら「おまえら、勇気あんなあ」と言いながら、おニイさんたちはよからなぬ写真を見せてくれ、よからぬ遊びのノウハウを教えてくれました。ン?
 さて、そんな悪の花園実業のような学校に、私の父が事務長として就任したんです。とにかくイキったおニイさん、おネエさん(歩いた後は床が綺麗になっているのではと思うほど長ぁいスカートをお召しになっておられました)ばかりの学校ですから、窓ガラスはすぐ割られる、壁には穴を開ける。それで先生方はその修理を要請するわけですが、親父は首を縦に振らんかったそうです。事務長ですから、親父のハンコがないと予算は下りません。「このままだと授業にも支障が」と言われて親父は言ったそうです。
「そんなん壊した学生が悪いわけやろ。授業に支障があろうが、寒かろうが、そいつらの責任や。なんで修理せなあかんねん。予算のムダムダ」
 で、やがて冬がきまして、教室に冷たい風がどんどん吹き込んで、ストーブなんて全然利かない。するとやがて学生自らが壁を直し、ガラスについては親父のところに「なんとかしてください」と頭を下げに来たらしい。
「今度割ったらほんまに知らんで」と言ってようやくハンコを押して。
 それから親父の就任中に学校の器物が破損することは、ほとんど無くなったといいます。
 イキッてはいてもかわいらしいおニイさん、おネエさんだったんです。
 だから私は、おニイさんたちが占拠している車両に平気で行けたわけなんです。まあ、それがハンコを押さなかった事務長の子やとは知らんかったでしょうけど。

 ところで、父より3歳下のお袋は「ここが痛い、あそこが弱った、もうボケた」と言いながら、まだまだ元気でした。
 あと10年は生きれるで、お母ちゃん。



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kaidanyawa at 19:42│Comments(8)

この記事へのコメント

1. Posted by 狩人   2013年06月06日 20:35
中山さん、こんばんは。

ブログの一読者として、このような場合どのような言葉掛けが適当なのか分かりませんが、お父様の御冥福をお祈りいたします。
これから暑くなりますので、中山さんも体調には充分お気を付け下さい。
(真夏の昼間に黒づくめでロケとか、あまりないと思いますが)
2. Posted by シロ☆   2013年06月06日 23:32
かけて良い言葉かわかりませんが、お父様にお疲れ様でした、と。
それから中山さん、まだご実家の事やご自身の気持ちの整理など慌ただしいかと存じますが、お身体充分にご自愛くださいませ。

心より哀悼の意を。
3. Posted by FKJ   2013年06月07日 00:28
謹んでお悔やみ申し上げます。

私の父の場合は癌の再発で入院して、在宅療養に移ろうかという頃、私は地方勤務で週末に見舞って「また来週」と言ったら目で答えたのが最後で、翌日の月曜の朝に亡くなったと職場に連絡が入りました。
あまり自分のことを話さない父でしたので、葬式で集まった親戚から父の若い頃のやんちゃな行動に少々呆れながらも興味深く聴いたものでした。
4. Posted by ナムコ   2013年06月07日 06:28
お父様のご冥福をお祈り申し上げます。

親の逸話はとても興味深いですよね。生き方を目で見ている限りは「親なんだなぁ」と思いますが、知らない所での話って「人間なんだなぁ」ってつくづく思います。
とてもいいお話でした。
先生もお忙しいでしょうが、どうかご自愛ください。
5. Posted by 中山市朗   2013年06月07日 08:49
狩人さん、シロ☆さん、FJKさん、ナムコさん。

お気遣い、ありがとうございます。

真夏の真昼に黒づくめのロケはたぶんあります。
 
6. Posted by z   2013年06月18日 14:56
パソコンを見られる環境になかったもので
遅ればせながら、謹んでご冥福をお祈りいたします。



7. Posted by 妹です   2013年06月21日 02:27
1 父の直接の死因は虚血性心不全、原因は感情動脈硬化症でした。

持病はパーキンソン症候群、てんかん発作、胸部形成術後(結核による右肺摘出)、前立腺肥大、白内障・緑内障・黄斑性変性症、C型肝炎等。

私、河島さち子は20年ほど前に神奈川に父母を呼び寄せ、世話をし、最近は父の嚥下性肺炎による繰り返しの入退院と母の認知症のお付き合いと散々振り回され、大変体調を崩しているというのに、兄として感謝という事もない。

また、私は半年前に株式会社レッド・ムーンを立上げ、宣伝に協力すると言っているのにここには全く妹の事を触れていないし、ホームページのリンク先も見当たらない。

私の出遭った怪談話(巨大白蛇やお風呂に現れた私の生霊など)も忘れているようだ。

一体、どういうことなのでしょうか?

お客さんにも全く私の存在が見えない人がいるが、兄にも私の存在が見えないようだ。
私は幽霊なのか宇宙人なのかと時々思ってしまう。
8. Posted by 中山市朗   2013年06月21日 05:20
妹へ

また電話します。

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プロフィール
中山市朗(なかやまいちろう)

作家、怪異蒐集家、オカルト研究家。
兵庫県生まれ、大阪市在住。


著書に、
<怪 談>




<オカルト・古代史>




などがある。
古代史、聖徳太子の調査から、オカルト研究家としても活動している。






作家の育成機関「中山市朗・作劇塾」を主宰。



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