2018年12月05日

東海道怪談五十三次行脚

中山市朗です。

怪談を語る人、執筆する人、ネットで発表する人、そんな風に随分とアマチュアの方も怪談を扱うことが増えております。
私たちプロの場合もそうなんですが、こういう時、大事なのは切り口です。
”切り口”。
怪談に限らず、作品作りには重要な要素です。

みんながやっていることと同じことをやっている、では、なんともなりません。先も見えません。
だからといって、新しいことをやろうにも、なかなか思いつかないし、やっても失敗するかも知れない。勇気もいります。
でも、何もないところから発想するというより、今やっていることを、あるいは自分自身をちょっと客観的に見てみることが必要な時も出てきます。
そういうこと自体、大変難しいことなんですけど、そこをひとつひとつ突破しないとこの世界は生き残れないんですね。デビューは簡単、継続は難しいとはこのことでしょう。

ということで、我々はよく「切り口」ということを言います。

「その企画、切り口どこやねん」
「この企画、ええ切り口しとる」

切り口とは、一つの食材も、包丁で切った時、切る方向、角度によって食材の形の断面が違う形に見えるということをいいます。同じものでも切り方で違う。みんな案外、いつもやっていることに疑問を持たず、同じことを繰り返している、あるいは同じことをしていることに安心感を持っていると思うのです。
でも、やり方を変えてみたら?
ということです。

これを企画で言うと、同じものでも別の方向から見ると、別のものが見えてくるよ。すると、新しい発想、あるいは改良点が明らかになるよ、ということなのです。

例えば『新耳袋』は、怪談本です。
怪談そのものは、大昔からありました。それは新しいものでも何でもない。
でもこれが誕生した1990年当初は、怪談は壊滅寸前。しかも実話怪談と言う言葉も無く、ただ、怖い話が怪談であると言って、実話も創作も都市伝説も民話もスビリチュアルもなにもかもがごった煮状態だったんです。
そこに私と木原は疑問を持っていたわけですね。で、何が怖いて、普段そんなことを言わない友人や親せきのおばちゃんが話す体験談が怖かったりする。
で、こう考えたわけです。

実話として聞き集めた話だけで構成する。
解釈はしない。
呪い祟りは排除する。
一冊百話とし、読む人が一人百物語を完成するよう一冊に百話収録する。
体験者をAさん、B君とイニシャル表現として秘匿し、特別な意味合いが無い限り場所も特定しない。 
題名はいかにも怪談、はやめて江戸時代の奇書にあやかり『新耳袋』とする。
霊感、背後霊、ラッブ音といった記号的な言葉も極力排除する。

など、いろんな切り口を試したのです。案外こういうこと、誰もやっていなかった、というより怪談は完全にバカにされていました。まともな人間のやることじゃないって。霊感商法と同じ扱いもされ、バッシングも受けました。

ちなみに当時、編集からは「これは全国で発売される本だから、会話の関西弁はやめてくれ」と言われましたが、押し切りました。生々しい会話が怪談を引き立てると思ったからです。ま、それしか書けんかったという技術的なこともあったわけですけど。
でもこれらは、今は怪談を語るにあたって、皆さんが当たり前にやっていることばかりですけどもね。
で、私自身この『新耳袋』が終わった後の数年間、『新耳袋』から脱却して、新しい怪談に挑戦する必然性を自身に勝手に負わせ、苦しんだ時もありました。後に上梓した『怪異異聞録・なまなりさん』は『新耳』とはまったく真逆のテクニックを必要とした長編実話録でした。それも切り口です。
結局、『怪談狩り』で、『新耳』への原点回帰をすることになったのですが、これも私や編集部がいろいろ考えた後になった、切り口なのです。

さてさて、今回紹介しますのは、私の怪談ではありません。
最近私の怪談ライブやプライベート怪談会に顔を見せてくれている、宮崎君。
セミプロの若者です。
以前から途中報告を受けたりして、彼のことを応援していたのですが、これが東海道五十三次を徒歩で巡って怪談を聞き集める、という企画。これをついにやり遂げ、ホームページで掲載をはじめたようです。
怪談を蒐集し、発表するという行為は同じでも、東海道五十三次の怪談を聞き集めるという、ここが面白い発想だなあと思ったわけです。

彼のホームページに、そのコンセプトが載っています。引用します。



東海道 京都三条大橋から江戸日本橋まで  
五十三の宿場を巡り 怪談を蒐集
宿場間の移動 蒐集中の移動はすべて徒歩
怪談が蒐集できるまで次の宿屋まで進んではいけない

そんな アホな旅の記録

集まった怪談は『怪談記』に
立ち寄った場所などは『行脚記』に
それぞれ まとめていきます




「『東海道 怪談』で検索したらほとんど四谷怪談しか出てこないんです」と宮崎君は言っていましたが、それだけこのコンセプトに誰も気づかなかったということでしょう。これが切り口です。
『五十三次怪談行脚」
下記のアドレスからお読みください。怪談の質がどうのというより、発想して、現実に行い、,粘り強く取材を重ね、発表したという行為に好感が持てます。今後彼はなにをしでかすのか。
そこを期待し、応援したいと思います。

https://yanariyakwaidan.wixsite.com/kwaidan-angya








kaidanyawa at 00:00│Comments(5)

この記事へのコメント

1. Posted by ひろみつ   2018年12月05日 00:39
5 中山先生ごきげんようです。

宮崎さんの東海道五十三次を徒歩で巡って怪談を聞き集める、という企画は僕もとっても面白い企画で、これぞ「切り口」の1つなんでしょうね。

徒歩でこれをやったというのが若さというか、なんというか、僕はひたすら感心していました。

切り口は言い換えれば視点をどこに置くかってことでもあるのかなとも思います。
思えば「新耳袋」は、体験者をイニシャルにするなどのスタイルが文体も含めてかなり勇気がいるし真似できないと思います

バンドでロックやってた人達に「生ギター1本でやれ」って言われてるようなものでかなり怖いと思います。
特に若い人は、間が開くのが怖いのか、どうしても間を埋めようと余計な描写が多くなり、それを怖いと思い込んでる傾向はあると思います。

プライベート怪談会でもちょっと触れましたが、このスタイルに遠回しですがとりようによっては揶揄ともとれるコメントがありました。

「オチがない怪談は、ただ見ただけ、聞いただけって言うのなら、気のせいってことも言えるから自分はある程度説明できて、自分の中では解決できる自分の体験しか語らない」概要そんな内容だったと思います。

一理はあると思いますが、そんなもんかなぁとも思いました。確かに自分の体験談は強いとは思います。なんてったって「俺は見た」って言うんですから、こりゃ強いです。

でも僕は「普段そんなことを言わない友人や親せきのおばちゃんが話す体験談」に惹かれます。
いろんなスタイルがあっていいとは思うんですが・・・・怪談の切り口って難しいですね。
2. Posted by 中山市朗   2018年12月05日 03:18
ひろみつさん。

怪談にはいろんなスタイルがあります。私はどれも否定できません。ただ、俺はこういうものしか認めん、とか、こういうやり方が正しいんだ、という頑固な姿勢が同じ切り口を繰り返し、いつの間にやら消えていくパターンだと思うのです。
3. Posted by 鈴木   2018年12月05日 09:45
5 素晴らしいサイトを紹介くださり、ありがとうこざいます。この夏も色んな怪談本を読みましたが、内容がグロテスクだったり、筆者自らが
解説をしてしまっていたりと、イマイチでした。

徒歩で怪談を集め歩くという発想がいいですね。
誰かが思いつきそうで誰も思いつかないようで。
クリエイターの人は、こういう発想がないと生き
残っていけないんでしょう。厳しい世界だと思います。
4. Posted by 宮崎 五十三次怪談行脚   2018年12月05日 23:25
取り上げていただき有り難うございます。

五十三次怪談行脚
おそらく、同じような企画を考えた人はいただろうと思います。
ただ、やらなかった。
たぶん、現実的で無いとか、効率的で無いと考えただろうと思います。
もしくは、めんどくさいと思ったのでしょう。

この旅は、関西の怪談関係の方々と色々お話しして、様々な刺激を受け、それらが重なって実行したものです。
自分が一人で考えていただけでは実行しなかったでしょう。

刺激の一つは、とある方の
『話芸の本場は大阪や!怪談も関西から盛り上げていかなアカン!新人発掘や!』
という企画でした。

刺激の一つは、とある方の
『若者よ、ちゃんと取材してるか?自分でいうのもなんやが、新耳袋の著者が一冊書き上げるのにめっちゃ取材してるんやから、名前が世に出てない君らはもっと取材せなアカンで!』
というブログでした。

もう、仰るとおり。今後も怪談楽しむために、下手くそなりになんかせなアカンわ。という思いを抱きました。
ありがとうございます。

これからも色んな刺激を色んな方から受けて、がんばろうと思います。
今後とも、よろしくお願いいたします。
5. Posted by 中山市朗   2018年12月06日 10:22
鈴木さん。

よかったです。応援してあげてください。

宮崎 五十三次怪談行さん。

企画は考えるだけならだれでも考えます。実行し、完遂してこそはじめて成るのです。それが当たり前のようでなかなか出来ないんです。
いろんな人と出会いながら、刺激を受けながら、また新しいことを考え、実行してください。関西の怪談界、ほんとにもっと盛り上げんなとあきませんな。
期待していますよ。

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プロフィール
中山市朗 【なかやまいちろう】


作家、怪異蒐集家

兵庫県生まれ。


主な著書に「新耳袋」など。

作家、漫画家の育成機関「作劇塾」を主宰。


作劇塾

オフィスイチロウ


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