2019年02月05日

続・作劇塾の理想形

中山市朗です。

プロの現場がそこにある。
それがプロの人間を、人材を作るんです。
と、前回の作劇塾の理想形で書きました。

実はこれ、黒澤明監督も言っているんです。

1983年末、日仏合作の超大作『乱』のクランクインに先立って、映画研修生募集が行われました。
学歴、年齢は問わないが原則として30歳まで。「ある日の出来事」をテーマに、200字詰原稿用紙100枚程度のシナリオを提出、というものでした。
黒澤明監督は、この研修生募集に関して、
「映画は学校で教えられるものではない。教室で教えられるのは、そのイロハだけだ。映画の教室は映画製作の現場以外にない。私はその考えに立って、映画研修生を募集した」とコメントしていました。

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そういえば、黒澤監督もそうですが、日本映画の全盛期に活躍した監督や脚本家は、現場でたたかれてやってきた人たち。学校なんてなかったですしね。
ただ、役者に関してはそういう機関がありましたが、それも現場と直結していました。
テレビ制作もそう。
私は、放送作家として、テレビのバラエティ番組の企画、構成をしていましたが、大学の放送学科にいたわけでも、テレビ番組についてのノウハウを学んだわけでもありません。著述作家としてデビューしたら、知り合いの芸能プロダクションに誘われ、いきなり番組の企画会議に出席させられ、そこから放送作家のキャリアが始まったんです。いきなり放送台本をまかされ、映画のシナリオみたいに書き込んだら、怒られました。でも、すぐにレギュラーが2本決まりました。
テレビ業界に入りたいといって、高い授業料を払って、4年間放送学科にいた人たちは、なんだったのか、と思います。

つまりこれ、環境なんです。

だいぶ前のことですが、芸大の後輩たちと飲んでいて、彼らは放送学科だったわけです。
彼らはメモ帳を取り出して、「放送作家になるためには、何を勉強したらいいですか」と真剣な顔で言ってきたので「コネ」と言ったら、えっ、て顔してましたな。

ただ、文芸、小説の世界はちょっと違う。これは、一人で籠って書くしかない。書いた原稿がなければ、営業もかけられないし、新人賞のコンクールにだって投稿できない。
だから、書くしかない。
でも、書いたものをどう売るのか、どうお金にするのかは、やっぱり人との関係があったほうがいい。編集者に知り合いがいるというのは心強いですよ。それに小説は芸術ではない。商品であると考えないと。
中には天才がいて、あっという間に売れて、という人もいますが、そういう人は別。

ところが、塾をやっていて、気が付いたことがあります。

今の人たちはマニュアル化されていて、敷かれたレールにしか乗らない。それも自分から走らない。誰かが走ってみせないとダメなんです。
例えば、小説家としてのデビューは、新人賞の大賞や金賞をとって、華々しくデビューする、というのもアリですけど、そのほかにもデビューの仕方はいろいろあります。でもみんな、賞を狙って投稿する。
それは正攻法ではあります。でも、歴史を見てみましょう。正攻法が必ずしも勝つとは限らない。戦略も必要なわけです。その戦略の知恵を与えてくれるのが、その業界にいる、しかも成功しているプロ、あるいは先輩なわけです。
名将軍には必ず名参謀がいますしね。
言っておきますが、私、賞なんて、子供のころから何一つ獲ったことないです。ある意味凄い?
それでもやっていってます。来年は作家生活30年ですよ。

話は戻りますが、私は、黒澤監督が研修生募集をするらしい、という情報は当時耳にしていまして、それが新聞紙上で告知されるとか。もちろん受けますよ。で、今か今かと待っていたら、全然告知されない。
そのうち、研修生3人が研修生として採用された、というニュースが流れて。
あれれ?
実は、新聞での告知、関東エリアが中心で、関西の新聞には載らなかったらしい。えらいこってすわ。
で、メイキング映像を撮らせてくれ、と、配給・制作のヘラルドエースと黒澤プロダクションに企画書を送った。25歳の若造ですよ。
そしたらこれが、日本映画史上初の本格的なメイキング・プロジェクトがなるキッカケとなったんです。

好きな分野で仕事をしたいのなら、考え悩むより、行動ですよ。


下のシナリオは、ヘラルドエースと黒澤プロに(勝手に)送った、メイキング・オブ・乱の撮影シナリオ。
黒澤映画の撮影工程を研究し、勝手に想像し、そこに各々テーマを設定して現場を撮ることを私が書き込んだもの。もちろん、現場演出をやらせてもらう前提で。怖いもの知らずの若い頃だからできたのかも知れません。

Ziggyプランニングというのは、私の個人名では、ヘラルドも黒澤プロも契約してくれないだろうと思って、名義だけで事務所としたもの。塾生はこんなことしなくても、オフィスイチロウ名義で営業回れる環境を作っているつもりなんですけどね。

メイキング





















kaidanyawa at 00:00│Comments(3)

この記事へのコメント

1. Posted by ひろみつ   2019年02月05日 10:44
中山先生ごきげんようです

これはどんな職種にも、そのまま通じることだと思います。

よく企業が新入社員の研修で、駅前で大声で歌を歌わせたり、自己紹介させたり、乞食みたいな服装で街中ウロウロさせたして、できない人がいると「根性がない!」なんて呶鳴ったりしてるけど、あんなことに何の意味があるの?とっとと現場に放り込んで鍛えろよと思います。

あれって単なる自己満足で会社が「教育した」と思いたいだけだと思います

やるなら、もっと現場を重視した研修やってほしいものです。

特にクリエイターの世界は現場に放り込んで鍛えるのがいちばんだと思います
2. Posted by ぺるそな   2019年02月06日 15:25
いつも有難うございます。
何事も経験、実際にやって悩んで苦労してこそ身に付く。人任せにしない自分でつかみ取ってでも経験を積むことの大切さを仕事や怪談座談会で理解出来るようになりました。
ご教授して頂いた皆様に感謝です。
3. Posted by 中山市朗   2019年02月07日 08:53
ひろみつさん。

人に教わるのは簡単。教えるのは難しい。そういった人がいます。現場に放りこむにも、相応の覚悟をしてもらわないと、こっちが責任を持たされます。難しいですけど若い人材はいります。覚悟をもってやります。

ぺるそなさん。

何事も経験、実際にやって悩んで苦労してこそ身に付く、というのは本当ですが、やらずに悩む人が多いように思います。
皆様に感謝というのも大切な心です。

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プロフィール
中山市朗 【なかやまいちろう】


作家、怪異蒐集家

兵庫県生まれ。


主な著書に「新耳袋」など。

作家、漫画家の育成機関「作劇塾」を主宰。


作劇塾

オフィスイチロウ


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