2019年08月11日

和製ミュージカルの傑作『君も出世ができる』

中山市朗です。


久々に、ある映画を紹介してみます。


本日、日本映画専門チャンネルにて、深夜2:15より放送されます『君も出世ができる』という東宝映画です。
これ、本格的なミュージカル仕立てなんです。

公開されたのは、前回の東京オリンピックが開催された1964年。

和製ミュージカルというのは、なかなか難しいんですな。

歌と踊りを見せ場とするエンタメですが、もともとジングシュピールと言うドイツ語による歌芝居と言うのがありまして、オペラと違うのは、オペラは全編歌と音楽ですが、セリフの対話と歌の部分が分かれるのがジングシュピールなんです。モーツァルトの『魔笛』などは、そういう意味ではオペラではなく、ジングシュピールなんですね。
オペレッタともいいます。
この様式がフランスに持ち込まれて、オペラ・コミックと呼ばれました。
フランス語による軽快なやりとりで進んでいきます。
まあ、ドイツ語のオペレッタがジングシュピール。
フランス語のオペレッタがオペラ・コミックといっても間違いはないでしょう。ただフランスのものは、バレエなんかも取り入れられます。ビゼーの『カルメン』なんてのは、オペラ・コミックです。
これがアメリカに持ち込まれて、ジャズの要素が入ってニューオリンズで行われ、これがミュージカルの発祥とされます。19世紀の終わりごろのことです。

これね、言語の問題があると思うのです。
英語で歌うとミュージカル。フランス語だとコミック・オペラ。ドイツ語だとジングシュピール。
もちろん『シェルブールの雨傘』のようなフランス製ミュージカルもあります。この作品は全編歌で構成されていましたので、ちょっと実験的な作品ではありましたが。

さて、日本語のミュージカル。これはなかなか相性がよくありませんようでして。
歌舞伎を英語でやるようなもん、と言えばわかっていただけますかな。
ですから、和製ミュージカルというのは、なかなかうまくいかない。
宝塚歌劇というのがありまのすが、あれはまた特殊なもので、昔は少女歌劇とかいうておりましたが、歌劇(オペラ)とも違うし、ミュージカルでもない不思議なシロモノ。戦前、エノケン(榎本健一)たちは、洋物の歌を日本語にして歌って、オペレッタといっておりました。
和製オペレッタの傑作映画がありまして『鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)』。
江戸時代の登場人物が、当時最先端だったジャズを謡って踊るという。ディック・ミネがスゥイングに乗って歌うというファースト・シーンを見て、おもろい、と思うか、なんじゃこれ、と思うか。
 
このシーン↓

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私は大好きでして、なんと、片岡千恵蔵、志村喬も歌うんですからな。
監督のマキノ雅弘さんが、娘さんとテレビに出ていて「お父さん、ミュージカル撮ってたたね」「そんなん撮ってない」「撮ったよ『鴛鴦歌合戦』」といわれて「あれはオペレッタ言うんや」とはっきり言っておりました。

さて、『君も出世かできる』は、完全な和製ミュージカルです。
音楽も振り付けも、個人芸も、見せ場のスペクタクルも。
ちょうど『ウエストサイド物語』が日本でも大ヒットして、日本でも作ろうということになったのです。
和製ミュージカルがそれまで無かったわけではありません。特に戦後、何本か作られましたが、作品的にも興行的にも失敗していたのです。
監督をまかされた須川栄三らは、さっそくアメリカの本場ミュージカルを視察。
そして誕生したのが本作ということなのです。


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東宝映画は、「社長シリーズ」のようなサラリーマン喜劇を得意とした作風をもっていましたが、下地としてはサラリーマン喜劇です。
東京オリンピックを目前とした観光会社を舞台に、現実派サラリーマンと夢想家サラリーマン、高フランキー堺と高島夫夫、それにアメリカ出張中だった社長令嬢演じる雪村いずみらが出演。
ちゃんと主人公たちのライトモチーフが用意されていて、ともかくドラマがあればそれを盛り上げるナンバーが用意され、それがどんどんと大きな仕掛けになっていくわけですよ。
で、舞台が日本のいかにもサラリーマンですから、アメリカのミュージカルのようにはあえてせず、「バンザイ屋の歌」とか「いなかにおいで」といったどこか泥臭い演出もありますが、それでも往年のMGMミュージカルのようなカラフルで、ともかく楽しい要素を引き出そうとする工夫も見られます。
「アメリカでは」というナンバーはそれ。ノッポさんのタップダンスも見られます。ノッポさんは、フレッド・アステアにあこがれていたそうですね。

凄い役者だと思ったのは、太ったフランキー堺の動きと反射神経。やっぱり名優です。

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植木等が特別出演した「これが男の生きる道」なんて曲は、セットが赤ちょうちんの屋台。大勢のスーツを着た悲哀のあるサラリーマンたちが「日本では出世街道年の順、日本にいれば退職金が生き甲斐さ」なんて酔っぱらいながら歌い踊るシーンは、もう和製ミュージカルならではの表現です。

歌詞は、詩人の谷川俊太郎。
音楽は、戦後の現代音楽を代表する一人、黛敏郎。
その代表作に『涅槃交響曲』『曼荼羅交響曲』などがあり、これを聴いたジョン・ヒューストンが自作のハリウッド大作『天地創造』の音楽監督に抜擢。日本人初のハリウッド映画の音楽を担当した人となりました。
当時には珍しく、左翼的な思想、発言をしていました。


黛敏郎














ただこの作品、公開直前になって、ミュージカルとは謳わずにサラリーマン喜劇として公開されたようです。
ミュージカルでは当たらない、という会社の方針転換ですね。
で、興行的に失敗しました。

しかし、この作品がレーザーディスク化されたころから再評価が起こり、今ではカルトな作品となっております。
DVD化されたのですが、未購入。どうしてもこれはハイビジョンで観たいと、ブルーレイの発売を待っていましたが、今回日本映画チャンネルでのハイビジョン放送。

まあ、一度、ご覧あれ。

サントラCDは愛聴しております。

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製作・藤本真澄
監督・須川栄三
脚本・井手俊郎、笠原良三
作詞・谷川俊太郎
音楽・黛敏郎
振付・関矢幸雄
撮影・内海正治

出演
フランキー堺
高島忠夫
雪村いずみ
益田喜頓
浜美枝
中尾エミ
有島一郎
ジェリー伊藤
十朱久雄











kaidanyawa at 07:24│Comments(4)

この記事へのコメント

1. Posted by 鈴木   2019年08月11日 12:43
自分はミュージカル、苦手です、
でもね、去年、グレテーストショーマン、観てから観方変わりました。そうか、そう言うことだったのかみたいな。
いきなり台詞から歌に入るのが苦手だったのですが、この映画で払拭されたと言うか。
今まで苦手だった、サウンドオブミュージックも
観てみたいです。近くのTSUTAYAにはある筈ですが。

和製ミュージカルも観てみたいですね。観れる
環境にないだけで。
2. Posted by ひろみつ   2019年08月11日 23:02
中山先生

オペレッタは「浅草オペレッタ」という言葉くらいしか知りませんでしたが、2時間前後の喜歌劇をオペレッタと呼ぶそうですね

「鴛鴦歌合戦」では志村喬さんの歌の上手いのにビックリしたことがあります。
鈍重で不器用な印象がありますが本当はもっと多彩で器用な役者さんだったのではないかと思いました

宝塚歌劇は元々は温泉の余興で浴槽の蓋の上で踊っていたと聞いたことがあります

「君も出世ができる」のフランキー堺はなるほどですね。
「幕末太陽伝」での動きの素晴らしさからしてミュージカルをこなせる数少ない役者ではないかと思ったことがあります
3. Posted by タキ・タロー   2019年08月16日 08:32
よくタケちゃんやタモさんが「なんで突然音楽が鳴りだしてみんな歌っちゃうんだよW]てネタにしてたよーな…。私もそんな感じで苦手だったクチです。

しかし何らかの形でその影響は目にしてますな。マンガでも新漫画党メンバーの大御所さん達の様々な名作でパロってたり、「釣りバカ日誌」でも佐々木さんがイキナリ歌いだし、モブも巻き込んで…なんてのを最近もやってます。
学生時代、懐かしのスター的な番組で、エノケンさんが「高砂や〜♪」と(ワーグナー結婚行進曲のフシで)歌ってるのを見て度肝を抜かれましたが「鴛鴦〜」といい「狸御殿」といい、戦前てけっしてドス暗い時代じゃなかった!とわかりますな。

なんしか日本人がミュージカル嫌いってワケじゃないと思いますが、エンターテインメントの感覚が外国とは違うのかな?
友人いわく、欧米は日本人とは真逆の意味で「ウケ狙い」重視らしいのですが…。
余談ですが「アメリカでは」はこやつのススメで聞いたピチカートファイヴ版(ちゃんと雪村さんもボーカル参加されてます)が最初です。

4. Posted by 中山市朗   2019年08月16日 10:21
鈴木さん。

ミュージカル苦手、と言う人多いですね。
しかし、オペラも歌舞伎もそういうものなのですがね。でも楽しみ方を知ると、大変楽しいものですよ。

ひろみつさん。

『鴛鴦歌合戦』は、皆さんに観てもらいたい作品ですね。モノクロの今どきにないリズムとノリと世界観ですけど。でも、そういうものを古いとバカにする人は、大きな損をしている人だと思います。

タキ・タローさん。

そういうタケちゃんは、『座頭市』のラストでミュージカルを挿入していますね。
おっしゃる通りで、日本人はミュージカルが嫌いではないと思います。『ウエストサイド』や『サウンド・オブ・ミュージック』は大ヒットしていますし、ディズニー・アニメもミュージカルですしね。
昭和30年代の日本のテレビ番組も、なんとかミュージカルをバラエティとして見せる工夫をしていました。考えたら『てなもんや』もミュージカルぽいところも。

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プロフィール
中山市朗 【なかやまいちろう】


作家、怪異蒐集家

兵庫県生まれ。


主な著書に「新耳袋」など。

作家、漫画家の育成機関「作劇塾」を主宰。


作劇塾

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