2006年11月29日

心と行動のネットワーク−心のサインを見逃すな、「情報連携」から「行動連携」へ−

少年の問題行動等に関する調査研究協力者会議報告書 平成13年4月

2 問題行動を防ぐために今後一層充実すべき施策

1のような少年の問題行動の特徴を踏まえ,本協力者会議において最近発生した事件についての対応等について事例分析を行ったところ,〔1〕これまでの各種提言が十分実行されておらず,従前の対応策をより確実に実行すべき内容と,〔2〕今後対応を一層充実すべき内容とが明らかとなった。以下,こうしたことについて指摘する。

(1)これまで提言してきた対応策をより確実に実行する必要のある内容

学校における生徒指導体制の整備などは,これまでも繰り返し指摘されているところである。しかしながら,各学校の実態を見ると,必ずしも確実に実行されているとは言い難い。
これまでの各種提言,特に平成10年報告で示された提言が実行されていない原因としては,学校においてこうした報告が管理職や生徒指導担当教員など一部の教職員に読まれただけで全教職員に十分周知されていなかったり,問題行動に対する危機意識が薄いため,日ごろから問題行動が発生した場合に備えた体制整備等がなされておらず,実際に問題が起きたときに適切かつ迅速な対応がとれないといったことが考えられる。
本協力者会議の事例分析でも,提言が実行されていなかったため事態を悪化させたと見られるケースがあったところであり,こうしたことは改められる必要がある。特に必要な点は次のとおりである。

1校長のリーダーシップの下,全教職員が協力して指導に当たる体制を整備すること
・ 学校における生徒指導体制の整備に当たっては,まず何よりも学校の最高責任者である校長と,それを補佐する立場にある教頭が適切なリーダーシップを発揮し,生徒指導部や生徒指導主事などの生徒指導担当教員に任せきりにせず,生徒指導について常に自ら直接かかわることが必要である。例えば,生徒指導部会や教育相談部会といった校内の生徒指導組織に参加し,管理職として校内の状況を掌握し指導性を発揮することが求められる。
・ 年度当初に調和のとれた教育課程を編成し,その中で年間の生徒指導の推進方針や指導計画を策定し,これに基づいて,全校を挙げて生徒指導を推進することが重要である。また,深刻な問題行動につながりかねない児童生徒の行動や態度について情報交換や指導方針の検討を行う場を設け,その結果を全教職員に周知して共通理解を図り,一致協力して指導に当たることが必要である。
・ 形式的に生徒指導に関する校務分掌組織を設けるだけではなく,各教職員の具体的な役割分担や責任の明確化を図り,生徒指導主事を中心として全教職員が連携・協力して指導に当たる実質的な協同体制を整備する必要がある。

2児童生徒の問題行動に対する教職員の認識や対応を十分なものとすること
・ 最近の児童生徒の暴力行為やいじめなどの問題行動の特徴について教職員の理解を深め,日ごろから一人一人の児童生徒についての生徒理解を十分行い,意識や行動の小さな変化をも把握するように努め,問題行動に対して早期の対応が可能となるよう,常に教職員の意識と力量を高めておく必要がある。
・ 児童生徒自身が,自分たちの抱える問題に気付き,互いに協力し合って自分たち自身の力でその解決を図るよう,適切な指導を行う必要がある。
・ 問題行動を起こす児童生徒や不登校の児童生徒に対する学校内での居場所作りや,相談しやすい環境作りを行うなどの適切な対応を行う必要がある。

3学校と家庭や地域社会との連携を十分図ること
・ 平成12年度に創設された学校評議員制度を積極的に活用するなど「開かれた学校」作りに努め,家庭や地域の人々に対し学校の状況を知らせて理解と協力を求めるなど,学校と家庭や地域社会との連携を推進することが必要である。
・ 学校と家庭・地域社会が,日ごろから児童生徒の問題行動への対応について情報交換を十分行う必要がある。そのためには,教職員自らが家庭訪問や保護者面談を行ったり,地域懇談会を実施したりして,積極的に意見交換を行う必要がある。

4学校と関係機関との連携の在り方について十分な検討や改善を図ること
・ 児童生徒の問題行動に対応する際に学校と関係機関との連携が実質的に機能するよう,日ごろから十分な意思疎通を図り,それぞれの機関の職務に応じた具体的な役割分担を明確にしておくことが必要である。その際,個々の事案に応じて,学校と関係機関のどちらが中心となって対応するのかきちんと共通理解を図っておくとともに,学校が主たる対応を関係機関にゆだねた場合であっても,相手に任せきりにするのではなく,連携して一体的な指導を行うようにする必要がある。また,関係機関と連携を行うことの判断を個々の教職員にゆだねたり,教職員間の連絡が十分でないままバラバラに行ったりせず,校長がリーダーシップを発揮し,全教職員の共通理解の下,学校という組織として判断し,連携することが重要である。
・ 警察との連携においても,学校警察連絡協議会等の場を通じて,日常的な情報交換や協議等による相互理解に基づく緊密な協力関係を築いておくことが必要である。

5学校間の連携を十分図ること
・ 児童生徒の進学に合わせ,小・中学校間,中・高等学校間といった学校間で一貫した生徒指導が行われるよう,個々の児童生徒に関する情報交換を行うなどの縦の連携が必要である。こうした情報交換は,先輩が後輩を犯罪の対象とするなど問題行動が学年や学校を超えて広がっている状況にも有効である。
・ 最近の児童生徒の問題行動は,交通手段の発達や携帯電話の普及など情報連絡方法の多様化に伴い,一つの学校内にとどまらず他の校区や市町村の区域を越えて広域化する傾向にある。このため,校区を越えて同一市町村内や,場合によっては複数の市町村にまたがって学校間の横の連携を図る必要がある。

6教育委員会による学校への支援を十分行うこと
・ 教育委員会においては,児童生徒の問題行動への対応を学校に任せきりにせず,各学校における生徒指導の状況を十分把握し,適切な教育課程の編成や実施に関する事項も含め具体的な指導・助言を行ったり,教職員の研修を実施したり,校長の要望を踏まえて人的・物的な支援を行ったりするなど,日ごろから学校を積極的に支援することが必要である。
・ 教育委員会においては,学校の危機管理体制の確立に向けた指導を行うとともに,事件が発生した場合には職員を派遣するなど,問題行動が発生した際の学校への支援体制を充実させる必要がある。

7教育委員会において,学校が連携を深めるための施策を充実させること
・ 教育委員会において,学校が家庭・地域社会・関係機関との連携や学校間での連携を日ごろどのように行っているかを把握し,必要に応じて,そうした連携を一層充実させるための具体的な方策について,指導や助言を行う必要がある。また,緊急時において,学校が家庭や地域社会,特に関係機関と十分な連携が図れるようになっているかを把握し,必要な体制整備を図るため,指導・助言することも重要である。
・ 教育委員会において,首長部局とも協力して,学校と家庭・地域社会・関係機関との連携や,学校間の連携を深める場や機会の設定,例えば定期的な会合や懇談会の実施などを行う必要がある。


(2)今後対応を一層充実させる必要がある内容

1児童生徒の「心」の問題への対応
児童生徒の心の問題については,専門機関も含めて社会全体で対応する必要があるが,特に学校においては,児童生徒が悩みや不安,ストレス等を抱えていることが多いということを十分理解し,学級活動・ホームルーム活動や個別の相談・指導などあらゆる機会を活用して,適切に対応する必要がある。特に,行動面で一見おとなしく,これまで特段の問題行動もなく目立たない児童生徒の中にも,内面にストレス等が蓄積し,ある要因によって問題行動につながる可能性を秘めた者がいることを認識し,適切な対応を行う必要がある。
これまで,こうした心の問題への対応については,学級担任や養護教諭を中心に行われてきているが,今後は,学級担任,生徒指導担当教員,教育相談担当教員,保健主事,養護教諭,スクールカウンセラーなど,教職員の一致協力した体制による多様な視点からの前兆の発見と対応が必要である。また,教職員が専門家等に支援を受けられるような体制作りも望まれる。
さらに,児童生徒が抱える問題を児童生徒自身の力で解決するようにしたり,児童生徒や保護者が悩み等を学校側に気軽に相談できるようにし,家庭や地域社会,関係機関等とも連携して,児童生徒の心の揺れや悩み,不安等を柔らかく受け止めるといった柔軟な対応を行うなど,多面的な生徒指導に留意する必要がある。

2児童生徒の社会性の育成
現代の児童生徒は,都市化や少子化,情報化の進展などの社会環境の変化等により,人間関係を築く力や集団生活・社会生活を営む力,社会的ルールを守ることなど社会性を身に付ける機会が少なくなってきていると指摘されている。このため,様々な場面において児童生徒に対し社会性を育成するための取組を行う必要がある。
学校においては,各教科,道徳,特別活動,総合的な学習の時間のほか部活動なども活用して,学校の教育活動全体を通じ,児童生徒に社会性を身に付けさせるようにする必要があり,学級活動・ホームルーム活動や児童会・生徒会活動等を通じて,仲間作りや集団活動を推進し,人間関係を築く力を身に付けさせることや,各教科,特別活動などにおいて,社会体験や奉仕活動,集団活動等を積極的に取り入れることが重要である。
家庭においては,子どもに対し,基本的な生活習慣や社会におけるマナー,善悪の判断などの倫理観や思いやりといった人間として基本的な事柄を,幼児期からしっかりと身に付けさせ,心の教育を充実することが重要である。現在,家庭の教育力の低下が指摘されており,国や地方公共団体において,家庭教育の支援のための施策を充実させることが必要である。
さらに,青少年施設や社会教育団体などが行っている様々な体験活動に積極的に児童生徒を参加させ,児童生徒がいろいろな機会を利用して社会性を身に付けられるようにすることも必要であり,地域社会全体として,児童生徒の社会性を育てる活動を支援し,一層の充実が図られるようにする必要がある。
また,社会性の育成に当たっては,社会の一員としての基本的なルールやモラルを身に付けさせ,問題行動を起こした場合の責任についての自覚を持たせるようにすることも重要である。問題行動により他の児童生徒の教育に支障を生じるような場合には,適時に出席停止の措置を講ずるなど毅然(きぜん)とした対応を行う必要があるとともに,出席停止となった児童生徒については,その期間中にあっても適切な指導を行うことに十分配慮する必要がある。

3社会全体として問題行動の兆候を早期にとらえた対応
児童生徒の問題行動については,学校においては問題の兆候が見えなくとも,家庭内暴力や校外における問題行動など,児童生徒の内面に起因する何らかの兆候が家庭や地域社会において生じていることがある。
このため,家庭や地域社会,学校が連携し,問題行動の兆候や児童生徒が抱える内面の問題について,社会全体で対応することが必要である。
家庭において問題行動やその前兆が見られたときは,家族は問題を抱え込まずに,地域の相談機関や学校の教員,スクールカウンセラーなどに相談することが求められる。
そのためには,家族が気軽に相談しやすくするための体制作りや,雰囲気作りが重要である。地域の相談機関においては,後述するネットワークにより日ごろから連携を深め,積極的に相談活動のPRを行うなどの取組が必要である。また,学校においては,家庭訪問の実施,保護者面談,地域懇談会等の開催などに努めることが求められる。
次に,家庭から相談を受けた相談機関や学校は,これに対して親身に対応し,社会全体としてその解決を図る必要がある。例えば,学校においては,得られた情報を生かして,家庭と一体となって生徒指導を行うとともに,学校だけで対応できないケースについては,抱え込まずに他の専門機関に引き継ぎ,その後も継続してフォローしていくことが必要である。

4専門機関による継続的なケアが必要なケースへの対応
児童生徒の抱える問題には,専門的な知識・技術による判断を必要とするものなど,学校だけでは解決できないものも少なくない。
学校だけで解決することが困難で,教育相談や精神科医療,カウンセリングなどを行う専門機関(教育センター,医療機関,保健所,児童相談所,家庭児童相談室等)による継続的なケアが必要と思われる状況があるときは,学校として早期に家庭に対し専門機関への相談を勧めたり,後述する地域のネットワークを活用して専門機関と連携し,適切な役割分担の下,継続して対応することが必要である。

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