最近の研修を見ていると、マーケティングやファイナンス〈ここでは、アカウンティングを含めてファイナンスと総称する)という機能的な研修〈以下、F型研修という)が、一般的にやや減少傾向にあり、代わって問題解決や交渉術、リーダーシップ、メンタル研修〈以下、A型研修と会社によってはいう)の比重が上がっている。他社がやるからうちもやるという横並び型の影響なのか、A型研修が増加傾向にあるようだ。全体の研修時間を一定に維持すると、前述のF型研修が削られ、疎かにされやすい。そして、現実にそのような傾向も見られるので、大変残念に思う。但し、会社によっては、これらの重要性をよく認識している会社もある。この場合は安心だ。
さて、F型研修が現に十二分に行われているか、受講者の実力が十分に備わっていれば問題ないのであるが、実態は必ずしもそうではない。私は、F型研修は必要条件であり、A型研修は十分条件であると考えている。つまり、F型知識が極めて不十分なのに、A型研修が本来の期待される役割と効果を果たすのは大変難しいと思う。
日本企業はマーケティングとファイナンスの研修にもっと力を入れるべきだ(マーケティングとファイナンスは、機能的には経営に必要な知識の両輪である)と以前から思っている。先週末に、TVでマーケティングの世界的な権威、フィリップ・コトラー教授が出演し、日本のほとんどの企業がマーケティング1.0 に位置していて、20年前から止まっている。製品が優秀なのに、マーケティング能力が韓国よりも弱いとサムスンを例に解説されていた。もっと日本企業にはマーケティング・マインドを持って、頑張ってもらいたいというメッセージだろう。
報道では、現在、サムスンの業績は下降していて、企業行動についても日本の技術者から先進技術を盗用したとの報道もあったりするので、コトラー教授の上述の主張がどこまで説得力を持つのかはわからない面もある。ただ、マーケティングに関しては、サムスンから学ぶべき点があると解釈することがポジティブな捉え方だろう。コトラー氏は、日本企業がマーケティング力を持てば、もっと今よりも経営状況がよくなるはずだと考えている。テレビでの放送は極めて短時間であったが、参考になった。日本企業にはマーケティング部門やCMO(Chief Marketing Officer)が存在しない組織が大半だとの某社CEOの指摘もあり、組織論から考えても、教授の言うマーケティング力を発揮するのは難しいと感じている。
結論として、研修という視点からも、マーケティングという従来タイプのF型研修の重要性がまだまだ重要なんだと再認識した。同様に、ファイナンスにもっと習熟する研修の必要性にも確信が持てた。
以下に、参考のために、コトラー教授のマーケティング4.0までを以下に掲げる。因みに、4.0は数日前に本人が発表したとのことで、初めて知る概念である。
コトラー教授のマーケティング
マーケティング1.0 製品中心 (Mind)
マーケティング2.0 消費者志向 (Heart)
マーケティング3.0 価値主導 (Spirit)
マーケティング4.0 自己実現 ( Self- Actualization)
マーケティング4.0の「自己実現」は、経営学を学んだ方には懐かしい気分になるだろう。例のマズローの欲求5段階説の最上位概念の「自己実現」だ。
このマーケティングのバージョンに触発され、以下に、ファイナンス1.0から3.1までを作った。この試みは、あくまでも知的お遊びなので、気軽に読んでいただければ幸甚だ。
マーク池田のファイナンス
ファイナンス1.0
利益オンリー (Profit only) 思考で、利益だけでしか経営を見れない人で、まさに一次元思考の人。利益概念だけでも徹底的に使いこなせればまだいいのだが、意外に不十分な理解に止まる人。体系的な会計教育を受けていない人はこの範疇に属する。一つのベンチマークとして、本の熟読・企業でのOJT訓練・研修参加日数を含めて、生涯累計で全35時間(実働週5日に相当)以下の会計学習の場合もほぼ同様。
ファイナンス2.0
投資収益性中心(ROI Oriented) PLとBSで物事を考えられるが、キャッシュフロー思考がない人。決算書と言えば、PLとBSだけを習った20世紀に教育を受けた人の大半がこれに属するが、すっかり忘れた人や、実際にはBSの意義や使い方がわからず、身についていない人はファイナンス1.0 の範疇となる。
ファイナンス3.0
投資収益性+資金流動性(ROI, FCF) 財務3表全体と相互関係を完全に読解し、経営戦略までを自在にたてられる人。 三次元思考で経営を分析して、戦略シミュレーションの結果にもとづいて戦略を立案・実行までできることが条件となる。そのためには、全体の経営(分析)体系に習熟し、それを自在に適用できることが要件となる。体験から言わせていただくと、これができる人はごく少数しかいない。
ファイナンス3.1
企業価値増大志向 企業経営の目的と目標がわかっている人で、過去・現在・将来の時間軸を自在に頭に組み入れて経営を俯瞰でき、具体的かつ詳細な行動計画までも実際に立てて、実行している人。四次元思考とでも表現できようか。
コトラー教授の例に倣って言えば、日本企業の経営管理職の人はファイナンス1.0の段階の人が大多数で、2.0以上の理解の方は、現時点では少数派だと思う。そういう意味で、日本企業はファイナンスの研修にもっと力を入れるべきだ。そうでないと、グローバルで勝負するには、率直に言って、土俵にもあがれないのではないか。そういう危機意識を持って講義している。ということで、私の研修では、3日間(基礎演習1日+2日間、計3日間が理想。両者は不連続でも可だが、あまり間隔が開かないのが望ましい。基本ができている場合は、2日でOKだ。)で上述のファイナンス3.1の実践・習得をめざしており、かなりの成果をあげている。
以上、マーケティングとファイナンス、この2つの機能型研修は時代遅れどころではなく、現状を考えると、もっと時間を増やして、現実の経営実践に効果的に応用できる能力をもっと養成する必要があるのではないかと考えている。基本がわからずに、表面だけ上級をやっても効果が少ないと愚考している。
数字を見て経営の現状を短時間で概略を把握できなければ、経営戦略・戦術もしっかり立てられないはずだ。マーケティングでも、数字の意識が吹っ飛んでいたら、問題解決を一体どう考えるというのか?コトラー教授が指摘されているマーケティング、同時に、ファイナンスの基本を理解する研修の重要性を強調しても、しすぎることはないと思っている。マーケティングとファイナンスは経営の両輪を成す戦略的知識と知恵の宝庫だから、それなしでは始まらない。迷ったときは原点に返る。成果を得たいときには最初に戻ってもう一度考える。何が不足しているかわかってくる。