ROEその2で問題提起に対する事例回答の一つが、早速、日経新聞に載った。あまりのタイミングの良さに驚いた。つまり、ROEを上げるために、自己資本を充実させて、且つ、利益を増やしていくという本来的な意味でのROEを重視した経済成長のあり方に代わって、むしろ、自己資本を減少させるとか、あるいは、まったく増やさないで、資本効率だけを上げるやり方で株価を上げるアマダの経営が脚光を浴びている事例が示されたからだ。
つまり、個別企業のやり方が、アベノミクスで主張する経済全体の成長に必ずしも結びつかないという意味で、まさに”合成の誤謬”となる一例が取り上げられたのである。以下に同記事から、アマダ社長の言葉をそのまま引用する。但し、論理の流れに即して、記事の順番を変えた。読者の注意喚起のために、赤字は筆者が付け加えた。
「2003年の社長就任から会社の規模は2倍近くになったが、課題は株価の低迷だった。その原因を探ると、お金のため込み過ぎによる資本効率の悪さが影響しているとの分析が出た」そこで、「資本効率を高めるために、自己資本をこれ以上増やさないようにして、2年限定での100%株主還元を考えた」具体的には、「今後2年間の利益をすべて配当や自社株買いなどの株主還元に充てるとの方針を打ち出して資本効率を重視する流れをつくるきっかけになった。」その結果、「アマダの株価は上がり、多くの企業に非効率にため込んだお金の使い道を考えさせるきっかけになった。ROEを重視する外国人投資家は、アマダに『よくぞやった』と思っているだろう」以上。
言いたいことが、もうお分かりいただけたと思う。個別企業としては、株価を上げるために資本効率を上げる経営方針は理解できるし、正しいだろう。ただ、このケースでは、2年という限定だが、利益を全部、配当して、内部留保をまったく増やさない。多くの短期所有の株主は喜ぶだろう。意図的に自己資本を増やさないのだから、そのことで、ROEは上昇するだろう。しかも自社株式を市場から取得するわけだから、一株当たり利益が増え、株価は上がるという論理だ。ただ、これを仮に日本のすべての企業がやったとしても、マクロ的な意味での国民全体のGDP成長にはあまりつながらない。投資家の論理だけでは、まさに”合成の誤謬”が成立するだけで終わりである。
アベノミクスの第3の矢は、「過剰な株主還元は企業の成長力の低下とみなす」という考え方が根底にあり、R OEの上昇が経済成長に直接的に結びつくような本来的なあり方を想定していると推察している。したがって、上記のような意味でのROE重視では必ずしもないと思われる。十分な投資機会がないと経営者が考えた場合〈そのこと自体が経済成長の芽がもうあまりないという意味だ)には、アマダのような資本政策が幅を利かすことは間違いないだろうと考えられる。そうなると、アベノミクスが期待するような経済成長は期待通りにはいかないだろう。そのためにも、すべての企業が早く賃金を少しでも多く上げて、個人消費を増やす(それが企業の売上成長になる)ことが絶対条件になる。賃金の上昇がなければ、一国経済全体の消費額は増加しない。国民全体がさらに豊かになる恩恵を得られてこそ、意味がある。全体最適の視点が必要なのだ!ぜひ、このプロセスでの経済成長を期待したい。