日本経済新聞のWEB記事(14日の朝刊に載る)を読んだ。企業買収について、やっと本質的な議論が国際会計基準で行われる方向になった。M&Aは重要なトピックスだから、当ブログでも頻繁に取り上げてきた。特に、国際会計基準(IFRS)や米国基準の「のれん」の会計処理方法は、本質的に相当な問題を含んでおり、この点に関する限り、日本基準の会計処理方法の方が、実務的に優れているから、早急にその考え方に戻るべきだという見解を、個人的な見解と断った上で、述べさせていただいてきた。やっと、国際会計基準を改訂する方向で検討が開始されることになった。以下に、新聞記事を各項目ごとに■印の箇所で記載し、その後で、自分の見解をMI>の表記で述べさせていただく。但し、下線と下線番号は筆者が付けさせていただいたことを断っておきたい。

 

国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手した。買収代金のうち相手企業の純資産を超えて支払った「のれん」について、費用計上の義務付けに向けて議論を始め、2021年にも結論を出す。大型のM&A(合併・買収)が相次ぎ、企業財務への影響が強まっていることを考慮した。IFRS採用企業の業績には下押し要因となる。(下線1)

のれんは買収先企業のブランド力などの対価と解釈され、買い手企業が資産計上する。日本の会計基準では最長20年で償却し、費用として処理していく。IFRSではのれんの償却は不要。ただ、買収先企業の財務が悪化した際は、「のれん」の価値を一気に引き下げる減損損失の計上が必要になる。巨額の減損損失を突然公表するケースもあり、投資家から分かりにくさを指摘されてきた。(下線2)

国際会計基準では、減損損失を巡る企業の判断が「楽観的になりやすい」うえ、計上のタイミングも「遅すぎる」と指摘。(下線3)

規制当局など利害関係者から意見を集約したうえで、のれんの償却を義務付けるかどうか判断する。償却期間は「一律にするのが望ましい」と言う。内部では以前からのれんの会計処理を巡る問題が意識されてきた。ただ、これまでは現状維持派が優勢で、議論を始めていなかった。しかし、議長の意向もあって、7月に議論を始めると正式に決定。のれんの償却・費用化に向けて前進した。



MI> 国際会計基準に移行する大多数の日本企業の本当の狙いが、国際会計基準が「のれん」を償却しないで済むことにあり、たとえ、高額で企業買収しても、「のれん」という無形資産が膨らむだけで、利益に影響させないIFRSが、M&Aをする際に大きなメリットと考えている。P/Lだけしか見なければそうも言えるかもしれないが、B/Sを見れば、その見方が、将来、いろんな問題を引き起こす原因になることが想像できる。当該事情については、過去のブログにおいて、縷々述べさせていただいた。実際、IFRSでも、無形資産が世界的に膨らみ過ぎて、財務の健全性に及ぼすリスクをもう看過できなくなってきたのだ。なぜなら、「のれん」の巨額減損が世界的に同時多発すれば、株価暴落で、世界恐慌の引き金を一気に引きかねない可能性もあるからだ。今後、このトピックスが検討されると、まさに下線1が現実となり、当事者となる経営者の中にはショックを受ける人もいると思われる。


MI>「経営者の心理と行動をベースに考える行動ファイナンス」の視点から、経営者が「のれん」の減損損失に消極的になるのは、ある意味当然である。なぜなら、それを認めることは、買収が失敗だったことを自ら認めることにもなるからだ。加えて、減損に積極的になれるのは、利益を減少させてでも、財務の健全性の方を優先するべきという固い信念の持ち主や、自分で責任とれば、誰からも文句を言われない上場企業のオーナー経営者ぐらいだろう。だから、普通は、下線2と下線3のようになるのである。今の問題は、投資家が、ある日、突然、発表される減損を事前に察知できないことなのだ。いつか爆発するかもしれない危険物(リスク)を抱えていることはわかっているが、それがいつだとは予見できない。株価がいつ急に低落するかがわからない。IFRSでは、「入り口の入り方は入り易いのだが、出口の出方が結構難しい」のである。それゆえ、経営者も枕を高くして、安眠できにくい。国際会計基準、米国基準のM&A会計は、早晩、行き詰まるだろうと予想していた。上述と同じような考えの方にとっては、「のれんの償却開始」の検討開始のニュースは朗報だろうと推測する。

 

企業業績への影響は大きい。(下線4) IFRSは欧州を中心にアジアなど120以上の国・地域が採用。日本では09年度から採用が認められるようになった。ソフトバンクグループ武田薬品工業などM&Aに積極的で、のれんが膨らみがちな企業による採用が目立つ。

17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円、欧州の主要600社は240兆円ののれんを抱える。仮に20年間の定期償却が導入されると、日欧合計で年間13兆円の減益要因が生じる計算になる。大型M&Aが活発な米国では主要500社で340兆円ののれんを計上している。米国会計基準ではのれんの償却は不要だ。とはいえ、IFRSは世界の主流になりつつあるため、会計業界での影響力は強く、米国でも同様の議論が進む可能性もある。


 

MI> IFRSが「のれん」の償却年数が最大で20年もある日本基準を一つの参考にする可能性は高いと思う。ただ、償却期間を、日本基準と同じ最大20 年にするか否かは、今の時点ではまったくの不明だが、何年間で一律に償却することになるにしても、企業の利益に対する影響が膨大である事は間違いない。IFRSもハードランディングは、できれば回避したいと考えるだろうから、ソフトランディングに持って行くことになるだろう。

のれんの償却は企業財務の予見性を高め、投資家のメリットとなる。その半面、M&Aのコストを増やし、企業活動を阻害するとの反対論も根強い。(下線5) IFRSの見直し議論も今後、曲折が予想される。

 

 

MI> のれんの定期償却は定額法だから、毎期同額で、投資家にとって、突然利益が落ち込むこともなく、そのことで株価が突然下落することも少なくなる。予見可能になるから、投資家にとって、メリットになるのはもちろんだが、実は、そのメリットは経営者にこそ、大いにもたらされると考えている。いつ、減損しなければいけないのか、常に不安を抱えていては、健康に良くない。経営者にとって、IFRSが改訂されれば、枕を高くして、安心して眠れる。加えて、投資家から、突然の減損を追及される(M&Aの失敗を追及されるのと同じである)可能性を相当減らせるはずだ。

MI>  M&Aのコストを増やし、企業活動を阻害するディメリットもあると言う人がいるが、それはP/Lだけを見るからだ。費用が増えるのは確かだが、のれんの償却費は非資金費用だから、キャッシュが出ていくわけではない。キャッシュへの影響はゼロなのだ。P/Lだけに固執するのは、経営の視野を狭くする。言うまでもなく、決算書を総合的に分析して、経営課題を見つけ、戦略を立てる必要がある。

  今回のIFRSの議論開始で、改めて、財務3表を経営にどう活かすかという本質的な課題を我々は再び、問われていると感じる。経営にとって重要なトピックスだからこそ、4半世紀前から、この点は拙著でも繰り返し述べさせていただいてきた。たまには、会計財務の根底を流れている本質を把握して、逆に、現行の規則やルールの是非を考えてみるのも面白いよね。