学生時代といえば、貧富の差が出ないように皆同じ制服で統一され平等化がはかられる。
それでも貧富の差というのは、学校内でもどうしても出てきてしまう。

私の時代だと真っ先に浮かぶのはやはりエアージョーダンだろうか。
私は母親がダイエー辺りで買ったであろう謎の中国製のスニーカーを履いていたが、
バスケ部などを中心に校則の抜け道ともいえるおしゃれなバッシュ(バスケットシューズ)を履いてくる者が多数いた。
しかし、惨めな気持ちなどなかった。何故なら私の方が圧倒的多勢で、エアージョーダンの方がマイノリティだったからだ。

そんな私でも死にたいほど惨めな気持ちになった思い出がある。
それはカセットーテープである。

「iPod」や携帯など、音楽が昔よりもかなり手軽に持ち歩ける時代になったが、昔はカセットテープが主流であった。

カセットテープといえばそのグレードに応じて
「ノーマル」
「ハイポジション(ハイポジ)」
「メタル」

と3種類があった。

お気に入りのアルバムにはハイポジかメタル ラジオの録音にはノーマルで繰り返しダビングという風潮があったと思う。エアージョーダンを履いているKくんからカセットテープを借りると、いつも高級感漂うメタルだった。まるでペットを自慢するかの様に、「あら、おたく様はTDKのSUPER CDingII ハイポジションなの?」「そういうあなただってmaxell UDⅡメタルポジション じゃないの?」といった感じである。

バブル期突入と共に加熱していった感のある高級カセットテープ戦争だが、私はその流れを知りつつも時計やクツとは違い、人に見られる心配は無いとたかをくくっていた。J-POPを片っ端からレンタルしては、それを自分なりのテーマに沿って編集したカセットテープを作成していたのだ。

それは休み時間にウォークマンを机の上に置きっ放しにしてトイレに行った事でその悲劇は起きた。

トイレから戻ると私の席に女子の人だかりができている。
何故か一瞬ドアに隠れてしまい恐る恐る覗くと、明らかに失笑した様子で何かを見て騒いでいた。

ああぁ・・
オレのウォークマンが開けられている・・
そ、その中には・・



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メーカー不詳の100円カセットテープ 
      & 
自選「失恋ソング集」(手書き)
 



何だかわからないが、自分のあらゆる恥部が集約されたものを見られた気がした。



百均も無かったこの時代、詳細不詳の海外メーカー(私の場合はBONが多かった)で100円で売られていたカセットテープがあった。母親がラジオ英会話を録音する為にこれまたダイエーで大量にまとめ買いしたものだった。独特の安っぽい質感に何ともいえぬ劣等感を感じてしまう。

曲データを表示させるMDやiPodとは違い、カセットは各曲の題名をテープ入れのケースラベルに、その曲集が何の括りかをカセットテープに直接手書きで書いていたのだ。

こうなった時の群集の力は恐ろしい。個人情報保護法などどこへやらで、再生ボタンを押して皆で爆笑している。
10代のさえない男子が編集した失恋ソング集には、さぞかし笑いの袋が詰っていた事だろう。
呆然と見守るしかない私はそのカセットに収録されているさまざまな失恋ソングが、頭の中で走馬灯の様に流れ出した。



(リンダリンダ)
ハイポジみたいにー 美しくなりたい
ノーマルには聴き取れない 高音質があ・る・か・ら・・



(わがままジュリエット)
泣き顔でスマイル すりきれて音飛び 反転は無理



(翼の折れたエンジェル)
もし俺がメタル(ヒーロー)だったら
ノイズ(悲しみ)を近づけやしないのに・・・




(恋心)
どうしよう他の子も集まる こんなとき妙に仲がいいよね
これが女の連帯感なのか



(Missing)
I MISS YOU 許されることならば
この道をかけだして 家に帰りたい 今すぐに



(M)
消せない油性ペン(アドレス) 失恋集の手書き(Mのページ)を指でたどってるだけ



・・・そして僕は途方に暮れる