黄金期のジャンプを思い返した時に、ドランゴンボールや北斗の拳のような作品はこれから先もいろんな視点で語られていくのだろうが、その黄金期に同じく名を並べテレビアニメ化などのヒット道を歩んだにも関わらず、その内容をあまり人々の記憶に留めてない、実弟に「喪主の花田勝氏」 と呼ばれるぐらい残念な作品というのがある。

銀牙―流れ星銀―(1983年~1987年)

銀牙―流れ星銀― 8 (ジャンプコミックスセレクション)


この作品は連載当初に打ち切り間近から盛り返し、人気急上昇でテレビアニメ化までするも、全世帯を巻き込んだ人気とはならずアニメはすぐ打ち切りとなった訳だが、それでも誌面では爆発的なヒットとならずともこの激戦区を生き抜いてきた価値ある作品なのだ。

ミスユニバースで世界一をとる日本代表は日本国内での活動がなぜかぱっとしないのと同じで、何が勝ちかを判断するのは難しい。

同じく黄金期に人気と共にアニメ化されるも、打ち切りとなると最終号の作者コメ欄に
「これで燃えるお兄さんは終わりだ。覚えて居たいやつは覚えていればいい。忘れたいやつは忘れちまえ。この漫画は意味は何もない。四年間どうも有りがとうーもう飽きられちゃったからやる事など何もない」と巻末でサリンをばら撒いて去ったこの作者も多くの作品が忘れられる中、記憶に留めるという意味では勝ちかもしれない。

そういった意味でアラでもいいのだ。連載終了後に何かしら話題を提供できる作品こそ一流と認められた証なのだ。ということで、犬の世界ながら相当シリアスで突付き所の少ないこの作品にあえて注目してみる。



作者の高橋よしひろ先生は銀牙の連載以前に月刊ジャンプで「白い戦士ヤマト」(1976年~88年)という作品を長期連載していた。
銀牙と同じく主人公の秋田犬がライバル犬達と戦いを繰り広げる作風は同じだが、大きくひとつ異なる点がある

「ヤマト」が一切言葉を発しない設定に対し、銀牙は犬語なるものをしゃべるのだ

その経緯に関して作者の高橋よしひろ先生はこう述べている

----「犬同士の会話」は、銀牙の途中から始まりますよね

高橋 
「ヤマト」では犬は話してなかったんだよね・・
「銀牙」はね、実は最初人気なかったの。それで次の巻頭カラーが最後のチャンスっていう状態で、
その号に合わせて「じゃあ喋らせようかって。
犬の心情がわからないから、人気が出ないんだということでね。
で、話させたら、ウワッと人気が出た(笑)

引用元:銀河聖犬伝説(集英社)



打ち切りが迫った状態での思い切った設定変更がおもわぬ起死回生へと繋がったのだ。

当然、犬語は犬社会にしか通じない独自の言語なのだ。
しゃべらすという事は必然的に強いキャラ付けと共に、それに伴なうほころびも出てくくるものだ。


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イヌとはいえ老若男女いる訳だから、口調が変わっていくのはモチロン想定内である
だが全国津々浦々をめぐるこの作品にて地方ごとに大胆な方言を採用してしまうとは想定外だった(笑)


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驚きなのはこの流暢な博多弁よりも、この犬の名前がヘンリー三世であることだろう。

江戸っ子もいれば東北弁もいるが主人公の銀(秋田犬)は終始標準語である事からわかるように当初の予定を大きく超えた舵取りがあった事が伺える。終いには「うぬら」と時代劇調に語りだすボス犬も現れ、当時高橋先生のアシスタントであった原哲夫もその影響を受けたのではないかと勘ぐってしまう。


忍び出身でクワを咥えたりお面をかぶったり馬に乗ったりする犬がいるその独自の世界観はすんなり受け入れて読めたのだが、なぜだかこの方言設定だけはちょっと笑ってしまうのです。

道徳的な事を人間に言わすとクサくなるけど、犬に言わすとクサくならないとの発見があったようで、
人間でも言わぬような熱いセリフが多く見られる。

そんな本作品の中でも一番驚きなのがこれだろう。


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イヌが犬死に(無駄に死ぬこと)すると発する驚愕のヒトコマである。
作風や作者のマジメな人柄を考慮しても、このコマはなにか狙ったわけじゃなく、自然発生したものものであろうが、
死ぬ間際のイヌが語る犬死にはどれほど無念で重く説得力がある言葉なのだろうか!(笑)

本作品は海外で非常に高い人気を保ち、各国で翻訳されて発売されているようだが各方言と犬死をどう訳しているのか興味が尽きない