「海峡派」140号の合評会が10月1日(日)にありました。今号、初発表の新入会者の参加もあり、にぎやかに感想を述べあいました。まずは小説の感想から。

遥子と翔平(二)・・・・・ 松本義秀


同窓会の後、遥子が横浜に戻ってから、翔平としばしばメールをやりとりする。それぞれの近況が徐々に詳しくわかっていく。遥子は夫とはわけあって別居し、現在一人暮らし。メールのやり取りは頻繁になり、翔平は遥子を温泉旅行に誘う。

 

・メールなので顔文字も使い、同級生ということもあり、話し言葉でいろいろと書かれている。メールということにしても、顔文字が多すぎてイラっとする。メールのやり取りから、どんどん惹かれ慣れ合っていくのがわかる。

・これを不倫というのか? この段階では違うだろうが、不倫ということになれば、のれらのメールは証拠になるだろう。男女が友人でいるのはなかなか難しいことだ。

50回以上のメールのやりとり。社会性がない。

・新しい小説になるかも。

・メールだけで他の進展がないのはもったいない。

・私小説かと思うが、日常であること。連載なので、今後が楽しみ。

・今の主人公たちの時代背景がもっと出ているといいと思う。

 

虫の知らせ・・・・・・・・都 満州美

弓子は決まって山奥の水海の夢を見る。この日も肝臓のMRIの検査だった。8年前の膀胱がん治療からようやく解放されたと思ったら、今度は肝臓がんの疑い。生検はせず、いきなり手術をするという。だが、弓子は手術はしないと言った。MRIの結果、大きさは変わらなかった。ところが、水海の夢は続き、ふと子宮に異常があるのではと思い婦人科を受診した。結果は子宮がんで、子宮掻爬術をした。

 

・同じ病室の隣りの女性、向いの女性との病状や治療が違うことで、嫉妬されたりする。手術がうまくいって生かされる者、手術が無理で、抗がん剤治療の副作用で苦しんでいる人など・・・生々しい。

・長年続けている韓国語の教室の圭子がやはりがんでセカンドオピニオンを求めて東京へ行ったことなど、それぞれのがん治療について考えさせらる内容だった。

・フィクションにする必要があったのか。1人称でもよかったのでは?

・誠実な医療小説。もっと書いてほしい。

・がんの問題はたくさんある。自然体でいいというのもある。大変参考になった。

・救いがもう少しあるほうがいい。

・同感。身につまされる。

・水海・・・は夢のイメージ。

 

七月のプリン ・・・・・・川下哲男

高野球部3年は、5人。夏の県大会予選が近づいたとき、キャプテンの国仲がカンニングで自宅謹慎に。それで秀樹が新キャプテンに選ばれた。高校のそばの〈小山田食堂〉は運動部がよく利用している。夫婦で営んでおり、耳の聞こえないミロという娘も手伝っている。国仲が部に復帰したときも部員で食堂に行ったのだが、サッカー部のトンビがいた。国仲を見て、「カクサゲされて、たいへんよねえ」などと悪態をつく。それでトラブルになりそうになったとき、ミロがうまく中に入ってくれてトラブルを回避した。その後、また食堂に行ったら、おくさんが病気で、代わりにミロが注文を取っている。不便そうなのを見て、部員たちは数を記入すればいいだけの注文票を作成し、渡す。お礼にミロから手作りのプリンがふるまわれた。

 

・読後感がさわやか。タイトルもセンスいい。キャプテンのカンニングというトラブルにも負けず、5人の部員が力を合わせて乗り切っている様子に、好感が持てる。耳が聞こえないミロではあるが、ホワイトボードを使ってやり取りしたり、店内のことではあるがトラブルの仲裁に入ったりと、知的で勇気のある女性。ミロにかかわる部員たちも思いやりがあって気持ちがいい。

・連載になるのか?

・とてもさわやか。和む。部活の様子がよくわかる。

・高3、もっと若い人が書いたかと思った。

・ミロ、生き生きと描けている。「ア リ ガ ト ウ」がよかった。

・運動部の状況がよくわかった。

・ミロ、名前もいいし、人柄が浮かび上がる。少年たちの潜んだやさしさが出ている。

・ミロ、耳が聞こえないので、〇、×で仲裁した機転。素敵な女性。

 

勇者の剣 ・・・・・・・・山田キノ

ショートショート。父と屋根裏部屋を掃除中に、勇者の剣が出てきた。今、父はガーデニングショップを経営しているが、若い頃は勇者だったと聞いていた。今は魔王は半世紀以上に他の星に行ったから、勇者という職業はなくなった。なにかに使えるかと思った剣は、刃先は切れず、柄も折れて接着剤でくっつけている。インテリアにしたが、親友のマサには接着剤のあとにも、勇者の剣であることにも気づかれなかった。

 

・その昔あったかもしれない勇者という職業が違和感なく入ってくる。父の今の様子とのギャップが楽しいし、勇者は、勇気と希望で悪を斬るというところなど、アニメチックなのもいい。また、ラストものんびりしていて、勇者のイメージと離れていて楽しい。

・魔王は半世紀前(1960年代)いはいたらしいが、わたしはそのころ生きていたが、魔王のことも、勇者のことも、今回が初耳。

・何かの象徴か? たとえば、プライドとか。こだわりなど。

・寓話的で、読者によって、読み方がいろいろできる。

・天井裏にホコリをかぶっていたなど、みもふたもない。ホコリと誇りをかけているのか?


ぼくの大好きな人
 ・・・・・・・・山田キノ

ショートショート。朝、のっそりと目覚めたぼくに、沙由里がホットミルクを出してくれたり、何かと気遣ってくれる。一ヶ月前にぼくが倒れていたのを助けてくれ、「好きなだけいていいんだよ」と言ってくれた。お金もない、仕事もしてないぼくができることは、沙由里が寂しくないように寄り添って癒してあげること。ラストのしっぽを立て、にゃーと鳴くところで、ぼくは猫とわかる。

 

・とても書きなれていて、筆運びがうまい。猫だろうなとは思わせるが、最後まで読ませる。沙由里の性格や容姿なども具体的な描写で、すっと入る。

・猫が飼い主を『清楚で知的、スタイルはいいし、何よりかわいい、さらに温厚な性格で裏表がない。そんな彼女から、いつもいい匂いがした』と褒める。猫の愛はとどまる気配がない。物言わぬペットにしゃべらせ、自己愛を発散か?

・擬人化。ショートショートの手法。

・途中で猫だと少しわかる。最後までわからないように、どんでん返しがポイント。

・ラストの動物落ちはパターン化ではある。うまく、だまされたとなると成功。

 

みちのく桜紀行(一)・・・・  伊藤 幸雄

靖之は、同窓会のついでに、姪の裕美の案内で春爛漫の仙台に来ている。仙台には車椅子になり老人介護施設で生活している兄の俊樹97歳がいる。とても元気だ。靖之は男兄弟8人の末弟として生まれ、子供のいない斎藤家に養子になり贅沢で過保護に育てられた。兄の俊樹は中学にも進学できず、夜学に通いながら現在の大検を突破、一部上場会社の監査まで勤めあげた。靖之は仙台名物の牛タンを食べながら、みちのくの春を満喫した。

 

・時系列になっていず、場面が前後するところは、混乱する。伊達政宗や青葉城などのちょっとした歴史も取り入れているところは、読んでいて楽しい。

・真知子巻き・・・スカーフで頭を覆って、残りを首に巻くスタイルのこと。髪型ではない。

・春の東北の燃え出ずる様子、うまく表現している。

・情景描写に品があり、美しい文章、書きなれている。

・銀嶺だけで山をさす

・出らねばならぬ→出ねばならぬ

 

メダル・ソルジャ―ズ(七)・・・・・大空 裕子

カルサイトが去った後、みな一様にカルサイトが強くなっている、秘密があるのではと感じていた。ある日、和雪の母が来て、学園の裏の大樹に魔女の家があり、その魔女が和雪の母の姉だという。つまり和雪のおば。彼女がカルサイトに手を貸しているという。話を聞いた和雪はおばに会いに行く決心をする。

 

・和雪の母の描写が細かくなってきた。また、話の展開もおもしろくなってきた。和雪のおばが魔女というのも、おもしろい。

・連載菜7回目にして、ようやく物語の形態が見えてきた。礼佳と和雪はお互いに想いを寄せていて、周りのみんなは、それとなく応援している。でも、和雪の伯母は魔女で、カルサイトの側の、異次元の世界に属している。もしかしたら和雪の母も? 普通の人間の女とは? 戻してやれるのは和雪だけ? 長い梯子を上っていける? なぜだらけだ。

・木の上の魔女など、アニメっぽい。

 

ルーツ・・・・・・・・・ 山之内一次

自動車学校の実技コースで自分の番を待っている紳也たち。一緒に並んでいた男が自分のルーツを話し出した。紳也のことも知っている。男は畑中といい、従弟らしい。また、紳也は、畑中の家に行ったとき、家の中から夫婦が「死んでは駄目よ」と幼児に叫びうろたえる場面に出遭ったり、不幸を見てしまったという負い目を感じていた。そんな畑中と話する中で、父の喜久雄のルーツを辿りたいと思った。喜久雄は実母とは離れ、継母に長男が生まれてからは、無戸籍になったことを知り、単身東京に出て苦労、努力して立派になった。喜久雄は戦争でインドネシアに渡り、敗戦と同時に引き揚げた。紳也は陸軍病院で、父喜久雄と再会。自分が生かされていることを思う紳也だった。

 

・教習所で偶然出会った男、畑中くんが、どうやら従弟らしい。畑中くんは下宿ではじらいもなく、自分のルーツを語る。紳也は、父の喜久雄の生い立ちに思いをはせ、ルーツを手繰り寄せようとする。

・三河内の親戚の話は、もう少し詳しくてもいいのではないか。喜久雄からの指図どおり動いたとしても、何を待たされ、何駅から夜行列車に乗って、早朝からついたのか。早朝でないと用がたせなかったとあるが、その用はわかっていたはず。

 

砂の砦・・・・・・・・ 西村宣敏

大学生の達夫は、街坂にA大の集会に行かないかと誘われたが、断った。竹田義男も最初はデモや集会に参加していたが、「赤軍」という過激なセクトが出たころから、一般学生は運動から遠ざかって行った。義男は仲間と『砂の砦』という同人誌を作ることにした。喫茶「アートビレッジ」でバイトをしているA大の児玉景子に惹かれる。ある日、義男は恵子を天ぷら屋(デート)に誘う。一方、達夫は熱で寝込んだあと、行きつけのラーメン屋に。店主はがんさんと言い、学生運動をしていて、機動隊ともみあいするうちに、勉強も手がつかなくなり、運動も大学もやめたという話を聞く。達夫は、天ぷら屋で恵子を同人誌の仲間に誘った。

 

・達夫と義男が主人公のようで、交互に物語が進行していく。登場人物が多いので、竹田とか義男・・・野沢とか達夫・・同じような名前はわかりにくいし、どちらか一つで話を進めたほうがいいと思う。最初、わかりにくい。

・『砂の砦』という同人誌の誕生秘話という物語だが、その中に盛り込められた学生運動とかかわる人物の物語が並行していく。義男と恵子の恋愛も。学生運動を誰の立場で見るのかで、物語が変ってくる。達夫と義男、がんさん・・・誰もが少しずつ、その余波を受けている。それぞれの立場で等身大で書かれているし、読みやすい。おそらく続きがあるのだろう。ぜひ書いてほしい。

・忘れかけていた学生運動という言葉が蘇った。

・出だし・・・バスケットボールの練習をしている。ボールがゴールリンクの縁をくるくる回って、結局中に入らずにこぼれでる。ゲームは終わらず、沢山の手に渡っていく・・・何の比喩だろう?

・骨のある力作。青春群像、よく書けている。

P130 〈でも〉の多用。

・この時代の大学生の考え方がわかる、羨ましい。

1969年かそこらの京都。自分もいたからわかる、「二十歳の原点」6.24 を思った。

 

飛行機雲・・・・・・・・ 勝田純子

芙由子を中心に、恩師と妻、愛人との話と、芙由子と夫の貴の話が交互に展開される。恩師の妻は精神を病んでいて、容姿もひどく老けて見える。恩師は別居していた。愛人にも家庭がある。定年後亡くなり、葬儀には妻が娘さんに支えられるようにして立っていた。一方、芙由子はまじめで心の優しい貴と結婚。だが、めったに体を求めず、たまに事に及んでも最後までいかずに終わる、男性の側の不妊に悩む芙由子。貴はそのうち何とかなると言うばかり。友人の倫子と未婚のときは、結婚に悩み、結婚したら子供が欲しくて悩み、子供ができたらまたできたで悩み・・・といろいろ話すうちに少し気が楽になった。

 

・恩師と教え子の美しい物語。

・現代的で、構成がうまい。

・恩師・・・最初だけで、あとは〇〇先生でいいと思う。

・全体像として、重い。緻密。

・テーマは子供ができない不妊のことだろう。夫との関係、人間との幸せとは一体何か?ということを考えさせられる。

・女は夫によって決まる?

・タイトルがイマイチ決まってないので損。

・人生、悩みがいろいろあるが、子供はできたらできたで、また悩みがつきぬもの。

・主人公の女性とたかしをていねいに書いている。嫌いじゃないが、不妊の悩みを考えていないという不満を描いている。

 

ホームアゲイン(前編)・・・・・・・ 武 ひとし

画家の北崎純は、美穂と結婚し、純絵という3歳の女の子がいる。純は突然、交通事故にあい、即死。だが、天上界では純の死はミスで、大慌て。次に来た肉体に純の魂を入れ、地上に戻すことにした。違う人生を生きるお詫びとして、3つの願いをかなえるという。佐野順二は両親と耳の聞こえない妹春子と暮らしていた。仕事中の事故で死亡・・・のはずが、魂は純として、生き返った。順二は記憶喪失だったが、佐野家でうまくやっていた。春子が買った花を見て、急に絵が描きたくなってきたからと、絵を描く。あまりのうまさに、画商に見てもらうと、亡き北崎純の作品に違いないという。

 

・SFというか、死んで魂が他の肉体に入れ替わるのだが、天上界のやりとりなどギャグみたいでおもしろかった。

・後半、絵から北崎純の存在が明らかになるが、どうまとめていくのかとても楽しみだ。

・なかなか面白い発想で、絵は魂が生きていれば、おのずから手が動くのだろうか?と疑りながらも引き込まれている。

・テンポがいい。達者で引き込まれる。

・読みやすい。北九州のことなどを情景に取り入れているので、親しみが持てた。

・作為的な展開。

・天上界の部分はなくてもよかったのでは?

・おもしろい。エンターテーメント。

 
運動会 ・・・・・・・・・犬童架津代

元子の娘、ゆりには4人の子供がいる。元子と夫は孫の小学校の運動会に呼ばれた。前日から娘の家に泊まり、朝起きて、弁当の準備。中学生の孫はサッカーの試合で運動会に行かれないという。弁当のおかずを朝食べて行く。それぞれの孫の成長を温かい目で見ている。

 

・元子は親が診療所をしていて忙しかったので、運動会も一人で弁当を食べていた。そのことを思い出しては3回ほども夫に言っている。小さい頃のさびしかった記憶というのはいつまでも心の中にあるようだ。子供の場合、孫の場合はさびしい思いをさえないようにと余計にいろいろとしてあげたいのだろう。ラストにもう少し工夫がほしかった。

・丁寧に家族関係を書いている。だが、時間関係が錯綜していて、わかりにくいところがある。

 

あしたは 晴れている《連載第十三回》
                ・・・・・・はた けいすけ

脳病入院中のワカを見舞った帰り、丈子はお金がいるので働かなくてはいけないと思う。戻ったら、金のかあちゃんが山本陸軍大尉、ここの旦那さんが戦死したという。そのとき、丈子に書き留めが。朝鮮の山本ツルからで、30円の為替が入っていた。正太は志那に行ったら殺される・・・と、若奥さんが心配だった。大開小学校に行くと、小使いさんがいて、チャンコロにけがさせられたという。また、桶本先生も綴り方の本を出して社会治安を乱したと捕まったという。そのとき、若奥さんが来た。日本髪はばっさり切られひっつめた髪、凛とした白無垢、ひとを寄せ付けない厳しい顔だった。

 

・「国民精神総動員実施要項」などの言葉が使われているのも、時代背景や物語の進行に厚みをもたらせていると思う。戦争は、いやおうなしに、正太の家族の小さな暮らしにもどんどん崩壊をもたらしてくる。正太はどうなるのだろう。

・韓国語が片言で読みにくい。

・時代のことをよくつかんでいる。だんだんと暗くなっていく。

・若奥さんの表情の描写、正太の反応が印象に残っている。

・正太の目からの時代背景

・山本大尉が戦死した。正太は若奥さんのことを考える。大尉に髪を切るように言われたと嘆いていた若奥さんが、もう髪を切らなくて済むと思ってほっとするのだが、学校に現れた若奥さんが、バッサリ髪を切っていたのを見て、頭に血が上る。気が狂ったワカのことをこんなときにからかわれ、5年生の大島にとびかかって行く。池の中に突き落とされた正太。ラスト、冬空の雲の中を緋鯉がとんだ・・・書きたたがともてうまい。この心情表現はすごみがある。

・髪を切らないでほしかったという正太の恋心、ショックがよく出ていた。

 

〈作者の言葉〉正太があこがれている若奥さんから、脱皮していくための次のステップのために、髪をバッサリと切るという設定にした。

 

対馬海峡《連載第三回》・・・・・・木村 和彦

日本人はユニゾンで歌うことが多いので、和音がわからないという。由枝は音楽を聴いてひとつの音を聞いた瞬間、強い精神感動が起こるという。青木先生はとても興味を持ち、放課後、由枝にいろんな曲を聞かせてみる。由枝と同じ合唱団のみっちゃんが話があるという。一つは新井先生がいなくなったのは、由枝のせいじゃないかということ。もう一つは母の青木先生を放課後とっていること、二人でわからない話をし、母は由枝のことばかり話している。青木先生に言うと、和音の研究は最後にしようとカール・ウォルフの世俗カンタータを聞かせた。途中で由枝が「血の臭いがする」と言った。

 

・由枝の内耳の働きというか、音に対する感性がすごい。どうしてかはわからないが、文章力ですごいことを知らせている。今後の展開が楽しみ。

・由枝は、青木先生にすべてを話し、合唱団をやめると告げる。青木先生は、彼女の才能(特殊な感性、和音に対する反応)に未練をしめす。どうなるのか?

・みっちゃんの嫉妬によく気付いた。