2012年07月

「周炎」第48号

「周炎」第48号をいただきました。
遅くなりましたが、ありがとうございました。

ミステリー
スコーク七七発信 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山村 律
幸子の拾ったパスポートの住所がアパートの隣室になっているが、隣は鈴木という男性が住んでいる。鈴木は日航機事故の写真を撮ったことで、何かの組織にマークされている。日航機事故は自衛隊の秘密兵器のテスト中の誤動作が引き金になったのか?パスポートを落としたのは、元自衛官の松田。週刊新報の記者、幸子の恋人の文夫は、日航機事故に事件性を感じて調べることに。そして、ある日、パスポートの男、松田が、幸子の部屋で血だらけで倒れていた。松田を襲った犯人の捜査も絡み、物語は複雑にもつれていく。それを解こうとする文夫や内部のことを語る一佐。スコーク七七というのは、非常事態発生のときに知らせる暗号のことで、日航機事故のとき、これが発信された。まだ忘れられていない御巣鷹山での事故をミステリーに仕立てた大作。次号の展開に期待。

自分史
へんな鉄ちゃんの物語 ・・・・・・・・・・ 尾木成光

特集

岩下俊作の随筆集(四)
宇野浩二先生の断片的回顧 
・・・・ 八田 昻

作家への道 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 暮安 翠

紀行
ぐるっと琵琶湖 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 続木道子

随筆
石と人と ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 犬塚 遼
名門教授の嘆き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 暮安 翠
大学のクラス会でのこと。グレアム・グリーンの伝記を書いた作者は、名誉教授の井内雄四郎氏と話す。彼は後輩教授が時流に流されていることを嘆き、教授会で文学部が分散化すれば英文科の消滅もありうると危惧している。この大学の英文科といえば、最高に優秀な学科だ。その内部事情など垣間見ることができて興味深かった。


口笛 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 犬塚 遼
臨海工区の波止場から見た風景が、さわやかにきれいな映像を見るように描かれている。「憎しみを忘れた棚のなかから/眠むたい時間を摘み出しては」の表現、作者の感覚が、全体ののどかさにつながっているような気がした。

想薀 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ かよ子
1,2連がとてもよい。飛鳥路の時代の流れと景色と私の想いが溶け合う感覚がにじみ出ている。


小説
デ・ジャ・ヴ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 川村道行
小さな町に吹く風の出だしはとても心地よい。妻は出産のあと、体調をこわし、実家の海辺の家で暮し東京に帰ってこない。銀行マンの僕はKコンサルタンツから億の位の預金を獲得したが、子どもの具合が悪いという知らせで銀行を辞め、海辺の町に。Kコンサルタンツの社長との会食での一コマが読者の想像を自由にひろげさせる。

花曇り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 若杉 妙
淳子はいつも知り合いのお下がりを着ている。が、中学卒業後、就職と夜学が決まり、お祝いに母から洋服を2着、父には腕時計をプレゼントしてもらった。高校の運動会、文化祭のことなど楽しかった日々。小学校のときの先生から、家のお手伝いさんになり、将来、淳子が困らないだけの家事や習い事を学ぶ。時が経ち、淳子に裕福な育ちの恋人と結婚の話がくる。物語は次号に続くが、淳子の結婚生活や、初恋の山下がどういう形で出てくるのか、楽しみ。

思い巡らせて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 福岡かよ子
娘由佳は知的障害がある。養護学校卒業後、隣町の施設に入所する。家族と離れて暮らすことに、本人よりも親や兄弟のほうが辛いのがよくにじみ出ている。由佳の思い出は、地域の小学生らによるいじめの実態、その中で「宇宙人」とからかわれた時に、「わたし!ウチュウ人よ わるい!」と反発しながら、キックボクシングの回し蹴りをしたエピソードなど切なさと、力強さを感じた。

つばさを広げて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 末松福生
隆史はあこがれの容姿端麗の純子と恋仲になる。純子の妊娠がわかり、駆け落ち。会社の上司と純子の父が知り合いで、両家の溝がようやくうまる。掌編だが、それぞれの立場での思いが汲み取れる作品。

兄よ、よくぞ逝ってくれた ・・・・・・・・・・・・・ 本松秀茂
意表をつくタイトルである。内容は兄の勝手気ままな人生遍歴をつづっている。迷惑もかけられたはずの弟だからこそ書ける、愛ある追悼文になっている。

吟行
仙厓さんとレトロの街 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 室奈穂子
二人だけの旅 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 坪根規子

掌編
余命いくばく ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 奥 信子
義弟がなくなり、家族、親族の系譜から、引き揚げの苦労、葬式のありかたなど思考をひろげている。ものごとを几帳面につきつめて考える作者らしい丁寧な随筆。

婆ちゃん・爺ちゃん有難う ・・・・・・・・・・・・
 竹内 茂
家族という小さいけれど、繁栄、歴史というものを、特に妻を中心に焦点を当てて書いている。そして、その家族の繁栄、歴史の裏方として妻、子どもたち、家族みんなの支えになった爺ちゃん、婆ちゃんの貢献に対しての感謝の気持ちがにじみ出ている。

「日曜作家」終刊号

「日曜作家」終刊号をいただきました。
北九州を拠点にする同人誌なので、これが最後かと思うとさびしい限りです。

小説
グリーンカード2
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山口政昭
ソーホーのレストランを経営している私のところに、店の客のYという日本人女性から、相談された。相談というのは、グリーンカードといって、アメリカの のことで、結婚してグリーンカードを取るのが一番早い。そこで、Yは偽装結婚をし、うまくグリーンカードを手に入れたが、後、Yの偽装結婚の相手が、離婚に応じてくれないという。また、相手はインポテンツでアル中、Yは看護婦のように接していることなど告白する。私は目的を達したとはいえ、離婚は反対だとアドバイスする。Yは相手のアル中もインポテンツも治ったが、けじめとして離婚し、また結婚したくなったらその時はその時との結論を出した。アメリカという土地で仕事に就き、生活していく私、Yの人生の一コマがリアルに描かれている。グリーンカードを手に入れるいろんな人の苦労話もYの打ち明け話の間に挿入される私の思いで話も、知らない世界のことで面白かった。

競馬場 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 浅川太郎
半世紀以上前の、本城に競馬場ができる頃の話。義一は好子から誘われ、大吾さんが人集めしている競馬場建設の日雇いに行く。ユーゾーやミドリらもいる。トロッコ押しの仕事や、炭鉱の共同風呂ののぞき、ユーゾーが金貸しのキムからお金を借りられず、ナイフで刺し逮捕されるが、大吾さんの口利きで放免されたことなど、登場人物の一人ひとりが個性あり、生き生きとしている。最後の章はマスカップという本命の馬が、ラスト100メートルでごぼう抜きし、みごと1位になる。目の前で見ているような光景。16歳の義一の目で見た大人の世界がよく描かれ、興味深く読んだ。


彼岸の彼女 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ いよやよい
「仲よしの時間Ⅰ」「仲よしの時間Ⅱ」「贈りもの」「体内被爆」「輪廻もどき」「道草」の6篇の詩からなっている。どの詩も亡くなった、作者の友との交遊を焦点に書かれている。1篇ずつ、極上の詩であるが、続けて読むと、友(彼女)と作者との交友の物語になっている。とくに友を描き出す抽出の仕方は的確で「旧姓は/誕生地の地名と いっしょ」の「姿も顔も整っていた人で 心はもっと整っていた」「マネキンそっくりな足で 国内産靴は合わなかった」など、あくまで詩の言葉で友の像を表現している。「体内被爆」は6篇の中で異色だが、広島生まれの友と、ピカドンと、ガンと、3.11の放射性物質との連想を読者に広げ、詩の創作の力を感じさせられた。どの作品も極上の追悼詩。

小説
根付と帯じめ ・・・・・・ 沢木三郎
新蔭琉を心得とする志之助の腕前は中流以下・・・なのに、師範代から何度も直に特訓を受けることで周囲からの嫉妬が生まれる。死にそうなほどの稽古。互いの父らの約束で、根付けと帯締めが交換された。このあたりは、篤姫の時の、お守りの交換を思い出し、楽しく読めた。そこに二百石の山部。志之助が半ば内密で喜平治の用人となっていること、賊に入られ守り切れずに死なせることに。そして藩職を失う。ストーリー展開にわくわくする。
藩命、里中関四郎を反逆罪で討つこと。それからの志之助の行動にはハラハラする。捕縛に成功してからの志之助は徐々に力をつけ、評判も高まるが、父の死で、芙紗との祝言が遠のく。待てないという芙紗。根付けと帯締めの謂われやかけひきは、切なくてぐっとくる。そのいわく因縁の根付けと帯締め戦い。芙紗をどちらが・・・ラストはほっとするが、山部の芙紗に対する愛も人間性とは別に受けとめる作者の優しさを感じた。

ナイアガラ ・・・・・・・・ 山口政昭

旅支度 
・・・・・・・・・ 深田俊介
ルポ作家の圧倒的な筆力で書かれた私小説。川崎にいる長男良一夫妻を妻玉代とで尋ねた。良一は9年前、自動車修理工場の借金で夜逃げして行方不明だったが、役所であっけなく調べられた。良一の妻真理とその両親も交えて、結婚披露宴のような席での交流。初めての顔合わせなのに、それぞれが皆正直なためか、すぐに打ち解ける。スカイツリー見物など、楽しい数日を過ごす。また、旧知のルポライターの鍬田覚とも会い、飲み話す。その後、わたしの日常に、良一の前の妻との子、春子が8年ぶりに訪ねてくる。自動車学校の費用を貸してほしいと言う。春子に、お前の父良一が再婚し、赤ちゃんが生まれた、春子の弟だと告げると、春子は父の再婚を喜び、元気でいてくれたらいいとけなげに言う。夫婦、親子、血縁も義理も含めて家族の絆を赤裸々に綴っている。ラスト、深い感動に包まれた。

吉本洋子詩集『午前一時の湯浴み考』

吉本洋子詩集『午前一時の湯浴み考』をいただきました。
遅くなりましたが、ありがとうございました。実は、作者からは、第二詩集『引き潮を待って』も、とっくにいただいているのですが、その感想はまたいつか・・・

作品は、「闇通信」が巻頭にあり、Ⅰ、Ⅱの構成になっています。

闇通信
この世とあの世の間にある私。老女と「いや」まだの間にある私。通信したいのは、あの世にいるいとしいあなた。湯ぶねの中でのぎこちない通信は、この本全体を導いている。


無音の営み
「ありふれた寸景」にも出てきたモチーフの桃。「雨夜に色づいた桃の実を片手に/したたりを受けながら/私は音もなく皮を剥いている」情景だけが薄暗い部屋に浮かんでくる。「分別くさい交尾」「なぜか音はしない」「弄りあって」「そろそろ婚姻届」を出そうというのだが、エロチックな感じはしない。むしろ、無機質な感じ。ぴったりなタイトルだと思った。

ゼロゲーム
台所でお肉を切るときでも、作者にかかったら、「横腹の肉を/ひょいと抓んで/すーっと横一文字」に切り、薬味の焼みょうばんは「黄砂にまじった薬草もどき」に、肉片も「傷口を隈なく覆ってゆく/したたる血の重みもな」いというふうに捉えられる。でも唐突でないのは、一連と終連にある「なんといおうか」に、ワンクッションありうまく誘われるからだろう。

井戸端考
「産み終った/って感じた途端/たちまち女皆して/そいつを身籠るんだね」のそいつとは何者なのか?わからないが、猫のような気がする。あるいは猫的な何か。猫的私とか。この詩では手術刀(メス)が登場し、荒療治をする。「毎日せっせと悪露を焼く」や「股間から/もう見えだしたものひきずりひきずり」など、露悪的だが、生物の教科書のような描写が悪趣味でなく仕上げている。

晩春譜
出だしから挑戦的である。「女の髪の毛/いっぽん いっぽん研ぎにかけて」「いっぽんごと/ひとすじずつの逆さ傷つけて」・・・ねっとりと重い。内容は一貫して重いが、「それからさ おまえさん」「おいで おまえさん」とどこか拍子抜けするくらい軽く「一滴の血も残さずに /一緒に食べよう」と誘う。怖い怖い。『午前一時の湯浴み考』の女は怖い。でも、この詩は好きだ。


午前一時の湯浴み考
タイトルになった詩。そもそも午前一時になにゆえに湯浴みしなければいけないのか。裸身は眠っているが、水は眠らないようだ。「体内に溢れ淵を越えて」いく。最後の「午前一時/この一枚めくったら何が見える」の問いかけは、おもしろい発想だと思った。今日と明日、この世とあの世が薄い皮膜で隔たっているかのようで、しかも、めくりたくなければ、永遠にめくらないまま・・・でもよさそうな問いかけではないか。

河口
この詩集では、刀や包丁、ナイフが頻出するが、水も全体のモチーフになっている。タイトルから湯浴みだし。「人の臭いを残した水は・・・」「一枚 一枚とはぎとられて水は・・・」「水の残滓/人の残想・・・雑多な軀のまぐわいで確かな死臭が積もっていく」「この時既に水から離れ・・・引きずり込む音ごと喰らっている」シュールだ。賽の河原に棲む鬼か何かだろうか。怖いが、惹きつけられる。

晩夏の狂言
この独り言のような語りの詩もこの作者の得意とするところ。「・・・だったりして」「―とまあ・・・」「・・・・気がする―ね」と軽快に語ははずむ。子供のころの体験の深層を探りあてようとでもするよう。今の「とっぷり漬かっ」た暮しはまんざらでもないが、と言いながら、自分達が蟻塚の蟻かもしれなくて、いつか大巨人につまみあげられ、「ぎゅーっと一握り」される感覚を作者は狂言にみたてつつ、ずっと失わずにいる。

夜食
最後の詩は、再び深夜の厨房。そこで料理するのは「真昼・・・・ぽたぽたと/少しはみ出た内臓なんかも垂れ流し/落しかけた自分のはらわたなんか」と「掴んで帰って」きた魚。物語は深夜、この詩集を閉じてから始まる。「朝方までの交換殺人なども/請け負っています」というから、さて、私は誰と(何と)交換して依頼しようか・・・今日と明日の間、この世とあの世の間の厨房では、殺意や悪意を飛び越えて、包丁の切れ具合を試してみたくなるのかもしれない。

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