2013年02月

「海峡派」126号 感想 ③随想、歴史随想、評論

随想

戦中戦後チョイワル少年の映画誌 
 ―第七回『寄らば斬るぞ』チャンバラ礼賛 ・・・・・・・・・・・
 伊藤幸雄

作者が勉強そっちのけで映画館に通った昭和十年代、映画会社の間に格差があった。松竹、日活、東宝が一流、大都映画という三流もあった時代。今回は大都映画について。時代劇で阿部九州男、杉山昌三九、現代劇ではハヤブサ・ヒデト、喜劇では伴淳三郎などが活躍した。鈴木澄子の化け猫映画の描写は、リアルで読んでいるだけでぞっとする。ぜひ、映画館で観たいものだと思う。

・本当にリアルに描いている。詳しい。
・ちょうど同じ年代なので、映画だけでなく、当時のことをいろいろ思い出す。


気分は深海魚 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山之内一次
新若戸道路完成の記念行事として、海底トンネルのウォーキングの記事を読み、思い出す。同じ職場だった若い男性が郷土史を探している古本屋で会ったこと、その彼が自分が参加した郷土史の会の講師をしていたこと、そのトンネル工事は「沈埋工法」と言ったのを、作者は東京育ちだったので「どれくらいちんまいトンネルか」とつぶやいたのを、「沈埋函」工法について説明してくれた。が、その時の彼の顔が軽蔑したような冷たい顔だったことを見逃さない。作者は洞海湾の底に沈まされたように感じる。タイトルもいいし、構成も素晴らしく、極上のエッセイだと思った。作者も私も若戸トンネルのことを聞くたび、思い出すと思う。

夏風邪 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 都満州美
発熱でN病院へ行き、抗生剤を五日間もらい飲んだが、まったくきかない。折しもテレビではマイコプラズマ肺炎のことが・・・症状がまったく同じなので、元看護師の作者は疑念を抱く。五日後、N病院へ行き訴えると、一言優しい言葉もないし、検査結果を機械的に告げるだけの医師に失望する。医者を変えたが、なんとN病院からのデータが間違って報告されている。治療薬も違って処方されたのでは?と思い、電話をかけたが、データだけの間違いで、処方薬は間違っていないと、医師の代わりに看護師が謝るばかり。

・一歩間違えば医療ミスにつながるのに、患者はわからない。それが一番恐ろしい。
・誤診で抗生薬を飲み、耐性菌になるのが怖い。
・医師は自分のミスも看護師に任せて知らぬ存ぜぬ。何とも思っていないのだろうか。
・文章が専門家の目で書かれているので、非常に納得できる。
・緻密でぐいぐい読ませる文章力。


生き抜く ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 古濱紘司
父の十七回忌。父朝太郎は、日露戦争に出征し、二男誕生の時は、戦いが早く終結することを望み、「治(おさまる)」と命名。おさむでなく、おさまる。私は姉三人、弟一人だが、その弟は腸チフスで死んだと聞いていた。その真相が、仏壇を引き取る際にわかることに。私が五歳のとき、足手纏いになるからと火葬場には連れて行ってもらっていない。意識朦朧としている弟を背負って、夏の暑い中、医者を何か所も探して相当の距離を歩く父。戦争を恨むのか、医者を恨むのか、早く気づいていたらと自分を恨むのか・・・。その後、父は軍の機密を隠ぺいした疑いでとGHQで取り調べられる。また、母がなくなり、遠い親戚の女性と再婚するが、その理由に、彼女は苦労しているから、一緒に住まなくても俺が死んだら恩給が半分貰えるという。

・弟のこと、父のことを、書くうちに思い出し新たに記憶に刻む作業は、きついことだろうが、それを読む家族や親族は感謝すると思う。
・幼いころにはわからなかったのが、年老いてわかる。それは家族についても同じ。父や幼くして亡くなった弟のこと、姉たちの思いなどを知るのは、自分を知ることになる。
・緻密でうまい文章力。ラスト、「握った拳が濡れていた」には、本当にいろいろな思いが湧き上がってきて、渦巻いている心の状態を表している。
・誰もが戦争で人生が波乱や貧しさ、苦しさに陥った。残りの時間で、できるかぎり自分史を探ってみたい思いにかられる。


みあれの海 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 赤坂 夕
宗像地方の「みあれ祭」という、海の祭のことを紹介している。大漁旗、百余隻の船団が洋上を踊る様が、リアルに描いている。沖の島がユネスコの世界遺産暫定リストに挙げられているのだが、「女人禁制」がネックになっているのは周知のこと。だが、漁師がそっと教えてくれる「男でも沖の島に渡るのは難儀なこと。玄界灘の荒波で大切な女性が遭難するのは忍びないから、女人禁制にしたのだ」と。作者は海女のことにも興味を覚え、取材している。懐かしさとロマン漂う作品。

・漁師の言葉など、実際に取材した話がいきいきとしている。
・今住んでいる宗像の地を愛しているのが伝わってくる。
・海女のことをもう少し掘り下げて、詳しく書いてほしかった。


リハビリ後進曲(2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今田早苗
前、左右に飛ぶトンボとは逆に、後ろ向きに歩くことがリハビリになると聞き、後ろ向き歩きにいそしんでいる作者。入院して健康のことを考え、わかったことは、「一にも二にも歩くこと、本を読み、音楽を聴き、話し相手を見つけること」という。入院中、希望者を集めての体操があるのだが、その時の話に遠山景元の話が出て、そこから記憶の糸を辿る。記憶は、遠山金四郎の子孫と会ったこと、紹介したA氏、桃園のグランドに設置願いをしていた背伸ばし椅子のことに及ぶ。

・思い出も後ろ向きに進み、次々と引き出されていく。そのテンポが速く、軽く、面白い。
・読んでいて、楽しくなる。リハビリが痛く苦しいものとわかっているが、それをすら楽しんでいる作者。


銀次郎の日記 
   ―老化防止と囲碁クラブ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 青江由紀夫
100歳でボケないために、散歩、囲碁、切り抜、読書などをあげ、実践している作者。頭と体を使うバランスがいいし、人との関わりもある。作者のまじめで勤勉な人柄が出ている。

・「回想も夢か真かわからない 陶酔心地老人日記」という狂歌も入れながら、日常の出来事に想像力をプラスアルファして、おもしろおかしく描いている。
・作者の博識にはいつも脱帽している。それは膨大な読書量と、記憶力によるものだろう。それが若さにつながっているだろう。
・時折出てくる「海峡派」のことが嬉しい。
・もっと以前のように、銀次郎の妄想を炸裂してほしい。
・今号で、一番おもしろく、こんな書き方もあるのかと思った。

歴史文学随想
一、『おたた』にみる女人平家と河童伝承
                        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 柿田半周
漱石、鴎外の「おたた」を詠んだ句を挙げながら、おたたの生き方に触れる。また、「蛋」についての歴史的な由来など、薀蓄はすごい。

・芝居で、おたたを演じたが、男勝りのきっぷのよいおたたを演じたが、こんなに色っぽい女性だったとは。これを読んでいたら、もう少し違った演技ができたかもしれないと思った。
・海辺の小さい子、海辺の神の話も非常に興味深かった。

二、 玉すだれ 
芭蕉の「紅梅や見ぬ恋つくる玉すだれ」から梅を考え、玉すだれを考える。自由な発想と、資料に裏打ちされた歴史的背景など、作品の構成力がすばらしい。

・万葉集の「玉垂の小簾の隙に入り通い来ぬ たらちねの母が問はさば風と申さむ」から、芭蕉の句は、この万葉集の本歌取りではないかと思ったりする作者の感性にはいつも感心させられる。
・歴史に詳しいと人生が豊かになるような気がする。
・知らないことを知る楽しさがある。

評論
日本よどこへ行く ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 木村和彦
連載で、今号は、「第一章 日本そして日本人」で、さらに【第一節 日本礼賛】【第二節 日本批判 1.日本人の思想の貧困化 2.日本人の言葉の貧困化】からなっている。
・日本人は文章が書けなくなったとあるが、大いに賛成。さらに、普段の会話でも、丁寧語や敬語が使えなくなっているのを実感。
・まだ第一章なのでわからないが、全部まとまると、なかなかすごい評論になると思う。
・日本のことを書いている本がたくさんあるが、木村さんのこの「日本よどこへ行く」はどうなっていくのか、今後楽しみだ。

「海峡派」 126号 ②詩

②詩
――鳥が落ちるように 
・・・・・・・・・・・・・・・・ 山口淑枝
・まず、タイトルに棒線があるのが、鳥の墜落に見える。冒頭の「日々どこかで何かが落ちていく」に共感。わからない何かを落とし続けている気がする。「私」は若い日々を振り返り、「下らぬことが・・・多すぎた」「物の見え方考え方が甘かった」と思う。そして、台風一過のべちゃっと張り付いて落ちている葉などに、「私に似ている?」と思ったり。バランスがよくいつも明るく前向きな作者が、長いスパンの人生を振り返り、落ちていると感じているのが意外だった。だんだんと体の老いを感じ、家事に疲れたときの心の揺れを感じた。
・寂しい詩。日々、失われていくイメージ。
・―― は、視覚に訴えたのだろう。心の中をすっと引く表現だと思った。
・押しピンの頭(飾り)というのは、若い頃の虚栄心のようなものだと思う。凝っている一文だが、わかりにくい。
・( )が多い。( )も含め、視覚の効果を大事にしているのだなと思った。
・作者の美学が表れている。

午後3時 バカンス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 香野莉沙
・「うそ 夏空のふり」というのだから、夏ではないのだろう。秋か。それにしても、「エアーコンディショナーがため息を」ついたり、「あたま がバカンス/あたし がバカンス?」になったり、「アスファルトは火葬場の気配」がするから、暑さが尋常でない秋ぐらいか。
・「笑いがエコーズ」のズで悩んだが、エコー、エコー、エコー・・・という感じで、こだま(エコー)の複数形だろう。言葉遊び。
・香野さんにしては明るい詩。自虐的な笑いがある。
・ラストで、バカンスなあたしに向かって救急車が来るというイメージもできそうだ。
・「光は物静かに切断する凶器」はすごい。暑さで一歩も外へ出たくない解答にもなっているような気がする。

希釈せず ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さとうゆきの
・老婆は町長が町民と触れ合うために役場玄関に立っているのに、放射能のことや瓦礫のことを訴える。老婆を逮捕し、脳神経外科に回す。老婆は四階病棟から脱出を企てている。4連の、「老婆/わたくしは・・・・希釈せず」の部分が本当にすごいと思った。忘れてはいけない、しかも、それだけでなく、忘れず、訴え続けなければいけないのだと改めて思った。3.11の大地震、大津波、そして原発事故の悲劇をどういう形ででも伝え続けていく大事さを思った。
・言葉の魔術師のよう。放射能のことを憂いている。奇抜な設定。
・放射能の怖さを脳に取り込んだ老婆の覚悟が伝わる。
・告発、社会批判、問題提起の詩。

アハ体験
・アハ体験の脳トレムービーのあと、帰る途中、町の変化に気づく。以前と何が変わったか・・・
広告塔が撤去されて、跡地にパンジーが咲き乱れていることに思い当たる。脳の中で、幻の塔が出てきて、かなかなが鳴いている。単に広告塔かパンジーになってよかったとかではなく、自分の脳の中に確かにあったものが、変わっているという不思議さに、「脳が崩れていく」と締めているところがすごいと思う。
・非核三原則の塔が撤去されているという現実の怖さ。
・常識的なので、冒険、どんでん返しがほしい。
・素晴らしい感性。
・非核三原則は、刻み付けられているが、いつなくなってもわからないという怖さ。
・憲法改正に誰も反対しない。目くらまし、頭くらしされている。
・ユーモラス、ほっとする。


糺の森 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ いよやよい
・京都、糺の森、紅葉、友人との旅・・・そんな楽しく豊かなひと時が、自転車に乗った女性とぶついう言葉の意味さえむなしくなる。その気持ちがずっと忘れられずに眠っていたことを思うと、言葉一つ一つのかけ方なりに、気をつけたいと改めて思った。
・情景はよくわかる。当世の娘の言葉の落差。
・穏やかな雰囲気とかイメージが崩れ、ショックを受けているのがよくわかる。
・わかりやすい、裏で意地悪な京都のイメージ。
・年配の女性の、もみじを見るのだと執念のようなものを感じた。

セミ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今田早苗
7年間土の中で暮らし、出てくると7日間の命。その命を狂わんばかりの声で合唱する、命の賛美。
・漢字、カタカナ、ローマ字、ひらがなで「セミ」と書くことによって、感じ方が違い、面白い。
・行変えや、一字ずつ下げて書くなど、視覚に訴える面白さを出している。
・つくつく法師と西行をかけて、その生き方をだぶらせているのだろうか。

ストレス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 池田幸子
・団地の狭い部屋に向かいあい、会話のない朝食をし、出かけていかなければいけないことを思う。そんなとき、テレビは暗いニュース。朝から電話。アメリカにいる嫁からの「ハリケーン・サンディは/大丈夫でしたよ」という内容。ストレスだらけだと病んでしまいそうだが、ここに日常の救いがあると思う。
・普段着の作者を見る思い。
・相棒という言い方が、イメージと離れている感じ。夫やつれあいなどでもよかったのでは?
・イライラしている気持ちが伝わる。
・ラストで明るい話題になり、救われる。
・タイトルが内容の説明になっている。

「海峡派」126号 ①小説

1月27日(日)に、 「海峡派」 126号 の合評会がありました。

小説
縁あって ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 横山令子
還暦になった桃子は、エッセイの賞をとった時もらった図書券が出てきたことで、夫との結婚当時のことを思い出す。長年暮らしたからといって分かり合えるとは限らない。また、幼いころのことも蘇る。母に愛されなかった桃子の心のよりどころは学という男の子。彼と遊んでいると母からの虐待も忘れることができた。ただあまりに近く、二人が幼かったために恋愛に発展することができなかった。でも今でも心の中に忘れられない人がいるということが生きていく上で桃子の支えになっているのだなあと思う。

・エッセイが素敵。ロマンチックな時間がうかがえる。
・母のことを許すことができたからこそ、書けた小説だと思う。
・子どもの頃に受けた傷は、大人になってもなかなか忘れられないもの。ましてや母親からだとなおさら。それを反面教師にして、まっすぐに乗り越えて育っていったことはすごいこと。
・思い出のエッセイを入れたことが、この小説ではいきており、成功している。

登れない階段 ・・・・・・・・・・・・・・・ 安部圭司
道夫がY製鉄所に入り、コークス課に配属された。父もコークスの仕事をしていた。とてもきつい仕事だが、父は寡黙だったので、道夫がコークス課に決まったことも今となっては本当に喜んでくれたのか? 心配していたのでは? という気持ちになる。そんな時、体と心を休めに近くの公園に行き、父のことを思い出す。自分の中で、仲間や先輩がいる、がんばろうという気持ちと、きついという現状と、父もきつかったのだ、だから自分のことを本当は心配していたのでは、という気持ちが決着つかずに揺れ動いているのがよくわかる。

・コークス課の仕事のことがていねいに書かれている。
・父が熱の中で・・・父はこんなにすごかったのか・・・とあるが、父の心境にたどり着くのはまだまだかも?
・道夫、彼 を統一したほうがいい。使い分けが分かりにくい。
・父と別れたときの表現を読者にわからせるためには、細かくていねいに。
・素直な主人公。小説も素直。
・男性がこんなに父のことを思うのか、へえ、と思った。
・親の稼業を継いでいく匂いがした。
・まっとうな道夫。労働を通して父のことを思っている。心身を回復する場所が描かれている。
・仕事に対する誇りとともに、父への反抗した時期もあったはず。ここも少しほしかった。


母の選択 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 有馬多賀子
母ツネは、美人で、服も目立ち考え方も当時の女性にしてはとてもリベラルで家族からも変わった子と思われていた。ツネは警察の依頼で囮捜査に協力する。そして、若い警官と恋仲になり、満州まで追いかけ、結婚。双子の男の子を産む。和子は兄がいると知り、驚く。その後別れ、医者との子、和子を産む。和子は引き取られていたが、ツネは医院の車夫をたぶらかし、和子を取り返す。高校受験の時に、父が不在なので、願書に死亡と書くようツネに言うが、そんな学校なら行かなくていいと断言。

・一緒にならなかったとはいえ、和子の父のことを、誇りに思っているのだなあと思った。
・りっぱな作品であり、小説仕立てになっている。母のことを叔母たちに言わせているのはうまい。でも、和子は母のことを言い母だと思っている。書き方としてうまくいっている。
・すごい母親像が見えてくる。
・私小説は限界があるのか? 虚構をどれくらい入れていくかが課題。
・双子の兄を出した以上、いずれ、どこかの章で出してほしい気がする。

セールス・トーク ・・・・・・・・・・・・・ 伊藤幸雄
ショート・ショート セールスマンが、言葉巧みに取り替えを勧めるのは、なんと、脳。セールスマン自身も脳を取り替え、ナビ機能も計算機並の計算処理をしてくれる。だが、内臓を次々に取り替えている私は、脳も取り替えたら、私ではなくなるのでは?との疑問がわく。

・内臓を取り替える時代。テレビでも最先端医療の紹介をしていたが、世の中どんどん変わっていく。
・ブラックユーモア
・伊藤さんのショートショートは肩が凝らず、楽しめる。
・毎回、よくアイデアが湧くものだと感心しきり。

秘花(2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 那津瑠璃
古着屋をしている孝子は、いよいよ津羅の求婚を受け入れる。その日、僧侶の岡田が結婚祝いだといって、花束を持ってやってきた。お祝いの読経をするといい、孝子を長椅子に横たえ、花束の花を一本ずつ孝子の周りに敷き詰める。

・(1)のときから、この小説のファンだった。とても作者に会いたかった。素敵な作品。詩を書かれる方ではないかと思っていた。
・孝子の店の古着、レースなどで飾られていて好みの店。結婚を聞いたときに花を飾るというのが新鮮。
・「足がきれいだ」・・・ラブシーンを見るより衝撃的。エロチック。日常とかけ離れた展開がおもしろい。
・シンプルで読みやすい。僧侶が恋人というのが奇抜で、ストーリー性がある。
・ユニーク。僧服で祝いという矛盾したおもしろさ。今はわからせなくていいか?
・現実的でない、秘められた恋はエロチックで印象に残る。
・次回が楽しみ。どんな展開がまっているのか。

秋の気配 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 犬童架津代
妙見は自分の家の前の空き地に、雑草が生えてくるのをうっとうしく思っている。草取りを夫に頼むが、なかなか動いてくれないことにもいらだつ。さらに、空き地に勝手に車をとめていることにも腹が立つ。そんな妙見が、自分で草取りをする。空き地がきれいになり、心も晴れる。

・犬童さんの作品はいつも温かく、ファン。日常の小さなことをしっかりと書かれている。
・日常の何気ない風景を切り取り、作品に仕上げている。
・センテンスの切れなどがとてもよい。
・妙見は、北九州の人は、「たえみ」とは呼ばず、地名の「みょうけん」と思ってしまう。名前を工夫するか、ルビを。
・秋の気配とあるが、彼岸花は秋まっただなか。


擒の記 連載第三回 ・・・・・・・・・・・・・ 坂本梧朗
高校教師の幹夫は、授業のときにいじめとも取れる生徒たちのやり取りを察知する。一通りの対処をし、自分の安泰を真っ先に考えている自分を見つめる。同僚の先生の対処についても辛辣に批判する。幹夫の人格を形成したと思われる社会主義の崩壊についても、しっかり考察している。孤独な幹夫の立場や、女性の教師に対するほのかな恋心も、この回の見どころだ。

・3回目にして、この小説の書き方に慣れてきた。一番読み応えがあった。幹夫という人物像がくっきりと浮かび上がってきた。
・公立高校のほうが、私立高校より官僚的な気がする。
・現場では、先生たちがそれなりに頑張っているのだということがよくわかった。
・女性教師だけ、名前でなく、一貫して「彼女」の呼称になっている。特別なのか?
・次回が最終回だというが、何のとりこなのか? 次回が楽しみ。

特別室の事情 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 若窪美恵
大学生の夕香は、副腎腫瘍を取る腹腔鏡手術を受けるが、医療ミスで副腎一つと、脾臓、十二指腸など5つの臓器を失う。両親は離婚し、父親に育てられている。父には彼女がいて、夕香は厄介者だと思っているが、この手術で父の愛情を知る。また、別れた母親が訪ねて来る。やけになったりねずみ医師を呪ったりしながらも、徐々に前向きに考えるようになる。

・力強く、病室や病気のことがよく書かれている。夕香の絶望や反感、医者に対する不信など・・・。このような状況はいつも病院ではあることだと思った。
・薬のことや臓器のことなど細かく書かれており、普段は知ることのないことを知るようになった。それに父と母の関係、壊れている家庭。こうした家族関係の中で苦しみながら生きている夕香。たぶん普通の神経では生きていけそうにない状況の中で、それでも生を止めることのできない人間の悲しさ。こうしたことがよく書き込まれ、よい作品になっている。
・文章力を身につけてください。感覚的な文体があるが、少し抑えたほうがよいかもしれません。
・夕香の内面がよく書かれている。
・内臓を五つ取られて、怒りがない。優しい。あきらめがずっと出てくる。もっと激しく医療ミスをつつくべき?
・看護師などもう少し脇役を書くとよかった。
・反ドクターものを抑えて書く方法もありだと思った。寝ていて考えることが丁寧に書かれている。
・ねずみ医師が、夕香が強く出ると小さくなり、下手に出ると大きくふんぞり返る感じがよく出ていた。
・読者を引き込む魅力があった。ディテールの見事さがまず挙げられる。主人公夕香の病状、手術中の様子、術後の様子等、実に詳細に書かれていて、驚嘆した。医学的な知識がないと書けない作品と思われた。夕香の術後の症状や揺れ動く心情が本当にリアルに書かれていた。よく調べている。父親やねずみ医師等、他の登場人物もよく描かれている。

伊藤幸雄『南十字星』、『メビウスの環』感想

1月27日、合評会後、木村和彦『輝けブラス』 、 伊藤幸雄『南十字星』 、 『メビウスの環』の出版記念会がありました。


伊藤幸雄『南十字星』、『メビウスの環』の感想を簡単にまとめてみます。


『南十字星』

【どこまでも青い秋の空に、刷毛で薄く刷いたような鰯雲が一筋たなびき、太陽は西の空に大きく傾いてはいるが、未だ赤く輝いているというのに、展望台から見下ろす海峡には、すでに黄昏の色が音もなく広がっていた】(「海峡」より書き出し文)

【お地蔵さんの背後には、一面の夾竹桃の茂みになっていて、真夏の陽射しを跳ね返すように咲き乱れる真っ赤な夾竹桃の花を背に、亜紀子は立っていた。】(「信濃旅情」文中より)

【空には銀砂を撒き散らしたように、満点の星が煌めいてはいたが、敏之が夜毎に眺めた南十字星は、もう何処にも見当たらなかった。】(「南十字星」より)

この本の特色は情景描写が実に細やかに表現されていて、目の前にはっきりとした映像が浮かび上がります。映画好きでもある著者の果てしなきロマンを感じずにはいられません。
中でも「南十字星」は戦後間もない台湾が舞台となって、私の生まれた西南諸島の島を思い起こす空気感が肌で感じられ、主人公敏之の陳麗華へ寄せる慕情が、戦後の動乱の時代の中で空に光る一粒の星の煌めきのように見るもののノスタルジーをかき立てて止まない。

・「南十字星」とはどんな星だったのか。日本統治時代の台湾んい過ごした父なら知っていたはずだが・・・・書を閉じてしばらく夜空を眺めた。
作品「海峡」も、〝何時の時代も変わらぬ人間の業"と作中、能の表現の時に語っているが、続編を期待したい。

・伊藤さんが小説を書いているとは知りませんでした。とてもおもしろく拝読しました。ほとんどが恋愛小説のようで、私には書けないので、羨ましく思いました。小説の作り方も、伊藤さん流の書き方で、全作品に共通しているなあと思いました。
その中でも、一番よかったのは「南十字星」でした。ご自分の経験もあろうかと思いますが、とても自然にかけていると思いました。
最後の別れのシーン、台湾から離れて行く海の情景がとてもよかったです。

・「南十字星」について言えば、戦後台湾からの引き揚げ事情がリアルに描写され、引き裂かれた若い男女の愛が切実でした。
伊藤さんは、美術、歴史などによく通じておられ「歌川国芳」「太平洋戦史」など、専門的な記述が作品に厚みを与えていますが、精神的産土である台湾は格別。チャイナドレスの少女との初恋は異国情緒もあって、ラブロマンスとして抜きんでていると感じました。

・伊藤さんはご自分をまだ現役の男と思っているようですが、小説はすべて過去。ぜひ現在の恋愛も書いてください。

・ロマンチックで、若いときの思い出が小説になっているのかなあと思った。


・主人公の男性の職業はいろいろなのですが、どれもよく書けている。よく取材していると思った。
フルムーンで夫と行った上高地の紀行文を書きたいと思ったが、なかなか書けないので、伊藤さんの本を読んで、表現に感心した。

・大連のことがよくわかった。


メビウスの環』

・ショートショート集であるこの本は、伊藤氏の真骨頂が如何なく発揮され、とにかく読んでいて楽しくてしょうがない。もともとSF小説が好きな私にとっては、ワクワクの連続で一気に読みあげてしまいました。
氏はこういった物語をいつどこで考えるのか? いつも常に考えているのか?
物語のおもしろさは、内容さながらにその思索の情景にまで思いを馳せてますます興味が湧いてくるのです。イメージを作り上げることの苦悩はもちろんおありになるかと思いますが、これからもスマートでオチが効いたお話に出会えることを楽しみにしています。

・伊藤氏の本領は、ショートショートではないかと思う。文句なく、笑える作品、そしてやがて怖くなる。寝る前には、決して読めないと思う。

・実は伊藤さんの作品を見るまでは、ショートショートを読んだことがありませんでした。もちろん川端康成のようなひとひらの小説などは読んだことがありますが・・・。ショートショートを読んでいると何故かほっと一息つくのですね。
もっともっと長生きされて、ショートショートを書き続けてください。

・「メビウスの環」の斬新な発想、意表を衝くオチの小気味よさ。
伊藤さんの本命はショートショートだと感じております。たとえば「元素還元機」のヤクザの組事務所という場面設定。クローン人間の仕掛けの面白さ。

【そりゃ、えらいこっちゃ。これからの極道は、コロシはしても公害だけは出さぬように気い遣わんと。ほいで中はどうなっとるんじゃ】(P51)

組長のセリフにあるユーモア。関西弁が生きています。乾坤一擲、起死回生。辞書も手放せません。これからもドキドキ、にやにやする作品で楽しませてください。


・メビウスの環、本のデザインにも応用されている。ショートショートにぴったり。表題どおり、ひねりあり、ひっくり返りあり、とても面白かった。


・若い感性。斬新なユーモア。ぞっとする作品を作る名手だと思う。
個性がはっきりしてる。これからもがんばってください。


・どんでん返しは見事。筆さばきについてはベテラン。


・小説現代の読者投稿で、ショートショートが7作載った。どんどん出していたのだが、ある日、編集担当者から電話があり、「伊藤さんの作品はいつも最終に残り、水準的には問題がない。しかし、読者サービスでもあるので、伊藤さんの作品ばかりを載せることができない」という電話がかかってきた。
それもそうだなと思い、「海峡派」に入って活字にすることにしたという経緯がある。ショートショートはプロ級。

記事検索
参加中のブログ
プロフィール

kaikyoha

カテゴリ別アーカイブ
  • ライブドアブログ