2014年01月

海峡派 129号 感想①小説

1月26日(日) 「海峡派」 129号の合評会がありました。
主な感想をご紹介します。まずは、小説から。

「プライド」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 加村政子
突然、兄陽次の死亡通知を受け取ったことから話は始まる。終戦後一家は引上げてきて、次男の陽次は全財産を譲られ、家を守らされる。陽次の妻万千子は働き者だが、近所とももめ事を起こしたり、母や子どもたちを罵ったりいじめたりする。プライドを守るために母は老人ホームに入所。陽次の息子高雄が自殺。精神病ではと疑われた万千子。陽次は母や兄弟を墓に入れないと宣言。陽次も孤立。万千子の自殺。そして陽次もおそらく・・・。兄弟から可哀想と言われる陽次の人生。

・姑、嫁との軋轢がよく書けていた。男の立場はどちらについたらいいのかわからない。
・身近な人間が精神病だったので、勉強したが、恥ということを思い、そこからのプライドかとも思った。
・登場人物が多いので、整理したらどうか
・読後感が幸せでない。ただし、幸せな読後感のものがいいとは限らない
・出口のない悲しい小説
・陽次もプライドを捨てて万千子を病院に連れていけば、周りをさほど不幸にしなかったはず。プライドが正にも負にもいく。母は正にいった
・テーマがたくさんある。若い人にも読んでもらえるよう整理したらもっとよくなるのでは?
・重い。書くのは本当につらかったと思う。よく書けた。家族の歴史、家族を大事に思う気持ちは伝わってきた
・誰が受け取ったのか・・・ここらずっと主語がないまま
・引上げもそう どこから? 満州とわかるのが当然なのか?途中で満州が出ている
・プライドを読み始めるとともに衝撃を受けました。作品は、陽次さんの死亡通知から始まるのですが、それを誰が受け取られたのか判明するまでかなり時間を要しました。3ページ目の下段になって、やっと雅子の名前が登場するのですが、明子さんは早く出てきているので、主役がいつ登場するのか、あせりました。 
それも手法なのかもしれませんが。全体的に人間関係が複雑で、読み上げるのが難解でした。その中で陽次の母親が自分の体を大学病院に生前に献体署名をして、医学に貢献しようというさわやかな心が、読む者にとって一服の清涼剤となり、私も感銘しました。
但し、このお母さんは「母親」「姑」「ばあちゃん」と表現されており名前が出ません。私は故人に敬意を表して、名前を出しても良かったのではないかと思いました。家族の病気も含めた、難しい人間関係をテーマに書かれた加村さんに、敬意を表します。

「沈黙の人」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 都 満州美
満子は父政太郎の日記を七十年ぶりに紐解く。昭和18年北京から天津に移ったところから日記は始まる。日記をもとに、父政太郎の人生を追う。妻貴子、家族を愛し、保険外野員として愚直に勤める政太郎。戦時中にあっては軍事工場で働く。我が家に帰った間、子どもを蛍狩りに連れて行くなど家族思いの面がうかがわれる。戦後は田舎で一生を終える。「成功しても、成功しないでも幸福あり」という言葉の意味が満子にわかったような気がした。

・生きるため、家族を養うために仕事一筋できた政太郎。自身は「あらゆる人生を知っただけでも幸福だ。真にそれを味わった者でなければ見出さない人間味だ」と満子への手紙に書いている。日記ときちんと向き合ってみて得られた政太郎の人生。死者は語ることでまた蘇ると思う。よい供養になったことでしょう。
・リアリティーがある。満州の記録など、時代的なものがとても懐かしかった。
・タイトルがよい
・父正次郎は、新聞記者→保険外野→軍事工場→ルンペン→農業 と職を変えている。日記が功を奏している
・どんなことをしても家に帰る政太郎、家族を大事にしていることがわかる
・ラストの父の手紙が感動した
・新聞記者をしていただけあって、日記の書き方がとてもいい
・『  』のところは原文ママ。地の文は注釈などはさむが、「と、あり」など何十回と出てきて、読みにくい。整理をしたほうがよかった。
・これをもっと本格的な小説にしたらどうか。読んでみたい

「あしたは はれている」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ はたけいすけ
正太は小学校低学年の頃から、かわいがってくれている祖母のワカが嫌いになる。兄の直人と一緒にワカを小馬鹿にした。ある日、サトちゃん一家が夜逃げした。サトちゃんの、弁士の父がた。ネズミになったのだと源さんが教えてくれた。家賃を踏み倒された大家の若奥さんなど、弁士先生を探していて、正太を手なずけ居所を聞き出そうとする。ネズミになったのだと答える正太。

・戦前、時代背景がよく出ている
・正太の目(子供の目)から見ている書き方。これはなかなか難しいが、よくとらえている
・正太が若奥さんにいろっけを感じているところがあれば、弁士先生がネズミになったと聞き信じるところなど、やはり子ども。落差がおもしろい。
・人物が生き生きとしている
・会話がとてもじょうず
・舞台を見ているよう。会話で情景を表現している
・話が、時代を前後して語られることがあり、混乱する。たとえば、丈子のことなど、正太の生まれる前の転職のことなどが途中で挿入されていて、話自体は面白いが、時間がいきなり戻ったりするので、わかりづらい。
・場面の展開が速いので、ゆっくりその状況を書き込んでくれるといっそう面白い。
・正太のサトちゃんへの思いが、よく伝わってくる。

「三十人の花盗人」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 有馬多賀子
和子は教員採用試験の面接で、勤務評定反対の意見を言い、面接官の反発を買った。だが、その後、笑って聞いていた面接官に会ってお詫びがしたいと思い、小学校の先生に相談する。ラッキーな偶然が重なり、その試験管のお宅を訪問した。直接お詫びはしなかったものの、城北高校や大仏さんという進路指導の先生のことなどを試験管と奥様の前で話した。結果は合格。農村地帯の小規模校の4年生の担任。
授業でアブラナのことが出たとき、生徒が全員教室を飛び出し下の空き地からアブラナを折り取って来た。農地委員会の有力者がすぐに怒鳴り込んできた。だが、喜一のジイチャンということで、無罪放免される。そして最初の新採教師研修で、教師としての自信の芽生えを感じた。

・p145 「校長をはじめ~ 大学生にしか感じられなかった」のところは、視点が変わっている
・前号で母が父と呼ばれている男性と色気たっぷりに過ごしているのを見て、和子は独り立ちしたい、先生になりたいという思いできた。自分の力で這い上がっていく、母への反発。物語には、こんな手を使ってというのもあるが、それもまた面白いし、リアリティーをそえる。
・一話完結の連続ものという手法がとくによかった。 
・採用試験で合格になったのは非常に幸運だった。これまでもそうだが、和子のひたむきに生きている姿は、周囲の応援を呼び込む。通して読めば困難にめげず克服していく、青春小説になっている。

「苦節川」 (その二) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山之内一次

浩一の祖父は結核を患っていた。祖母ひでがひた隠しにしてきたので、浩一には祖父の思い出がない。父は乳業に勤務。父と浅草のデパートに行ったり、家族で上野で食べた中華の思い出。一回り下の妹由紀が生まれた。その後、父の転勤。ひでと浩一の二人は、互いの別れ、家族の別れにショックを受ける。

・玄関前のでんと座った大きな石に象徴される使用人もいた大きな家の、離散と苦労の兆しがうまく描かれている。

・情景描写がこまやかなので、当時の様子などよくわかる

・浩一の気持ちなどをもう少し書き込んだほうがよいと思う

「絵に描いた幸せ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 伊藤幸雄
栄造は、天窓から差し込む秋の陽射しを見ながら、幸せの光景とはこういうものだろうと満足している。ところが、長男が「三千万、明日までに用意してくれ」と言う。公金横領したので家を売ってくれと言う長男に、長女が「こっちに廻してほしい」と言う。聞けば子どもが出来たが、誰の子かわからないと言う。幸せと不幸は隣り合わせと実感する栄造。

・「吹き抜けになった・・・穏やかな日曜日の午後である」の文が二か所にある。
・幸せ、不幸せが隣り合わせの物語。オチの切れがイマイチ。話のもっていきかたも、少し性急すぎはしないか
・いつもの鮮やかなどんでん返しがなく、現実的。よくある話になっている。
・次回に期待。

「秋の音」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 犬童架津代
凛はO市にいる長女とY市にいる次女のところから孫たちの運動会に誘われる。近い長女のところに行くことにした。そして、せっせと食事作り、弁当作りをする。場所取りがうまく行かなかったと娘夫婦は言い争いをしている。小さな波風はあるものの、無事、運動会は終わり。

・何気ない日常の一コマ。「秋の音」というように、秋、あるいは人生においての秋、終盤に差し掛かるあたりがテーマかと思うが、少し甘い。
・お母さん、凛ちゃん、凛、おかあさん 凛ひとりとっても呼び方がたくさん。これは現実ではないのだから、わかりやすく「おばあちゃん」に統一するなどの工夫がほしい
・「お弔いに出掛けて行ったことがある」→「出掛けて行った」「行ったことがある」
・スポットライトを当てる。人物が何を考えているか、描写で出していく
・内から眺めている


「遠い雲」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 赤坂 夕

京子は、音信の途絶えていた高知の従妹から実姉の古都が亡くなったとの手紙を受け取る。京子は主戦後の記憶を辿る。祖父母が財産家であったため、京子の家族は門司の高級旅館に三家族で住んでいた。ある日、母方の祖父が土佐からやってきて実姉の古都を連れ帰った。
その後家族は小倉に住み、難行苦行の連続だった。古都のことを忘れたわけではないが、歳月が経ち、四十年後、母と土佐に向かう。母の姉は古都を育てたので、母に古都には会わせない、帰れという。帰りの車中、母は「戦争さえなかったら・・・(略)戦争が終わっても・・・(略)私の中ではまだ戦争は終わっちゃあせん」と言い切る。


・情景描写がとても巧み。さわやかな感じ。
・改行なしは読みにくいが、この小説のように一行ずつの改行も読みずらい。ある程度、段落にまとめてほしい。
・小説としては短い。これを柱に、一文一文を肉付けするように膨らませていって、本格的な小説にしてもらいたい。

「全作家」92号の【文芸時評】

「全作家」92号【文芸時評】
私の心を発く ・・・・・・・・ 文芸評論家 横尾和博  より
抜粋

海峡派
128号は連載第一回目のはたけいすけあしたは 晴れている」は昭和初期の大阪が舞台、少年とその周囲の人たちのそれからが気になる。

http://homepage3.nifty.com/zensakka/92bungeijihyou.html
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