2017年10月

「海峡派」140号 ③随想

随想
台風女 ・・・・・・・・・・・・・・・ 有馬多賀子
若い時から旅行をするとなぜか台風にあった。スイス、フランスアルプスのトレッキング旅行、イタリア旅行、阿波踊り見物で、青海島のキャンプでも台風に遭遇。わざわざ台風の時期を外しても、作者を追ってくるように発生する台風。家族も周知で、何かイベントがあると台風が来たら困るから、旅行しないでよと言われる始末。この夏に行く中国の台連では、台風にあいませんように・・・

・台風でどんな目にあったか、面白おかしく書いてあるが、実際は大変だったことだろう。「雨女」「雨男」とはよく言うが、「台風女」は珍しく、タイトルも面白い。次回は、台連紀行も読みたい。台風に好かれているけど、大して被害がないのは、台風が作者に会いにきただけ・・と言った人がいるが、面白いことを言うなあと感心した。
・軽妙な随筆。
・「遺書をしっかり書いて行って来よう」の締めでなく、台風に関することで締めたほうがよかったのでは?
・小説として書いたらいいかも。
・有馬文体になっている。ほんわか。
・台風女というのは、性格のことかと思った。
・江戸屋猫八・・・多用。
・卒寿でなく、傘寿。

わたし イタチとは暮らせない・・・・・さとうゆきの
アトリエの天井裏に住みついたイタチ騒動。何年も前から気付いていたが、とうとう、ものすごい物音と鳴き声に、駆除を決意する。駆除会社の調査員は30代の清潔な好青年。状況を聞くと「着替えてきます」と防塵マスク、ライト付きヘルメット、濃紺の光る素材のツナギ・・・猟師スタイルで現れた。ムクドリの死骸、スズメバチの巣、コウモリの糞、そしてイタチなど、男の撮った映像をタブレットで見た。

・見えないものには人は寛容になれるが、実際に被害が及ぶと駆除するしかない。猟師スタイル、イタチの永年に及ぶ屋根裏部屋での快適な暮らしぶりなどを面白おかしく書いているが、かなり酷く、駆除も大がかりだったのがわかる。何事も傷の浅い内にケアすることが大事だと思った。
・大変だった様子だが、読んでいるとおもしろい。
・タイトルが、読まずにはいられない。
・ラストの見積もりがかすんで読めない・・・おもしろい。いくらぐらいか、気になる。
・文化的になってイタチもでないが、昔は麓でも出ていた。
・小説の題材になる。業者が動画で実績を見せる(ハクビシンのドヤ顔)など、なるほどなあと思った。

緑とは透明な風船のよう・・・・・・横山 令子
夕方になると無性に散歩したくなる。ふと親子4人暮らしの、夕餉の支度をするお母さんに戻っていた。自分に係わる人は縁があって出会った人だから自然体で接していこうと言い聞かせる。今年のさくらの花見は、友人の景子さんと雨の日に、車の中から。老いて思うことは、信頼できる友がいて、本心で語る時間が持てることがどんなに素晴らしいことか。

・タイトルがとても詩的。2時間以内で食べてというケーキ、いいと思う人もいれば、いらだつ人もいる。同じものでも人によって見方はそれぞれ。身近なことを常に新しく感じ、発見がある人。
・久しぶりの随筆。強く生きていくことばかりに一生懸命な人生だったので、残された時間を信頼できる友と出会ったことで、生きることが楽に感じられるようになったのだろう。
・全体的に情感がこもっている。
・内容的に「二時間以内に食べて」についてのそれぞれの見方があるというところは、なるほどと思った。
・景子さんとの関係がよく描かれている。

まさかの坂 ・・・・・・・・・・・・・・ 赤坂 夕 
喜寿と金婚式の祝いを済ませた矢先、夫の右首に大きなこぶ状のしこりに気づいた。かかりつけ医から大学病院に紹介され、検査したら悪性腫瘍。すぐに入院、手術の後、抗がん剤治療。この半年間に兄と、夫の弟を肺がんで亡くした。自分たちの終末と真剣に向き合う時が来た。まさかの坂は人生どこにでもある、悔いのないように一日一日を生きようと決意する。

・がん治療している夫を毎日見舞いながら、車の中で泣いている作者。自分も持病を抱えながらの介護はどんなにか大変なことだろう。いつも人のために一生懸命な作者でもある。自分が倒れると、ご家族はみな困るだろうから、無理をしないように。
・とても確かな表現で、ご主人の病状を書かれ、わかりやすい。病名が書かれてないのが気になるが、耳鼻咽喉科なので、わかる人はわかるだろう。息子さんに「お父さん、よく頑張ったね。ありがとう」と言われる人は、幸せです、まさかの坂も超えていけます。
・夫の現実問題をリアルタイムで書いているので、とても苦しいことだろう。よく整理して書かれている。
・「うちの夫は死にました」という友人。こんなとき、こういうことを感じていただろうか。
・車を運転しながら、大声で泣いた・・・妻の立場、家族の目線がよく書かれている。
・同じ立場だったからいろいろと思いだした。

今も昔も ・・・・・・・・・・・・・ 田原 明子
15歳で親元を離れ、高校の女子寮で過ごした頃のこと。朝6時に起きて、掃除、食事当番のときは寮のおばちゃんの手伝い。部屋は8畳、4人で寝起きする。寮生活の初日、部屋で歓迎会があり、トイレの怪談話を2つ聞くことに。40年の歳月が経って思うと、ホームシックにならないための荒療治だったか。今はその寮は移転し、鉄筋建てになり、トイレも水洗だろうが怪談話は受け継がれているだろうか。

・押し入れに入らないほどのふかふかの布団は、お母さんの親心なのだなあと思った。寝食を共にするというのは、単なる同級生ではなく、深い絆で結ばれるもののような気がする。
・ラストの2行もとてもいい、ふと、若い頃の気持ちにさせてくれる。
・女子高の寮生活は経験したことがないので、興味しんしんで読んだ。寮母さんや先輩との付き合い方も、自宅通学の女の子の知らない苦労もするだろう。男子寮の寮生活は、何かの本などでもまあ語り継がれているので、ある程度わかっているが・・・。
・今も昔も・・・と作者は言うが、いまどきは高校や大学のあるところにマンションを買い(借り)、娘や息子と一緒に暮らし、夫と別居・・・というのも珍しくない。作者の少女時代は文学を育むいい時代だったともいえる。

「海峡派」140号 ②詩、俳句、短歌


しあわせ ・・・・・・・・波多野 保延

夕飯を読んでいる「背から」妻は、「空豆と籠を置いて」いく。それは「菜園の緑の匂いが漂」い、ビールのつまみになる。追加される穴子やジャコ天や浜茹でのシラス。まだまだ日が高い。このひと時を豊かに幸せに感じている。

 

・出足がいい。自家菜園のソラマメを黙っておいていく妻。会話がなくても伝わる間柄。いいですね。明るいうちにビールをのめる。いいですね。

・特別ではない、ほんのささやかな幸せ。それを幸せと感じれるかどうかが、鍵かなあ。幸せと感じれる作者は、本当に幸せだと思う。

・作者が闘病生活を余儀なくされているのを知っているので、このひと時がずっと続きますようにと祈らずにはいられない。幸せが続きますように。

・鞘ではなく、莢と書くところがいいなあと思った。

・醤油の香り、菜園の緑の匂い、浜茹で・・・潮の香り・・・なんともいい匂いが充満しいている詩だろう。

秋の終りに ・・・・・・・波多野 保延

海が好きだった二人。一人は作者で、もう一人はガールフレンド? 貝を拾ったり、砂文字を書いたり、水平線に沈む夕日を見送ったり・・・の幸せそうな1連目、2連目は「あの日」から始まり、何があったのか「会話のない時間が流れ」て、「束の間の出逢いを/闇が引き裂いてゆく/暗黒の深海に消えてゆく」。そして「君を救えなかった僕」と続く。彼女に何があったのか、悩みか・・・それを僕は救えなかったのか・・・重い。そして3連は、今現在もそのときの後悔かもしれない思いに気持ちを揺さぶられている。

 

・失恋の歌かな? 悲しい別れがあったのでしょう。

・「君の叫びが聞こえる/秋の終りのこの海」というところが、なんとも切ない。

・その時、救えなかったことはとても残念だし、どうしようもないことだったにせよ、今でも思い出し、それを詩に書いたということ、忘れていないということは、それでもう十分なのではないか、自分を許してもいいのではないかと思う。

 

死者は雲になる ・・・・・・  池田 幸子

「命日の朝は忙しい」で始まる。それぞれの好きなものをお供えする。姉にはコーヒー、娘にはミルクティー。「遭ったこともない血縁も/それぞれの生き方と人となりを/いつの頃からか聞き覚え」ている作者。覚えている人がいる限り、人は死んではいないのかもしれない。「ISも アルカイダも タリバーンも/数字になった死も、ならなかった死も」ある。みな死んだら雲になる。

 

・雲のように広がりをもつ。最後に雲になった父を思い「田植えを終えただろうか」と締めくくる。なんとも優しい詩だろう。

ISやタリバーンがなければ、と思うが・・・あったほうが社会性があるとか、広がりがあるのか?

・タイトルと内容がくっつきすぎている。

・一人一人に愛をもっている。あらためて命についいて、考える。

・多くの死者に想いを馳せ、「全てを呑みこんで西方の雲になる」と結ぶ。人間の計り知れない部分、最近はパソコンの記憶預かりサイトで収録し、それをクラウドと呼ぶ。


舐められる ・・・・・・・ いよやよい

一人暮らしをしていると「虫に 犬猫に 人間に」舐められる。たとえば、「蜘蛛が庭のあちこち糸を張り」「犬はウンチを置きっぱなし」にし、「人間は・・・・吸いガラ・・・あげくタバコの空き箱まで」置いていき、「家・土地を売れと持ちかけてきた」り。

 

・ラストの親友の一言「女が一人暮らしをするとね/世間が急に冷たくなるのよ」が効いている。

・よくあることだが、それをうまく切り取っていると思う。

・よくあること。がんばってと思う。

・高齢、社会性の一面を切り取っている。

・タイトルの付け方がうまい。

・存在感を感じた。

・作者は今までだれかに守られて世間の冷たさに気づかなかった。一人暮らしになって、世間が急に冷たくなったと感じたのだろう。

 

見切り品―タグくっついてますよ 
              ・・・・・ 
山口 淑枝

大型ショッピングセンターで、台所の暖簾を変えたいと「食品売り場」から「日用品売り場へ移動」し、「色も柄などもさまざま」なものを見たが、探し物は見当たらない。「この次にしましょう!」と歩いていたら、「すらっとした素敵な方が」「タグくっついてますよ」と取ってくれた。「見切り品と書かれた/値札」だった。

 

・商品を見ている時についたのだろう値札。しかも見切り品というのがちょっと情けない。取ってくれたのはすらっとした素敵な方だから、こちらがいっそうみじめな感じ。それがよく表れているのが「じゅわじゅわじゅわっと/得体の知れない感情が迫り上がって/鼻じるを啜りあげた」という部分。恥ずかしさとおかしさがまじりあった気持ちが伝わってくる。ラストはまだ作者が呆然としている状態かな。

・そういうこともある。見切り品というタグがちょっと悲しいが、たいしたことではない。ドンマイ。

 

祈り ・・・・・・・高崎 綏子

「指先でつまむほど/小さくなった」のは、2連の「燭台のように差し伸べた手」だろうか。寂しさで「爪を噛む」のだろうか、そういう日はセーターの緩んだ衿首に手をくぐらせ/巡礼の旅にでる」という。「まるみを帯びた肩骨のイコン」からすっと指を辷らす。

 

※「イコン」というのは、もともとギリシャ語で、「形」とか「像」という意味をもっています。日本正教会では「聖像」と訳されることもあります。「イコン」は、狭い意味では一枚の板に描かれた絵のことをいいますが、広い意味では、正教会が使用する絵画すべてを指す。(ウィキペディア)

 

・自分の体を指でなぞりながら、思うのは神のことか、魂のことか。静謐な詩。ラストの「こころ折れた夜は/なおさらに」が重く入ってくる気がする。

・肉体をなぞりつつ、祈りにたどり着く。巡礼の旅に出る。聖母子像のかたちが見える。

・とてもいい詩。自分に何が足りないか、わかったような気がする。

・ここではイコンはキリスト像でなく、聖母子像に思える。

 

いてん・・・・・・・・・・・さとうゆきの

ひらがなで書かれている。こどもがおとうに、移転の決心を迫っている。下のやつ

らというのは家の中に住んでいる人間。「ぼうじんますくに ぼうじんめがね/こん

いろ の つなぎ」とは、おれたちを駆除しに来たやつ。「ぎんいろの ふわふわふ

とん」とは、断熱材。移転先は悪評高きチクゼン・トヨス。

 

・随想の「わたし、イタチとは暮らせない」と併せて読むとさらに事情がよくわかる。おれという

のはイタチ。イタチが下の人間たちの様子に移転の相談をしているという設定である。移転先を豊

洲にしたところが、うまく時事問題を提起している。人間もイタチとは暮らせないとおびえている

が、イタチも人間の「てっていてき に はいじょ します」におびえているのだ。随想と詩とで

視点を変えたことで、裏表の表現ができた。

・擬人化。

・チクゼン・トヨスが時代に合っていて、風刺になっている。おもしろい。

・随想とセットで読むと、さらにおもしろい。

・ユーモアたっぷり。

・動物などが主人公のとき、ひらがなばかりの詩・・・工夫している。

・築45年ぞ など、言い回しがこぎみよい。

 

訪問者 ・・・・・・・・・・・・・ 清水 啓介

秋の夜、玄関のチャイムが鳴り、空けると、別れた女房が、洗濯機が壊れたから洗わせてとやってきた。別れてすぐに再婚した相手は、再婚して4ヶ月後に肝臓がんで死んだという。洗濯後、「じゃ、頑張ってね」と夜の闇の中に消えて行く。

 

※ラストの「メメント・モリ」は、ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを 忘れるな」という意味の警句。「死を記憶せよ」などと訳され、芸術作品のモチーフとして 広く使われる。(ウィキペディアより) 

 

・いつかは誰もが死ぬ。その日はわからない。突然やってくるかもわからない。自分でなくても、誰かの詩で自分が翻弄されることもある。訪問者が元妻であり、洗濯機が壊れたからと洗濯をさせてもらいに来るというのも面白い。生きている人も誰かとかかわることで、周りを巻き込み、翻弄することがよくある。

・でんでんむしのような気分の男は閉じ込められている気分。暗い、びしょびしょ。いどのそこに元妻の出現。井戸の中も真っ暗。闇の夜に消えていく女。メメント・モリ。こんな訪問者でもやっぱり、来てくれて嬉しかったかな?

・柘植義春の世界を彷彿させる。暗い。劇画調。

・若い人の気分が出ている。さばさばして、あとくされない。

・元妻との会話がよく効いている。

 

雨になる ・・・・・・・・・・小川ひろみ

「さわさわと 降っていた」雨の雫は、少しわたしにもはいっていく。その間、 いとしいひとを目に留めるのに、面影は追うことができない。そのうちに傘を突き抜けて雨が入ってきて、わたしは濡れていく。

目を引く、5連目の「さわさわ さわさわ」のひらがな、3、4つ目の「さわさわ」はイタリック。そしてちょっと音符のような配置も、「さわさわ」感がよく出ている 。かわいい表現とあえて言いたい。「もう 頭の中まで 全部 雨なので」濡れていくうちにわたしが雨か、雨がわたしか、 わからなくなっていく。

 

・雨との一体化、あるいは同化。わたしという実態のなくなりよう・ ・・消えよう・・・ まさに雨の雫が地面に落ちて流れてどこへ行くのか・・・というような、 意識的でないと目に留めてもらえないようなあやうさ。

・ある別れ。雨のカーテンに消えていく藍色の背中。哀しみが増幅する過程をみごとに書ききっている。さわさわのフレーズが4回。字体を変え、文字の揺れで作者の心情を視覚で訴える技法には、脱帽。

・ひらがなが多いなあと思い、なるほど、詩のやわらかさ、雨の感じはここからも来ているのかと気付き、納得する。

 

宛先のない ・・・・・・・若窪 美恵

「佇んでいたポッと点る灯り」に誘われて、出しそびれていた手紙をふと思い出して登山口の古いポストに落とし込む。タテン・・・はっと我に返る。「少なくとも今日の一通目を呑み込んだ音」・・・空のポストは手紙を出すと音が出るのだろう。まだ宛名も書いてなかった。届くわけはなかろう。でも、届けてくれるというのなら、届けてよ。にせのポスト様。

 

・ポッと点る灯り・・・この詩の幻想的な情景を印象的に表現されていて、言葉の選び方が工夫されている。ポストの赤色のたとえか。

・この世とあの世の境に立つ〈ポスト〉、そして亡きひと宛への手紙―、素晴らしい。

・ポトンでなく、タテン・・・一番いい音を選ぶ努力、工夫されている。夜のポストに手紙を出すと、空だから、そういう音がする。ほかに手紙が入っていたら、音はしない。

・幽玄の世界。

・キツネやタヌキの話を思い出した。

・東北大震災のTVで、無人の公衆電話が死者とつなぐ・・・思い出した。

・黄泉平坂という言葉をよくぞ使ったものだ。

 

俳句

 

香水 ・・・・・・・・・・ 波多野 保延

日帰りの東京見物泥鱒鍋

青梅の闇の上にもたわわな実

梅雨背負う兜太まつわる青い鮫

卍は熟年の性谷崎忌

青葡萄信仰深きダライラマ

棺乗せて傾き下る蜆舟

九条は漢字カタカナ水喧嘩

定年や学歴消えてラムネ飲む

アル中の越前海月原爆忌

香水のなくなる頃に別れ来る

 

・泥鰌鍋は、ドジョウという夏の季語を意識したのかな、それとも東京(江戸)だから、泥鰌鍋を食べたのかな、やっぱり鰻のほうがいいなあ・・・などと思って、楽しくなった。

・青梅、青い鮫、青葡萄、10句のうち、3句の青。香水というタイトルよりも青の色を全体に感じた。

・「梅咲いて庭中に青鮫が来ている」と書かれた金子兜太の句。こちらは梅ならぬ梅雨。いいなあ。

・卍、熟年、性、エロチックな文字たち

・青葡萄。これも青。卍の句とは一変して、純潔な感じ。

・棺を乗せて傾きながら下る蜆舟とは、なんとも物語性があるなあ。絵的でもある。

・水喧嘩とは、日照りのときに、農民が互いに自分の田に多く水を引こうとして争うこと。9条について、漢字かカタカナか、問題はそこじゃないだろうと、確かに思う。

・定年になると、学歴どころか、会社の看板も消え、いよいよその人の人徳が出るのだなあ。

・大型の傘の直径が2mぐらいあるクラゲ。アル中、原爆忌。形や大きさ、怖さ、狂った感じが、原爆雲に妙に似ているかも。

・香水、別れ、ちょっと物悲しい。香水は作者がプレゼントしたものだろうか? 

10句。きりりと締まっていて、緊張感のある各句のうち、3青い鮫・・・、6蜆船・・・、9原爆忌・・・が好きかな。意味がわからないが、わからなくても選ぶ。何度も口づさんでいたら、アッと謎がとける。その日を楽しみに。

 

短歌

 

抗癌剤 ・・・・・・・・・・波多野 保延

アイリスの栞は荷風の全集にはさまれたるまま押花となる

寝返りの籾殻に聞く波の音夢の渚に桜貝散る

梅雨明けの笹越しに見る星座群酒酔い星は赤アンタレス

咲ききってつぼみをもたぬ朝顔のつるが宇宙の塵にからまる

引き潮の行く末追えば愛犬の鎖が砂に拉致をされいつ

一冊の聖書置かるる島の宿隠れキリシタン漁夫らにもあり

消灯の紐引く闇にゆれ動く蛍光管の丸き残像

夏雲に行く手塞がれ老いの身を悟るも待つもわれの人生

支えくるる左足の杖擦り減りて梅雨の歩道に重心失う

もう少し妻と一緒に過ごしたい焦りつつ今朝も抗癌剤打つ

 

・全体的によくわかる。伝わってくる。籾殻に聞く波の音・・・美しい調べだ。

・夏雲に・・・は、どう生きるも自分次第。気持ち次第と読んだ。いろいろと悲観することも悔やむこともあろうが、ソレも含め、覚悟が伝わってくる潔い一首だ。

・消灯の紐引く・・・入院中の病室か。タイトルで癌の闘病中とわかる。

・もう少し妻と一緒に過ごしたい・・・なんとも切ない願い。どうぞ少しでも長く長く・・・

・これも10首。短歌のほうがわかりやすい。作者の得意なジャンルか、どれもいいけれど、あえて選べば、2寝返り・・・、4咲ききって・・・、6一冊の聖書・・・か。人生を包括する大きな歌心を、あえて小さなものに託してうたう。

 

天を衝く ・・・・・ 永井 哲俊

方丈の狭き庵に人が来る心通える良き朋ありて

杉並木光を浴びて天を衝く古木はあるや緑陰の中

父と手をつなぐ男の子は微笑みてじっと我の目離さず見つむ

伊勢の杜「椿大社」でお守りを互いに贈りてガン治癒祈る

鉄分を求めさ迷う吸血鬼どこにいるのかアドレス捜す

深呼吸 緑の風を奥までに胃のひだ消せよカメラのむ前

爽やかな風満ちたりて清々し旅に出たるかガン無言にて

陽は昇り沈むこと常なりて超新星輝くブラック・ホールに

笹船に「我執」を載せて手を放つ流れ沈みてタコ壺の中

下北の地の果て流さる艱難の花は昔の一夜の夢か

 

・こちらもガンを患っている。心情は「艱難」あるいは、「天を衝く」だろうか複雑な思いはあるだろうが、こうして歌にすることで、支えられることもあるはず。

・鉄分を求めさ迷う吸血鬼・・・貧血状態の比喩だろうか。

・超新星(しんせい)輝くブラック・ホールに・・・全体に流れる宇宙的なもの、これもそうだが、俯瞰しているような感覚。心惹かれる。

・お守りを互いに贈り合ったのは、妻にだろう。

10首。4父と手をつなぐ・・・にこころひかれました。孫だろうか、通りすがりの赤の他人か、ともあれ穢れなき児に見つめられると、なぜかたじろぐ。9笹船に・・・、逃れられない自己に対する偏愛、さてどうする?

海峡派140号 ①小説

「海峡派」140号の合評会が10月1日(日)にありました。今号、初発表の新入会者の参加もあり、にぎやかに感想を述べあいました。まずは小説の感想から。

遥子と翔平(二)・・・・・ 松本義秀


同窓会の後、遥子が横浜に戻ってから、翔平としばしばメールをやりとりする。それぞれの近況が徐々に詳しくわかっていく。遥子は夫とはわけあって別居し、現在一人暮らし。メールのやり取りは頻繁になり、翔平は遥子を温泉旅行に誘う。

 

・メールなので顔文字も使い、同級生ということもあり、話し言葉でいろいろと書かれている。メールということにしても、顔文字が多すぎてイラっとする。メールのやり取りから、どんどん惹かれ慣れ合っていくのがわかる。

・これを不倫というのか? この段階では違うだろうが、不倫ということになれば、のれらのメールは証拠になるだろう。男女が友人でいるのはなかなか難しいことだ。

50回以上のメールのやりとり。社会性がない。

・新しい小説になるかも。

・メールだけで他の進展がないのはもったいない。

・私小説かと思うが、日常であること。連載なので、今後が楽しみ。

・今の主人公たちの時代背景がもっと出ているといいと思う。

 

虫の知らせ・・・・・・・・都 満州美

弓子は決まって山奥の水海の夢を見る。この日も肝臓のMRIの検査だった。8年前の膀胱がん治療からようやく解放されたと思ったら、今度は肝臓がんの疑い。生検はせず、いきなり手術をするという。だが、弓子は手術はしないと言った。MRIの結果、大きさは変わらなかった。ところが、水海の夢は続き、ふと子宮に異常があるのではと思い婦人科を受診した。結果は子宮がんで、子宮掻爬術をした。

 

・同じ病室の隣りの女性、向いの女性との病状や治療が違うことで、嫉妬されたりする。手術がうまくいって生かされる者、手術が無理で、抗がん剤治療の副作用で苦しんでいる人など・・・生々しい。

・長年続けている韓国語の教室の圭子がやはりがんでセカンドオピニオンを求めて東京へ行ったことなど、それぞれのがん治療について考えさせらる内容だった。

・フィクションにする必要があったのか。1人称でもよかったのでは?

・誠実な医療小説。もっと書いてほしい。

・がんの問題はたくさんある。自然体でいいというのもある。大変参考になった。

・救いがもう少しあるほうがいい。

・同感。身につまされる。

・水海・・・は夢のイメージ。

 

七月のプリン ・・・・・・川下哲男

高野球部3年は、5人。夏の県大会予選が近づいたとき、キャプテンの国仲がカンニングで自宅謹慎に。それで秀樹が新キャプテンに選ばれた。高校のそばの〈小山田食堂〉は運動部がよく利用している。夫婦で営んでおり、耳の聞こえないミロという娘も手伝っている。国仲が部に復帰したときも部員で食堂に行ったのだが、サッカー部のトンビがいた。国仲を見て、「カクサゲされて、たいへんよねえ」などと悪態をつく。それでトラブルになりそうになったとき、ミロがうまく中に入ってくれてトラブルを回避した。その後、また食堂に行ったら、おくさんが病気で、代わりにミロが注文を取っている。不便そうなのを見て、部員たちは数を記入すればいいだけの注文票を作成し、渡す。お礼にミロから手作りのプリンがふるまわれた。

 

・読後感がさわやか。タイトルもセンスいい。キャプテンのカンニングというトラブルにも負けず、5人の部員が力を合わせて乗り切っている様子に、好感が持てる。耳が聞こえないミロではあるが、ホワイトボードを使ってやり取りしたり、店内のことではあるがトラブルの仲裁に入ったりと、知的で勇気のある女性。ミロにかかわる部員たちも思いやりがあって気持ちがいい。

・連載になるのか?

・とてもさわやか。和む。部活の様子がよくわかる。

・高3、もっと若い人が書いたかと思った。

・ミロ、生き生きと描けている。「ア リ ガ ト ウ」がよかった。

・運動部の状況がよくわかった。

・ミロ、名前もいいし、人柄が浮かび上がる。少年たちの潜んだやさしさが出ている。

・ミロ、耳が聞こえないので、〇、×で仲裁した機転。素敵な女性。

 

勇者の剣 ・・・・・・・・山田キノ

ショートショート。父と屋根裏部屋を掃除中に、勇者の剣が出てきた。今、父はガーデニングショップを経営しているが、若い頃は勇者だったと聞いていた。今は魔王は半世紀以上に他の星に行ったから、勇者という職業はなくなった。なにかに使えるかと思った剣は、刃先は切れず、柄も折れて接着剤でくっつけている。インテリアにしたが、親友のマサには接着剤のあとにも、勇者の剣であることにも気づかれなかった。

 

・その昔あったかもしれない勇者という職業が違和感なく入ってくる。父の今の様子とのギャップが楽しいし、勇者は、勇気と希望で悪を斬るというところなど、アニメチックなのもいい。また、ラストものんびりしていて、勇者のイメージと離れていて楽しい。

・魔王は半世紀前(1960年代)いはいたらしいが、わたしはそのころ生きていたが、魔王のことも、勇者のことも、今回が初耳。

・何かの象徴か? たとえば、プライドとか。こだわりなど。

・寓話的で、読者によって、読み方がいろいろできる。

・天井裏にホコリをかぶっていたなど、みもふたもない。ホコリと誇りをかけているのか?


ぼくの大好きな人
 ・・・・・・・・山田キノ

ショートショート。朝、のっそりと目覚めたぼくに、沙由里がホットミルクを出してくれたり、何かと気遣ってくれる。一ヶ月前にぼくが倒れていたのを助けてくれ、「好きなだけいていいんだよ」と言ってくれた。お金もない、仕事もしてないぼくができることは、沙由里が寂しくないように寄り添って癒してあげること。ラストのしっぽを立て、にゃーと鳴くところで、ぼくは猫とわかる。

 

・とても書きなれていて、筆運びがうまい。猫だろうなとは思わせるが、最後まで読ませる。沙由里の性格や容姿なども具体的な描写で、すっと入る。

・猫が飼い主を『清楚で知的、スタイルはいいし、何よりかわいい、さらに温厚な性格で裏表がない。そんな彼女から、いつもいい匂いがした』と褒める。猫の愛はとどまる気配がない。物言わぬペットにしゃべらせ、自己愛を発散か?

・擬人化。ショートショートの手法。

・途中で猫だと少しわかる。最後までわからないように、どんでん返しがポイント。

・ラストの動物落ちはパターン化ではある。うまく、だまされたとなると成功。

 

みちのく桜紀行(一)・・・・  伊藤 幸雄

靖之は、同窓会のついでに、姪の裕美の案内で春爛漫の仙台に来ている。仙台には車椅子になり老人介護施設で生活している兄の俊樹97歳がいる。とても元気だ。靖之は男兄弟8人の末弟として生まれ、子供のいない斎藤家に養子になり贅沢で過保護に育てられた。兄の俊樹は中学にも進学できず、夜学に通いながら現在の大検を突破、一部上場会社の監査まで勤めあげた。靖之は仙台名物の牛タンを食べながら、みちのくの春を満喫した。

 

・時系列になっていず、場面が前後するところは、混乱する。伊達政宗や青葉城などのちょっとした歴史も取り入れているところは、読んでいて楽しい。

・真知子巻き・・・スカーフで頭を覆って、残りを首に巻くスタイルのこと。髪型ではない。

・春の東北の燃え出ずる様子、うまく表現している。

・情景描写に品があり、美しい文章、書きなれている。

・銀嶺だけで山をさす

・出らねばならぬ→出ねばならぬ

 

メダル・ソルジャ―ズ(七)・・・・・大空 裕子

カルサイトが去った後、みな一様にカルサイトが強くなっている、秘密があるのではと感じていた。ある日、和雪の母が来て、学園の裏の大樹に魔女の家があり、その魔女が和雪の母の姉だという。つまり和雪のおば。彼女がカルサイトに手を貸しているという。話を聞いた和雪はおばに会いに行く決心をする。

 

・和雪の母の描写が細かくなってきた。また、話の展開もおもしろくなってきた。和雪のおばが魔女というのも、おもしろい。

・連載菜7回目にして、ようやく物語の形態が見えてきた。礼佳と和雪はお互いに想いを寄せていて、周りのみんなは、それとなく応援している。でも、和雪の伯母は魔女で、カルサイトの側の、異次元の世界に属している。もしかしたら和雪の母も? 普通の人間の女とは? 戻してやれるのは和雪だけ? 長い梯子を上っていける? なぜだらけだ。

・木の上の魔女など、アニメっぽい。

 

ルーツ・・・・・・・・・ 山之内一次

自動車学校の実技コースで自分の番を待っている紳也たち。一緒に並んでいた男が自分のルーツを話し出した。紳也のことも知っている。男は畑中といい、従弟らしい。また、紳也は、畑中の家に行ったとき、家の中から夫婦が「死んでは駄目よ」と幼児に叫びうろたえる場面に出遭ったり、不幸を見てしまったという負い目を感じていた。そんな畑中と話する中で、父の喜久雄のルーツを辿りたいと思った。喜久雄は実母とは離れ、継母に長男が生まれてからは、無戸籍になったことを知り、単身東京に出て苦労、努力して立派になった。喜久雄は戦争でインドネシアに渡り、敗戦と同時に引き揚げた。紳也は陸軍病院で、父喜久雄と再会。自分が生かされていることを思う紳也だった。

 

・教習所で偶然出会った男、畑中くんが、どうやら従弟らしい。畑中くんは下宿ではじらいもなく、自分のルーツを語る。紳也は、父の喜久雄の生い立ちに思いをはせ、ルーツを手繰り寄せようとする。

・三河内の親戚の話は、もう少し詳しくてもいいのではないか。喜久雄からの指図どおり動いたとしても、何を待たされ、何駅から夜行列車に乗って、早朝からついたのか。早朝でないと用がたせなかったとあるが、その用はわかっていたはず。

 

砂の砦・・・・・・・・ 西村宣敏

大学生の達夫は、街坂にA大の集会に行かないかと誘われたが、断った。竹田義男も最初はデモや集会に参加していたが、「赤軍」という過激なセクトが出たころから、一般学生は運動から遠ざかって行った。義男は仲間と『砂の砦』という同人誌を作ることにした。喫茶「アートビレッジ」でバイトをしているA大の児玉景子に惹かれる。ある日、義男は恵子を天ぷら屋(デート)に誘う。一方、達夫は熱で寝込んだあと、行きつけのラーメン屋に。店主はがんさんと言い、学生運動をしていて、機動隊ともみあいするうちに、勉強も手がつかなくなり、運動も大学もやめたという話を聞く。達夫は、天ぷら屋で恵子を同人誌の仲間に誘った。

 

・達夫と義男が主人公のようで、交互に物語が進行していく。登場人物が多いので、竹田とか義男・・・野沢とか達夫・・同じような名前はわかりにくいし、どちらか一つで話を進めたほうがいいと思う。最初、わかりにくい。

・『砂の砦』という同人誌の誕生秘話という物語だが、その中に盛り込められた学生運動とかかわる人物の物語が並行していく。義男と恵子の恋愛も。学生運動を誰の立場で見るのかで、物語が変ってくる。達夫と義男、がんさん・・・誰もが少しずつ、その余波を受けている。それぞれの立場で等身大で書かれているし、読みやすい。おそらく続きがあるのだろう。ぜひ書いてほしい。

・忘れかけていた学生運動という言葉が蘇った。

・出だし・・・バスケットボールの練習をしている。ボールがゴールリンクの縁をくるくる回って、結局中に入らずにこぼれでる。ゲームは終わらず、沢山の手に渡っていく・・・何の比喩だろう?

・骨のある力作。青春群像、よく書けている。

P130 〈でも〉の多用。

・この時代の大学生の考え方がわかる、羨ましい。

1969年かそこらの京都。自分もいたからわかる、「二十歳の原点」6.24 を思った。

 

飛行機雲・・・・・・・・ 勝田純子

芙由子を中心に、恩師と妻、愛人との話と、芙由子と夫の貴の話が交互に展開される。恩師の妻は精神を病んでいて、容姿もひどく老けて見える。恩師は別居していた。愛人にも家庭がある。定年後亡くなり、葬儀には妻が娘さんに支えられるようにして立っていた。一方、芙由子はまじめで心の優しい貴と結婚。だが、めったに体を求めず、たまに事に及んでも最後までいかずに終わる、男性の側の不妊に悩む芙由子。貴はそのうち何とかなると言うばかり。友人の倫子と未婚のときは、結婚に悩み、結婚したら子供が欲しくて悩み、子供ができたらまたできたで悩み・・・といろいろ話すうちに少し気が楽になった。

 

・恩師と教え子の美しい物語。

・現代的で、構成がうまい。

・恩師・・・最初だけで、あとは〇〇先生でいいと思う。

・全体像として、重い。緻密。

・テーマは子供ができない不妊のことだろう。夫との関係、人間との幸せとは一体何か?ということを考えさせられる。

・女は夫によって決まる?

・タイトルがイマイチ決まってないので損。

・人生、悩みがいろいろあるが、子供はできたらできたで、また悩みがつきぬもの。

・主人公の女性とたかしをていねいに書いている。嫌いじゃないが、不妊の悩みを考えていないという不満を描いている。

 

ホームアゲイン(前編)・・・・・・・ 武 ひとし

画家の北崎純は、美穂と結婚し、純絵という3歳の女の子がいる。純は突然、交通事故にあい、即死。だが、天上界では純の死はミスで、大慌て。次に来た肉体に純の魂を入れ、地上に戻すことにした。違う人生を生きるお詫びとして、3つの願いをかなえるという。佐野順二は両親と耳の聞こえない妹春子と暮らしていた。仕事中の事故で死亡・・・のはずが、魂は純として、生き返った。順二は記憶喪失だったが、佐野家でうまくやっていた。春子が買った花を見て、急に絵が描きたくなってきたからと、絵を描く。あまりのうまさに、画商に見てもらうと、亡き北崎純の作品に違いないという。

 

・SFというか、死んで魂が他の肉体に入れ替わるのだが、天上界のやりとりなどギャグみたいでおもしろかった。

・後半、絵から北崎純の存在が明らかになるが、どうまとめていくのかとても楽しみだ。

・なかなか面白い発想で、絵は魂が生きていれば、おのずから手が動くのだろうか?と疑りながらも引き込まれている。

・テンポがいい。達者で引き込まれる。

・読みやすい。北九州のことなどを情景に取り入れているので、親しみが持てた。

・作為的な展開。

・天上界の部分はなくてもよかったのでは?

・おもしろい。エンターテーメント。

 
運動会 ・・・・・・・・・犬童架津代

元子の娘、ゆりには4人の子供がいる。元子と夫は孫の小学校の運動会に呼ばれた。前日から娘の家に泊まり、朝起きて、弁当の準備。中学生の孫はサッカーの試合で運動会に行かれないという。弁当のおかずを朝食べて行く。それぞれの孫の成長を温かい目で見ている。

 

・元子は親が診療所をしていて忙しかったので、運動会も一人で弁当を食べていた。そのことを思い出しては3回ほども夫に言っている。小さい頃のさびしかった記憶というのはいつまでも心の中にあるようだ。子供の場合、孫の場合はさびしい思いをさえないようにと余計にいろいろとしてあげたいのだろう。ラストにもう少し工夫がほしかった。

・丁寧に家族関係を書いている。だが、時間関係が錯綜していて、わかりにくいところがある。

 

あしたは 晴れている《連載第十三回》
                ・・・・・・はた けいすけ

脳病入院中のワカを見舞った帰り、丈子はお金がいるので働かなくてはいけないと思う。戻ったら、金のかあちゃんが山本陸軍大尉、ここの旦那さんが戦死したという。そのとき、丈子に書き留めが。朝鮮の山本ツルからで、30円の為替が入っていた。正太は志那に行ったら殺される・・・と、若奥さんが心配だった。大開小学校に行くと、小使いさんがいて、チャンコロにけがさせられたという。また、桶本先生も綴り方の本を出して社会治安を乱したと捕まったという。そのとき、若奥さんが来た。日本髪はばっさり切られひっつめた髪、凛とした白無垢、ひとを寄せ付けない厳しい顔だった。

 

・「国民精神総動員実施要項」などの言葉が使われているのも、時代背景や物語の進行に厚みをもたらせていると思う。戦争は、いやおうなしに、正太の家族の小さな暮らしにもどんどん崩壊をもたらしてくる。正太はどうなるのだろう。

・韓国語が片言で読みにくい。

・時代のことをよくつかんでいる。だんだんと暗くなっていく。

・若奥さんの表情の描写、正太の反応が印象に残っている。

・正太の目からの時代背景

・山本大尉が戦死した。正太は若奥さんのことを考える。大尉に髪を切るように言われたと嘆いていた若奥さんが、もう髪を切らなくて済むと思ってほっとするのだが、学校に現れた若奥さんが、バッサリ髪を切っていたのを見て、頭に血が上る。気が狂ったワカのことをこんなときにからかわれ、5年生の大島にとびかかって行く。池の中に突き落とされた正太。ラスト、冬空の雲の中を緋鯉がとんだ・・・書きたたがともてうまい。この心情表現はすごみがある。

・髪を切らないでほしかったという正太の恋心、ショックがよく出ていた。

 

〈作者の言葉〉正太があこがれている若奥さんから、脱皮していくための次のステップのために、髪をバッサリと切るという設定にした。

 

対馬海峡《連載第三回》・・・・・・木村 和彦

日本人はユニゾンで歌うことが多いので、和音がわからないという。由枝は音楽を聴いてひとつの音を聞いた瞬間、強い精神感動が起こるという。青木先生はとても興味を持ち、放課後、由枝にいろんな曲を聞かせてみる。由枝と同じ合唱団のみっちゃんが話があるという。一つは新井先生がいなくなったのは、由枝のせいじゃないかということ。もう一つは母の青木先生を放課後とっていること、二人でわからない話をし、母は由枝のことばかり話している。青木先生に言うと、和音の研究は最後にしようとカール・ウォルフの世俗カンタータを聞かせた。途中で由枝が「血の臭いがする」と言った。

 

・由枝の内耳の働きというか、音に対する感性がすごい。どうしてかはわからないが、文章力ですごいことを知らせている。今後の展開が楽しみ。

・由枝は、青木先生にすべてを話し、合唱団をやめると告げる。青木先生は、彼女の才能(特殊な感性、和音に対する反応)に未練をしめす。どうなるのか?

・みっちゃんの嫉妬によく気付いた。

全作家文芸時評・・・107号掲載 読者の鼓動が聞こえる

全作家文芸時評に、文芸評論家 横尾和博氏により、紹介されました。

    ↓     ↓     ↓
http://zensakka.world.coocan.jp/bunngeizihyou1.html#a107

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・抜粋

海峡派139号、伊藤幸雄同窓会は、四十代になった小学校時代の同窓生が集まる。三次会までつきあった男、かつての理数系が苦手だった同窓生の男がソフトを開発するエンジニアになっていたのだが。そのブラックユーモアがよい。
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