■未知なる領域に触れた前回のリファインチューニング

先のリファインの興奮がまだ醒めやらぬ28日、あれから二日経ち、さらにエージングが進んで音がよくなってきたので次なるリファインを行おうという連絡を受け、再びカイザーサウンドに足を運びました。

あの日、音によって何らかの真理の一端に触れ、音楽の深い感動に浸り、自分の中で眠っていた何かが目覚めたようで、あれからどんな音楽を聴いてもこれまで以上に感動を覚え、演奏者の思いが身近に感じられるようになりました。

これは自分の中のひとつの引き金が引かれたような感じです。この感覚は自分にとって未知のものであり、これからどうなっていくのか予想がつかず、今後さらにカイザーサウンドのシステムが進化していくのに伴って、自らも進化、深化していければと願っています。

六十数時間ぶりにカイザーサウンドの扉を開いて耳にしたのは、すべてがこなれてまろやかになり、さらにきめ細やかさが増した優しい音でした。二日前、最後に聴いた音はまだしっかりと全体的に馴染めておらず、少しアップライトな印象だったものが、その音の重心位置が心持ち下がり、今は逆にもう少し高音に量感が欲しいという感じです。

これだけ短時間でエージングが進んだのは、その間ずっと音を鳴らし続けた結果であり、この落ち着きを増すというのは、たぶんエージングの一般的傾向と思われます。


■ツイーター部 RK-Rtの台座にインシュレーターを装着

この落ち着きを増した状態で、まずはツイーターの台座にインシュレーターを取り付け、下のミッドのエンクロージャーに固定させることにしました。前回ツイーターをまったく新しいものに換えたので、その音の暴れがなくなった状態からインシュレーターを入れた方がいいだろうという判断です。

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ローとミッド、下二つのエンクロージャーの下にはすでにインシュレーターが入っていて、これでアンバランスな状態から解放されます。使うインシュレーターはMB-18。マイクロベースというかなり小型のもので、小さいながらも歯と歯茎の理論で二つの真鍮の間には半田が流し込まれ、中央の穴は下まで貫通し、ここにネジを入れてツイーター台座とミッドのエンクロージャーを固定します。ネジはユニクロメッキの鉄製で安価なものです。

このインシュレーターとネジの組み合わせも貝崎さんが勘と経験で判断し、まずは左側のツイーターから加速度組み立てで取り付けていきます。ミッドのエンクロージャーに開けられた下穴に上手く入るよう、台座の上から慎重にネジを回します。

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つまりインシュレーターが、ツイーターの台座とミッドのエンクロージャーで、ネジを介してサンドイッチされるという形です。まずは左側だけインシュレーターを入れた状態で試聴します。リファインは通常このように途中アンバランスな状態での試聴もし、そのアンバランスさから、全体的なバランスの取り方、その変化の傾向など様々なことを考察するとのこと、さすが職人の世界は奥深いものです。


■左右いびつな状態での試聴から見えて来るもの

今回の試聴は、最初のうちは主に自分が家から持ってきたサラ・ブライトマンの「アヴェ・マリア~サラ・ブライトマン・クラシックス」を用いました。サラ・ブライトマンは世界的に有名なソプラノ歌手であり、その限りなく伸びやかな高音が、左のツイーターにインシュレーター入れることにより、より一層輝きを増しました。

高音が上に向かって伸びていくと同時に左右にも広がり、先日ツイーターを加えた時と同様、全体の歪み感が減少したように聞こえます。感覚的には音がより明瞭になり、凜々しくなったという印象です。

アヴェ・マリア~サラ・ブライトマン・クラシックス

高音を司るツイーターは通常「耳の高さに合わせろ」と言われるように指向性が鋭く、片チャンネルだけ状態が変わると違和感があるはずですが、今回はそれが感じられません。自分の試聴ポジションが左スピーカー寄りだというのも影響しているのかもしれれませんが、まるで両方のツイーターが変わったかのように高音が大きく広がっています。

これは明らかに、ツイーターとしては特異な形状である後面開放型の台座の効果で、まるで無指向性型スピーカーのように音が拡散するからだと思われます。この状態はアンバランスではありますが、左側だけでもツイーターのインシュレーターを入れた方が好ましく聞こえます。


■左右の力率を揃える為の先読み施術と検証試聴

次は右のツイーターの下にもインシュレーターを加えました。これは予想通りの変化です。先ほどの明瞭で凜々しいといった印象がより一層強まり、音もより大きく広がります。けれどこれは左側だけだったものが左右両方という感じではなく、さっきの状態のままより大きく広がったという感が強く、後面開放型ツイーターの音の広がりを再確認しました。

さらにはインシュレーターによってお互いの振動のリズムと間合いが取れる事によって、いかに“音の響きを変えられるのかという、知る人にとっては当たり前のその事実をあらためて深く感じました。


■カイザースネークを一気にフル装着した

この時、ケーブルに物理的うねりを与えるカイザースネークは、左右ツイーターのマイナス側ケーブルに各一個付いているだけです。そのカイザースネークを、ローとミッドのスピーカーケーブルにも加えました。

まずは左スピーカーのローのケーブル、ここはプラス側の下の方に取り付けます。この取り付け位置のノウハウもまた、貝崎さんの言葉で表現できない感覚と経験、つまり直感によるものです。

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この効果は低音の力強さ、骨格のといったところに現れ、低い音がより前に出てくるようになりました。カイザースネークの偉力は絶大です。けれどこの状態ではやはりバランスが悪く、高音と低音のみが前に現れ、肝心な中音が奥に引っ込むという、いわゆるドンシャリ型の音で不自然であり、聴いていて楽しくありません。これは受け入れられないアンバランスさです。

これに今度は中音を司る左ミッドのスピーカーケーブル、そのプラス側の真ん中あたりにカイザースネークを加えました。これでようやくウェルバランスとなりました。システム全体としてかなり左側にエネルギーが偏っていますが、先ほどの中音が引っ込んだ音とは違い、これは十分に聴ける感じです。やはり音域のエネルギーがアンバランスな状態はいただけません。


そして仕上げとして、右スピーカのローとミッドにもカイザースネークを加え、左右計六個、すべてのスピーカーケーブルにカイザースネークを取り付けた状態にしました。これは素晴らしい音です。カイザースネークが与えるケーブルのうねりは、そこに伝って流れる電流に最後の一押しの力を与えるようです。

貝崎さんは、魚が尾びれと身体をくねらせて推進力を得るようなものだと言われますが、それが実感として理解できます。立体的に流れる電流の特質が、音の力や実在感となって現れるのでしょう。この力がすべてのスピーカーユニットに加わり、実に堂々とした音となり、その力で床板をも鳴らし、まるでスーパーウーファーを加えたかのような響きです。

これは実際に低音の量が増えたのではなく、そこに実在感が増した、つまり質感が上がったからこそ、量感が増したように感じるのだと思います。音で大切なのは量よりも質、いくらトーンコントロールで操作をしても、この全域に渡る実在感は得られません。

ただ音はまだ100%馴染んではいないようで、全体的な質感は上がったものの、さっきまでの高音に華を感じていたあのきらびやかさはわずかに後退し、少しだけ寂しさを感じます。これはたぶん時間が解決するでしょう。ひとつひとつのパーツとしてのエージングよりも、全体との調和のエージングはより時間がかかります。


■気流コントロールにイヤホンプラグのシェルを初試み

ますます存在感を増すメインシステムに、今度は3.5mmL型ステレオプラグ、そのシェルを加えます。シェルとはステレオプラグの結線部分を覆う筒型のもので、3.5mmのものの材質はアルミです。

このシェルにもローゼンクランツの音響理論が活かされていて、響きの方向性はもちろん、その響きがきれいな和音と共鳴をするように、全体の1/2とその2/3のところに溝が彫られ、これがドとソの音に共鳴し、音を美しく響かせるとのことです。

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このシェルを、ラック最上段に設置されているパワーアンプの上に四本置きました。この置く位置も貝崎さんが慎重に選びます。こんな小さなステレオプラグのパーツのひとつ、それをたった四本置いただけですが、これも音にものすごく大きな変化を与えました。

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この四つのパーツが音楽の響きに伴って美しく共振し、確実に響きが豊かできれいになりました。これは主に高音に効いています。そしてそれを狙ってラックの一番上、方向性も下から上に向かっていくように置いています。

この高音がサーッと上に向かって広がっていく様は快感です。まるでツイーターの高域再生限界が広がったような、ツイーターをスーパーツイーターに換えたかのような、そのぐらい大きな効果があります。

この時にイメージしたのが、高級ホテルのロビーに置かれている大きなロビー花です。それがあたかもラックの中央に置かれ、色とりどりの大輪の花が天井に向かって大きく花開かせている、そんな豪華さ、艶やかさ、それが高域端まで伸びた美しい響きによってイメージされます。

いったんこの音を耳にすると、もうこれなしでは聴くことができません。試しにシェルを外してサラ・ブライトマンの「Time To Say Goodbye」を聴くと完全に物足りません。


Time To Say Goodbye(2003Version)


■無限の発想力により生まれるローゼンクランツ・テクノロジー

彼女の魅力はシルキータッチの高音で、その繊細な感触をシェルの響きが見事に表現してくれています。このシェルの働きは、スピーカーの振動を補うための音叉です。けれどシェルに限らず、ラック、インシュレーター、ケーブル、エンクロージャー・・・、すべては機械的、空気的、電気的な物理動作であるという考えからローゼンクランツの理論は導かれており、その意味ではすべてが音叉の役割を果たしていると言えるでしょう。

そしてだからこそ、ステレオプラグのシェルをラックの上に置くという発想が生まれ、大きな効果を生み出すことができたのだと感じます。ステレオプラグのシェルは経の異なるプラグサイズに合わせて三種類あり、次は真鍮製の少し細いものを部屋の数ヶ所に置きました。

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これもドとソの共鳴ポイントに溝が刻まれています。これによって高音の繊細さはそのままで、そこに温もりが加わったように感じます。この状態で先日聴いたベニー・グッドマンを聴くと、もうすべてが変わったことがハッキリと分かります。


音はより明瞭でありリアルです。面白いのは、先日聴いた時には一発録りならではのすべての楽器のタイミングがピタリと揃っていることが強く感じられたのが、今はさほど感じられません。これは音がより自然になり、そこに意識がいかなくなったためと考えられます。

ここでラックに収められた機器とインシュレーターの関係、スピーカーエンクロージャーの位置などを微調整し、さらに音はリアルに、またタイミングの揃ったものとなりました。自分は貝崎さんのするそれを見ているだけですが、たぶんシステムの完成度が上がるにつれ微妙な音の差がリアルに表現されるようになり、調整もよりしやすくなるのではと感じます。


■3種類のシェルを巧みに使いこなしリアリズムを引き出す

シェルの最後は、最も太い4.4mmプラグのアルミのものをウーファーの台座の上に置きました。これは全体の1/2とそこから3/4、ドとファに共鳴するように溝が彫られています。これまで二種類のシェルは上向きの方向で設置しましたが、すべてを上向きにすると音が上ずってしまうとのことで、これは下向きに設置します。上はより高く、下はより低くということです。

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このシェルの効果は、やはり低音の響きに大きな影響を与えます。少し小ぶりなライアーの様に感じられたハーブの音が、本来の大きさを取り戻したような印象で、低い音がより低く、ズーンと下まで響いていき、三種類のシェルの相乗効果で全域に渡ってバランスが取れました。これはかなりのワイドレンジです。

機械的に周波数特性を測るとどうなるかは分かりませんが、聴感上のレンジは極めて広く、低域端にも高域端にもまったく不足を感じません。これはすべての帯域での質感、実在感が半端なく高いためと思われます。カイザースネークとシェルを使った二つのリファインを通して感じたのは、カイザースネークは、質感、実在感の向上を与えるということです。

料理に例えるなら、素材そのものの質が上がった感じです。より上質の肉を使い、より味わい深い無農薬の野菜を使った料理となる、そんな感じです。それに対してステレオプラグのシェルが持つ共鳴効果は、本質的なものをより光り輝かせるといった印象で、これも料理に例えるなら、最後の一振りの調味料、これを最高、最適のものにしたという印象です。


これで素材の味がより一層引き立ちます。その意味でリファインの順序を、カイザースネーク、シェルとしたのは適切だと感じます。もう今出ている音をどう表現したらいいのでしょう。先日聴いたフランク・シナトラを聴いてもダイアナ・クラールを聴いても、すべてが違うものの、もう言葉がありません。感じるのはただ自然、それだけです。

もうタイミングがどうとか高音、低音という次元ではなく、ただ音、音楽がそこにあるだけで、浮ぶ言葉はただひとつ『上善水の如し』です。

先日はジャズやクラッシック、聴く音楽ジャンルに合わせ、機器やアクセサリーの位置関係を微妙に調整していましたが、今はもうその必要はありません。完全にすべてを受け入る“水”となり、貝崎さんの説かれる『オールマイティー型』へと昇華しています。老子、ブルース・リーも説くその世界を、このシステムは音で表現してくれています。

■ブルース・リー 「Be water(水になれ)」
https://www.youtube.com/watch?v=8fbXWkQ6mIA


■音の魅力より先に感動が聴き手の心を揺さぶる

ここまで来ると抽象的な言葉でしか表現できません。これまで様々なリファインを施すたびに、システム側の音の重心位置が上に行ったり下に行ったりと変化をしてきました。けれどこのたびの変化はシステム側ではなく、聴いている自分の側の変化です。

これまではまず耳で音を聴き、それに脳が反応するという形だったのが、今は、ちょっと安っぽい言葉ですが、感動というものがまず胸に伝わり、その形としての音が少し遅れて耳に入るといった感覚を覚えます。その意味で、今はどんな音楽を聴いても一様に感じます。

それは試聴してきた音楽はそれぞれのジャンルで最高のものであり、そこから伝わってくる感動が同質であるため、その音楽表現がジャズであろうがロックであろうがJ-POPであろうが、それは二義的なものとして感じられるのです。


■ステレオの真の役割であり姿がハッキリと見えた

今このシステムで耳にする音は、これまで聴いてきたステレオの中で最高のものであることは間違いありません。そしてその音の成長過程を目の当たりにし、一回目、二回目と、自分の中での大きな変化を感じています。

それは過去数十年間、それこそ一時期は、いかに音をよくするかということを一日中考え続けていたほど熱中したオーディオを介し、そこで求めていた問いに今ひとつずつ解を与えてもらっているからだと思います。

それはあたかもつながりかけていた脳のシナプスがひとつずつつながっていくような感覚であり、何かが目覚めていくのを感じます。これは自分だけのことではありません。真にリアルな音は、すべての人の魂に訴えかける大きな力を持っています。

だからこそ頭部にある四つの感覚器官のうち、聴覚のみが肉体内部の音を感知する骨導聴力を持ち、声(音)によって人に救いを与える観音様の存在があります。


これからこのシステムの音がどのように変化していくのか、まったくが想像できない未知の世界です。けれど貝崎さんはこれまでの経験から、まだ実践すべき改善策は無限にあると言われます。

エンクロージャーのさらなる振動対策、壁面に木材を貼る部屋の響きの調整、また部屋のテンパール(分電盤)からコンセントまでの電源ケーブルの長さがミリ単位で理想からズレているそうで、それを整えることでさらにタイミングの向上が望めるとのことです。

その想像すらできないさらなる音の向上がどのようなものなのか、またそれによって自分の内面がどのように変化するのか、それを大いなる楽しみとしています。

2020年1月5日
酒井伸雄
https://yogananda.cc