2020年11月29日

山種美術館【特別展】「東山魁夷と四季の日本画」内覧会レポート

東山魁夷と四季の日本画が東京・広尾の山種美術館で開催中です。
本展では、魁夷の芸術を構成する重要な要素のうち「四季」と「風景」を テーマに、魁夷を中心とした近代・現代の画家たちの作品が展示されています。
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第1章 日本の四季を描いた系譜
この章では、さまざまな画家の四季を描いた作品が紹介されています。絵を通して、日本の豊かな四季を感じることができます。

橋本 雅邦 「春秋田家」 1899(明治 32)年頃
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明治画壇の巨匠で、近代日本画の礎を築いた雅邦の作品。右幅に春の籾撒き、左幅に秋の脱穀の光景を描いたもので、13 年ぶりの公開です。

竹内 栖鳳「四季短冊」 1926-42 年頃(昭和初期)
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椿、朝顔、菊、水仙の取り合わせで描いた短冊。さらさらって描いているようなのですが、やはりうまいですね。

菱田春草「月四題」1909-10(明治 42-43)年頃
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月と季節の花木を組み合わせて四季を表現した作品。墨を基調として、静謐な世界が表現されています。

結城 素明 「春山晴靄・夏渓欲雨・ 秋嶺帰雲・冬海雪霽」 1940(昭和 15)年頃 
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東山魁夷の師で、日本画に洋画の写実をとりいれ、自然を写生することの重要性を説いた結城素明の四季の連作。

今回の見どころの一つは、東山魁夷の連作「京洛四季」4点が約4年ぶりに一挙公開されていることです。下の作品はそのうちの冬を描いたもの。
東山魁夷「年暮る」1968(昭和 43)年
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大晦日の雪降る京の町並みを描いた作品。手前に一つ明かりのついた家があり、暖かみを感じさせます。「東山ブルー」と称された群青色を基調に用い、年の瀬の京都の街並みが静かに表現されています。

千住 博 「四季」1989(平成元)年
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世界的に活躍する日本画家・千住博の作品も。描かれているのは日本の四季。水や大気の繊細な表現をぜひ間近でご覧ください。皆さんはどの季節がお気に入りでしょうか?

第2章 皇居新宮殿ゆかりの絵画
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1968(昭和 43)年、皇居に新たな宮殿が造営されるのに伴い、当時、第一線で活躍していた日本画家たちの作品で室内が装飾されることになりました。東山魁夷にも国賓などを迎える長和殿の障壁画か依頼されます。今回展示されている横幅9mの大作《満ち来る潮》は、新宮殿でこの作品を目にした山種美術館創立者の山﨑種二﨑氏が、多くの人に見てもらえるよう、魁夷に同じ趣旨の作品を依頼し制作されたものです。
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この大規模な壁画制作と連作「京洛四季」は、ほぼ同時期に着手されており、魁夷は「共に日本美への志向の高鳴りによって生まれ出た」作品だと述べているそうです。

左:山口 蓬春 「新宮殿杉戸楓 4 分の 1 下絵」 1967(昭和 42)年 
右:山口 蓬春 「楓図」 小下絵 1970(昭和 45)年 
いずれも©公益財団法人 JR東海生涯学習財団
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山口蓬春も皇居新宮殿の杉戸絵の制作の依頼を受け、楓を描きました。山﨑種二﨑氏が依頼した同趣旨の作品は、蓬春の病気により未完に終わりましたが、本展では、その作品の小下絵と皇居宮殿作品のために作成した《新宮殿杉戸楓 4分の1下絵》が展示されています。

第3章 風景画に見る春夏秋冬
この章では、魁夷と重なる時代を過ごした画家たちの風景画を、春・夏・秋・冬に分けて紹介されています。 各々の画風や感性によって表現された四季の絵画が楽しめるコーナーになっています。

川合 玉堂 「渡頭の春」1935-43(昭和 10-18)年頃
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魁夷の師の一人であった川合玉堂の春の穏やかな川の様子を描いた作品。

東山魁夷「白い壁」 1952(昭和27)年
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青を基調とした背景に、白壁に差す月光や影の具合を工夫して、蔵の白い壁が浮かび上がるように描かれています。魁夷が風景画家として活躍し始めた頃に制作された作品。

東京美術学校の同窓生で生涯にわたり交流した加藤栄三の作品も。
加藤 栄三 「流離の灯」 1971(昭和 46)年
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 山口 蓬春「錦秋」 1963(昭和 38)年 ©公益財団法人 JR東海生涯学習財団
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奥田 元宋「松島暮色」1976(昭和 51)年
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他にも、魁夷とともに苗字に山が付くことから『日展三山』と呼ばれ、同時期に日展で活躍した杉山寧(第2章 皇居新宮殿ゆかりの絵画に展示)、高山辰雄らの作品も展示されています。

山種美術館では、カフェ、ミュージアムショップも美術館の魅力の一つ。 
カフェでは、展覧会にちなんだオリジナルメニューがいただけます。
青山の老舗菓匠「菊家」が展覧会出品作品をイメージして作ったオリジナル和菓子5種は、和菓子自体が芸術作品と言えるほど美しくおいしそうです。今回は東山魁夷の「京洛四季」4点と「満ち来る潮」をモチーフにした和菓子がいただけます。
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素材と季節感にこだわったランチメニューもおすすめ。鑑賞後に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

ミュージアムショップでは、出品作品をあしらったクリアファイル、ポストカード、一筆箋など展覧会の記念になるミュージアムグッズが多数揃っています。
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また、1月3日午前10時からは毎年好評の副袋が販売されます。限定50個でなくなり次第終了なので、お早めにどうぞ!
※カフェ・ミュージアムショップの営業時間は、美術館開館時間に準じます。

日本の四季の風景の美しさを改めて実感できる展覧会です。
魁夷を中心に近代・現代の画家たちによって描かれた美しい四季の世界をぜひ会場でご覧ください。

東山魁夷と四季の日本画  美術館WEBサイト
会期 開催中~2021年1月24日 
会場 山種美術館
住所 東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間 10:00~16:00(土日祝日〜17:00)※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日 月(11月23日、2021年1月4日、1月11日は開館)、11月24日、2021年1月12日、12月28日~2021年1月2日(年末年始休館)
観覧料 一般 1300円 / 大学生・高校生 1000円 / 中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
☆入館日時オンライン予約システムのご案内☆
事前にオンラインで入館日時指定付のチケットをご購入していただきますと、待ち時間 なくご入館できます。 オンラインによる予約がなくても従来通り、美術館受付でチケットをご購入のうえ、ご鑑賞いただけます。ただし、混雑時にはご入館をお待ちいただく場合がございます。
詳細は入館のご案内をご覧ください。
過去2週間の混雑状況をご確認いただける「混雑状況表」を掲載しています。 「混雑状況表」はこちら

※会期、開館時間は変更になる場合があります。最新情報は美術館WEBサイトにてご確認ください。
※写真掲載の作品は全て山種美術館所蔵
※会場内の写真は美術館の許可を得て撮影


kaisyuucom at 20:33|Permalinkアート | 山種美術館

三菱一号館美術館「1894 Visions ルドン、ロートレック 展」

三菱一号館美術館で「1894 Visions ルドン、ロートレック 展」が開催中です。
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本展は、三菱一号館が竣工した1894(明治27)年を軸に、同館のコレクションの中核であるフランス象徴主義を代表する画家オディロン・ルドン (1840-1916) と、絵画だけでなくポスターなどのグラフィック・ワークでも優れた作品を残したフランスの画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)、さらに同時代の日仏の芸術家たちの作品が併せて紹介されています。
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ルドン、ロートレックだけでなく、印象派、ポン=タヴァン派、ナビ派の作品、さらに日本の同時代に活躍した画家の貴重な作品も展示され、見応えのある贅沢な展覧会となっています。
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第1章 19世紀後半 ルドンとトゥールーズ=ロートレックの周辺
この章では19世紀後半の美術界をめぐる状況をたどります。
1894(明治27)年のフランスでは、アカデミーの画家たちが主流を占めていました。神話や聖書に取材した歴史画を重んじるサロン(官展)の制度と、イタリア・ルネサンスの巨匠、特にラファエロに学び、木炭による裸体素描を重視する教育課程が、アカデミーの制度の柱でした。
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右:エドガー・ドガ ラファエルロ《アテネの学園》の模写 1857-58年 三菱一号館美術館 寄託
左:ジャン=フランソワ・ミレー ミルク缶に水を注ぐ農婦 1859年 三菱一号館美術館 寄託

ルノワール、モネ 、シスレー、ピサロ、ドガそしてセザンヌ は、このような美術アカデミーの規範に反発し、1874年に第1回の印象派展を開催、自らの表現を世に問う場をサロンの外に求めました。
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右:ピエール=オーギュスト・ルノワール 長い髪をした若い娘(あるいは麦藁帽子の若い娘)1884年 三菱一号館美術館 寄託
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール 麦藁帽子の若い娘 1888-90年頃 三菱一号館美術館 寄託

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右:カミーユ・ピサロ 牛の番をする農婦、モンフコー 1875年 岐阜県美術館 ピサロはゴーギャンに対して絵画の手ほどきをしており、この作品はゴーギャンがピサロから直接購入し、所有していたもの。
左:アルフレッド・シスレー ルーヴシエンヌの一隅 1872年 三菱一号館美術館 寄託

ルドンとロートレックの表現は前衛的ですが、独自の作風を確立するまでの間には、保守的なアカデミーの画家のアトリエで学び印象派の画家からの影響も受けています。ルドンとロートレックが活躍したのは、前衛的な芸術家たちが 新しい表現を貪欲に追求していた時代でした。

第2章 NOIRールドンの黒
ルドンは、フランスの南西部の町ボルドーで生まれました。 印象派の画家のモネと同年の生まれです。 印象派とは対照的に、人間の精神や夢の世界に深く分け入った表現を追求しました。
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この章ではルドンが木炭を使って制作した作品群を展示。同世代の印象派の目が外界に向けられていたのに対し、内面の夢と想像の世界から得たものが描かれています。しかし1894年の個展で初めて色彩の作品を発表した後には、徐々に黒から色彩へと移ります。

第3章 画家=版画家 トゥールーズ=ロートレック
ルドンよりも24歳年下のトゥールーズ=ロートレックは、伯爵家に生まれながら、パリの盛り場モン マルトルの夜の街に身を投じ、人間の醜い面に幻滅を抱きながらも、人間の本質を突く表現を追求しました。
三菱一号館美術館は、ロートレックの死後に画家の家族から作品の管理を委ねられた モーリス・ジョワイヤンの旧蔵品を中心としたロートレック作品約260点を所蔵しています。
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右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレーにて 1893年 三菱一号館美術館
左:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック アリスティド・ブリュアン 1893年 公益財団法人 ひろしま美術館

第4章 1894年 パリの中のタヒチ、フランスの中の日本 ー絵画と版画 芸術と装飾
この章では、主に版画作品が紹介されています。
ゴーギャンは、1894年のフランスにおいて、もっとも影響力が大きかった前衛画家のひとりでした。しかし最初のタヒチ滞在からパリに戻り、タヒチの作品を披露した時の人々の反応は期待外れで、作品をより良く理解してもらうため、ゴーギャンは、タヒチ滞在の体験をもとに、木版画で『ノア ノア』を制作します。
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ポール・ゴーギャン 『ノアノア』の連作 1893-94年  岐阜県美術館

ゴーギャンと同様に木版画の表現を追究した、スイス生まれのナ ビ派の画家フェリックス・ヴァロットン。ヴァロットンは1890年代に集中的に版画作品を制作し、木版画の表現で新境地を切り開きます。亜鉛版を使った版画集『息づく街パリ』 も残しています。
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フェリックス・ヴァロットン 『息づく街パリ』の連作 1893年 三菱一号館美術館

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右:フェリックス・ヴァロットン 処刑 1894年 三菱一号館美術館
中:フェリックス・ヴァロットン 婦人帽子屋 1894年 三菱一号館美術館
左:フェリックス・ヴァロットン 『アンティミテ』三菱一号館美術館

ロートレックが用いたカラー・リトグラフは、この頃ポスターに盛んに使われるようになります。 グラフィック・アーティストとしても活躍したロートレックのような画家を、当時は「画家=版画家」と呼んで、その才能を称えました。
ロートレックのポスターは美術愛好家の関心を引くようになり、愛好家のための室内用のポスターが制作されるようになります。 
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右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック ディヴァン・ジャポネ 1893年 三菱一号館美術館
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック エグランティーヌ嬢一座 1896年三菱一号館美術館
左:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック アリスティド・ブリュアン 1893年三菱一号館美術館 

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右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック エルドラド、アリスティド・ブリュアン 1892年 144.3╳98.9 cm リトグラフ/紙 三菱一号館美術館
中:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 悦楽の女王 1892年 三菱一号館美術館
左:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌 1895年 三菱一号館美術館 

当時のパリの華やかな雰囲気が伝わってくるようです。

第5章 東洋の宴
19世紀末のパリでは、ジャポニスムがブームとなり、印象派の画家やロートレックにも大きな影響を与えました。1878(明治11)年の 万博のためにパリを訪れた山本芳翠は、かつてルドンが学んだパリの美術学校で画家ジェロームに絵画技法を学びます。芳翠の重要文化財《裸婦》も今回展示されています。

美術学校で教鞭をとっていた藤島武二は、パリからローマに移った直後の事故で、フランス時代の作品の大半を失います。今回展示されている《浴室の女》は、残された貴重な作例のひとつです。
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右:藤島武二(慶応3年‒昭和18年) 書見する女 1910(明治43)年 三菱一号館美術館 寄託
左:藤島武二(慶応3年‒昭和18年) 浴室の女 1906-07(明治39-40)年頃  岐阜県美術館

第6章 近代―彼方の白光
本展の最後は、ルドンの色彩作品が紹介されています。1897年、ロベール・ド・ドムシー男爵が、ブルゴーニュ地方ヴェズレー近郊の城館の食堂装飾をルドンに依頼しました。装飾画は1900年から1901年にかけて設置され、16点が現存します。
《グラン・ブーケ(大きな花束)》を除く15点は1978年に食堂から外され、現在ではオルセー美術館が所蔵しています。《グラン・ブーケ》は食堂の装飾の中心であっただけでなく、ルドンが描いたパステル画としては最大で、装飾画の歴史上重要な作品です。
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オディロン・ルドン グラン・ブーケ(大きな花束) 1901年  三菱一号館美術館

ルドンが《グラン・ブーケ》をロベール・ド・ドムシー男爵のシャトーに納めた1901年4月頃、24歳年下のトゥールーズ=ロートレックは、すでに精神的にも肉体的にも衰弱しており、同年9月9日に短い生涯を終えています。

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右:オディロン・ルドン 女漁師 制作年不詳  岐阜県美術館(田口コレクション)
左:オディロン・ルドン 小舟 1904年頃 三菱一号館美術館 寄託

ルノワール晩年期の作品も。《パリスの審判》でルノワールが描いたのは、パリスが黄金の林檎をアプロディテにまさに手渡そうとしている場面です。女性たちとパリスの姿が魅力的に描かれています。
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右:ピエール=オーギュスト・ルノワール パリスの審判 1908年  三菱一号館美術館 寄託
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール 泉 1910年頃 岐阜県美術館

1890年代後半のルドンは、ボナールやドニ、ヴュイヤール、セリュジエらの年下のナビ派の画家たちが仰ぎ見る存在であり、1899年に彼らがグルー プ展を開催した時には、ルドンも乞われて出品しました。
下はナビ派の画家のボナールがパリの風景を描いた連作
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ピエール・ボナール 『パリ生活の小景』の連作1899年 三菱一号館美術館

ルドンの亡くなった年にセリュジエがルドンを偲んで描いた《消えゆく仏陀一オディロン・ルドンに捧ぐ》も展示されています。セリュジエのルドンへの思いが伝わってくる印象的な作品です。

本展は、ルドン作品約250点からなる世界でも有数のルドン・コレクションを所蔵している岐阜県美術館との共同プロジェクトとして構想されたもの。岐阜県美術館の貴重なコレクションを東京でまとまって見ることができる貴重な機会です。
人間の精神や夢を表現したルドン、人間の本質を突いたロートレックの世界を、同時代の画家たちの作品とともに、ぜひ会場でご覧ください。

1894 Visions ルドン、ロートレック展 公式サイト
会期:2020年10月24日~2021年1月17日 ※展示替えあり
会場:三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間:10:00〜18:00(祝日を除く金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし10月26日、11月30日、12月28日、2021年1月4日は開館)、11月24日、25日、12月31日、2021年1月1日
料金:一般 2000円 / 高校・大学生 1000円 / 小・中学生 無料 ※日時指定予約優先
マジックアワーチケット 毎月第2水曜日17:00以降に限り適用 : 1,200円→詳細はこちら 

会場内の写真は美術館の許可を得て撮影しています。




kaisyuucom at 10:34|Permalinkアート | 三菱一号館美術館

2020年11月26日

企画展「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」すみだ北斎美術館

海外における日本の漫画に対する人気は非常に高く、いまや世界共通言語となった日本の漫画=MANGA。その歴史をたどる企画展、「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」が、東京のすみだ北斎美術館にて2021年1月24日(日)まで開催中です。
「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」展_チラシ-1

漫画の起源にはさまざまな説があります。
《鳥獣戯画》は、一部の場面に現在の漫画に用いられている効果に類似した手法が見られることもあって、「日本最古の漫画」ともいわれることもあります。しかし、こうした絵巻を見ることができたのは、貴族、僧侶、武将など上流階級の人々だけで、一般的なものではありませんでした。
本展では、漫画=大衆が手軽に読めるメディアであるという考えに基づき、江戸時代中期以降、印刷出版文化が発展し、浮世絵が量産されるようになり大衆化したことから、江戸時代の風刺表現やユーモアが含まれる戯画を、漫画的な表現の出発点としています。
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展示は「商品としての量産漫画の誕生」「職業漫画家の誕生」「ストーリー漫画の台頭」の3章構成で、江戸時代の浮世絵版画に始まり、明治・大正時代の諷刺漫画雑誌、昭和初期の子ども漫画等など、江戸、明治、大正、昭和という約230年の流れの中で日本の漫画の歴史をたどれるように構成されています。
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特に江戸時代の北斎、国芳、暁斎などの浮世絵版画と、明治以降に台頭した漫画雑誌や漫画本などの近代漫画に着目。時代に合わせ姿を変えながら発展してきた、現代の漫画的表現のルーツといえる作品が楽しめます。
では会場にご案内!
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①   浮世絵版画 
第1章 商品としての量産漫画の誕生 江戸中期からの戯画の大衆化 ~戯画本・戯画浮世絵~
戯画と呼ばれる、人物の顔や動物などを滑稽さ、諷刺的な意味を持たせて描かれた絵が庶民にも親しまれるようになったのは、印刷出版文化が発達した江戸時代中期以降です。
江戸中期から幕末までの錦絵や版本などには、現代に通じる漫画表現がたくさん含まれています。

江戸中期に京都で生まれた手足の長い人物が特徴の鳥羽絵。腕が長い!
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作者不詳「鳥羽絵風戯画 腕相撲」 年代不詳 
簡略化された「鳥羽絵」スタイルの画は、その後さまざまな形で発展していきます。

日本人は昔地震は地下の鯰が暴れて起きるものと信じていました。鯰をパロディ風に描いた「鯰絵」もあります。
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文字を使った戯画「文字絵」や障子などに映る影を描く「影絵」などの遊び絵も登場。下は富士山、こうもりなどを座敷芸で表現したもの。
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歌川国利「有が多気御代の蔭絵」 年代不詳

もとは大津の土産物であった大津絵も戯画の一つ。下は長~い頭の福禄寿と大黒を描いたもの。
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歌川国貞(初代) 「大津絵所作ノ内 げほふはしごずり 大こく ふくろく」 1857(安政4)年10月

葛飾北斎、歌川国芳など、人気絵師が次々と登場するのもこの時代です。
北斎が弟子たちに自分の絵を教えるために出版した絵手本「北斎漫画」。コマ表現など現在の漫画の原点ともいえるものが含まれています。
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江戸時代後期には、幕府による改革の失敗、行き過ぎた倹約や飢麓などから、政治や世相を批判する戯画が登場し、民衆の人気を集めました。江戸のヒットメーカー国芳は老中水野忠邦による天保の改革に対する風刺画を描きました。
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歌川国芳 「源頼光公館土蜘作妖怪図」 1843(天保14)年8月

河鍋暁斎がことわざを戯画化した「狂斎百図」。ユーモアあふれる暁斎の魅力がたっぷり楽しめる作品です。前中後期で全38枚が展示されます。
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左:河鍋暁斎「狂斎百図」 すずめ踊り 1863(文久3)年5月
右:河鍋暁斎 「狂斎百図」 書の大天狗/象の鼻引 1863(文久3)年5月

②  近代漫画 ~第2章・第3章の展示から~
第2章 職業漫画家の誕生 ~ポンチ・漫画の時代へ~
明治になり、それまでの制度や習慣が大きく変わりました。明治という時代の変化、世相の混乱の様子を描いた月岡芳年、小林清親などの作品もあります。彼らは戯画錦絵の最後の時代を飾った絵師たちでした。
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歌川芳雪「流行鳥獣興廃競」年代不詳 当時飼育ブームの主役だった兎と鶏の争いを描いたもの。

1862(文久2)年、日本在住のイギリス人やほかの外国人を対象に時局や日本風俗を紹介する漫画雑誌「THE JAPAN PUNCH」がイギリス人チャールズ・ワーグマンによって横浜で創刊されました。日本で「ポンチ」という言葉が使われるようになったのもこの雑誌がきっかけです。
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右:チャールズ・ワーグマン 『THE JAPAN PUNCH』1883(明治16)年5月号 

イギリスの雑誌「パンチ」を参考に創刊された『團團珍聞』。
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『團團珍聞』第1号  1877(明治10)年3月24日

遊び心あふれる諷刺画と文章で人気となった「滑稽新聞」。この雑誌の人気により、明治後期に漫画雑誌ブームが起きました。
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『滑稽新聞』第109号 1906(明治39)年2月20日

明治の漫画雑誌ブームを先導した「東京パック」。この雑誌を創刊した北沢楽天は、日本で初めての職業漫画家と考えられています。現代的な意味に近い形で「漫画」という言葉を使い、普及させた一人です。
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第1次『東京パック』第1巻第4号 1905(明治38)年7月15日

東京パックは全頁カラーの豪華な雑誌で、当時の世相がよくわかります。
大正時代の「東京パック」には、竹久夢二、小杉未醒、小川芋銭らも寄稿していました。
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建築家として有名な伊藤忠太の描いた河童の画。伊東忠太の妖怪好きは有名で、建築にも至る所に動物・霊獣の彫刻を飾ったりしていますが、多くの妖怪の絵も残しています。
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伊東忠太ほか『阿修羅帖』第1巻 1920(大正9)年4月

正チャンがリスをお供にお伽の国を旅する「お伽 正チャンの冒険」。日本の漫画史に残る名作漫画の一つです。
この漫画は、西洋画風のモダンな絵柄と、日本では初めての「ふきだし」を使った当時としては斬新なスタイルで、正チャンは国民的人気者になり、日本の漫画史に大きな影響を与えました。正チャンの被っている毛糸の帽子から「正チャン帽」という名称も生まれ、日本初のキャラクターともいわれています。
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第3章 ストーリー漫画の台頭 ~昭和初期から終戦まで~
この章では、昭和初期から終戦までの漫画について紹介。
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読売新聞日曜付録『読売サンデー漫画』は、大判カラー刷りの豪華な漫画付録。刊行は1年ほどでしたが、多くの人気作品を生み出しました。
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読売新聞日曜付録『読売サンデー漫画』1931(昭和6)年1月1日号  1931(昭和6)年1月1日

いたずら好きな子ども健ちゃんを主人公にした新聞4コマ漫画。
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横山隆一『江戸ッ子健ちゃん』  1936(昭和11)年12月

昭和初期、女性をテーマにした漫画も登場するようになります。また少しずつ戦争の影響が漫画にも出てくるようになります。
1931(昭和6)年にスタートした「のらくろ」シリーズも、軍隊をテーマにしたものですが、親しみやすい画風で大ヒットし、11年にわたる長期連載となり、戦後にアニメにもなるほどの人気でした。

改めて漫画の歴史をたどってみて思うのは、日本では本当に古くから戯画・漫画が生活の中にあって、愛されてきたということ。伝統文化と並んで日本が世界に誇る文化の1つとなった漫画ですが、こうした土台があったからこそなんですね。
皆さんもこの機会に漫画のルーツといわれる作品を通して、漫画の歴史についてたどってみてはいかがでしょうか?

ミュージアムショップにて展覧会「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」の展覧会公式図録も販売中です。江戸戯画から近代漫画への漫画的表現の変遷を、体系的に、時代の流れに沿って解説。巻頭に本展覧会監修者・清水氏の論文も掲載しています。
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『GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ』
仕様|全 284 ページ(並製/縦 257x 横 195mm)
発行|毎日新聞社
定価|2,530 円(税込)

あと、本展と併せてぜひご覧いただきたいのが「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展。
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すみだ北斎美術館は、2019年11月15日に、ポーランドのクラクフにある“日本美術技術博物館マンガ(通称:マンガ館)”と友好協定を締結しました。
両館の友好協定締結1周年を記念して、マンガ館のあるポーランドの街クラクフのヴァヴェル城に伝わる「ポーランドのドラゴン」と、北斎の龍の画にインスピレーションを得た「日本のドラゴン」をテーマに、ポーランド人のアーティスト6名による 作品が展示されています。
日本の浮世絵と西洋画がマッチングしたとてもユニークな絵の数々、これを見逃したらもったいない!ぜひ会場でお楽しみください。
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企画展「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」公式サイト
会期:2020年11月25日(水)〜2021年1月24日(日) 一部展示替えを実施予定
[前期 2020年11月25日(水)〜12月13日(日) / 中期 12月15日(火)〜2021年1月3日(日) / 後期 1月5日(火)〜1月24日(日)]
会場:すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
休館日:月曜日(1月11日(月・祝)は開館)、1月12日(火)、年末年始(12月29日(火)〜1月1日(金・祝))
観覧料:一般 1,200円、高校生・大学生 900円、65歳以上 900円、中学生 400円、障がい者 400円、小学生以下 無料
※当面のあいだ、団体受付はなし
※上記料金で会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)も観覧可
※来館の際は、美術館公式ホームページで最新の開館予定を確認のこと
※予告なく期間などが変更となる場合あり

会場内の写真は美術館の許可を得て撮影しています。


kaisyuucom at 06:30|Permalinkアート | すみだ北斎美術館

2020年10月18日

「クールベと海 フランス近代 自然へのまなざし」山梨県立美術館

山梨県立美術館で開催中の「クールベと海 ーフランス近代 自然へのまなざしー」に行ってきました。
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クールベは、故郷の森や、ノルマンディーの海を繰り返し描いています。特に1860年代以降、海の情景を好んで描き、海の風景画はクールベの作品の中でも当時から人気が高く、総点数は100点以上にもなります。
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この展覧会では、クールベが描いた様々な海の絵画だけでなく、故郷の自然や、鹿や猟犬など狩猟をテーマにした作品など、様々なバリエーションのクールベの作品を見ることができます。クールベが描いた裸婦像まであります。
また、クールベだけでなく、モネやブーダン、ターナーなどの海をモチーフにした風景画も多数展示されています。
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右がクールベ・・・だそうです。

これがほとんど国内の美術館の収蔵品というのに驚きました。
日本の美術館のコレクションも本当に大したものですね。海外の作品を借りるのが難しい時期なので、この機会にぜひこのような形でコレクションを融通しあって、展覧会を開催してほしいと思います。
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山梨県立美術館には、特別展示室の他に、ミレーとバルビゾン派の作品を中心に紹介する<ミレー館>、山梨ゆかりの作家たちの作品を中心に紹介する<テーマ展示室>、甲府市出身の作家である萩原英雄の作品やコレクションを紹介する<萩原英雄記念室>があります。

<テーマ展示室>では、「コレクションに見る 水の表現」として、「水」にまつわる作品を紹介が紹介されています。甲州を描いた川瀬巴水の新版画、横山大観、東山魁夷の作品もあります。

「秋の絵画 ~ 野口コレクションから ~」のコーナーでは、甲州の名家であった野口家のコレクションから、美術館に寄贈された作品を見ることができます。土佐光起、山本梅逸などの秋をテーマにした作品ものほか、野口家は、野口小蘋の嫁ぎ先でありったことから、野口小蘋の作品も多数所有しており、今回はそのうち1点が展示されています。

そして、山梨県立美術館の誇るミレー館。同館は全70点ほどものミレーの作品を収蔵していますが、《種をまく人》は改めて見ると、斜面の畑を大股で下りながら、右手に握った種を大地にまく、とても力強い絵なのですね。働く農民の姿を堂々と描いた絵として革新的ともいえる作品です。9月に海外の展覧会から久しぶりに帰国したばかりの作品も展示されています。

ミレー館の第2室では、主にバルビゾン派の作家の作品を展示しています。クロード・ロラン、ドービニーなどの巨匠の作品が並び、特別展といってもいいほどの充実の内容です。今季の展示では、朝日や日没などの情景をとても情緒豊かに描いた作品が並んでいます。また森で働く人を動物とともに描いた作品も多く、動物の表情がとても豊かで、毛並みの表現まで巧みに描かれているのに感心しました。
コレクション展は別料金ですが、ぜひご覧くださいね。公園では彫刻も楽しめます。
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国内のクールベ、バルビゾン派の名品がこれだけまとまって見ることができる機会はあまりありません。わざわざ行く価値のある展覧会です。ぜひご覧ください。

展 覧 会 名 :クールベと海 フランス近代 自然へのまなざし   公式サイト
会 場 :山梨県立美術館 特別展示室
会 期 :2020年9月11日(金)~2020年11月3日(火・祝)
休 館 日 :月曜日(9月21日・11月2日を除く)、9月23日(水)
開 館 時 間 :午前9:00~午後5:00(入館は午後4:30まで)



kaisyuucom at 16:40|Permalinkアート | 山梨

2020年10月10日

いきものがたり 〜十二支になったいきものと、なれなかった猫たち〜嵯峨嵐山文華館

京都市右京区にあるミュージアム嵯峨嵐山文華館では、企画展「いきものがたり 〜十二支になったいきものと、なれなかった猫たち-〜」が開催されています。
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ネズミから始まりイノシシで終わる十二支は、多くの人々に愛され、多くの芸術家たちの題材となり、絵画や工芸作品に表現されてきました。

本展覧会では、十二支に選ばれた「いきもの」たちの作品のほか、2階ギャラリーでは十二支に選ばれなかった猫などの「いきもの」の作品も展示されています。
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<第1章> 十二支に選ばれたいきもの
「猛虎之図」大橋翠石などはすごい迫力。呉春、芦雪など江戸時代の名品も見ごたえがあります。
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<第2章> 十二支に選ばれなかった猫たち
日本では古くから親しまれてきた猫が、十二支に選ばれなかった理由については諸説ありますが、2階ギャラリーでは、十二支になれなかった猫をはじめとするいきものの絵画が展示されています。川合玉堂の猫は珍しい。
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ブラッシングが欠かせない橋本関雪の猫もキュートです。皆さんはどの猫がお気に入りでしょうか?
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<第3章> 嵐山の周辺に棲むいきものたち
嵐山には住んでいない動物もいますが、愛らしい栗鼠や蛙などを描いた作品が並んでいます。
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嵯峨嵐山文華館は嵐山を目の前に臨む絶好のロケーションに位置しています。
1階にはカフェが、2階ギャラリー横には椅子が置いてあり、嵐山を見ながら休憩することもできます。館内は一部を除き写真撮影もOKというのはうれしい。今回初めて来ましたが、展示内容も施設も素晴らしく、これからも折に触れ訪れたいお気に入りの美術館になりました。

今回の展示は間もなく終了しますが、これから紅葉の時期、周辺の観光と併せて訪ねてみてはいかがでしょうか。

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いきものがたり 〜十二支になったいきものと、なれなかった猫たち〜 公式サイト
会期 2020年08月01日(土) - 2020年10月11日(日)
会場 嵯峨嵐山文華館
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kaisyuucom at 15:41|Permalinkアート | 京都