亀井英孝の「千年続く経営」ブログ

名南経営コンサルティング 亀井英孝 公式ブログ

2013年07月

「タフラブ」という言葉をご存じでしょうか。

 

タフラブとは、「例えば子どもが目の前で転んだとき、すぐさま駆け寄って起こしてやるのではなく、手を貸す衝動を抑えて自力で起き上がるのを見守る。尽くす愛・耐える愛・包み込む愛ではなく、手放す愛・見守る愛・断念する愛」(信田さよ子氏著「タフラブという快刀」)

 

そう思えば、確かに、“親”という漢字は、「木の上に立って見守るのが親」であることを教えてくれています。

 

このタフラブで大事なことは「例えば子どもが目の前で転んだとき」というところ。慶應義塾大学・大垣昌夫教授は、タフラブを「時間選好」と絡めて、次のように説明されています。

 

「時間選好とは、人が現在と将来のような異時点間の消費や余暇について、どのような好みを持っているかということである。ほとんどの人々には、現在の消費を将来の消費よりも重視して、将来の消費から得られる効用を割り引いて評価する傾向がある。このことを時間割引といい、割引の割合を時間割引率という。」

 

ちょっとここで解説。この意味は、例えば、「今だったら10,000円上げます。1年後だったら11,000円上げます」と問われたとき、どちらを選択するか、というのが時間選好であり、1年後に得られるはずの1,000円を捨てて今の10,000円を手に入れようとするのが時間割引。そしてこの受け取った10,000円と1年後に受け取れるはずだった11,000円の差10%が時間割引率ということです。

 

それでは続きを・・・

 

「時間割引率の低い人は、忍耐強く、満足を後回しにすることを比較的苦にしない。時間選好のもう一つ重要な要素は、苦しいことは先送りして、今、楽しみたいという誘惑に対して自制することができるか、ということである。時間割引率が低く、自制できる人は経済、学業、対人関係などの面で成功する傾向がある。(中略) 親は、長期的な子供の利益をために厳しくしつけることが良いと分かっていても、今の子供の苦しみは避けたいという誘惑を受けることが多い。しかし時間割引率の低い親は、子供が忍耐強くなることを願って、子供時代の消費を低く抑える。また、子供が悪友たちの影響を受けて忍耐強くなってしまうと、子供がもっと忍耐強くなることを願って、お小遣いを減らすなどのしつけ行動を取る。」

 

決して「お前の好きなことをしろ」ではなく、逆に負荷(タフ)を与えることが大切だ、ということです。

 

私は事業承継において、「俺の後を継げ」と明確に伝えることこそ必要だと訴えています。以前はそんなことを言う必要はありませんでした。それは長男が継ぐことが当たり前だったからです。親が「継げ」と言わなくとも、周囲が「跡取り、跡取り」とその覚悟を勝手に固めてくれていたからです。しかし現在は、その二つの要因は存在しません。そのために子息は、そこがどこかもわからない海の上で、なすすべもなく漂っている状態とも言えます。

 

「お前の好きなことをやればいい」ほど無責任なことはない、ともお伝えしています。もちろん親としては、子がやりたいことをやってくれることが一番に決まっています。私も二人の娘の親として、そう願っています。でもそのやりたいことをきちんと考え、明確にし、肚決めさせるためにも、「俺の後を継げ。そうでなければ、それを上回るなにものかを俺の前に持って来い」と言わなければならない、そう思うのです。

 

「お前の好きなことをやりなさい」この言葉は、私から見れば時間割引率の高い親の無責任な言葉と感じられてなりません。

 

夢・ありがとう 先日、多治見市在住の文字職人 杉浦誠司さんの著書「夢・ありがとう」(サンマーク出版)を読ませていただきました。その中にこんな一節がありました。
※杉浦さんのオフィシャルサイトはこちら
http://yume-arigatou.com/top.php


 ある日、ひとりの男性が僕にこんな質問をしてきました。
「杉浦さん、あなたはよく漢字を書かれているので聞かせてください。“辛い”っていう字、あるじゃないですか?でも、辛いって文字に一本の線を加えると“幸せ”になるでしょう。その一本の線って何だと思いますか?」
(中略)質問をしてきた彼にとっては「つらい」というのが主なんですね。すべてが「辛」の字から見て、発している言葉。だから、何を足せば幸せになるのかを探していると思うのです。ところが、僕はといえば、まずは「しあわせ」ありきなんです。もともとが「幸」のイメージで、その字から一本抜いてしまうと「辛」になることを知っているわけです。

 抜けてしまう一本って、何だと思いますか?

 もともと僕たちは、存在そのものが「幸」なんですよね。この世に生を受けて、今ここにいることそのものが幸せ。生きているだけで、じつは最高!すべて幸せ。そこが中心だから、一本抜けて「辛」の字になるとき何が抜けたらそうなるのかが、自分なりにわかっているのです。
 全くその通りだと思います。それでは「事業承継」というステージにおいて、「辛い」事業承継が起こってしまうのは何が欠けているからなのでしょうか?足りないものはいくつも考えられますが、その中でも最も大きな大切なのが、「派無し」ではないかと思います。

 考え方の違い(派閥)が無くなるまで「話」をする、そうすることで考え方の「差」が取れて「差取り=悟り」となる。「悟」は“りっしんべん”に“吾(われ)”、即ちお互いの心を我がものとすること。そうなった時、「幸せ」な事業承継を迎えられるのだと・・・。

 私たちは元々幸せです。事業承継も同じこと。やるべきことをやらないから辛くなる。
「親父が生きていれば、もっと聴きたいことがあった。」
「辛いこと、困難なことが起こった時、親父だったらどうするだとうと、いつも思う。でもその親父は今はいない。」
「もっともっと、ちゃんと聴いておけば良かった・・・」

 聴くべきことを聴かずして先代を失ってしまった経営者の方々の共通の言葉です。まさに、「死んだら一巻の終わり」「万事休す」です。「いつまであると思うな親と金」・・・

 もしご両親がご存命ならば、是非その言葉に耳を傾けてもらいたいと思います。「聴く辛さ」と「聴けない辛さ」、あなたはどちらを選びますか?私が知っている円滑な事業承継を実現していらっしゃる会社では、間違いなく「派無し」ができています。

 是非心からの「派無し」をしていただきたいと思います。

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