本日は、“伝統”について考えてみたいと思います。

 

以前、岐阜県関市の「御刀鍛冶工 二十五代 藤原兼房」

こと加藤賀津雄氏に話をお伺いする機会がありました。

 

関市では鎌倉末期から刀作りが始まり、多くの刀鍛冶が

いらっしゃったのですが、先の敗戦で刀づくりが禁止され、

転廃業を余儀なくされたとのこと。

 

室町時代に興った藤原家でも、南方戦線から帰還された

お父様が兄弟5人で包丁やナイフを製作する会社を

立ち上げられ、生計を立てられるようになったのだそう

です。

 

しかし、日本の刀は「折り返し鍛錬」という世界に類を

見ない製法で作られたもの。その技術を残すために、

お爺様である二十三代を中心に国やアメリカに対して

陳情を繰り返され、昭和27年にやっと製作が認められる

ようになったとのだとか。

 

但し、誰でも作ってよいというものではありませんでした。

5年間刀鍛冶の下で修業した後、文化庁の試験に合格した

者だけしか刀鍛冶として認められなくなったのだそうです。

 

更には製作本数が制限され、戦前は1日に10振りほど

作っていたものが、長いもので15日に1振り、短いもので

11振りしか作れなくなってしまったとのこと。

 

そのこともあってか、たとえ試験に合格したとしても、10人に

34人しか食っていけない厳しい世界なのだそうです。

 

そんな中で、当家では42歳のご子息が既に二十六代を

継がれています。

 

そこまで続けられる理由をお尋ねしたところ、一言

 

「残していかなあかんという気持ちだけ」

 

と仰います。“伝統”を守っていく重さを感じました。

 

一方で、「お孫さんに継いで欲しいか」とお尋ねすると、

「とても厳しい仕事。気軽に継いで欲しいと言えるもの

じゃない。ただ、自分たちの姿を見て、継ぎたいと思って

くれれば嬉しい」と。

 

この言葉に、事業承継の本質を感じました。

 

「継ぎたいと思える会社にする」

「継ぎたいと思ってもらえる経営者になる」

 

改めてその意義を、600年以上の重みをもって感じることが

できました。みなさんもご一緒に噛み締めてみてください。