もうすぐ三十の大台に乗っかろうとしてます。さあて、このまま一気にラストまで突っ走れるかな?




倒してもいいよね?答えは聞いてない!

ギアガの大穴へ向かう前日。アレス達はそれぞれの家できっちりと挨拶は済ませておくことにしていた。アリサなどは「少なくとも私には必要ありません」と言い張っていたが、アレスにけじめをつけるよう諭されてやむなく頷いていた。
そしてここはアレスの家である。
「じゃあ、行くのね?」
「うん。父さんの手がかりはムオルの村に立ち寄った事、ノアニールにも行ったみたいだけど詳しい事は分からなかったしね。頼みの綱はヒューレンの情報網とアレフガルドくらいだし」
イリーナは軽く目を伏せ、祈るようにしばし沈黙した。
「そう、なら私は何も言わないわ。貴方の望むように行きなさい。あ、それと・・・」
「うん?」
アレスが首を傾げると、イリーナは突然悪戯めいた表情になって言った。
「次に帰ってくる時は孫も一緒かしらね?」
「ぶっ!何言ってくれてるのさ母さん!?そもそも孫の前にお嫁さんが先でしょ!」
「あら。私は何時アリサちゃんを正式に紹介して貰えるのか待ってるんだけど?」
アレスは思わずテーブルに突っ伏した。
「・・・そもそも何でアリサだって決まってるのさ」
「ピンキーリング渡しといてそれでお終いとか言ったら母さん怒るわよ?」
思わずアレスの腰が浮いた。あの笑顔はヤバい。幼い頃、夫婦喧嘩をやらかした時のブチキレる寸前で母は間違いなくこの笑顔を浮かべていた。知らないのか?母親からは逃げられない。
「・・・ワカリマシタオハハウエ」
確か父さんもこんな感じだったなー、等とのんきな事を頭の片隅で考えつつアレスは片言で返事を返した。
「まあ、孫の件は三割くらい冗談にしても何時アリサちゃんを口説き落とすのかってのは本気よ?大体あの子、全身で何時でもどうぞって言ってるじゃないの。それを襲いもせずによく一年も一緒に旅を・・・」
「母親が煽ってどーするのさ!大体ヒューレンとかランジュも一緒にいたんだし・・・!」
「ヒューレン君ならその辺りの空気は読んでくれるんじゃない?ランジュちゃんも鈍くないでしょ」
間違いではない。宿に泊まるたび、ヒューレンは時折アレスとアリサを二人部屋に押し込んで自分は別室に泊まるという事をよくやった。だったらランジュはどうなのかというと、ヒューレンが唱えたラリホーマで朝まで爆睡していた。
(さすがに避妊具を持ち物に偲ばされた時は本気でヒューレンを殺したくなったけどね・・・)
「そこまでお膳立てされて何もしないのってどうなの?私はそんな据え膳をスルーするような息子に育てた覚えないんだけど」
「だから母親が煽らないでよー!そもそもそこに至るまでにまず告白とかデートとかそれから・・・」
「・・・まさかそれ全部やってないとか言わないわよね?」
アレスが再び突っ伏す音と、イリーナの溜息がリビングに響いた。




「平和じゃのお・・・」
アレスの祖父・ワイズが茶を啜って呟いた。




ガスパール家がそんな騒ぎになっている頃。アリサは全く対照的に自宅の居間にいた。
(まあ・・・自宅とは思いたくありませんが)
血縁上の両親との距離は自分の足で凡そ二歩半。今なら一息で詰められる距離だ。
「お父様、お母様。お話があります」
さり気無く右手を後ろに回し、口の中で呪文を詠唱する。失敗は許されない。この一件で、自分はアドネリア家と完全に絶縁し自由を勝ち得なければならないのだから。
(我が手に集いし眩き光。翼をも焼き尽くす無慈悲な閃光となりて我が手に集え・・・)
「私はこれからギアガの大穴に向かいます。ここまで育てて頂いた事に感謝し、一応のご挨拶を・・・」
「許さん。バラモスを倒したのだし、お前の価値は十分証明された。今後はお前に交際を申し込む者を選別せねばならんからな」
これが世間では評判の良い神父なのだから世も末だ。アリサは内心で自分の中に肉親に対する情が然程沸き起こらない事に安堵しつつ呪文を右手に収束させた。
「私は許可を求めてるんじゃありません。私がアレスに同行することは確定事項ですから」
「お前!わしに向かって・・・!」
アリサの父が立ち上がり、右手を振り上げながら近づく。幼い頃、幾度となく頬を打たれた記憶が甦り、一瞬体が硬直した。
(っ・・・アレス!)
左手で首に提げたロザリオに触れる。それで硬直は取れた。落ち着いてしまえば、父の動きは恐ろしく単調で見切りやすい。ヒューレンとの鍛錬は決して無駄ではなかったらしい。
「・・・マホイミ!」
振り下ろされた腕に合わせ、呪文で緑色に輝く右手でその腕を掴んだ。
「がああああああ!?」
握った箇所がまるで砂のように崩れ、父が手首から先がなくなった右腕を押さえて蹲る。アリサはそんな男の姿を感情のこもらない瞳で見据えていた。
「ア、アリサ・・・何をするの・・・?」
母の震える声も耳には入らない。幾度となく父に打たれても助けてはくれなかったこの女性も、アリサにとっては母でなかった。
「御機嫌よう。育てて頂いた恩はありますから、命までは頂きません。では・・・」
痛みに呻く声も聞き流し、アリサは居間の扉を閉じた。
「さあ、これで私は只のアリサ。誰にも・・・いいえ、アレス以外には縛られませんよ」
自分にそう言い聞かせ、幾分軽い足取りでアレスの家を目指した。






ヒューレンはアッサラームの店で引継ぎの書類作成に追われていた。
「えー・・・こっちはメガンテ応用理論のデータか。せっかく目の前でメガンテが発動する機会に恵まれたんだ、有効に活用しないとな」
リーチェには二重の意味で感謝している。バラモスを倒すための道を作ってくれた事とこうしてメガンテの研究に一役買ってくれた事だ。無論だからといってランジュに対する仕打ちを帳消しにしてやる気はさらさらなかったが。
「ティリ」
「整理する書類はそちらで最後です。後はヒューレン様の個人研究資料が89冊ございます」
「そっちじゃなくてだな・・・」
ティリが小さく小首を傾げた。
「紅茶を淹れてくれないか?今日は蜂蜜で頼む」
「かしこまりました」
程なくして、蜂蜜で真っ黒になった紅茶を一口飲んでようやくヒューレンは人心地ついていた。
「時にヒューレン様」
「ん?」
「次にお会いする時は陛下とお呼びすべきですか?」
思わずカップを落としそうになり、さすがに洒落にならないと慌てて机のカップ皿に置いた。
「あのな・・・確かに魔王にはなるけどよ。好きに呼べばいいさ」
「かしこまりました。では・・・」
とりあえず自分の研究資料を荷物袋に入れ終わり、仕事終わりの一杯を楽しもうとヒューレンがもう一度カップを手に取った時だった。
「アリサ嬢とランジュ嬢、次にお会いする時はどちらを奥様とお呼び致しましょうか?」
今度は本当にカップを落とした。幸い中身は空だったが。





同じ頃、ランジュもヒューレンの店に併設されている病院を訪れていた。
「ママ、もう動いて大丈夫なの?」
「ええ。城にいた時もそこまで酷い扱いはされてなかったから」
そう娘を安心させつつ、スティアは内心「あの魔族もそれなりに丁寧に扱ってたって事かしらね」などと考えていた。
「あたしね、これからギアガの大穴を通ってアレフガルドって所へ行くわ」
「そう。行ってらっしゃい」
あっさり言われ、ランジュは一瞬固まった。
「どうしたの?」
「え・・・あの、ほら。そこは一応止めたりとか・・・」
「止めないわよ?」
またも間髪いれずに返され、ランジュの瞳がみるみる潤む。
「そんな、ママ本気?あたし、泣くかも・・・」
「本気よ。ヒューレン君達がいるから大丈夫じゃない」
「うわあああ・・・・へ?」
再びランジュが固まった。
「ああ惜しい!もうちょっとで可愛い娘の泣き顔が見れたのに!」
「む、娘で遊ぶなぁぁぁーっ!」
本気で泣かされそうになった恨みも込みでランジュは母親に掴みかかる。といってもそれは猫がじゃれつくような可愛らしいものだ。スティアも慣れた手つきで娘をあやしていた。
「言い方は冷たかったかもしれないけど、心配してないのは本当よ。バラモスを倒したアレス君とヒューレン君でしょ?それにアリサちゃんまでいて心配するなんて失礼だわ」
「・・・うん」
スティアは愛娘の頭を撫でながら微笑んだ。
「軽く・・・未来の魔王を手伝ってきなさい」
「・・・え?ママ、ヒューレンの事知って・・・」
「ええ、いずれ王になるって言ってたし。バラモスを倒すんならその後釜を狙ってるのかなとは思ってたわよ?」
(うううう・・・ママずるい・・・)




それから店の前で落ち合い、ルーラを唱えてアリアハンへ行くまでの間。ヒューレンは何故だか涙目のランジュに睨まれ続けて居心地の悪い思いをするのだが・・・それは余談である。







ラーミアに乗って辿りついたギアガの大穴は何処までも続く深い穴だった。
「ここからアレフガルドに行けるんだね」
「ああ」
ヒューレンは懐かしの故郷に心が躍っているのか、妙に機嫌がいい。
「どうやって降りるんですか?梯子もありませんけど・・・」
アリサの疑問にヒューレンは行動で示した。
「簡単だ。こうするのさ」
そう言うが早いか、ヒューレンは躊躇なく穴に飛び込んだ。
「え、ちょ・・・ヒューレン!?」
慌ててアレスが穴に声をかけるが、山彦も返ってこなかった。
「どうしましょうか・・・?」
「アリサ、怖い?」
「少し・・・」
顔色の悪いアリサに、アレスはしばし考え込む。
(うん・・・よし!)
「一緒に降りようか?」
「え?」
アレスは一言断ってから、アリサを抱き上げる。所謂お姫様抱きという奴だ。
「さあ、行くよ?」
「はい!」
アリサがしっかりとアレスの首に手を回すのを確認し、アレスは一息に飛び込んだ。
「・・・あたしはどうすんのよ」
辺りを見回しても、ここを警備しているらしい兵士しかいない。まさか彼に頼むわけにもいくまい。
「ああもう!ヒューレンの馬鹿ぁぁぁーっ!」
やけくそになって叫びながらランジュも穴に飛び込んだ。





彼女の姿も消え、兵士は遠慮なく腹を抱えて爆笑した。






                   To Be Continued........



あとがき
今回は若干コメディタッチの描写が多かったですかね?アレスもヒューレンも色恋沙汰になると途端にヘタレるキャラです。腹をくくるまでは、多分女の子のほうが押せ押せだと思いますね。ではでは~。