和凝 漁父
白芷汀寒立鷺鷥,蘋風輕剪浪花時。烟冪冪,日遲遲。香引芙蓉惹釣絲。
(春の日、早朝から、釣り糸を垂れる風流人の隠遁者の目に映る、白にまつわる景色、白瀕、波が寄せる渚、ツガイの白鷺、日ごとに長くなる日差し、釣り糸、そこに、咲き初める芙蓉の花が香りに引き寄せられる。)
ヨロイグサの白い小さな花があつまって生えている早春朝の寒気がひろがる水際に白鷺が羽を広げ降り立つ、白い小花の浮水草が渡る風にゆれ、さざ波起こる時よろい草も揺れれば、驚いて白露が飛び上がる。靄は冪冪と広がり霞む、春の日は日ごとに日暮れが遅くなり、日一日と日が伸びる。蓮の花の香りがひろがり、漁父は釣り糸を垂れているが、その香りに引き寄せられる。
10和凝 (改)《巻六33漁父一首 》『花間集』284全詩訳注解説(改訂版Ver.2.1)-漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ-6692
10 和學士凝二十首
和凝(898〜955)字は成績、郭州須昌(山東省東平県)の人。幼少のころから聡明で、学問を好み、一読した書はみなその大義に達していた。十七歳で明経に挙げられ、十九歳で進士に及第した。はじめ後梁に仕えて地方官をつとめたが、つづいて後唐に仕えて、天成年間(926-929)に殿中侍御史を拝し、礼部員外即を経て主客員外郎、知制許に改められ、ついで翰林に入って学士となった。また後晋に仕えて、天福五年(940) に中書侍郎同中書門下平車掌(宰相)を拝命した。ついでまた後漢に仕えて、太子大伴を拝し、魯国公に封ぜられた。後周の顕徳二年(955)五十八歳で卒した。のち侍中を贈与された。外見をつくろうことが好きで、平生、乗物や衣服を美しく装飾してりっぱなようすをしていた。また、後進のものを世話するのが好きで、賢不肖にかかわらず、虚心をもってその仕進の道を開きみちびいたので、たいそう評判がよかったという。
文章をつくるにはその分量の多いことが得意であった。文集は百余巻あり、かつて自ら板に訝って、数百状を校印し、人に分かち与えた。短歌艶曲に長じ、「由子相公」というよび名がつけられていた。かれの艶詞をあつめたものに香密集があり、宰相の名を避けて韓樫の名に託してあったというが、今日伝わる韓促の香密集(香散薬)は和顔の作ではないことはすでに明の毛管などがその尤もであることを弁じている(五唐人集)。著述に演論集三十巻、群芸集五十巻、紅薬編五巻(宋史芸文志)があったといぅが、今伝わらない。
かれの詩集に紅葉稿一巻あり、百余首を収めているといぅが(歴代詩余、竜沐勘著唐宋名家詩選に紹介した宋大字本)、この本も明らかではない。紅葉稿は紅薬編のことで、これは制語に関する著述であるといぅ説もある (胡透、詞選)。かれの詞は花間集に二十首収められている。王国経の輯本には二十九首を収めている。
* 旧五代史巻一二七 新五代史巻五六 北夢項言巻パ以歌詞自娯粂 歴代詩余巻一〇二詞人姓氏 全唐詩巻三二 紅葉稿詞一巻 王国稚韓、唐五代二十一家詞輯所収
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「花間集」和學士凝二十首 |
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巻六14小重山二首其一 春入神京萬木芳,禁林鶯語滑,蝶飛狂。曉花擎露妬啼粧,紅日永,風和百花香。煙鏁柳絲長,御溝澄碧水,轉池塘。時時微雨洗風光,天衢遠,到處引笙篁。 |
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巻六15小重山二首其二 正是神京爛熳時,羣仙初折得,郄詵枝。烏犀白紵最相宜,精神出,御陌袖鞭垂。柳色展愁眉,管絃分響亮,探花期。光陰占斷曲江池,新牓上,名姓徹丹墀。 |
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巻六16臨江仙二首其一 海棠香老春江晚,小樓霧縠涳濛。翠鬟初出繡簾中,麝煙鸞珮蘋風。碾玉釵搖鸂鶒戰,雪肌雲鬢將融。含情遙指碧波東,越王臺殿蓼花紅。 |
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巻六17臨江仙二首其二 披袍窣地紅宮錦,鶯語時囀輕音。碧羅冠子穩犀簪,鳳皇雙颭步搖金。肌骨細勻紅玉軟,臉波微送春心。嬌羞不肯入鴛衾,蘭膏光裏兩情深。 |
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巻六18菩薩蠻一首 越梅半拆輕寒裏,冰清澹薄籠藍水。暖覺杏梢紅,遊絲狂惹風。閑堦莎徑碧,遠夢猶堪惜。離恨又迎春,相思難重陳。 |
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巻六19山花子二首其一 鶯錦蟬縠馥麝臍,輕裾花早曉烟迷。鸂鶒戰金紅掌墜,翠雲低。星靨笑隈霞臉畔,蹙金開襜襯銀泥。春思半和芳草嫩,碧萋萋。 |
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巻六20山花子二首其二 銀字笙寒調正長,水紋簟冷畫屏涼。玉腕重金扼臂,澹梳粧。幾度試香纖手暖,一迴嘗酒絳脣光。佯弄紅絲蠅拂子,打檀郎。 |
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巻六21河滿子二首其一 正是破瓜年幾,含情慣得人饒。桃李精神鸚鵡舌,可堪虛度良宵。卻愛藍羅裙子,羨他長束纖腰。 |
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巻六22河滿子二首其二 寫得魚牋無限,其如花鏁春輝。目斷巫山雲雨,空教殘夢依依。卻愛熏香小鴨,羨他長在屏幃。 |
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巻六23薄命女一首 天欲曉,宮漏穿花聲繚繞。牎裏星光少,冷霞寒侵帳額,殘月光沉樹杪。夢斷錦幃空悄悄,強起愁眉小。 |
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巻六24望梅花一首 春草全無消息,臈雪猶餘蹤跡。越嶺寒枝香自拆,冷豔奇芳堪惜。何事壽陽無處覓,吹入誰家橫笛。 |
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巻六25天仙子二首其一 柳色披衫金縷鳳,纖手輕拈紅豆弄,翠蛾雙斂正含情。桃花洞,瑤臺夢,一片春愁誰與共。 |
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巻六26天仙子二首其二 洞口春紅飛蔌蔌,仙子含愁眉黛綠。阮郎何事不歸來,懶燒金,慵篆玉。流水桃花空斷續。 |
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巻六27春光好二首其一 紗䆫暖,畫屏閑,嚲雲鬟。睡起四肢無力,半春間。玉指剪裁羅勝,金盤點綴蘇山。窺宋深心無限事,小眉彎。 |
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巻六28春光好二首其二 蘋葉軟,杏花明,畫舡輕。雙浴鴛鴦出淥汀,棹歌聲。春水無風無浪,春天半雨半晴。紅粉相隨南浦晚,幾含情。 |
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巻六29採桑子一首 蝤蠐領上訶梨子,繡帶雙垂,椒戶閑時,競學樗蒲賭荔枝。叢頭鞋子紅編細,裙窣金絲。無事嚬眉,春思飜教阿母疑。 |
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巻六30柳枝三首其一 軟碧瑤煙似送人,映花時把翠蛾嚬。青青自是風流主,慢颭金絲待洛神。 |
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巻六31柳枝三首其二 瑟瑟羅裙金縷腰,黛眉隈破未重描。醉來咬損新花子,拽住仙郎盡放嬌。 |
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巻六32柳枝三首其三 鵲橋初就咽銀河,今夜仙郎自姓和。不是昔年攀桂樹,豈能月裏索嫦娥。 |
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巻六33漁父一首 白芷汀寒立鷺鷥,蘋風輕剪浪花時。烟冪冪,日遲遲。香引芙蓉惹釣絲。 |
漁父
(春の日、早朝から、釣り糸を垂れる風流人の隠遁者の目に映る、白にまつわる景色、白瀕、波が寄せる渚、ツガイの白鷺、日ごとに長くなる日差し、釣り糸、そこに、咲き初める芙蓉の花が香りに引き寄せられる。)
白芷汀寒立鷺鷥,蘋風輕剪浪花時。
ヨロイグサの白い小さな花があつまって生えている早春朝の寒気がひろがる水際に白鷺が羽を広げ降り立つ、白い小花の浮水草が渡る風にゆれ、さざ波起こる時よろい草も揺れれば、驚いて白露が飛び上がる。
烟冪冪,日遲遲。
靄は冪冪と広がり霞む、春の日は日ごとに日暮れが遅くなり、日一日と日が伸びる。
香引芙蓉惹釣絲。
蓮の花の香りがひろがり、漁父は釣り糸を垂れているが、その香りに引き寄せられる。
(漁父)
白芷の汀 寒くして鷺鷥 立つ、蘋風 軽く浪花を剪る時。
烟は 冪冪として、日は 遅遅たり。
香引して 芙蓉 釣糸を惹う。
『漁父』 現代語訳と訳註
(本文)
漁父
白芷汀寒立鷺鷥,蘋風輕剪浪花時。
烟冪冪,日遲遲。香引芙蓉惹釣絲。
(下し文)
(漁父)
白芷【はくし】の汀【みぎわ】寒くして鷺鷥【ろし】立つ、蘋風【ひんふう】軽く浪花を剪る時。
烟【もや】は冪冪【べきべき】として、日は 遅遅たり。
香引して 芙蓉 釣糸を惹【さそ】う。(芙蓉の香りは釣り糸を引き惹う)
(現代語訳)
(春の日、早朝から、釣り糸を垂れる風流人の隠遁者の目に映る、白にまつわる景色、白瀕、波が寄せる渚、ツガイの白鷺、日ごとに長くなる日差し、釣り糸、そこに、咲き初める芙蓉の花が香りに引き寄せられる。)
ヨロイグサの白い小さな花があつまって生えている早春朝の寒気がひろがる水際に白鷺が羽を広げ降り立つ、白い小花の浮水草が渡る風にゆれ、さざ波起こる時よろい草も揺れれば、驚いて白露が飛び上がる。
靄は冪冪と広がり霞む、春の日は日ごとに日暮れが遅くなり、日一日と日が伸びる。蓮の花の香りがひろがり、漁父は釣り糸を垂れているが、その香りに引き寄せられる。
(訳注)
漁父
(春の日、早朝から、釣り糸を垂れる風流人の隠遁者の目に映る、白にまつわる景色、白瀕、波が寄せる渚、ツガイの白鷺、日ごとに長くなる日差し、釣り糸、そこに、咲き初める芙蓉の花が香りに引き寄せられる。)
【解説】 隠遁者、風流者の漁父が釣り糸を垂れる水辺に、白芷と白鷺、白蘋とさざ波、もやとの日差し、白い花の香り、芙蓉と釣り糸の白、美人の白い肌、白という関連性で10種のものを織り込んでいる。そして、この画の向こう側に女妓の存在を感じさせる情景を詠う。末尾、垂れた釣り糸は蓮の香りに引き寄せられるかのように、風に吹かれてすーっと水面を移動する、の意。
漁父は、漁歌子のまたの名。漁歌子は唐の教坊の曲名。漁歌子には、漁父の他に、漁父詞、漁父歌、漁楽の別名がある。『花間集』には和凝の漁父一首と顧夐の漁歌子一首が収められている。和凝の作は、単調二十七字、五句四平韻で、⑦⑦3③⑦の詞形をとる。
白芷汀寒立鷺鷥 蘋風輕剪浪花時
●●△○●●○ ○△△●△○○
烟冪冪 日遲遲
○●● ●○○
香引芙蓉惹釣絲
○●○○●●○
花間集第七巻 顧夐『漁歌子』雙調五十字、前後段二十五字、六句四仄韻で、3❸❼3❸❻/3❸❼3❸❻の詞形をとる。
曉風清,幽沼綠,倚欄凝望珍禽浴。
畫簾垂,翠屏曲,滿袖荷香馥郁。
好攄懷,堪寓目,身閑心靜平生足。
酒盃深,光影促,名利無心較逐。
●△○ ○●● △○△△○○●
●○○ ●△● ●●△○●●
●○○ ○●● ○○○●○△●
●○△ △●● ○●○○●●
白芷汀寒立鷺鷥,蘋風輕剪浪花時。
ヨロイグサの白い小さな花があつまって生えている早春朝の寒気がひろがる水際に白鷺が羽を広げ降り立つ、白い小花の浮水草が渡る風にゆれ、さざ波起こる時よろい草も揺れれば、驚いて白露が飛び上がる。
○白芷 1 ヨロイグサの漢名。また、その根。漢方で鎮痛・鎮静薬などに用いる。2 ハナウドの漢名。花ウド。水辺に生える。
○鷺鷥 鷺に同じ。サギ。王維 《輞川集、欒家瀬》「颯颯秋雨中、浅浅石溜瀉。波跳自相濺、白鷺驚復下。」(颯颯たる秋雨の中、浅浅として石溜に瀉ぐ。波は跳って自ら相い濺ぎ、白鷺は驚きて復た下れり。)
烟冪冪,日遲遲。
靄は冪冪と広がり霞む、春の日は日ごとに日暮れが遅くなり、日一日と日が伸びる。
○烟冪冪 靄に霞むさま。
香引芙蓉惹釣絲。
蓮の花の香りがひろがり、漁父は釣り糸を垂れているが、その香りに引き寄せられる。
○香引芙蓉惹釣糸 「芙蓉香引惹釣糸」(芙蓉の香りは釣り糸を引き惹う)が平灰の関係で語順が変わったもの。漁父は隠遁者、風流人であり、芙蓉は蓮の花、美人である。
花間集と同時期の「漁歌子」詞。
徐積 『漁歌子』
水曲山隈四五家、夕陽煙火隔蘆花。
漁唱歇、醉眠斜。綸竿蓑笠是生涯。
(漁歌子)
水の曲 山の隈 四、五の家、夕陽の煙火蘆花を隔つ
漁唱歇【や】み、醉眠斜めなり。綸竿【りんかん】蓑笠【さりゅう】是れ 生涯。
水面が湾曲して入り組んでいるところや、山の折れ曲がって奥まったところに四、五軒の娼屋がある。夕日の中に、炊煙がアシの花の向こう側に騰がっている。
漁の歌声は、やんで。だんだんと酔って、徐々に眠りについている。釣り糸と釣り竿、蓑と笠が、生涯の命である。
徐積 1028年天聖六年~1103年崇寧二年、字は仲車。楚州山陽の人で、治平二年の進士。
徐積は若い頃から殺すことを戒め、蟻の群を見て踏まないよう気を使った。仏書を読んだことはないが、仏を論じれば的を得ていた。いつも一室に黙って座り、世の中とは関わり無いようであったが、天下の事を論じれば次から次へと倦むことは無かった。広東から変える途中の人が客としてやってきて徐積に会い、辺境の事を語った。徐積は山川の険しさ、堡塞の疎密さ番禺の搶手の利害について、まるで手元にあるが如く論じた。客は嘆息して言った。「家から出ないで天下のことを知るとはまさに徐公のことである」
これは填詞。『漁歌子』とは填詞の詞牌の一で、唐代に既にあった填詞形式。『漁歌子』は詩題ではなく形式名(正確には詞に着けられた曲名)だが、『漁歌子』など(宋詞以前の)初期のものは本意(詞の本来の意味、詞題の性質)の場合が多い。この作品もそうである。特に、『漁歌子』は、釣りをして暮らすなどの隠逸生活を詠う。中国では伝統的に、漁師や樵人は半仙の雰囲気を漂わせたものとして捉えられている。
『漁歌子』で代表的な者には『漁歌子』(西塞山前白鷺飛)唐・張志和、『漁歌子』(壯誤功名老學詩)清・趙懿、『漁歌子』漁父樂(水曲山隈四五家)宋・徐積、『漁父詞』(好個神仙張志和)宋・周紫芝、『漁歌子』(一任孤舟正又斜)元・無名氏、『漁父・和張志和詞』(雪色髭鬚一老翁)唐・無名氏、『漁父』(釣臺漁父褐爲裘)唐・張志和、『漁父』(松江蟹舎主人歡)唐・張志和などがある。(『漁父』も、『漁歌子』の同調異名(形式は同じで、名称が異なるだけのもの))。






















