顧夐 酒泉子七首其五
掩卻菱花,收拾翠鈿休上面。金蟲玉鷰鏁香奩,恨猒猒。
雲鬟半墜懶重篸,淚侵山枕濕。恨燈背帳夢方酣,鴈飛南。
(寵愛を失って、思い出すものはみんな仕舞い込む、それでも恨みを抑えて準備はするものの、夢でしか会えないから酒を飲む、また今年も秋が過ぎてしまう女を詠う)
かつてはいっぱいにさいていた菱の花の髪飾り、拾い集めて収め、翡翠も、花鈿も、顔に飾るのもやめにした。黄金細工の玉虫の飾り、輝くツガイの燕、大切な飾りも化粧箱に閉じたままにして、それでも恨みは抑えて、抑えて、心を抑える。雲型の髪に上の方に丸型に高く固めた髪が半ば崩れて垂れていて、竹の簪も下にずれているのに物憂げにそのままにしている。涙が枕に浸みこんで濡れたままになっている。閨のとばりを背にした恨みの燈燭、夢を見るために深酔いに向かわせる。もう秋のおわるのか、雁が南に向かう。
11顧夐 (改)《巻七13酒泉子七首其五》『花間集』315全詩訳注解説(改訂版Ver.2.1)-漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ-6847
酒泉子七首 其一
(その春は楽しいものであったが、いつしか遠のいて、音沙汰もない、寵愛を受けることしか生きていくことができないが、歳を重ねていくに従って、孤閏の悲しみを詠う。)
楊柳舞風,輕惹春煙殘雨。
楊柳は吹く風に舞い、細雨は風に軽やかに春靄も漂っている、しばらくしてまた雨が降る。(一雨ごとに春は深まる)
杏花愁,鶯正語,畫樓東。
きらびやかな東側の高楼で、鶯が春を告げる一番の時期、科挙の合格発表の杏園の花も愁えている。
錦屏寂寞思無窮,還是不知消息。
錦の屏風、むなして、さびしくて、あの人を思いつづけていくことがない。相も変わらず知らせはないし、何処にいるのかわからない。
鏡塵生,珠淚滴,損儀容。
それでも、寵愛を受けることの準備はいつもするが、いつしか丹念な化粧もしないからか鏡に埃がかかっているし、頬をつたうなみだは真珠をつないだように流れていて、振舞いもあの凛とした姿かたちはなくなってしまう。
(酒泉子七首 其一)
楊柳 風に舞い,春煙の殘雨に輕やかに惹る。
杏花 愁い,鶯 正に語り,畫樓の東に。
錦屏 寂寞として 思い窮り無く,還是たりて 消息を知らざれり。
鏡 塵生じ,珠淚 滴り,儀容を損う。
酒泉子七首其二其二
(寵愛を失ってしまうが、心まで折れそうになり、しだいに物憂げになってゆく、そしてまた春が来ると妃賓の情を詠う。)
羅帶縷金,蘭麝煙凝魂斷。
金糸の縫い取りの帯もそのままおかれ、蘭麝香の煙は濃くただようままに、愛する思いが断ち切られたままにとどまる。
畫屏欹,雲鬢亂,恨難任。
絵屏風は壁に斜めにしたままだし、雲型の髪は乱れたまま、恨みはもう堪えることができない。
幾迴垂淚滴鴛衾,薄情何處去。
何度もくりかえし涙で鴛鴦模様の布団を濡らしてしまう。薄情な人はどこに行ってしまったのだろうか。
登臨䆫,花滿樹,信沉沉。
高楼に登って遠くを臨むと、いつの間にか木々にいっぱい花が咲く良き時節になっている、いまも便り一つ来ないのでまた気持ちは沈んでゆく。
(酒泉子七首其の二)
羅帶 縷金【るきん】あり,蘭麝【らんじゃ】煙凝り 魂斷えたり。
畫屏 欹【そばだ】ち,雲鬢亂れ,恨 任難し。
幾つも迴して淚を垂し鴛衾に滴し,薄情 何處にか去らん。
登って䆫に臨み,花 樹に滿ち,信 沉沉【ちんちん】たり。
酒泉子七首其三
その三(寵愛を失って、それでも待っているが、さらに年を重ねていくことになるが、もう顔には涙の跡がなくなることはない)
小檻日斜,風度綠䆫人悄悄。
小殿の閨に西に傾いた日が射しこむ、風が東の緑色の枠の窓を抜けて、 静かでもの寂しく過ごす部屋を吹き抜ける。
翠幃閑掩舞雙鸞,舊香寒。
翡翠の飾りのとばりが静かに蔽っているその場所にはツガイの鸞王が描かれている。香炉には消えた古い香がそのままになっている。
別來情緒轉難判,韶顏看卻老。
別れてからも、この閨に来てくれると心に思うことはあのお方の思いばかりで他のことは考えられない、若くて美しい顔は見ると少し老けたように見える。
依稀粉上有啼痕,暗銷魂。
お白粉を上に塗って化粧を整えた顔に涙の痕がついている、どうしても心は沈んでもうあのお方のことは思い出すこともできなくなってしまう。
(酒泉子七首 其の三)
小檻 日斜めなり,風 綠䆫に度り 人悄悄たり。
翠幃 閑に掩う 雙鸞舞い,舊香 寒し。
情緒を別來して 轉た判り難し,韶顏 卻老るを看る。
粉上に依稀れにして 啼痕有り,魂銷すを暗くす。
酒泉子七首其四
(少女の時に宮廷選定に遭い後宮に入った、歳を重ねて寵愛はなくなった、手紙さえ来なくなった、もう、涙を流すことしかできない。)
黛薄紅深,約掠綠鬟雲膩。
眉が少し薄く柳の葉、唇紅は色濃く、黒髪をあげまきに結った髪を、人目につかないように、はやりのおおきな雲型に油でかためた髪型にしてもらう。
小鴛鴦,金翡翠,稱人心。
小さな鴛鴦の簪、黄金と翡翠の髪飾り、ひとの心もつがいのようにいう。
錦鱗無處傳幽意,海鷰蘭堂春又去。
錦色の鱗のように輝く色彩の美しい魚のようにここにはいないもの静かな隠遁者の思いだけが伝わってくる。海ツバメは春には巣づくりにこのきらびやかな小殿の梁下に帰って来たけれど、また去って行く。
隔年書,千點淚,恨難任。
今では重陽の日に届けてくれるお手紙も来なくなって、あるのは沢山の涕の痕、うらみにおもうことだけしていてはいけないのに。
(酒泉子七首其の四)
黛薄く紅深し,綠鬟【りょくかん】雲膩【うんじ】を約掠【やくりゃく】す。
小さき鴛鴦たり,金の翡翠に,人心を稱す。
錦鱗 處に無く 幽意を傳え,海鷰【かいえん】春に蘭堂にあるも又た去る。
年書隔り,千點の淚に,恨み 任せ難し。
酒泉子七首其五
(寵愛を失って、思い出すものはみんな仕舞い込む、それでも恨みを抑えて準備はするものの、夢でしか会えないから酒を飲む、また今年も秋が過ぎてしまう女を詠う)
掩卻菱花,收拾翠鈿休上面。
かつてはいっぱいにさいていた菱の花の髪飾り、拾い集めて収め、翡翠も、花鈿も、顔に飾るのもやめにした。
金蟲玉鷰鏁香奩,恨猒猒。
黄金細工の玉虫の飾り、輝くツガイの燕、大切な飾りも化粧箱に閉じたままにして、それでも恨みは抑えて、抑えて、心を抑える。
雲鬟半墜懶重篸,淚侵山枕濕。
雲型の髪に上の方に丸型に高く固めた髪が半ば崩れて垂れていて、竹の簪も下にずれているのに物憂げにそのままにしている。涙が枕に浸みこんで濡れたままになっている。
恨燈背帳夢方酣,鴈飛南。
閨のとばりを背にした恨みの燈燭、夢を見るために深酔いに向かわせる。もう秋のおわるのか、雁が南に向かう。
(其の五)
卻て菱花に掩う,翠鈿を收拾し 上面に休む。
金蟲 玉鷰 香奩に鏁し,恨み猒猒たり。
雲鬟【うんかん】半ば墜ち 重篸懶く,淚侵して山枕濕す。
背帳に恨燈し 夢と方【なら】んで酣す,鴈 南に飛ぶ。
『酒泉子七首,其五』 現代語訳と訳註
(本文)
酒泉子七首,其五
掩卻菱花,收拾翠鈿休上面。
金蟲玉鷰鏁香奩,恨猒猒。
雲鬟半墜懶重篸,淚侵山枕濕。
恨燈背帳夢方酣,鴈飛南。
(下し文)
(其の五)
卻て菱花に掩う,翠鈿を收拾し 上面に休む。
金蟲 玉鷰 香奩に鏁し,恨み猒猒たり。
雲鬟【うんかん】半ば墜ち 重篸懶く,淚侵して山枕濕す。
背帳に恨燈し 夢と方【なら】んで酣す,鴈 南に飛ぶ。
(現代語訳)
(寵愛を失って、思い出すものはみんな仕舞い込む、それでも恨みを抑えて準備はするものの、夢でしか会えないから酒を飲む、また今年も秋が過ぎてしまう女を詠う)
かつてはいっぱいにさいていた菱の花の髪飾り、拾い集めて収め、翡翠も、花鈿も、顔に飾るのもやめにした。
黄金細工の玉虫の飾り、輝くツガイの燕、大切な飾りも化粧箱に閉じたままにして、それでも恨みは抑えて、抑えて、心を抑える。
雲型の髪に上の方に丸型に高く固めた髪が半ば崩れて垂れていて、竹の簪も下にずれているのに物憂げにそのままにしている。涙が枕に浸みこんで濡れたままになっている。
閨のとばりを背にした恨みの燈燭、夢を見るために深酔いに向かわせる。もう秋のおわるのか、雁が南に向かう。
(訳注)
酒泉子七首, 其五
(寵愛を失って、思い出すものはみんな仕舞い込む、それでも恨みを抑えて準備はするものの、夢でしか会えないから酒を飲む、また今年も秋が過ぎてしまう女を詠う)
其五
『花間集』には顧夐の作が七首収められている。双調四十字、前段十九字五句二平韻二仄韻、後段二十一字五句二平韻で、④❼❼③/⑦57③の詞形をとる。
酒泉子七首 其一
楊柳舞風,輕惹春煙殘雨。杏花愁,鶯正語,畫樓東。
錦屏寂寞思無窮,還是不知消息。鏡塵生,珠淚滴,損儀容。
○●●△
△●○○○● ●○○
○△● ●○○
●△●●△○○ ○●△○○● ●○△ ○●● ●○○
羅帶縷金,蘭麝煙凝魂斷。畫屏欹,雲鬢亂,恨難任。
幾迴垂淚滴鴛衾,薄情何處去。登臨䆫,花滿樹,信沉沉。
○●●○ ○●○△○● ●△○ ○●● ●△△
△△○●●○○ ●○△●● ○△? ○●● △○○
酒泉子七首其三 4❼7③/❼❺7③
小檻日斜,風度綠䆫人悄悄。翠幃閑掩舞雙鸞,舊香寒。
別來情緒轉難判,韶顏看卻老。依稀粉上有啼痕,暗銷魂。
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△●●?○●● ●○○●●○○ ●○○
●△○●●△●
○○△●● △○●●●○○ ●○○
酒泉子七首其四 ④❼3❸③/❼❼3❸③
黛薄紅深,約掠綠鬟雲膩。
小鴛鴦,金翡翠,稱人心。
錦鱗無處傳幽意,海鷰蘭堂春又去。
隔年書,千點淚,恨難任。
●●○△
●●●○○●
●○○
○●● △○○
●○○●△○● ●●○○○●●
●○○ ○●●
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酒泉子七首,其五 4❼❼③/❼❺⑦③
掩卻菱花,收拾翠鈿休上面。
金蟲玉鷰鏁香奩,恨猒猒。
雲鬟半墜懶重篸,淚侵山枕濕。
恨燈背帳夢方酣,鴈飛南。
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△●●△△●●
○△●●?○○
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○○●●●△△
●△○△●
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掩卻菱花,收拾翠鈿休上面。
かつてはいっぱいにさいていた菱の花の髪飾り、拾い集めて収め、翡翠も、花鈿も、顔に飾るのもやめにした。
○翠鈿 翡翠石と金細工を花鈿として額に付ける。
牡丹花謝莺聲歇,綠楊滿院中庭月。
相憶夢難成,背窗燈半明。
翠鈿金壓臉,寂寞香閨掩。
人遠淚闌幹,燕飛春又殘。
牡丹 花謝【お】ち 鶯聲歇【や】む,綠楊【りょくよう】院に滿ち 中庭の月。
相憶【そうおく】の夢 成し難く,窗を背に燈び明りを半ばにする。
翠鈿【すいてん】の金 臉【ほほ】に壓【くず】す,寂寞【せきばく】として香 閨に掩う。
人遠く淚 闌幹【らんかん】し,燕飛 春 又殘る。
金蟲玉鷰鏁香奩,恨猒猒。
黄金細工の玉虫の飾り、輝くツガイの燕、大切な飾りも化粧箱に閉じたままにして、それでも恨みは抑え、て抑えて、心を抑える。
○鏁 錠・鏁・鎖〔動詞「鏈る」の連用形から〕 ① 金属製の輪をつないだひも状のもの。 ② 物と物とを結び付けているもの。きずな。
○「香奩」は化粧道具を収める箱》漢詩で、女性の姿態や男女の恋愛感情などを写した艶麗な詩体。
○猒猒 安泰的な樣子をいう。荀子•儒效:「猒猒兮其能長久也。」とある。
雲鬟半墜懶重篸,淚侵山枕濕。
雲型の髪に上の方に丸型に高く固めた髪が半ば崩れて垂れていて、竹の簪も下にずれているのに物憂げにそのままにしている。涙が枕に浸みこんで濡れたままになっている。
○篸 竹の簪。
恨燈背帳夢方酣,鴈飛南。
閨のとばりを背にした恨みの燈燭、夢を見るために深酔いに向かわせる。もう秋のおわるのか、雁が南に向かう。















