孫光憲 浣溪沙九首 其六
蘭沐初休曲檻前,暖風遲日洗頭天,濕雲新斂未梳蟬。
翠袂半將遮粉臆,寶釵長欲墜香肩,此時模樣不禁憐。(後宮の妃賓の洗髪のあとはきっとこのような姿であろうと、春の日長に、胸元をはだけて髪を洗い終えたばかりの魅惑的な姿を讃えた詞。)
御殿の角の手すりの前で、蘭香を浸した沐浴、髪を洗い終えたばかり、春分を過ぎれば、風は暖かになり、春の日は長くなっていくから、頭を洗って陽気の中にそのままいる。それから、長い髪を頭の上で雲型にまとめてみたものの、まだ櫛を使って梳くことなどしないし、蝉の簪も付けたりしない。翡翠色の袂には胸の襟元から、白粉をしたように白い胸を、遮ることになっている、長い宝飾の簪が蘭香の香り漂う肩に落ちかかろうとしている。こんな有様を見ることができると同時に、愛おしいと覚えずにはいられない。
12孫光憲《巻七43浣溪沙九首其六》『花間集』345全詩訳注解説(改訂版Ver.2.1)-漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ-6997
孫光憲(900年-968年),字孟文,自號葆光子。陵州貴平(今屬四川仁壽縣東北)人。五代詞人。
出生農家,好讀書,喜抄書,至老不廢。五代後唐時,曾任陵州判官,後得梁震之薦,荊南高季興聘為掌書記。[1]歷事高季興、高從誨、高保融、高保勗、高繼沖諸王,累官至檢校秘書監兼御史大夫賜金紫。後勸高繼沖獻地納降,宋太祖聞之甚悅,授黃州刺史。在荊南期間,作《北夢瑣言》。能填詞,作有《浣溪沙》、《菩薩蠻》、《虞美人》等,陳廷焯说他“詞氣甚遒,措辭亦多警練,然不及溫韋處亦在此,坐少閒逸之致”[2]。《花間集》收其詞61首。
孫光憲(900年-968年)、字を孟文と言い、自ら葆光子と号した。陵州の貴平(今の四川省仁壽縣東北)の人。唐の末に陵州の判官となったが、後唐の明宗の926年天成初年、戦乱を避けて江陵(今の湖北省の江陵)に住んだ時、南平王の高従義の知遇を得て、彼の幕下となった。963年建隆四年、当時南平王であった高継沖に末に帰服することを勧め、高継沖は、彼の勧めに従って宋に下った。宋の太祖はその功績を嘉して孫光憲を黄州刺史に任じたが、赴任前に亡くなった。詞風は淡麗清疏、水郷の風光描写に優れるが、反面、脂粉の香りにはやや欠ける。多くの著作のあったことは分かっているが、そのほとんどが末代に既に失われた。唐五代の詞人中、今日に伝わる詞は最も多く、『花間集』には六十一首の詞が収められている
浣溪沙九首 其一
(諸葛亮は万里橋で劉備の御征伐の船出を見送り、薛濤は、思い人を望江樓から見送った、。雁書が届くだろうか,杳杳として、茫茫としているところであるから川が流れ去るように忘れていくことになるのか、瀟湘二妃嬪、屈原、賈誼、とそこに沈んだ人の思いは、人の心に残っている)
蓼岸風多橘柚香,江邊一望楚天長,片帆煙際閃孤光。
岸辺の蓼がしげる中を風がぬけ、橘や柚子の香りを運んでくる、大江のほとり望江樓から一望すると船の進むと、「高唐賦」の楚は、はるかとおくに、一片の帆影を浮かべて霞む果てには雲雨を呼ぶ閃光が一つきらめく。
目送征鴻飛杳杳,思隨流水去茫茫,蘭紅波碧憶瀟湘。
眼を空に向け、飛び行く雁を遠くかすかなところまで追いかける、それでも、長江の流れははてしなくひろくひろがるから、雁書が届くのがみずのながれのようにながれてしまうのか、瀟湘八景の赤い蘭花、碧く波は数々の賢者を思い起こさせてくれる。
(浣溪沙九首 其の一)
蓼岸【りょうがん】風 橘柚の香多くし,江邊 一望 楚天長しい,片帆 煙際に 孤光 閃く。
目【もく】 征鴻を送れば 飛びて杳杳たり,思いは流水に隨い去りて茫茫たり,蘭は紅いに 波は碧く 瀟湘を憶う。
浣溪沙九首 其二
(春が来れば、行楽を楽しみにするが、今年は、どうなるのかわからない、立派な御殿に住まいをしてはいても、やるせない気持ちは晴れないのでお酒に頼ってしまう。そんな思いを詩歌を壁に書いて晴らす)
桃杏風香簾幕閑,謝家門戶約花關,畫梁幽語鷰初還。
春が訪れ、桃花の香りが風に乗り、次に杏の花の香りが届けられる、それは、簾と幔幕を抜けて誰もいないこの部屋に。愛されている妾の家に、花は満開に咲いているのに門の扉は閉められたまま。いろどられた梁の上の燕は鳴き声などなく静かになったので、初めてツバメがいなくなったのを知る。
繡閣數行題了壁,曉屏一枕酒醒山,卻疑身是夢魂間。
夜が明けてくれば屏風を動かして一人寝の枕から酔いが残ったままで目覚め、厠に行く。春の行楽を過ごすことができるのだろうか、夢とうつつとの間を行ったり来たりの生活をしていてよいのだろうか。そうした思いを、薄絹に刺繍をほどこした樓閣の壁に、数行の詩歌を題した。
浣溪沙九首 其二
桃杏から風香し 簾幕閑なり,謝家の門戶 花關に約し,畫梁には幽語 鷰初めて還る。
繡閣 數行 壁に題し了り,曉屏 一たび枕し 酒醒め 山に,卻て疑う 身是とし夢魂の間に。
浣溪沙九首 其三
(庭にたくさんの花が咲くように、あまたいる妃嬪も清純で溌剌としていたが、寵愛を受け、歳を重ねればその純真さはどこへ行くのだろう。)
花漸凋疎不耐風,畫簾垂地晚堂空,墮階縈蘚舞愁紅。
庭一杯に咲いていた花もしだいにしぼみ、まばらになってきて風に堪えられなくなってくる。きれいな簾は下におろしたまま西日が射しこむ御殿の座敷はおつきのものを下がらせて、誰もいなくて二人だけの静けさが広がる。散り落ちた赤い花弁は階にそのままにされ、舞い落ちる花弁は憂いを表して絡みながら落ちる。
膩粉半粘金靨子,殘香猶暖繡薰籠,蕙心無處與人同。
寵愛を受け、化粧によるきめの細かい皮膚に、金の付け黒子も半ばとれそうだ。閨に香りは残り、まだ刺繍の台に乗った網籠の香炉には暖かさが残っている。妃寵愛を受ければ、妃嬪の麗しい心はどこにあるのか、歳をかさねれば行く末は誰もとおんなじようになってしまう。
(浣溪沙九首 其の三)
花 漸く凋疎し 風に耐えず,畫簾 地に垂れ 晚の堂 空し,階墮ち 縈蘚 愁い 紅に舞う。
膩粉 金靨子を半粘し,殘香 猶お繡薰籠に暖く,蕙心 處に無く 人と同じうす。
浣溪沙九首 其四
(春の行楽というのに日がな一日物憂げに暮らし、季節が過ぎていく、寵愛を失い、悲しみと愁いが廻って次々と生まれてくる。歳を重ねてもちょうあいのことはわすれられない訪れるものがいない妃嬪を詠う。)
攬鏡無言淚欲流,凝情半日懶梳頭,一庭疎雨濕春愁。
鏡を手にとって見ても言葉にもならず、涙をこらえられなくて、とめどなく流れてゆこうとしている、寵愛を受けたい気持ちだけでいるものの、半日何もする気にならず髪を梳くこともしていない。寝殿前の中庭に、時折雨が降り、春というのに愁いも湿っている。
楊柳秖知傷怨別,杏花應信損嬌羞,淚沾魂斷軫離憂。
楊柳は繁り、春の盛り、季節を知るだけだと、やっぱりあの別れたことは傷ついて恨む、合格発表の後、杏の花の咲く庭園で、詩文で答えてくれたから恥を忍んで愛嬌をだしたのに裏切られた。なみだはとめどがなくながれきものをぬらすのでこころもきれてしまう、愁い悲しみから離れてもまた愁いと悲しみがやってくる。
浣溪沙九首 其四
鏡を攬り 無言にして 淚 流んと欲す,情を凝らし 半日 頭を梳くを懶く,一庭に 疎雨あり 春愁に濕う。
楊柳 秖だ知るも 怨別に傷み,杏花 應信あり 嬌羞を損い,淚沾い 魂斷し 離憂を軫る。
浣溪沙九首 其五
(選抜され、後宮に入り、ただ待つだけの生活、さきのことはわからない)
半踏長裾宛約行,晚簾疎處見分明,此時堪恨昧平生。
細腰の妃賓が半歩ずつ、長い裾の服を引いて、たおやかに小股であるいていく、夕暮れの簾の隙間からはっきりとみえている。ずっとここの御殿にいるだけで、この時、恨めしいいとおもう心は我慢ができない。
早是銷魂殘燭影,更愁聞著品絃聲,杳無消息若為情。
燃え残る灯火に映る影に既に魂は奪われ、さらに彼女の弦の調べに愁いの耳を傾けすごした、でもそれ以上は知らない、こんな思いはどうすればよいのだろう。
(浣溪沙九首 其の五)
半ば 長く裾を踏み 宛約として行く,晚簾 疎なる處 見ること分明,此の時 恨むに 平生昧きに堪える。
早に是れ 殘燭の影に銷魂し,更聞著するを愁う 品絃の聲,杳として無く 消息 情を若為【いかん】せん。
浣溪沙九首 其六
(後宮の妃賓の洗髪のあとはきっとこのような姿であろうと、春の日長に、胸元をはだけて髪を洗い終えたばかりの魅惑的な姿を讃えた詞。)
蘭沐初休曲檻前,暖風遲日洗頭天,濕雲新斂未梳蟬。
御殿の角の手すりの前で、蘭香を浸した沐浴、髪を洗い終えたばかり、春分を過ぎれば、風は暖かになり、春の日は長くなっていくから、頭を洗って陽気の中にそのままいる。それから、長い髪を頭の上で雲型にまとめてみたものの、まだ櫛を使って梳くことなどしないし、蝉の簪も付けたりしない。
翠袂半將遮粉臆,寶釵長欲墜香肩,此時模樣不禁憐。
翡翠色の袂には胸の襟元から、白粉をしたように白い胸を、遮ることになっている、長い宝飾の簪が蘭香の香り漂う肩に落ちかかろうとしている。こんな有様を見ることができると同時に、愛おしいと覚えずにはいられない。
(浣溪沙九首 其の六)
蘭沐 初めて休む 曲檻の前きに,暖風 遲日 洗頭の天,濕雲 新らたに斂【まと】め 未だ蟬を梳かず。
翠袂 半ば將に 粉臆を遮らんとし,寶釵 長く 香肩に墜ちんと欲し,此の時 模樣 憐れむに禁ぜず。
『浣溪沙九首 其六』 現代語訳と訳註
(本文)
浣溪沙九首 其六
蘭沐初休曲檻前,暖風遲日洗頭天,濕雲新斂未梳蟬。
翠袂半將遮粉臆,寶釵長欲墜香肩,此時模樣不禁憐。
(下し文)
(浣溪沙九首 其の六)
蘭沐 初めて休む 曲檻の前きに,暖風 遲日 洗頭の天,濕雲 新らたに斂【まと】め 未だ蟬を梳かず。
翠袂 半ば將に 粉臆を遮らんとし,寶釵 長く 香肩に墜ちんと欲し,此の時 模樣 憐れむに禁ぜず。
(現代語訳)
(後宮の妃賓の洗髪のあとはきっとこのような姿であろうと、春の日長に、胸元をはだけて髪を洗い終えたばかりの魅惑的な姿を讃えた詞。)
御殿の角の手すりの前で、蘭香を浸した沐浴、髪を洗い終えたばかり、春分を過ぎれば、風は暖かになり、春の日は長くなっていくから、頭を洗って陽気の中にそのままいる。それから、長い髪を頭の上で雲型にまとめてみたものの、まだ櫛を使って梳くことなどしないし、蝉の簪も付けたりしない。
翡翠色の袂には胸の襟元から、白粉をしたように白い胸を、遮ることになっている、長い宝飾の簪が蘭香の香り漂う肩に落ちかかろうとしている。こんな有様を見ることができると同時に、愛おしいと覚えずにはいられない。
(訳注)
浣溪沙九首 其六
(春の日長に、上半身をはだけて髪を洗い終えたばかりの女の魅惑的な姿を讃えた詞。)
【解説】春の日に、沐浴をし、蘭香を浸した湯水で髪を洗い、お湯から上がり、上半身をあらわにして髪を暖風遲日のなかで乾かす。綺麗、繊細で、魅力的な妃嬪を詠う。
正妻でもそれ以外でも通い婚である。休みの日に若い女の家に行って見かけた光景である。孫光憲の詩はエロ差は全くなく描き方をしていて、女性を蔑視、卑下していないのが特徴である。
『浣溪沙とは谷間の砂浜で早春の風物詩で、染め上げた沙羅を水で晒した後、並べて乾かすと、谷合が花が咲いたように見えることをいう。独り者の女性だけで行ったことで、春と沙羅と女性ということで艶歌としてうたったものが多いが、春の谷あいの様子を詠うものも多いのである。
『花間集』には孫光憲の作が六十一首収められている。浣溪沙九首其一は、双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦の詞形をとる。
蓼岸風多橘柚香,江邊一望楚天長,片帆煙際閃孤光。
目送征鴻飛杳杳,思隨流水去茫茫,蘭紅波碧憶瀟湘。
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浣溪沙九首其二は、双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦の詞形をとる。
桃杏風香簾幕閑,謝家門戶約花關,畫梁幽語鷰初還。
繡閣數行題了壁,曉屏一枕酒醒山,卻疑身是夢魂間。
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浣溪沙九首其三は双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦の詞形をとる。
花漸凋疎不耐風,畫簾垂地晚堂空,墮階縈蘚舞愁紅。
膩粉半粘金靨子,殘香猶暖繡薰籠,蕙心無處與人同。
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浣溪沙九首 其四双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦の詞形をとる。
攬鏡無言淚欲流,凝情半日懶梳頭,一庭疎雨濕春愁。
楊柳秖知傷怨別,杏花應信損嬌羞,淚沾魂斷軫離憂。
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浣溪沙九首 其五は 双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦の詞形をとる。
半踏長裾宛約行,晚簾疎處見分明,此時堪恨昧平生。
早是銷魂殘燭影,更愁聞著品絃聲,杳無消息若為情。
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浣溪沙九首 其六は 双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦の詞形をとる。
蘭沐初休曲檻前,暖風遲日洗頭天,濕雲新斂未梳蟬。
翠袂半將遮粉臆,寶釵長欲墜香肩,此時模樣不禁憐。
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蘭沐初休曲檻前,暖風遲日洗頭天,濕雲新斂未梳蟬。
御殿の角の手すりの前で、蘭香を浸した沐浴、髪を洗い終えたばかり、春分を過ぎれば、風は暖かになり、春の日は長くなっていくから、頭を洗って陽気の中にそのままいる。それから、長い髪を頭の上で雲型にまとめてみたものの、まだ櫛を使って梳くことなどしないし、蝉の簪も付けたりしない。
○蘭沐 蘭香を浸した水で髪を洗う。
○洗頭天 髪を洗うのに良い陽気で、洗髪した後しばらく長い髪のままでそのままいることをいう。
○湿雲 濡れ髪。雲は雲撃。豊かな女性の黒髪。
○新斂 あらたに束ねたばかりをいう。新は〜したばかり、の意。
○梳蟬 蝉の羽のように肌の透けて見える垂れた美しい髪の毛。ここでは髪の意であり、蝉の簪を意味する。
翠袂半將遮粉臆,寶釵長欲墜香肩,此時模樣不禁憐。
翡翠色の袂には胸の襟元から、白粉をしたように白い胸を、遮ることになっている、長い宝飾の簪が蘭香の香り漂う肩に落ちかかろうとしている。こんな有様を見ることができると同時に、愛おしいと覚えずにはいられない。
○半將 髪を洗い濡れているため、襟首のラインが下がっていて胸が少し見えるという表現。
○粉臆 白い白粉を付けたようにきれいな胸。臆は胸臆。
○欲墜香肩 髪の毛を上に束ねた簪がぬけかかって蘭香のかおる肩に落ちそうだ。欲は今にも〜しそうだ、の意。
○不禁憐 愛おしいと覚えずにはいられない。この場合の憐は可憐なさまという意味。




























