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4.温庭筠 菩薩蠻
翠翹金縷雙鸂鵣,水紋細起春池碧。
みどりの羽に金糸をまとった美しいつがいのおしどりが、池のうえに睦まじく戯れている。水紋がこまかくたちおこる春の池は深くみどり水を湛えている。
池上海棠梨,雨晴紅滿枝。
池のほとりには海棠の花がさき、雨あがりに紅の花が枝いっぱいにさきみちて、春のこころをただよわせている。
繡衫遮笑靥,煙草粘飛蝶。
刺繍をした衫の袖でわかれたままの愁いに沈んでえくぼをおおいかくす。ぼんやりとした春かすみのなか春草にふれたり離れたり蝶がたわむれ飛ぶのである。
青瑣對芳菲,玉關音信稀。

青漆で塗った東の門のほとりにはかぐわしい春の草が花をさかせるころとなったが、とおい西域の国境のかなた玉門関へいった人からの便りもまれにしかやってこない。

翠翹【すいぎょう】金縷【まと】う雙【つがい】の鸂鵣【けいせき】,水紋 細に起き春池の碧。
池上 海棠【かいどう】梨【り】,雨晴れて紅枝に滿つ。
繡衫にて笑靥【えくぼ】を遮い,煙草粘りて飛ぶ蝶。
青瑣【せいき】芳菲に對す,玉關 音信稀れなり。

宮島(1)


『菩薩蠻 四』 現代語訳と訳註
(本文)

翠翹金縷雙鸂鵣,水紋細起春池碧。
池上海棠梨,雨晴紅滿枝。
繡衫遮笑靥,煙草粘飛蝶。
青瑣對芳菲,玉關音信稀。


(下し文)
翠翹【すいぎょう】金縷【まと】う雙【つがい】の鸂鵣【けいせき】,水紋 細に起き春池の碧。
池上 海棠【かいどう】梨【り】,雨晴れて紅枝に滿つ。
繡衫にて笑靥【えくぼ】を遮い,煙草粘りて飛ぶ蝶。
青瑣【せいき】芳菲に對す,玉關 音信稀れなり。


(現代語訳)
みどりの羽に金糸をまとった美しいつがいのおしどりが、池のうえに睦まじく戯れている。水紋がこまかくたちおこる春の池は深くみどり水を湛えている。
池のほとりには海棠の花がさき、雨あがりに紅の花が枝いっぱいにさきみちて、春のこころをただよわせている。
刺繍をした衫の袖でわかれたままの愁いに沈んでえくぼをおおいかくす。ぼんやりとした春かすみのなか春草にふれたり離れたり蝶がたわむれ飛ぶのである。
青漆で塗った東の門のほとりにはかぐわしい春の草が花をさかせるころとなったが、とおい西域の国境のかなた玉門関へいった人からの便りもまれにしかやってこない。


(訳注)
翠翹金縷雙鸂鵣,水紋細起春池碧。

みどりの羽に金糸をまとった美しいつがいのおしどりが、池のうえに睦まじく戯れている。水紋がこまかくたちおこる春の池は深くみどり水を湛えている。
・翠翹金縷雙鸂鵣 翠翹はみどり色の羽。金縷は金糸。鸂鵣はおしどりの一種。翠翹金縷はおしどりの長い羽の美麗なことをいう。雙はおしどりがその習性として常に雌雄並んでいるのをいい、閨中の妓女が独居する寂蓼に対していう。


池上海棠梨,雨晴紅滿枝。
池のほとりには海棠の花がさき、雨あがりに紅の花が枝いっぱいにさきみちて、春のこころをただよわせている。
・海棠梨 海棠のこと。海は外国から渡来した植物の意。1 バラ科の落葉小高木。枝は紫色で垂れ下がり、葉は楕円形。4月ごろ、紅色の花が下向きに咲き、実は丸く、黄褐色に熟す。中国の原産で、庭木などにする。垂枝(すいし)海棠。花(はな)海棠。
薛濤『海棠渓』
春教風景駐仙霞、水面魚身総帯花。
人世不思霊卉異、競将紅纈染軽沙。

  薛濤(せつとう)の詩
 ・紅 花の意。詞では花のことを多く紅という。


繡衫遮笑靥,煙草粘飛蝶。
刺繍をした衫の袖でわかれたままの愁いに沈んでえくぼをおおいかくす。ぼんやりとした春かすみのなか春草にふれたり離れたり蝶がたわむれ飛ぶのである。
繍衫 刺繍をほどこした衫。衫はひとえの短い服。
遮笑靥 えくぼをおおいかくす。憂愁をあらわすようす。
煙草粘飛蝶 煙草は春霞の中につつまれた草。粘は粘着ねばりつく。草に蝶がくっついたり飛んだりしているさまをいう。男女の愛し合うさまを想像させる句である。


青瑣對芳菲,玉關音信稀。
青漆で塗った東の門のほとりにはかぐわしい春の草が花をさかせるころとなったが、とおい西域の国境のかなた玉門関へいった人からの便りもまれにしかやってこない。
繍衫 刺繍をほどこした衫。衫はひとえの短い服。
遮笑靥 えくはをおおいかくす。憂愁をあらわすようす。
青瑣 門の扉に瑣形の模様を彫刻して青漆で塗ったもの。ひいては宮門をいうがここは貴族の家の門の意。遊郭とか娼屋の門は西門を云う。
芳非 よいにおいのする草花。・玉関 玉門閑、甘粛省敦煙県にある。遠征している夫の行っている国境のかなたの意に用いる。 
李白 子夜呉歌 秋
長安一片月、万戸涛衣声。
秋風吹不尽、総是玉関情。

李白22 子夜呉歌 春と夏

李白24 子夜呉歌其三 秋 と25 冬



1 温庭筠 おんていいん
(812頃―870以後)本名は岐、字は飛卿、幷州(山西省大原)の人。初唐の宰相温彦博の子孫にあたるといわれる。年少のころから詩をよくしたが、素行がわるく頽廃遊蕩生活に耽り、歌樓妓館のところに出入して、艶麗な歌曲ばかりつくっていた。進士の試験にも落第をつづけ、官途につくこともできなかった。徐商が裏陽(湖北)の地方長官をしていたとき、採用されて巡官となり、ついで徐商が中央の高官(成通のはじめ尚書省に入る)になったので、さらに任用されようとしたが成らなかった。859年頃に詩名によって特に召されて登用され、国子(大学)助教となった。たが、叙任前に微行中の宣宗に無礼があって罷免され、晩年は流落して終わった。そのため、生歿が未詳である。

集に撞蘭集三巻、金墨集十巻、漢南其稿十巻があったという。かれは晩唐の詩人として李商隠と相並び、「温李」として名を知られている。音楽に精しく、鼓琴吹笛などを善くし、当時流行しつつあった詞の作家としても韋荘と相並んで「温韋」の称があった。その詞の大部分は超崇祚の編した花間集に収載されている。洗練された綺麗な辞句をもちいた、桃李の花を見るような艶美な作風は花間集一派の詞人を代表するもので、「深美閎約」と批評されているその印象的なうつくしさにおいてほ花間集中、及ぶものがないといってよく、韋荘の綺麗さとよい対照をなしている。王国維が花間集に収載する六十六首のほか他書に散見するものを合せて輯した金荃詞一巻があり、七十首を伝えている。