『定西番三首』(三) 温庭筠

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『定西番三首』(三) 温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-29-4-#7  花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1732


定西番 一
漢使昔年離別,攀弱柳,折寒梅,上高台。
千裏玉關春雪,雁來人不來。
羌笛一聲愁絕,月徘徊。

定西番 二
海燕欲飛調羽,萱草綠,杏花紅,隔簾櫳。
雙鬓翠霞金縷,一枝春豔濃。
樓上月明三五,瑣窗中。

定西番 三
細雨曉莺春晚,人似玉,柳如眉,正相思。
羅幕翠簾初卷,鏡中花一枝。
腸斷寒門消息,雁來稀。


定西番 一
漢使昔年離別,攀弱柳,折寒梅,上高台。
漢の武帝が使者まで出して西王母を待ったがいったん別れたら二度と会えなかったという。わたしは若々しく柳のようにしなやかに挙げて過ごしし、折楊柳の変わりに寒梅を折って旅の健康を祈り、高台に上って見送るのです。
千裏玉關春雪,雁來人不來。
遙か千里先の玉門関に春が訪れても雪が残るという、私の所には雁が来ても、あの人は来てくれない。
羌笛一聲愁絕,月徘徊。
羌笛が一声響いてくるとその憂えを含んだ響きに気持ちも絶え絶えになる、今日もまた月の輝く庭を徘徊するのです

定西番 一
漢使 昔年の離別,弱【わか】い柳を攀ぐ,寒梅を折り,高台に上る。
千裏玉關の春雪,雁來るも 人來らず。
羌笛一聲して 愁絕し,月に 徘徊す。


定西番 二
海燕欲飛調羽,萱草綠,杏花紅,隔簾櫳。
海ツバメは翅を整えてとぼうとしている。勿忘草は緑の葉を茂らせている。杏の花は赤く咲いている。宮女の部屋の格子窓の向こうの簾越しに見えてたのしむ。
雙鬓翠霞金縷,一枝春豔濃。
宮女の左右の鬢には翡翠の髪飾りに覆われ金の細糸で飾られている。
樓上月明三五,瑣窗中。

高楼の上に月影が照らし輝き花を愛でる人影が三々五々と歩いている。宮女は小さな窓から眺めている。

定西番 二
海燕 羽を調【ととの】えて飛ばんと欲するも,萱草 【かんそう】綠なり,杏花は紅たり,簾櫳を隔てしなり。
雙鬓【そうびん】翠霞の金縷,一枝春豔濃【えんのう】。
樓上 月明にして三五たり,瑣窗【そうそう】の中。

定西番 三
細雨曉鶯春晚,人似玉,柳如眉,正相思。
小ぬか雨が降り、やがて暁に啼くのうぐいすの声も強く響き、もう春も終わろうとしている。愛しき人は玉のように輝いてうつくしい、引き締まった顔に柳の葉の眉が似合う、本当にあの人を心からいとしくおもっている。
羅幕翠簾初卷,鏡中花一枝。
この部屋の薄絹のとばりに、翡翠のすだれをいまはじめてかかげたばかりのこの日の部屋の仕度を整える。そして鏡にうつる愛しき人は一枝の花のように麗しい。
腸斷寒門消息,雁來稀

そんなに愛し合っていたのに今腸が裂ける思いでいるし、北方国境の塞からの消息もとだえている。
そしてこのごろは季節が変われば雁は帰って來るけれど季節が変わっても来ることも稀になっている。

細雨 曉鶯【ぎょうおう】春晚,人玉に似る,柳 眉の如し,正に相い思う。
羅幕【らばく】翠簾【すいれん】初めて卷き,鏡中 花一枝。
腸斷【ちょうだん】寒門 消息す,雁 稀に來る。

曉鶯005
『定西番』 三 現代語訳と訳註
(本文)

定西番 三
細雨曉鶯春晚,人似玉,柳如眉,正相思。
羅幕翠簾初卷,鏡中花一枝。
腸斷寒門消息,雁來稀。


(下し文)
定西番 三
細雨 曉鶯【ぎょうおう】春晚,人玉に似る,柳 眉の如し,正に相い思う。
羅幕【らばく】翠簾【すいれん】初めて卷き,鏡中 花一枝。
腸斷【ちょうだん】寒門 消息す,雁 稀に來る。


(現代語訳)
小ぬか雨が降り、やがて暁に啼くのうぐいすの声も強く響き、もう春も終わろうとしている。愛しき人は玉のように輝いてうつくしい、引き締まった顔に柳の葉の眉が似合う、本当にあの人を心からいとしくおもっている。
この部屋の薄絹のとばりに、翡翠のすだれをいまはじめてかかげたばかりのこの日の部屋の仕度を整える。そして鏡にうつる愛しき人は一枝の花のように麗しい。

そんなに愛し合っていたのに今腸が裂ける思いでいるし、北方国境の塞からの消息もとだえている。そしてこのごろは季節が変われば雁は帰って來るけれど季節が変わっても来ることも稀になっている。


(訳注)
定西番 三

唐以降の中国王朝における宮廷に仕える楽人や妓女たちに宮廷音楽を教習させるための機関をさす。楽曲や歌舞の習得を主な目的とするが、官妓にあたる妓女を統括する役割もあった。その後の王朝に引き継がれ、清代まで続いたが、雍正帝の時に廃止された。
『定西番』は宮廷で歌われたこの教坊曲である。


細雨曉鶯春晚,人似玉,柳如眉,正相思。
小ぬか雨が降り、やがて暁に啼くのうぐいすの声も強く響き、もう春も終わろうとしている。愛しき人は玉のように輝いてうつくしい、引き締まった顔に柳の葉の眉が似合う、本当にあの人を心からいとしくおもっている。
細雨曉鶯春晚 早春から晩春への季節の移り変わりを云う。
・人似玉,柳如眉,正相思 人の美しさと感情と表現する。


羅幕翠簾初卷,鏡中花一枝。
この部屋の薄絹のとばりに、翡翠のすだれをいまはじめてかかげたばかりのこの日の部屋の仕度を整える。そして鏡にうつる愛しき人は一枝の花のように麗しい。
・羅幕二句 女性が最高に美しく男性か通い詰めていたころのことを表現している。


腸斷寒門消息,雁來稀。
そんなに愛し合っていたのに今腸が裂ける思いでいるし、北方国境の塞からの消息もとだえている。そしてこのごろは季節が変われば雁は帰って來るけれど季節が変わっても来ることも稀になっている。
腸斷 男女の性交渉を意味する。
寒門 北方国境の関門、塞。
消息 女の年齢が増えてきたこと、この頃は十代がピークで二十代後半から三十代の女性の事を題材にしている。
雁來稀 帰ってきてもほかの女の所に行っているというほどの意味である。。