(薛昭蘊)≪喜遷鶯三首其二≫ (科挙に及第した両家の子息の合格前夜と合格の祝宴などを詠う)昨日、科挙に受かったので、いま、金門を出て行こうとすると暁の空に変わろうとしている。それは科挙合格の耀く長安の春のことである。だから、駿馬にまたがって喜び勇んで砂塵を巻いて突っ走っていく。
9 17 喜遷鶯三首 其二 (薛昭蘊)薛侍郎昭蘊ⅩⅫ唐五代詞・「花間集」 Gs-394-9-#17 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3517
花間集に『喜遷鶯』は韋荘二首、毛文錫一首、薛昭蘊三首みえる。
●韋相莊 喜遷鶯二首
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喜遷鴬 其一 ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-293-5-#47 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3012
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喜遷鴬 其二 韋荘 ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-294-5-#48 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3017
●毛文錫(毛司徒文錫) 喜遷鶯一首
●薛侍郎昭蘊 喜遷鶯三首
喜遷鶯三首 其一
(女、女妓の一生を詠う。)
殘蟾落,曉鐘鳴,羽化覺身輕。
名残の月も沈んで、暁の仕事始めの鐘が打ち鳴らされ、酔いはのこったまま、その身はまだ夢見心地なのだ。
乍無春睡有餘酲,杏苑雪初晴。
たちまちのうちにうとうとともできない二日酔いのようである。杏の中庭の庭園には雪のように花が咲いてお天気も晴れてきた。
紫陌長,襟袖冷,不是人間風景。
都大路は花が咲き長く続く、おんなの襟や袖は涙にぬれて冷たい、これは女の本筋ではなかったのだがこれが人の世の風景というものなのだ。
迴看塵土似前生,休羨谷中鶯。
この人の世の塵の様なものまで見まわしてみると結局、前の年も、その前も、そして、自分たちの前世も似たようなものなのである。春を告げる鶯の声を羨むことをやめたのだろう谷の奥の方に行ってしまった。
当時、長安は人口120万にを超す世界最大級の都市であった。
7世紀に建立された大雁塔は古き良き長安の姿を今も残す。
この詩の杏園は大雁塔の皆々あった庭園である。
春、都では官僚になるための試験、科挙に合格した者たちの祝宴が開かれる。
貴族たちの家々は合格者に解放され、無礼講。
庭の花を競い、酒を競い、華やかな歌舞に宮廷料理、宴は賑やかに行われる。
科挙に合格した者だけがわが世の春を謳歌するのだ。
この日だけは、華やかな高殿の若き乙女たちも主役の座を譲ってくれる。
この試験のために全国から若者が集まってくる。
何年もかかってやっと合格するもの、どうしても及第しないもの悲喜こもごもの日なのだが、この詩は長安のにぎわいを詠った有名な詩である。
喜遷鶯三首 其二
(科挙に及第した両家の子息の合格前夜と合格の祝宴などを詠う)
金門曉,玉京春,駿馬驟輕塵。
昨日、科挙に受かったので、いま、金門を出て行こうとすると暁の空に変わろうとしている。それは科挙合格の耀く長安の春のことである。だから、駿馬にまたがって喜び勇んで砂塵を巻いて突っ走っていく。
樺煙深處白衫新,認得化龍身。
昨日の夜、樺の灯火の煙は奥まったところにまで漂っていったのだ。そこには白く新しい上着をまとった女がいて、そこで龍身に化身(男になった)したのだ。
九陌喧,千戶啓,滿袖桂香風細。
長安城の「九通」どの通りも喧しくなり、千個どの家も家の門を開いた。人々は手を振って喜んでくれ、桂のよい香りは春のおだやかな微風に乗って届いた。
杏園歡宴曲江濱,自此占芳辰。
杏園で、歓喜の祝宴を賜り、曲江のほとりの砂浜でも祝い、長安の街を園遊する。このようにいま自分はよい日、よい時を一人でかみしめているのだ。
(喜遷鶯三首 其の二)
金門の曉,玉京の春,駿馬 驟【にわか】に塵輕【じんけい】。
樺煙 深處 白衫新たなり,龍身に化するを認得す。
九陌の喧,千戶の啓,滿袖 桂香 風細やかに。
杏園の歡宴 曲江の濱,自ら此に 芳辰を占む。
喜遷鶯三首 其三
清明節,雨晴天,得意正當年。
馬驕泥軟錦連乾,香袖半籠鞭。
花色融,人競賞,盡是繡鞍朱鞅。
日斜無計更留連,歸路艸和煙。
『喜遷鶯三首 其二』 現代語訳と訳註
(本文)
喜遷鶯三首 其二
金門曉,玉京春,駿馬驟輕塵。
樺煙深處白衫新,認得化龍身。
九陌喧,千戶啓,滿袖桂香風細。
杏園歡宴曲江濱,自此占芳辰。
(下し文)
(喜遷鶯三首 其の二)
金門の曉,玉京の春,駿馬 驟【にわか】に塵輕【じんけい】。
樺煙 深處 白衫新たなり,龍身に化するを認得す。
九陌の喧,千戶の啓,滿袖 桂香 風細やかに。
杏園の歡宴 曲江の濱,自ら此に 芳辰を占む。
(現代語訳)
(科挙に及第した両家の子息の合格前夜と合格の祝宴などを詠う)
昨日、科挙に受かったので、いま、金門を出て行こうとすると暁の空に変わろうとしている。それは科挙合格の耀く長安の春のことである。だから、駿馬にまたがって喜び勇んで砂塵を巻いて突っ走っていく。
昨日の夜、樺の灯火の煙は奥まったところにまで漂っていったのだ。そこには白く新しい上着をまとった女がいて、そこで龍身に化身(男になった)したのだ。
長安城の「九通」どの通りも喧しくなり、千個どの家も家の門を開いた。人々は手を振って喜んでくれ、桂のよい香りは春のおだやかな微風に乗って届いた。
杏園で、歓喜の祝宴を賜り、曲江のほとりの砂浜でも祝い、長安の街を園遊する。このようにいま自分はよい日、よい時を一人でかみしめているのだ。
(訳注)
喜遷鶯三首 其二
またの名を喜選鶯令、鶴冲天、鶴冲霽、燕帰来、燕帰梁、早梅芳、春光好などという。“花間集」には薛昭蘊の詩一首収められている。双調四十七字、前段二十三字五句五平韻、後段二十四字五句二仄韻二平韻で、③③⑤⑦⑤/3❸❻⑦⑤の詞形をとっている。
其二
(科挙に及第した両家の子息の合格前夜と合格の祝宴などを詠う)
* 前段は発表前夜に内示を受けたのだろう汴虚ばかりの毎日から解放され、女儀のもとに行って初めての経験を詩男になる。後段、晴れて合格の日、合格者には無礼講、馬を走らせ、家々のボタンを見て回ると、人々が小口に出て手を振っていわってくれ、やがて皇帝主催の祝宴が、曲江の杏園で行われる。
*ただ、薛昭蘊という人物は『花間集』で高く取り上げられているものの誰だかわかっていない。この詩からも高級官僚になった家柄であろうということは推察できる。おそらく899年兵部侍郎になった紹緯に間違いないと考える。(9-1小重山二首其一に示した略歴とは異なる。)
金門曉,玉京春,駿馬驟輕塵。
昨日、科挙に受かったので、いま、金門を出て行こうとすると暁の空に変わろうとしている。それは科挙合格の耀く長安の春のことである。だから、駿馬にまたがって喜び勇んで砂塵を巻いて突っ走っていく。
・金門 城郭の西側壁面の中央にある門、長安では金光門(b-6)、大明宮では金馬門である。ここでは遊郭の中央にある門遊郭の中心部といった意味である。貴公子の実家はこの門から北の方五陵の高級邸宅地にある。「金門暁」はこの街で夜明けを迎えたということは、夜明け前に出発する当時の習慣から、(いま、あの人は金門を出て行こうとすると暁の空に変わろうとしている)というほどの意味になる。
・驟輕塵 喜び勇んで砂塵を巻いて突っ走る。・驟 馬が速く走る。にわか。しばしば。喜ぶ。歓喜する。
韋荘『河傳其二』
春晚,風暖,錦城花滿,狂殺遊人。
玉鞭金勒,尋勝馳驟輕塵,惜良晨。
翠娥爭勸邛酒,纖纖手,拂面垂絲柳。
歸時煙裏,鐘鼓正是黃昏,暗銷魂。
(春の行楽に景勝地に馬を駆って早馬で蒙塵を発てて行くものがいるという内容。)
106 河傳三首 其二 韋荘 ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-287-5-#41
漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ2982
樺煙深處白衫新,認得化龍身。
昨日の夜、樺の灯火の煙は奥まったところにまで漂っていったのだ。そこには白く新しい上着をまとった女がいて、そこで龍身に化身(男になった)したのだ。
・樺煙 蝋を樺の木の皮で巻いた灯火の煙。
浣溪沙十首 其一
鈿轂香車過柳堤,樺煙分處馬頻嘶,為他沉醉不成泥。
花滿驛亭香露細,杜鵑聲斷玉蟾低,含情無語倚樓西。
浣渓沙 十首 其一 張泌【ちょうひつ】 ⅩⅫ唐五代詞・ 「花間集」 Gs-339-7-#1 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3242
・認得化龍身 初めて男になり、女となったころ。前夜、「樺煙」を持った男が新しい肌着を付けた女のところで「龍身」に変わったということで、翌朝、喜んで出発するということになる。
九陌喧,千戶啓,滿袖桂香風細。
長安城の「九通」どの通りも喧しくなり、千個どの家も家の門を開いた。人々は手を振って喜んでくれ、桂のよい香りは春のおだやかな微風に乗って届いた。
・九陌 長安皇城の南に南北に九の通りがあり、東西にも同じ九通りで区画された。五行思想と宇宙観である。一区画を「坊」と呼んだ。
杏園歡宴曲江濱,自此占芳辰。
杏園で、歓喜の祝宴を賜り、曲江のほとりの砂浜でも祝い、長安の街を園遊する。このようにいま自分はよい日、よい時を一人でかみしめているのだ。
・杏園 長安の曲江の池の畔(ほとり)にあった杏園で、祝宴を賜り、長安の街を園遊し、咲き誇る牡丹などの花を観賞する慣わしがあった。また、貴族は自邸自慢のボタンを庭を開放して鑑賞させ、合格者の無礼を許した。
・芳辰 1 よい日。よい時。吉日。2 かぐわしい春の時節。
韋荘『長安の春』
長安の春
長安二月多香塵、六街車馬聲鈴凛。
家家楼上如花人、千枝萬枝紅艶新。
簾間笑語自相問、何人占得長安春。』
長安春色本無主、古来盡屬紅樓女。
如今無奈杏園人、駿馬輕車擁将去。』
長安春 韋荘 ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-269-5-#23 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ2892