顧夐《虞美人其二》(逢えなくて、別れてもなおわすれることもできないでいる、うらむだけでは生きていけないと廣い気持ちになろうと思いなおすと詠う。)まだ緑の蓮の葉と蕾はそれぞれ寄り添っていて池の端にはいっぱいに繁っている。自分の身は清廉なもので枕にも、簟のシーツにもきれいなもので・別れたのに忘れられずに花の香りをこの閨に広げている。どんなに恨んでみても落ち着いてあの人のことを思い続けよう。


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虞美人六首

其一

(逢えなくても我慢してきた春の心が約束の日にも訪ねてくれず、心も体も満たされず、女の浮気心を目覚めさせることを詠う。)

曉鶯啼破相思夢,簾看金泥鳳。

夜も眠りにつけずうとうととしていると、春を告げに鶯が啼き、あの人と過ごす夢の続きを破られてしまう。起き上がり、寝床を離れて金泥の鳳模様の簾を巻き上げてみる。

宿粧猶在酒初醒,翠翹慵整倚雲屏,轉娉婷。

寝化粧はそのまま残っていて、酒はいくら飲んでも初めから酔いはしなかった、鏡を見て、翡翠の簪を物憂げの心でなおしてみて、雲母の屏風に寄り添ってみる。どうみてもこれだけ艶めかしさいっぱいなのだ。 

香檀細畫侵桃臉,羅袂輕輕斂。

香しき薄紅色の白粉を眉尻から頬にかけてすかしを入れて、桃の花のように優しい顔に化粧をなおした。涙がにじむので薄絹の袂でそっとなんども拭う。

佳期堪恨再難尋,綠蕪滿院柳成陰,負春心。

逢瀬の約束の日というのに、再び語り合うことが出来ないという、恨めしき気持ちのまま堪えなければいけないのだ。奥の院の庭一面に草花は生えさきみだれ、やがて柳のはがしげって暗く影を為す季節になろうという、春になればあの人と情を交わし合うという期待はやぶられてしまった、もうその気持ちは失って他の人に思いを寄せることになるのだろうか。

(虞美人六首其の一)

曉の鶯 啼き破りて相いに夢を思い,簾 金泥の鳳を看る。

宿粧 猶お酒 初めの醒る在り,翠翹 慵じて雲屏にる倚を整え,轉た娉婷たり。

香檀 細かに畫き 桃臉を侵し,羅袂 輕輕として斂む。

佳期 恨むに堪え 再び尋ね難き,綠蕪 院に滿ち 柳 陰を成し,春心に負く。 

其二

(逢えなくて、別れてもなおわすれることもできないでいる、うらむだけでは生きていけないと廣い気持ちになろうと思いなおすと詠う。)

觸簾風送景陽鐘,鴛被繡花重。

そよ風が簾を揺らしていく、春麗らかな昼下がり時を告げる鐘の音が聞えてくる。閨には鴛鴦の刺繍に牡丹の花が重ねて刺繍している蒲団がかけられている。

曉幃初卷冷煙濃,翠勻粉黛好儀容,思嬌慵。

とばりに明け方の日差しが当たってきたのではじめて巻き上げてみると、朝未だ冷たく朝もやがまだ濃く漂う。眉の緑が薄くなっているので粉の眉でなおすとやっと美しい晴れやかな顔になった。だけど、この艶やかさをだれに見せるともないので物憂げな気持ちになってしまう。

起來無語理朝粧,寶匣鏡凝光。

また、起き上がって窓辺に立って見ても、誰に話すこともなく、朝の化粧に整えてみる。どの飾にしようかと宝物の小箱を手にとると、その二朝日が射しこんで鏡が反射するように輝いた。

綠荷相倚滿池塘,露清枕簟藕花香,恨悠揚。

まだ緑の蓮の葉と蕾はそれぞれ寄り添っていて池の端にはいっぱいに繁っている。自分の身は清廉なもので枕にも、簟のシーツにもきれいなもので・別れたのに忘れられずに花の香りをこの閨に広げている。どんなに恨んでみても落ち着いてあの人のことを思い続けよう。

 

(虞美人六首、其の二)

簾觸れ 風送りて 景陽の鐘,鴛の繡の花重るを被う。

曉の幃 初めて卷き 煙濃を冷くし,翠 勻【すくな】く 粉黛す 好く儀容し,嬌やかと慵うくを思う。

起き來りて 語らる無く 朝粧を理【おさめ】る,寶匣 鏡 光を凝【かため】る。

綠荷【ろくか】相い倚り 池塘に滿つ,露清く 枕簟【ちんてん】藕花【ぐうか】の香,悠揚【ゆうよう】を恨む。


 『虞美人』 現代語訳と訳註

(本文)

虞美人六首其二

觸簾風送景陽鐘,鴛被繡花重。

曉幃初卷冷煙濃,翠勻粉黛好儀容,思嬌慵。

起來無語理朝粧,寶匣鏡凝光。

綠荷相倚滿池塘,露清枕簟藕花香,恨悠揚。

(下し文)

(虞美人六首、其の二)

簾觸れ 風送りて 景陽の鐘,鴛の繡の花重るを被う。

曉の幃 初めて卷き 煙濃を冷くし,翠 勻【すくな】く 粉黛す 好く儀容し,嬌やかと慵うくを思う。

起き來りて 語らる無く 朝粧を理【おさめ】る,寶匣 鏡 光を凝【かため】る。

綠荷【ろくか】相い倚り 池塘に滿つ,露清く 枕簟【ちんてん】藕花【ぐうか】の香,悠揚【ゆうよう】を恨む。

bijo02

 

(現代語訳)

(逢えなくて、別れてもなおわすれることもできないでいる、うらむだけでは生きていけないと廣い気持ちになろうと思いなおすと詠う。)

そよ風が簾を揺らしていく、春麗らかな昼下がり時を告げる鐘の音が聞えてくる。閨には鴛鴦の刺繍に牡丹の花が重ねて刺繍している蒲団がかけられている。

とばりに明け方の日差しが当たってきたのではじめて巻き上げてみると、朝未だ冷たく朝もやがまだ濃く漂う。眉の緑が薄くなっているので粉の眉でなおすとやっと美しい晴れやかな顔になった。だけど、この艶やかさをだれに見せるともないので物憂げな気持ちになってしまう。

また、起き上がって窓辺に立って見ても、誰に話すこともなく、朝の化粧に整えてみる。どの飾にしようかと宝物の小箱を手にとると、その二朝日が射しこんで鏡が反射するように輝いた。

まだ緑の蓮の葉と蕾はそれぞれ寄り添っていて池の端にはいっぱいに繁っている。自分の身は清廉なもので枕にも、簟のシーツにもきれいなもので・別れたのに忘れられずに花の香りをこの閨に広げている。どんなに恨んでみても落ち着いてあの人のことを思い続けよう。

 

 杏の花01

(訳注)

3 -2 虞美人六首 其二

『花間集』には顧夐の作が六首収められている。双調五十八字、前後段五句二十九字二仄韻三平韻で、❼❺⑦⑦③/❼❺⑦⑦③の詞形をとる。他の男が手を出せない、美しい女妓、宮女を虞美人としてうたうもの。

 

虞美人六首其二

(逢えなくて、別れてもなおわすれることもできないでいる、うらむだけでは生きていけないと廣い気持ちになろうと思いなおすと詠う。)その二。

 

觸簾 風送 景陽鐘,鴛被 繡花重。

そよ風が簾を揺らしていく、春麗らかな昼下がり時を告げる鐘の音が聞えてくる。閨には鴛鴦の刺繍に牡丹の花が重ねて刺繍している蒲団がかけられている。

景陽 春麗らかな昼下がり。

 

曉幃 初卷 冷煙濃,翠勻 粉黛 好儀容,思 嬌慵。

とばりに明け方の日差しが当たってきたのではじめて巻き上げてみると、朝未だ冷たく朝もやがまだ濃く漂う。眉の緑が薄くなっているので粉の眉でなおすとやっと美しい晴れやかな顔になった。だけど、この艶やかさをだれに見せるともないので物憂げな気持ちになってしまう。

幃 1≡帷 2(古代の身に帯びる)香袋.

勻 すくない、 ひとしい

儀容 礼儀にかなった姿や態度。容儀。

嬌 あでやか。なまめかしい。

慵 物憂い,けだるい.

 

起來 無語 理朝粧,寶匣 鏡凝光。

また、起き上がって窓辺に立って見ても、誰に話すこともなく、朝の化粧に整えてみる。どの飾にしようかと宝物の小箱を手にとると、その二朝日が射しこんで鏡が反射するように輝いた。

 

綠荷 相倚 滿池塘,露清 枕簟 藕花香,恨 悠揚。

まだ緑の蓮の葉と蕾はそれぞれ寄り添っていて池の端にはいっぱいに繁っている。自分の身は清廉なもので枕にも、簟のシーツにもきれいなもので・別れたのに忘れられずに花の香りをこの閨に広げている。どんなに恨んでみても落ち着いてあの人のことを思い続けよう。

綠荷 蓮の花は夏の花で春は蕾であり、晩春には水面は緑で一杯になり、池の堤の春草とで緑いっぱいになる。

藕【ぐう】レンコン.藕断絲連 《成》(レンコンはちぎっても糸がつながっている>)(男女が)別れたのになお関係を断ち切れずにいる.藕粉 []レンコンの澱粉.

悠揚 ゆったりとしてこせこせしないさま。落ち着いているさま。
海棠花022