顧夐 虞美人六首 其五  この閨のまわりにも春の景色が深くなってくるという年増美人の場合でも、起きて思い焦がれ、寝ては夢想して待つのも疲れ果てる。春蕪のように白くてやわらかいその身も、春の日の長いのも共に恨んでしまうことになる。高麗鶯でさえ愛嬌よく囀って、香しくにおい立つほど優美であっても、汚されてしまうのは美人でもそうである。杏の花さく枝に絵のように美しくても霞がかかれば見えないし、窓を閉めれば見えはしない。

2014年3月2日

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虞美人二首

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虞美人一首

 

 

虞美人六首

其一

曉鶯啼破相思夢,簾看金泥鳳。

宿粧猶在酒初醒,翠翹慵整倚雲屏,轉娉婷。

香檀細畫侵桃臉,羅袂輕輕斂。

佳期堪恨再難尋,綠蕪滿院柳成陰,負春心。

(逢えなくても我慢してきた春の心が約束の日にも訪ねてくれず、心も体も満たされず、女の浮気心を目覚めさせることを詠う。)

夜も眠りにつけずうとうととしていると、春を告げに鶯が啼き、あの人と過ごす夢の続きを破られてしまう。起き上がり、寝床を離れて金泥の鳳模様の簾を巻き上げてみる。

寝化粧はそのまま残っていて、酒はいくら飲んでも初めから酔いはしなかった、鏡を見て、翡翠の簪を物憂げの心でなおしてみて、雲母の屏風に寄り添ってみる。どうみてもこれだけ艶めかしさいっぱいなのだ。 

香しき薄紅色の白粉を眉尻から頬にかけてすかしを入れて、桃の花のように優しい顔に化粧をなおした。涙がにじむので薄絹の袂でそっとなんども拭う。

逢瀬の約束の日というのに、再び語り合うことが出来ないという、恨めしき気持ちのまま堪えなければいけないのだ。奥の院の庭一面に草花は生えさきみだれ、やがて柳のはがしげって暗く影を為す季節になろうという、春になればあの人と情を交わし合うという期待はやぶられてしまった、もうその気持ちは失って他の人に思いを寄せることになるのだろうか。

鴛鴦 対浴して銀塘 暖かに、水面 蒲梢 短し。

垂楊 低く払う 麹塵の波、蛟絲 網を結びて 露珠 多く、円荷に滴る。

遙かに思うは 桃葉 呉江の碧ならんこと、便ち是れ 天河 隔つ。

錦鱗紅髭 影 沈沈として、相い思うも 空しく夢の相い尋ぬる 有るのみ、意 任え難し

 

其二

觸簾風送景陽鐘,鴛被繡花重。

曉幃初卷冷煙濃,翠勻粉黛好儀容,思嬌慵。

起來無語理朝粧,寶匣鏡凝光。

綠荷相倚滿池塘,露清枕簟藕花香,恨悠揚。

(逢えなくて、別れてもなおわすれることもできないでいる、うらむだけでは生きていけないと廣い気持ちになろうと思いなおすと詠う。)

そよ風が簾を揺らしていく、春麗らかな昼下がり時を告げる鐘の音が聞えてくる。閨には鴛鴦の刺繍に牡丹の花が重ねて刺繍している蒲団がかけられている。

とばりに明け方の日差しが当たってきたのではじめて巻き上げてみると、朝未だ冷たく朝もやがまだ濃く漂う。眉の緑が薄くなっているので粉の眉でなおすとやっと美しい晴れやかな顔になった。だけど、この艶やかさをだれに見せるともないので物憂げな気持ちになってしまう。

また、起き上がって窓辺に立って見ても、誰に話すこともなく、朝の化粧に整えてみる。どの飾にしようかと宝物の小箱を手にとると、その二朝日が射しこんで鏡が反射するように輝いた。

まだ緑の蓮の葉と蕾はそれぞれ寄り添っていて池の端にはいっぱいに繁っている。自分の身は清廉なもので枕にも、簟のシーツにもきれいなもので・別れたのに忘れられずに花の香りをこの閨に広げている。どんなに恨んでみても落ち着いてあの人のことを思い続けよう。

 

(虞美人六首、其の二)

簾觸れ 風送りて 景陽の鐘,鴛の繡の花重るを被う。

曉の幃 初めて卷き 煙濃を冷くし,翠 勻【すくな】く 粉黛す 好く儀容し,嬌やかと慵うくを思う。

起き來りて 語らる無く 朝粧を理【おさめ】る,寶匣 鏡 光を凝【かため】る。

綠荷【ろくか】相い倚り 池塘に滿つ,露清く 枕簟【ちんてん】藕花【ぐうか】の香,悠揚【ゆうよう】を恨む。

 

 

其三

翠屏閑掩垂珠箔,絲雨籠池閣。

露粘紅藕咽清香,謝娘嬌極不成狂,罷朝粧。

小金鸂鶒沉煙細,膩枕堆雲髻。

淺眉微斂炷檀輕,舊懽時有夢魂驚,悔多情。

(あれほどもてはやされた乙女のころが思い出され、どうしてこうなったのか悔やんで暮らす女を詠う)その三

翡翠に飾られた屏風の閨は、金箔、銀箔の簾は静かに垂れて、今は何事もなく静けさに被われる、糸を引く雨は池に降り、そのむこうに籠の中のように高閣がある。

おなじ絲でも紅いれんこんの絲は、その露はねばりからまって、清らかなほのかな香りのなかで、むせびなくものである。生娘だったころは喘ぎ声を限りに叫んだものだが決して狂ったわけではない。そんなとき、朝が来ても、疲れ果てて朝の化粧なおしをする気になれないものだった。

金糸のおしどりのとばりにお香の煙が細くたなびきやがて消えてゆく、情事を重ねて枕に残る汗と脂ののこる枕にまた雲型の髪をまたのせる。

年を重ねると眉が少し薄れてしまうが眉間にしわを作ってしまうし、白檀を少し焚くと軽やかに立ち上るだけにしてしまう。あれは少し前のことみたいなのに、夢の中では乙女のころのままのことが思い出されて驚いて起きてしまう。あの夢多かりし頃を懐かしんでまた悔やんでしまう。

(其の三)

翠屏 閑かに掩う 珠箔を垂れ,絲の雨 籠池の閣。

露粘 紅藕 清香に咽び,謝娘 嬌極めて 不成狂,罷朝粧。

小金 鸂鶒 煙細やかに沉み,膩枕 雲髻を堆す。

淺眉 微斂 檀輕やかに炷【くゆら】せ,舊懽れ有る時に夢魂に驚き,多情を悔む。

 

其四

碧梧桐映紗晚,花謝鶯聲懶。

小屏屈曲掩青山,翠幃香粉玉爐寒,兩蛾攢。

顛狂少年輕離別,辜負春時節。

畫羅紅袂有啼痕,魂消無語倚閨門,欲黃昬。

(貴公子にもてあそばれた女を詠う。)

番いの鳳凰が棲むという梧桐の葉が茂った中で二人過していたというのに、日が西に傾くと閨の薄絹の窓に影を映す。咲きほこっていた花は鶯が春を告げるのをやめてしまうと枯れ始める。(見るもの聞くものすべて厭になってくる)

小さな閨の屏風には春の山が画かれ折れ曲がって立ち、牀には空しく青い山のようにおんなが横たわる、翡翠のとばり、香りの高い白粉をつけ、飾がかがやく香炉には香が消えて久しく寒々としている。ここには二人の同じ境遇の女が集まっている。

女に狂ってあちこちの女に手を出している貴公子は軽い気持ちで別れていく、それを罪悪感のない気持ちでやってしまうのは女にとってこの春の季節に背いた生活を強いていることになる。

うす絹に描かれた赤い袂を泣きぬれた涙の跡が残っている。男を求める思いは消え、話す人も言葉もなく花街の入り口の門に寄り添って佇む。今しも黄昏時になろうとしている。

(其の四)

碧の梧桐 紗の晚を映し,花 鶯聲の懶を謝す。

小屏 屈曲 青山を掩い,翠幃 香粉 玉爐の寒,兩つながらの蛾を攢める。

狂を顛じて少年 離別を輕くし,辜 春の時節に負【そむ】く。

羅に畫く紅の袂 啼痕有り,魂消 語無く閨門に倚り,黃昬ならんと欲す。

 

其五

(美しい時には男は持ち上げてくれるし、そのもとに帰って来るものだが、歳を重ねると見向かれもされないもの、人生はそうしためぐりあわせであると詠う。)

閨春色勞思想,恨共春蕪長。

この閨のまわりにも春の景色が深くなってくるという年増美人の場合でも、起きて思い焦がれ、寝ては夢想して待つのも疲れ果てる。春蕪のように白くてやわらかいその身も、春の日の長いのも共に恨んでしまうことになる。

黃鸝嬌囀泥芳妍,杏枝如畫倚輕煙,鏁前。

高麗鶯でさえ愛嬌よく囀って、香しくにおい立つほど優美であっても、汚されてしまうのは美人でもそうである。杏の花さく枝に絵のように美しくても霞がかかれば見えないし、窓を閉めれば見えはしない。

凭欄愁立雙蛾細,柳影斜搖砌。

女は愁いのままに立ちつくし、欄干にもたれかかるけれど、二つ並んだ嫦娥が若くかく細腰であれば、柳の影が斜めになり閨の建物の端の方で揺れていることだろう。

玉郎還是不還家,教人魂夢逐楊花,繞天涯。

色男はここの若い女のもとに帰るけれど、年増の愛妾の家には帰ることはない。こうして人というものは教えられ、思いやる心を持ち、夢見ても、若いしなやかな柳の花を追いかけるものなの。地の果てまで行ってみても同じこと、人生廻り廻るのである。

(其の五)

閨 春色を深くし 思い想うに勞【つか】れ,春と蕪の長きを共に恨む。

黃鸝【こうり】 嬌囀【きょうてん】して 芳妍を泥し,杏枝 畫の如く 輕煙 倚り,前に鏁す。

欄に凭【もた】れ 愁立して雙蛾 細く,柳影 斜にして砌【みぎり】に搖れる。

玉郎 是に還り 家に還らず,人に教えるは 魂夢 楊花を逐い,天涯を繞る。

 

其六

少年豔質勝瓊英,早晚別三清。

蓮冠穩篸鈿篦橫,飄飄羅袖碧雲輕,畫難成。

遲遲少轉腰身裊,翠靨眉心小。

醮壇風急杏花香。

此時恨不駕鸞皇,訪劉郎。

 

 

『虞美人六首』 現代語訳と訳註

(本文)

其五

深閨春色勞思想,恨共春蕪長。

黃鸝嬌囀泥芳妍,杏枝如畫倚輕煙,鏁前。

凭欄愁立雙蛾細,柳影斜搖砌。

玉郎還是不還家,教人魂夢逐楊花,繞天涯。

 

(下し文)

(其の五)

閨 春色を深くし 思い想うに勞【つか】れ,春と蕪の長きを共に恨む。

黃鸝【こうり】 嬌囀【きょうてん】して 芳妍を泥し,杏枝 畫の如く 輕煙 倚り,前に鏁す

欄に凭【もた】れ 愁立して雙蛾 細く,柳影 斜にして砌【みぎり】に搖れる。

玉郎 是に還り 家に還らず,人に教えるは 魂夢 楊花を逐い,天涯を繞る。

 

 

(現代語訳)

(美しい時には男は持ち上げてくれるし、そのもとに帰って来るものだが、歳を重ねると見向かれもされないもの、人生はそうしためぐりあわせであると詠う。)

この閨のまわりにも春の景色が深くなってくるという年増美人の場合でも、起きて思い焦がれ、寝ては夢想して待つのも疲れ果てる。春蕪のように白くてやわらかいその身も、春の日の長いのも共に恨んでしまうことになる。

高麗鶯でさえ愛嬌よく囀って、香しくにおい立つほど優美であっても、汚されてしまうのは美人でもそうである。杏の花さく枝に絵のように美しくても霞がかかれば見えないし、窓を閉めれば見えはしない。

女は愁いのままに立ちつくし、欄干にもたれかかるけれど、二つ並んだ嫦娥が若くかく細腰であれば、柳の影が斜めになり閨の建物の端の方で揺れていることだろう。

色男はここの若い女のもとに帰るけれど、年増の愛妾の家には帰ることはない。こうして人というものは教えられ、思いやる心を持ち、夢見ても、若いしなやかな柳の花を追いかけるものなの。地の果てまで行ってみても同じこと、人生廻り廻るのである。

 杏の花01

(訳注)

3 –虞美人六首 其五

『花間集』には顧夐の作が六首収められている。双調五十八字、前後段五句二十九字二仄韻三平韻で、❼❺⑦⑦③/❼❺⑦⑦③の詞形をとる。他の男が手を出せない、美しい女妓、宮女を虞美人としてうたうもの。

 

虞美人六首其五

(美しい時には男は持ち上げてくれるし、そのもとに帰って来るものだが、歳を重ねると見向かれもされないもの、人生はそうしためぐりあわせであると詠う。)

 

深閨春色勞思想,恨共春蕪長。

この閨のまわりにも春の景色が深くなってくるという年増美人の場合でも、起きて思い焦がれ、寝ては夢想して待つのも疲れ果てる。春蕪のように白くてやわらかいその身も、春の日の長いのも共に恨んでしまうことになる。

春蕪 春の七草のひとつ「すずな」は「カブ」のことで、春蕪と秋蕪がある。春蕪は皮が薄くてやわらかい。蕪:1 雑草が茂って荒れる。荒れ地。「荒蕪・平蕪」2 粗雑で入り乱れている。「蕪雑・蕪辞」3 野菜の名。カブ。カブラ。「蕪菁(ぶせい)

《「かぶら(蕪)」の女房詞「おかぶ」からかという》アブラナ科の越年草。根は肥大して球形などになり、白のほか赤・黄・紫色もある。根元から出る葉はへら状。春、黄色の十字形の花を総状につける。古く中国から渡来し、野菜として栽培。多くの品種がある。

 

黃鸝嬌囀泥芳妍,杏枝如畫倚輕煙,鏁前。

高麗鶯でさえ愛嬌よく囀って、香しくにおい立つほど優美であっても、汚されてしまうのは美人でもそうである。杏の花さく枝に絵のように美しくても霞がかかれば見えないし、窓を閉めれば見えはしない。

黄鸝 高麗鶯。杜甫『大雲寺贊公房四首其一』「黃鸝度結構,紫鴿下罘」(黄鶴結構を度り 紫鵠宋恩より下る。)高麗鶯は屋根、軒裏の野地組のあたりをわたりあるいている、紫色の家鳩は城壁の四隅にある見張り小屋のうさぎ網から庭へおりてくる。

大雲寺贊公房四首其一#2 杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 1652

杜甫『蜀相』

丞相祠堂何處尋,錦官城外柏森森。

映堦碧草自春色,隔葉黄鸝空好音。

三顧頻煩天下計,兩朝開濟老臣心。

出師未捷身先死,長使英雄涙滿襟。

 

嬌囀 あいそよくさえずっている。囀:テン(ten)舞楽で詩句を諷詠すること。

牛嶠『應天長二首其一』

玉樓春望晴煙滅,舞衫斜卷金調

黃鸝嬌囀聲初歇,杏花飄盡攏山雪。

鳳釵低赴節,筵上王孫愁

鴛鴦對㘅羅結,兩情深夜月。

應天長二首 其一 牛嶠 ⅩⅫ唐五代詞・「花間集」 Gs-322-6-#9 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3157

芳妍 香しくにおい立つほど優美なこと、美しいこと。

鏁 くさり、 とざす

 

凭欄愁立雙蛾細,柳影斜搖砌。

女は愁いのままに立ちつくし、欄干にもたれかかるけれど、二つ並んだ嫦娥が若くかく細腰であれば、柳の影が斜めになり閨の建物の端の方で揺れていることだろう。

凭欄 欄干にもたれかかる。

柳影斜搖 性行為の男性のシルエットを比喩するもので、ここでは男性との性行為を思い浮かべている。

 

玉郎還是不還家,教人魂夢逐楊花,繞天涯。

色男はここの若い女のもとに帰るけれど、年増の愛妾の家には帰ることはない。こうして人というものは教えられ、思いやる心を持ち、夢見ても、若いしなやかな柳の花を追いかけるものなの。地の果てまで行ってみても同じこと、人生廻り廻るのである。

玉郎 きらめき耀く高級官僚。色男。

薛濤『上王尚書』「碧玉雙幢白玉郎,初辭天帝下扶桑。手持云篆題新榜,十萬人家春日長。」(王尚書にたてまつる。)碧玉の雙幢【そうとう】白玉郎、初めて天帝を辞して 扶桑に下る。手に雲篆【うんてん】を持して 新榜【しんぼう】に題す、十萬の人家 春 日長し。

上王尚書 薛濤 唐五代詞・宋詩 薛濤-218-84-#78  漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ2637

天涯 1 空のはて。2 故郷を遠く離れた地。
紫燕00