鏡を手にとって言葉もなくもう涙をこらえられなくてこぼれて来そうである、いまわ靑の人への気持ちを持ち続けている者の日がある間は何もする気にならず髪の毛にくしを当てることもしていない。ここの中庭には時折雨が降り春というのに愁いに気持ちも湿っている。


        
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14-344《浣溪紗九首(4)》孫光憲(孫少監光憲)Ⅻ唐五代詞・『花間集』全詩訳注解説Gs-527-14-(344)  花間集 巻第七 (十三首)漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ4182

 

 

浣溪沙九首       其一

 (秋には帰るといって旅立った人を何度も秋を迎えたが帰ってこない。雁が見えなくなるように、川が流れ去るように忘れていくことになるのか、もう死んでしまったのなら、瀟湘の女神にもあこがれる)

    蓼岸風多橘柚香,江邊一望楚天長,片帆煙際閃孤光。

岸辺には蓼がしげる中を風がぬけると橘や柚子の香りを運んでくる、大江のほとりから一望すると楚の秋の空ははるかとおくまでつづく、一片の帆影を浮かべて霞む果てには風雨を呼ぶ閃光が一つきらめく。

    目送征鴻飛杳杳,思隨流水去茫茫,蘭紅波碧憶瀟湘。

             

女の眼は遠く飛び行く雁を消えて飛び去るまで追いかける、遠い先の帰ってこない男への思いは長江の流れとともに忘れ去ってしまう、蘭の花は紅色濃く、波は碧く瀟湘の慕情を偲ばせる。

(浣溪沙九首 其の一)

蓼岸【りょうがん】風 橘柚の香多くし,江邊 一望 楚天長しい,片帆 煙際に 孤光 閃く。

目【もく】せば 征鴻を送れば 飛びて杳杳たり,思いは流水に隨い去りて茫茫たり,蘭は紅いに 波は碧く 瀟湘を憶う。

             

浣溪沙九首           其二
(又春が来ても、秋になっても、若いころ詩を作り、もてはやされた女も今やだれも寄り付かない、夜も眠れずこれから先どうしてよいやら精神的に追い込まれた女を詠う)


    桃杏風香簾幕閑,謝家門約花關,畫梁幽語鷰初還。

桃と杏の花が咲く中を風が抜けて香りを運んでくる、簾と幔幕はおろしたままで静かなものだ。愛妾の家には門の扉は閉められたままで、花は満開に咲いているのにそのまま締めくくっている。秋にもすぎ、いろどられた梁の上の燕はもう帰ったのだろう鳴き声などなく静かになった。

    繡閣數行題了壁,曉屏一枕酒醒山,卻疑身是夢魂間。

窓に刺繍を張った樓閣にしばしば通い、そこの壁にこの詩を題して書き記したし、明方に屏風を動かしてやっと横になって眠ろうとするがもうお酒の酔いが醒めて眠れない。こんなことを毎日している。夢とうつつとの間を行ったり来たりの生活を、この身をどうしたらよいのか、

 

              浣溪沙九首           其二

桃杏から風香し 簾幕閑なり,謝家の門 花關に約し,畫梁には幽語 鷰初めて還る。

繡閣 數ば行く 題 壁に了し,曉屏 一枕 酒 山に醒め,卻て疑う 身是とし夢魂の間に。            


浣溪沙九首
           其三        

(若くて溌剌とした女も年を重ねてしまい他の女が辿ったおんなじ運命と同じ道をたどってしまうことになった)其三

              花漸凋疎不耐風,畫簾垂地晚堂空,墮階縈蘚舞愁紅。

庭一杯に咲いていた花もしだいに枯れて摩あらになってきて風が吹いて来てもう花を残しておくことが出来ない。閨には誰も来ないのできれいな簾は下におろしたまま夕方の奥座敷は誰もいなくて空しさが広がる。ここであれだけ華やかで、鮮やかで、繁栄していたのに今は見る影もなく頬を赤く染めるも愁いに満ちて一人で踊っている。

              膩粉半粘金靨子,殘香猶暖繡薰籠,蕙心無處與人同。

化粧は染み出た肌の油で崩れ、金の付けボクロも半ばとれそうだ。閨に香の香りは残っているがまだ刺繍の台に乗った網籠の香炉にはあたたかさがのこっている。美人の麗しい心はもうここにはなくて歳をとってしまえば行く末はおんなじようになってしまう。

(浣溪沙九首 其の三)

花 漸く凋疎 風に耐えず,畫簾 地に垂れ 晚の堂 空し,階墮ち 縈蘚 愁紅に舞う。

膩粉 半粘 金靨子,殘香 猶お暖く繡薰籠,蕙心 處に無く 人と同じうす。
             

浣溪沙九首           其四

(日がな一日物憂げに暮らし、季節が過ぎていくのも可惜過している。悲しみと愁いが廻って次々と生まれてくる。歳を重ねて訪れるものがいない女を詠う。)

              攬鏡無言淚欲流,凝情半日懶梳頭,一庭疎雨濕春愁。

鏡を手にとって言葉もなくもう涙をこらえられなくてこぼれて来そうである、いまはあの人への気持ちを持ち続けていることができる日がある間は、何もする気にならず髪の毛にくしを当てることもしていない。ここの中庭には時折雨が降り春というのに愁いに気持ちも湿っている。

              楊柳秖知傷怨別,杏花應信損嬌羞,淚沾魂斷軫離憂。

男柳と女柳の枝はたれているのはただ見て季節を知るだけ、やっぱりあの別れは傷ついて恨みに思う、春の盛りの杏の花の咲くころ、手紙で答えてくれたから恥を忍んで愛嬌をだしていたのにそれは違っていた。なみだはとめどがなくながれきものをぬらすのでこころもきれてしまう、愁い悲しみから離れてもまた患いと悲しみがやってくる。

(浣溪沙九首 其の四)

鏡を攬り 無言にして 淚 流んと欲す,情を凝らし 半日 頭を梳くを懶く,一庭に 疎雨あり 春愁に濕う。

楊柳 秖だ知るも 怨別に傷み,杏花 應信あり 嬌羞を損い,淚沾い 魂斷し 離憂を軫る。             

             

浣溪沙九首           其五

              半踏長裾宛約行,晚簾疎處見分明,此時堪恨昧平生。

              早是銷魂殘燭影,更愁聞著品絃聲,杳無消息若為情。

             

             

             

浣溪沙九首           其六

              蘭沐初休曲檻前,暖風遲日洗頭天,濕雲新斂未梳蟬。

              翠袂半將遮粉臆,寶釵長欲墜香肩,此時模樣不禁憐。

             

             

             

浣溪沙九首           其七

              風遞殘香出繡簾,團窠金鳳舞襜襜,落花微雨恨相兼。

              何處去來狂太甚,空推宿酒睡無猒,爭教人不別猜嫌。

             

             

             

浣溪沙九首           其八

              輕打銀箏墜鷰泥,斷絲高罥畫樓西,花冠閑上午牆啼。

              粉籜半開新竹逕,紅苞盡落舊桃蹊,不堪終日閉深閨。

             

             

             

浣溪沙九首           其九

              烏帽斜欹倒佩魚,靜街步訪仙居,隔牆應認打門初。

              將見客時微掩斂,得人憐處且先疎,低頭羞問壁邊書。

楊貴妃清華池002

 

『浣溪沙九首 其四』 現代語訳と訳註

(本文)

浣溪沙九首 其四

攬鏡無言淚欲流,凝情半日懶梳頭,一庭疎雨濕春愁。

楊柳秖知傷怨別,杏花應信損嬌羞,淚沾魂斷軫離憂。

 

(下し文)

浣溪沙九首 其四

鏡を攬り 無言にして 淚 流んと欲す,情を凝らし 半日 頭を梳くを懶く,一庭に 疎雨あり 春愁に濕う。

楊柳 秖だ知るも 怨別に傷み,杏花 應信あり 嬌羞を損い,淚沾い 魂斷し 離憂を軫る。

 

(現代語訳)

(日がな一日物憂げに暮らし、季節が過ぎていくのも可惜過している。悲しみと愁いが廻って次々と生まれてくる。歳を重ねて訪れるものがいない女を詠う。)

鏡を手にとって言葉もなくもう涙をこらえられなくてこぼれて来そうである、いまはあの人への気持ちを持ち続けていることができる日がある間は、何もする気にならず髪の毛にくしを当てることもしていない。ここの中庭には時折雨が降り春というのに愁いに気持ちも湿っている。

男柳と女柳の枝はたれているのはただ見て季節を知るだけ、やっぱりあの別れは傷ついて恨みに思う、春の盛りの杏の花の咲くころ、手紙で答えてくれたから恥を忍んで愛嬌をだしていたのにそれは違っていた。なみだはとめどがなくながれきものをぬらすのでこころもきれてしまう、愁い悲しみから離れてもまた患いと悲しみがやってくる。

花間集02
 

(訳注)

浣溪沙九首

『花間集』には孫光憲の作が六十一首収められている。双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦の詞形をとる。

浣溪沙九首 其四

(日がな一日物憂げに暮らし、季節が過ぎていくのも可惜過している。悲しみと愁いが廻って次々と生まれてくる。歳を重ねて訪れるものがいない女を詠う。)

 

攬鏡 無言 淚欲流,凝情 半日 懶梳頭,一庭 疎雨 濕春愁。

鏡を手にとって言葉もなくもう涙をこらえられなくてこぼれて来そうである、いまはあの人への気持ちを持ち続けていることができる日がある間は、何もする気にならず髪の毛にくしを当てることもしていない。ここの中庭には時折雨が降り春というのに愁いに気持ちも湿っている。

攬[ラン]取り集めて持つ。手中に収める。「収攬・総攬」

この三句は春が来ても訪ねてくれる人がいない何にもする気がない様子を詠う。

懶梳頭 物憂げで、櫛で頭を梳くこともしない。

 

楊柳 秖知 傷怨別,杏花 應信 損嬌羞,淚沾 魂斷 軫離憂。

男柳と女柳の枝はたれているのはただ見て季節を知るだけ、やっぱりあの別れは傷ついて恨みに思う、春の盛りの杏の花の咲くころ、手紙で答えてくれたから恥を忍んで愛嬌をだしていたのにそれは違っていた。なみだはとめどがなくながれきものをぬらすのでこころもきれてしまう、愁い悲しみから離れてもまた患いと悲しみがやってくる。

・楊柳秖知 男柳と女柳の枝はたれているのはただ見て季節を知るだけ

・傷怨別 やっぱりあの別れは傷ついて恨みに思うこと。

・杏花 春の盛りの杏の花の咲くころ。

・應信 手紙で答えてくれること。

・損嬌羞 恥を忍んで愛嬌をだしていたのにそれは違っていた。

・軫離憂 愁いに思い、それを忘れようとするが又愁い悲しみが襲ってくる。・軫:憂える。悲しむ。「軫悼(しんとう)・軫念」。まわる。
杏の花001