(改訂)-1溫庭筠17《更漏子六首其三》(寵愛を失っても、生きるためには寵愛を受けている時と同じことを毎日繰り返してすることで生きていくことにした妃賓を詠う)今はいきるためにも身支度だけは整える、枕に赤と脂が付いたままでも横になり、寵愛を受けていた時のままに、錦の薄いかけ布団では寒さをおぼえる。眠れぬままに過ごすと、もう時を水時計の音が聴こえてきて目をさますと明け方になっているのです。
『花間集』全詩訳注解説(改訂)-1溫庭筠17《更漏子六首其三》溫庭筠66首巻一17-〈17〉漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ-5282
3. 更漏子六首其三
(寵愛を失っても、生きるためには寵愛を受けている時と同じことを毎日繰り返してすることで生きていくことにした妃賓を詠う)
金雀釵,紅粉面,花裏暫時相見。
雀をかたどった金のかんざし、白粉に紅をさし化粧を整えて、春の盛りに花のなかで、出逢って語りあい、しばらくの時を過ごした。
知我意,感君憐,此情須問天。
あのお方はわたしのこころをよく理解してくれたし、わたしもあのお方がわたしに愛しいと思ってくれ、憐をかけていることをよく感じ取ったものだった。愛しあっているこころは疑う余地のないもので、どんなに天の神様に尋ねるとしても間違いないことであった。
香作穗,蠟成淚,還似兩人心意。
時が過ぎて、今宵も蝋燭の芯が穂のようにもえただようだけ、蝋燭はとけて落ちるのも私の涙と同じこと。香が思うままただようのと、蝋燭が流れるように涙をながしているのは、二人のこころのうちによく似ている。
山枕膩,錦衾寒,覺來更漏殘。
今はいきるためにも身支度だけは整える、枕に赤と脂が付いたままでも横になり、寵愛を受けていた時のままに、錦の薄いかけ布団では寒さをおぼえる。眠れぬままに過ごすと、もう時を水時計の音が聴こえてきて目をさますと明け方になっているのです。
(更漏子六首其三)
金雀の釵【さ】,紅粉の面,花の裏に暫時こそ相い見。
我が意を知り,君の憐を感じ,此の情 須らく天に問う。
香は穗を作し,蠟は淚を成すは,還って兩人の心意に似る。
山が枕して膩【じ】し,錦の衾 寒するは,覺めて更漏の殘【なご】りを來る。
『更漏子六首其三』 現代語訳と訳註
(本文) 更漏子六首其三
金雀釵,紅粉面,花裏暫時相見。
知我意,感君憐,此情須問天。
香作穗,蠟成淚,還似兩人心意。
山枕膩,錦衾寒,覺來更漏殘。
(下し文) 更漏子六首其三
金雀の釵【さ】,紅粉の面,花の裏に暫時こそ相い見。
我が意を知り,君の憐を感じ,此の情 須らく天に問う。
香は穗を作し,蠟は淚を成すは,還って兩人の心意に似る。
山が枕して膩【じ】し,錦の衾 寒するは,覺めて更漏の殘【なご】りを來る。
(現代語訳)
(寵愛を失っても、生きるためには寵愛を受けている時と同じことを毎日繰り返してすることで生きていくことにした妃賓を詠う)
雀をかたどった金のかんざし、白粉に紅をさし化粧を整えて、春の盛りに花のなかで、出逢って語りあい、しばらくの時を過ごした。
あのお方はわたしのこころをよく理解してくれたし、わたしもあのお方がわたしに愛しいと思ってくれ、憐をかけていることをよく感じ取ったものだった。愛しあっているこころは疑う余地のないもので、どんなに天の神様に尋ねるとしても間違いないことであった。
時が過ぎて、今宵も蝋燭の芯が穂のようにもえただようだけ、蝋燭はとけて落ちるのも私の涙と同じこと。香が思うままただようのと、蝋燭が流れるように涙をながしているのは、二人のこころのうちによく似ている。
今はいきるためにも身支度だけは整える、枕に赤と脂が付いたままでも横になり、寵愛を受けていた時のままに、錦の薄いかけ布団では寒さをおぼえる。眠れぬままに過ごすと、もう時を水時計の音が聴こえてきて目をさますと明け方になっているのです。
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(訳注)
更漏子六首其三
(寵愛を失っても、生きるためには寵愛を受けている時と同じことを毎日繰り返してすることで生きていくことにした妃賓を詠う)
・更漏子 更漏とは夜の時(五更)を知らせる水時計のことをいい、この詩は漏刻五更の時刻が気になるものの気持ちを詠んだもの。この更漏子のように曲名と内容が何らかの関わりを持つものが多い。又、水時計を閨の中に所有できるものはおおよそ、後宮の妃嬪である。
【解説】
前段では、春の花の盛りに男と逢い引きをして愛を誓ったことを回想し、「あの時の言葉を天に尋ねてみるとよい」と、一人、心の中で問いかけている。
後段は、寵愛を失った悲しみを忘れていくことはできない。化粧も、閨の準備も寵愛を受けていた時と同じ、それだけが生きているあかしなのだ。
花間集には《更漏子》が十六首所収されている。溫庭筠の作は六首収められている。雙調四十六字、前段二十三字六句両仄韻両平韻、後段二十三字六句三仄韻両平韻(詞譜六)3❸❻3③⑤/❸❸❻3③⑤の詞形をとる。
金雀釵 紅粉面 花裏暫時相見
知我意 感君憐 此情須問天
香作穗 蠟成淚 還似兩人心意
山枕膩 錦衾寒 覺來更漏殘
金雀釵,紅粉面,花裏暫時相見。金雀のかんざしをさし、雀をかたどった金のかんざし、白粉に紅をさし化粧を整えて、春の盛りに花のなかで、出逢って語りあい、しばらくの時を過ごした。
〇金雀 雀をかたどった金のかんざし。曹植『美女篇』「攘袖見素手,皓腕約金環。頭上金爵釵,腰佩翠琅玕。」(袖を攘げて素手を見(あらは)せば、皓腕 金環を約す。頭上には金爵の釵、腰には佩びる翠琅干。)美女が賢い男を得たいと思う気持ちを詠ったもので、若い女性である。
〇紅粉 紅と白粉。うら若い女性を詠う。
知我意,感君憐,此情須問天。
あのお方はわたしのこころをよく理解してくれたし、わたしもあのお方がわたしに愛しいと思ってくれ、憐をかけていることをよく感じ取ったものだった。愛しあっているこころは疑う余地のないもので、どんなに天の神様に尋ねるとしても間違いないことであった。
○憐 優しさ、情け。
○此情須問天 二人が互いに誓い合った愛は天も承知だから天に尋ねてみたらよい、という意味。
香作穗,蠟成淚,還似兩人心意。
時が過ぎて、今宵も蝋燭の芯が穂のようにもえただようだけ、蝋燭はとけて落ちるのも私の涙と同じこと。香が思うままただようのと、蝋燭が流れるように涙をながしているのは、二人のこころのうちによく似ている。
○香作穂 香が燃え尽きて灰となる。穂は芯の燃えさしが穂の形になるさまをいう。
○蠟成淚 蝋燭の蝋の滴りを涙に喩えたもの。
山枕膩,錦衾寒,覺來更漏殘。
今はいきるためにも身支度だけは整える、枕に赤と脂が付いたままでも横になり、寵愛を受けていた時のままに、錦の薄いかけ布団では寒さをおぼえる。眠れぬままに過ごすと、もう時を水時計の音が聴こえてきて目をさますと明け方になっているのです。
〇山 女が横になることをあらわす言葉である。
〇膩 皮膚からにじみ出たあぶら。あか。すべすべする。
〇衾 薄いかけ布。初めの三言二句は女の横になった艶の雰囲気をあらわしている。
○山枕膩 山の形をした枕が髪油に汚れ、てかてか光っている。男が女を裏切って通って来ないため、枕を新しく取り替える気持ちも起こらず、油染みるにまかせたままであることを言う。
○錦衾寒 独り寝のため床も寒々としている。ここでの寒は孤独感も含む。