顧夐  浣溪沙八首其八

露白蟾明又到秋,佳期幽會兩悠悠,夢牽情役幾時休。

記得泥人微斂黛,無言斜倚小書樓,暗思前事不勝愁。

(仲秋の月が約束の日、カササギの橋を渡って牽牛が来てくれるが、又次の秋まで寂しい思いを過ごしてゆく、夢の中だけで愛を交わす愁いの日々にずっと堪えていくのかと詠う。)

仲秋の月が明るく照り、露が一面に降りて真っ白に広がる、また秋がきて、逢瀬の約束の日に静かな夜にひっそりと二人でいつまでもいっしょに過ごす。しかし、夢の一年一回でも牽牛のようにあの人と求め合っていたいが、次の秋まで、こんな思いをしないですむようになる日は何時くるのか。今は記憶の中のことが頭にこびりついてしまって、眉間にしわを寄せ、密かに眉曇らせてしまう。言葉もかわすこともなく書斎のある小楼に斜めに身を寄せて、思えば気持ちは暗くなり、あたまにうかぶのは過ぎた日の良い事ばかり、こんな愁いに堪えるいいことなどないのか。

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浣溪沙八首其一

(春は万物を成長させ、春の行楽は放蕩の情をさらに強くする。待つものは、柳の緑が濃くなるころ閨の中で待っているだけで、これからの人生、こんな生活を覚悟して生きていかないと詠う。)

春色迷人恨正,可堪蕩子不還家,細風輕露著梨花。

春の景色は人の心を浮かせ、迷わせて、人がどこにいるのかわからないので恨むことになるし、だから。放蕩のものが家に帰ってこないことには耐えるようにすべきであるし、そんな春の優しい風に当たり、軽やかな露に濡れた梨の花が色をはっきりとさせ、其処には人が集まる。

簾外有情雙鷰颺,檻前無力綠楊斜,小屏狂夢極天涯。

行楽の季節には、簾の外に情愛があるのであり、ツガイの燕が飛び上がるということがある、ただ閨だけで、待つだけで、檻の暮し、柳の緑も濃く、風に斜め払う、閨の寝牀横の小屏風の中で夢の中だけで狂うもの、そんな人生が一生続いて行く。

(浣溪沙八首其の一)

春色 人を迷わせ正に【はる】かにするを恨み,蕩子家に還らざるを堪る可し,細風 輕露 梨花に著わる。

簾外 情有り 雙鷰 颺【あが】り,檻前 無力 綠楊 斜めなり,小屏 狂夢 天涯に極む。

浣溪沙八首其二

浣溪沙その二(夏も過ぎ、秋になってもどこからも音沙汰がない、御殿の閨に何もせず、、ただ、寵愛を受ける準備だけは菅、使うことがないので、埃に汚れて居る)

紅藕香寒翠渚平,月籠虛閣夜蛩清,塞鴻驚夢兩牽情。

秋になりかけのころ蓮の花の香りを残したまま夕方の寒さを感じる。緑叢がいっぱいで渚に平らかに広がる。閨の高窓に見える月は輝き寂しい高閣を照らしし、すずむしがすがすがしく鳴いている。北方から南に向かう大雁は夢に驚き情に絡んで両手で引寄せて雁書を見たいと思う。

寶帳玉鑪,殘麝冷,羅衣金縷暗塵生,小孤燭淚縱橫。

宝飾で飾られたとばりが下がり、こがねに飾られた香炉には麝香は消えてそのままで冷たい、寵愛を受けていたときに着ていた薄絹の金の刺繍の着物にはチリが積もってうす汚れている。閨の小窓の手前にポツンと燭台があり、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになる。

(浣溪沙八首其の二)

紅藕 香寒く 翠の渚 平かにし,月籠の虛閣 夜蛩 清かなり,塞鴻 夢に驚き 情に兩牽す。

寶帳 玉鑪あり,殘麝 冷かなり,羅衣 金縷 塵生に暗くす,小 孤燭 淚 縱橫たり。

 

浣溪沙八首其三

浣溪沙八首その三(若くして寵愛を失った妃賓は、瀟湘の后妃ように帝に先立たれのと同じで、一人で過ごすのは、残された思い出の部屋で泣きぬれて過ごすことなのである。)

荷芰風輕簾幕香,繡衣鸂鶒泳迴塘,小屏閑掩舊瀟湘。

蓮花と菱花は軽く風にのって簾や、幔幕にまでその香が届くと、刺繍の着物の妃賓は、鸂鶒が泳ぎながら堤の方へ進むのを見る。閨の低い屏風に静かに囲まれた中にいにしえの瀟湘曲が物悲しく聞こえてくる。

恨入空幃鸞影獨,淚凝雙臉渚蓮光,薄情年少每思量。

誰もいない鸞凰の刺繍の戸張の中には蝋燭の光にただ一人の影を映して、そこにはうらみだけがはいってくると、涙が止まらず、二筋の涙の痕が顔に残ってしまい、涙があふれて渚の蓮池に光るかのようである。愛情の薄い皇子は歳若くして死別したのかと、思う度にその思いの量は多くなっていく。

(浣溪沙八首其の三)

荷芰 風輕く 簾幕 香り,繡衣 鸂鶒泳いで塘を迴り,小屏 閑かに掩うは舊えの瀟湘。

空幃に恨入す 鸞影獨つ,淚 臉に雙つながらにして 渚の蓮光に凝し,薄情 年少なるも 每く思量す。

 

浣溪沙八首其四

浣溪沙八首その四(愛妾とされ、どんなに寵愛を受けていても、寵愛は失うもの、西王母のようであっても、巫山の瑤姫であっても、今はどうなるのかはわからない、いずれにしても耐えて生きていくことだけだ。)

惆悵經年別謝娘,月花院好風光,此時相望最情傷。

愛妾とされてもうどれだけ年数を重ねたのだろうか、それなのに別れて怨めしいと思うようになったが。高窓から入る月明かり、奥の中庭に咲く満開の花、春の盛りのこんなにもよい季節が来ても、またたがいにこの時を楽しく過ごしたいと思えば思うほど、またもっとも心が傷つくのである。

青鳥不來傳錦字,瑤何處鏁蘭房,忍教魂夢兩茫茫。

西王母の春の恋の使者として錦字を伝え持ってくるはずが一向に来なかったし、巫山の瑶女の身を揺らせてくれ、身も心も繋いでくれるというがその閨がどこにあるのか、いつも堪え、心の奥に忍ばせて、夢とするだけで、両頬に流れる涙は果てしなく流れてゆくのである。

浣溪紗八首其の四)

惆悵 經年 謝娘に別れ,月 花院 風光好く,此時 相い望む 最情の傷。

青鳥 來らず 錦字を傳う,瑤 何處にか 蘭房を鏁にし,魂夢を忍教して兩つながら茫茫たり。

 

浣溪紗八首,其五

(菊の花に夜露が下りる良い夜、思いもよらず寵愛を受けることになった、床をすごす共寝の夜が明けると、それからどうなるのかと恐れる女の情を詠う。)

庭菊飄黃玉露濃,冷莎隈砌隱鳴蛩,何期良夜得相逢。

風にゆれ動く庭に咲き誇る黄菊に玉の露に濡れて色を濃くする。秋の冷気に見向きもされない莎草はつめたく階の端に生えていて、その影でこおろぎが鳴いて秋の趣きを添え、思いがけないこの出会い、素晴らしい夜は思いもよらないことである。

背帳風搖紅滴,惹香暖夢繡衾重,覺來枕上怯晨鐘。

とばりを背にして、灯火の炎は揺れていて、蝋燭を滴らせるのも忘れるように時は過ぎる。香の香りに誘われ、重ねた肌に暖かに夢は掛け布団のうちでつづき、この素敵な時から目覚めること、枕辺にこのまま居たいと思うこと、夜明け前の鐘が鳴ればわかれなければいけない、それはとても恐いことなのだ。

浣溪紗八首,其の五)

庭菊 黃を飄し 玉露濃し,冷莎 砌に隈【よ】し 鳴蛩【めいきょう】 隱れ,何ぞ期せん 良夜 相う逢うを得るを。

帳を背に 風 搖がせ 紅【こうろう】 滴る,香に惹【ひか】るる暖かき夢 繡衾【しゅうきん】重なり,覺め來り 枕上 晨鐘に怯る。

 

浣溪沙八首其六

(秋までには来るよと約束していたが背いてこない人に対する女性の恨みを詠う。)

雲澹風高葉亂飛,小庭寒雨綠苔微,深閨人靜掩屏幃。

秋の空に雲が淡くうかぶ、風が高い所を抜けていき高木の上の方を揺らして枯れ葉が乱れ飛びかうけれど、暫くして降り出した晩秋の冷たい雨はく中庭の青苔のうえに微かに濡らしていて色を濃くする、それの向うの奥深いところの閏には妃嬪は独り屏風と戸張に囲まれ、身動きもせずにいる。

粉黛暗愁金帶枕,鴛鴦空繞畫羅衣,那堪辜負不思歸。

寵愛を失った妃賓であっても、秋になっても白粉をこくし、眉も画いて準備はちゃんとして、思い出の金帯の枕をならべて密かな期待は愁となる、鴛駕模様の衣裳も空しさだけがめぐる。約束に背いてこない、どうやってこの気持ちを抑えていけるというのだろうか。

(其の六)

雲は澹く 風は高くして 葉はれ亂飛ぶ,小庭は寒雨あり綠苔は微かなり,深い閨には 人靜まり 屏幃を掩う。

粉黛 暗く金帶の枕に愁う,鴛鴦 空しく畫羅の衣に繞り,那で堪えん 歸るを思わざるに辜負せんとを。

 

 

浣溪沙八首其七

浣溪沙八首その七(もう何度目の秋を一人で過ごすのか、雁書の雁も通り過ぎるだけだし、夢もやがて見なくなる。秋の夜長を一人過ごすのにいい方法がことがあろうかと詠う。)

鴈響遙天玉漏清,小紗外月朧明,翠幃金鴨炷香平。

秋の空高く雁が鳴き声を響かせながら飛んでゆく、遥かな先に消えると、静かな余韻の中に水時計の音が清らかに響いてくる。高窓の羅紗を張った小窓越に月がぼんやりと明るく照らしている。翡翠の飾りのついたとばりに金の鴨の刺繍があり、閨には香が焚き揺らせて平らかに漂っている。

何處不歸音信斷,良宵空使夢魂驚,簟涼枕冷不勝情。

どこかに行ってしまったのか、ここには帰ってこないばかりか、今では便りもないままだ。秋の宵がどんなに良くても空しさだけであり、夢を見ては心が驚かされる。夏には火照った体を冷やしてくれる簟の敷物はもう涼しすぎるし、一人寝の枕も冷たいばかり、こんな心持ちをいやしてくれるものがあるのだろうか。

(浣溪沙八首其の七)

鴈の響き遙かな天に 玉漏清きなり,小紗外は月朧明し,翠幃に金鴨ありて炷香平かなり。

何處にか歸らず 音信斷つ,良宵 空しく使わしむ夢魂驚き,簟涼 枕冷 情に勝てず。

浣溪沙八首其八

露白蟾明又到秋,佳期幽會兩悠悠,夢牽情役幾時休。

記得泥人微斂黛,無言斜倚小書樓,暗思前事不勝愁。

(仲秋の月が約束の日、カササギの橋を渡って牽牛が来てくれるが、又次の秋まで寂しい思いを過ごしてゆく、夢の中だけで愛を交わす愁いの日々にずっと堪えていくのかと詠う。)

仲秋の月が明るく照り、露が一面に降りて真っ白に広がる、また秋がきて、逢瀬の約束の日に静かな夜にひっそりと二人でいつまでもいっしょに過ごす。しかし、夢の一年一回でも牽牛のようにあの人と求め合っていたいが、次の秋まで、こんな思いをしないですむようになる日は何時くるのか。

今は記憶の中のことが頭にこびりついてしまって、眉間にしわを寄せ、密かに眉曇らせてしまう。言葉もかわすこともなく書斎のある小楼に斜めに身を寄せて、思えば気持ちは暗くなり、あたまにうかぶのは過ぎた日の良い事ばかり、こんな愁いに堪えるいいことなどないのか。

 

(浣溪沙八首 其の八)

露白く蟾 明くして又た秋到る,佳期 幽會にして兩つながら悠悠たり,夢牽の情の役するは幾時にか休まん。

記得は人に泥【まつ】わり微かに黛を斂め,無言 小書樓に斜倚し,前事を暗く思い 愁に勝【た】えず。

 

 

『浣溪沙八首其七』 現代語訳と訳註

(本文)

浣溪沙八首其八

露白蟾明又到秋,佳期幽會兩悠悠,夢牽情役幾時休。

記得泥人微斂黛,無言斜倚小書樓,暗思前事不勝愁。

 

(下し文)

(浣溪沙八首 其の八)

露白く蟾 明くして又た秋到る,佳期 幽會にして兩つながら悠悠たり,夢牽の情の役するは幾時にか休まん。

記得は人に泥【まつ】わり微かに黛を斂め,無言 小書樓に斜倚し,前事を暗く思い 愁に勝【た】えず。

 

(現代語訳)

(仲秋の月が約束の日、カササギの橋を渡って牽牛が来てくれるが、又次の秋まで寂しい思いを過ごしてゆく、夢の中だけで愛を交わす愁いの日々にずっと堪えていくのかと詠う。)

仲秋の月が明るく照り、露が一面に降りて真っ白に広がる、また秋がきて、逢瀬の約束の日に静かな夜にひっそりと二人でいつまでもいっしょに過ごす。しかし、夢の一年一回でも牽牛のようにあの人と求め合っていたいが、次の秋まで、こんな思いをしないですむようになる日は何時くるのか。

今は記憶の中のことが頭にこびりついてしまって、眉間にしわを寄せ、密かに眉曇らせてしまう。言葉もかわすこともなく書斎のある小楼に斜めに身を寄せて、思えば気持ちは暗くなり、あたまにうかぶのは過ぎた日の良い事ばかり、こんな愁いに堪えるいいことなどないのか。

 

 

(訳注)

浣溪沙八首其八

(仲秋の月が約束の日、カササギの橋を渡って牽牛が来てくれるが、又次の秋まで寂しい思いを過ごしてゆく、夢の中だけで愛を交わす愁いの日々にずっと堪えていくのかと詠う。)

【解説】 月が一番大きくなって蟾蜍が見える日が約束の日で、七夕の日だけ会える。それでも別れたら、来るかどうかとおもうことしかないと恨みを詠う。後段は、二人が愛をまつわりつかしているときのことが頭から離れない。満たされぬ日々に悲しみに顔を曇らせてしまう。又今日も楼閣の書斎に身を寄せて、過ぎ去った日々を思うと、わびしさに居たたまれぬことを述べる。男目線で、男を待つ年増になった妃嬪の哀れさを詠うものである。

 

唐の教坊の曲名。双調四十二字、前段二十一字三句三平韻、後段二十一字三句二平韻で、⑦⑦⑦/7⑦⑦.の詞形をとる。韋荘ほか全員で十名が同名の詩合計57首、花間集の11.4%載せている。谷間の砂浜で早春の風物詩で、染め上げた沙羅を水で晒した後、並べて乾かすことをいう。独り者の女性だけで行ったことで、春と沙羅と女性ということで艶歌としてうたったものである。

浣溪沙八首其一

春色迷人恨正,可堪蕩子不還,細風輕露著梨

簾外有情雙鷰颺,檻前無力綠楊,小屏狂夢極天

○●○○●△○  ●○●●△○○ ●△△●△○○

○●●○○●△ ●○○●●○○  ●△△△●○○

浣溪沙八首其二  ⑦⑦⑦/4③⑦⑦

紅藕香寒翠渚,月籠虛閣夜蛩,塞鴻驚夢兩牽

寶帳玉鑪,殘麝,羅衣金縷暗塵,小孤燭淚縱

○●○○●●○  ●△○●●○○ ●△○△●△○

●●●○ ○●△  ○△○●●○△ ●?○●●△△

浣溪沙八首其三

荷芰風輕簾幕  繡衣鸂鶒泳迴塘 小屏閑掩舊瀟  

恨入空幃鸞影獨 淚凝雙臉渚蓮  薄情年少每思

△●△△○●○  ●△○?●△○ ●△○●●○○

●●△○○●● ●△○△●△△  ●○○●●△△

浣溪沙八首其四

惆悵經年別謝,月花院好風,此時相望最情

青鳥不來傳錦字,瑤何處鏁蘭,忍教魂夢兩茫

○●△○●●○  ●?○△●△△ ●○△△●○△

○●△△△●● ○○△●?○○  ●△○△●○○

浣溪紗八首,其五

庭菊飄黃玉露,冷莎隈砌隱鳴,何期良夜得相

背帳風搖紅滴,惹香暖夢繡衾,覺來枕上怯晨

○●○○●●○  △○△●●○○ △○○●●△○

●●△○○●● ●○●△●○△  ●△△●●○○

浣溪紗八首其六

雲澹風高葉亂,小庭寒雨綠苔,深閨人靜掩屏

粉黛暗愁金帶枕,鴛鴦空繞畫羅,那堪辜負不思

○△△○●●○  ●○○●●○○ △○○●●△○

●●●○○●△ ○○△●●○△  △○○●△△○

浣溪沙八首其七

鴈響遙天玉漏,小紗外月朧,翠幃金鴨炷香

何處不歸音信斷,良宵空使夢魂,簟涼枕冷不勝

●●○○●●○  ●○?●●○○ ●○○●●○○

△●△○○△● ○○△●△○○  ●△△△△△○浣溪沙八首其八

露白蟾明又到,佳期幽會兩悠,夢牽情役幾時

記得泥人微斂黛,無言斜倚小書,暗思前事不勝

●●○○●●○  ○○○●●○○ △△○●△○△

●●△○○●● ○○○△●○○  ●△○●△△○

 

露白蟾明又到秋,佳期幽會兩悠悠,夢牽情役幾時休。

仲秋の月が明るく照り、露が一面に降りて真っ白に広がる、また秋がきて、逢瀬の約束の日に静かな夜にひっそりと二人でいつまでもいっしょに過ごす。しかし、夢の一年一回でも牽牛のようにあの人と求め合っていたいが、次の秋まで、こんな思いをしないですむようになる日は何時くるのか。

○蟾明 蟾は月で月明と同じ意である。月に蟾蜍がいるという伝説による。〔広韻〕に「蟾、蝦蟆なり」とある。〔爾雅・釈魚〕の注に「蝦蟆に似て、陸地に居る」とある。韋莊『天仙子五首其三』

蟾彩霜華夜不分。天外鴻聾枕上聞。

綉衾香冷懶重燻。

入寂寂、葉紛紛。

纔睡依前夢見君。

天仙子 其三 韋荘  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-272-5-#26  漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ2907

・蟾 1動物名。 ヒキガエルのこと。2 《西王母(せいおうぼ)の秘薬を盗んだ姮娥(嫦娥)が月に逃げてヒキガエルになったという「後漢書」の伝説から》月の中にいるというヒキガエル。転じて、月のこと。

石鼓歌 韓愈 韓退之(韓愈)詩<97-#4>Ⅱ中唐詩525 漢文委員会kanbuniinkai 紀頌之の漢詩ブログ1666

月蝕詩效玉川子作 韓愈 韓退之(韓愈)詩<96-8>Ⅱ中唐詩521 漢文委員会kanbuniinkai 紀頌之の漢詩ブログ1650

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李商隠 『嫦娥』 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集約130首 詩の背景1.道教 2.芸妓 3.嫦娥と李商隠

月は女性の姿をいい、妓女、美人のこという。

○佳期 男女が目時を約束して会ぅこと。

李白『大堤曲』

漢水臨襄陽。花開大堤暖。

佳期大堤下。淚向南云滿。

春風無復情。吹我夢魂散。

不見眼中人。天長音信斷。

李白53大堤曲 李白54怨情 李白55贈内

○幽會 年一回の逢瀬に静かな夜を過ごすというほどの意。

○兩悠悠 二人でいついつまでも一緒に過ごす。

○夢牽情役 牽牛のように一年に一回だが、夢の中ではいつも情を持って居続けるというほどの意。

 

記得泥人微斂黛,無言斜倚小書樓,暗思前事不勝愁。

今は記憶の中のことが頭にこびりついてしまって、眉間にしわを寄せ、密かに眉曇らせてしまう。言葉もかわすこともなく書斎のある小楼に斜めに身を寄せて、思えば気持ちは暗くなり、あたまにうかぶのは過ぎた日の良い事ばかり、こんな愁いに堪えるいいことなどないのか。

○泥人 人がべったりとまつわりつくこと。二人の情事のこと。

○小書樓 書斎のある小楼

○不勝愁 こんな愁いに堪えることはできない