玉臺新詠 全十巻 訳注解説

漢文委員会kanbuniinkai紀頌之   唐五代詞詩・花間集・玉臺新詠 中国の韻文学には、古くは周代の詩があり、漢魏六朝には古詩と楽府かあり、唐代になって古詩に対して新しい近体の律詩、絶句がおこった。楽府がおとろえ新しく勃興したのが詞である。詞ははじめ、学詞ともよばれ、楽曲の歌詞をさしていうものであるが、それが流行するとともに、唐詩などと相ならんで、一つの韻文学として成立したのである。 5年以上のブログ連載。(魚玄機・薛濤・花間集)完掲載 現在《玉臺新詠》完全版連載中 予定(文選【詩篇】文選【賦篇 楚辞 詩經 ・・・・)

晩唐

中国の韻文学には、古くは周代の詩があり、漢魏六朝には古詩と楽府かあり、唐代になって古詩に対して新しい近体の律詩、絶句がおこった。楽府がおとろえ新しく勃興したのが詞である。詞ははじめ、学詞ともよばれ、楽曲の歌詞をさしていうものであるが、それが流行するとともに、唐詩などと相ならんで、一つの韻文学として成立したのである。
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温庭筠の詞詩を約60首程度掲載の後、魚玄機50首程度連載し,薛濤約百首、韋莊五十首
森鴎外小説 『魚玄機』 彼女の詩を冷静に、客観的に分析 過去の女性蔑視の見方を排除して解釈 訳註解説
現在、『花間集』全詩500首、全首連載が終了した。いま、500首全首、見直し、改訂版Ver.2.1として、根本的に語訳、注釈をやり直して掲載しています。出来るだけ(改訂版Ver.2.1)と記している詩を読まれることを薦めます。
現在 玉臺新詠 訳注解説連載中
   玉臺新詠 概要 目録・目次 http://kanbunkenkyu.web.fc2.com/list1.html

温庭筠 菩薩蛮 十四首 index(2) まとめ-2

温庭筠 菩薩蛮 十四首 index(2)


◆◆◆2012年12月22日紀頌之の5つの漢文ブログ◆◆◆
 

Ⅰ.李白と李白に影響を与えた詩集 
古代中国の結婚感、女性感について述べる三国時代の三曹の一人、曹丕魏文帝の詩 
又清河作一首 曹丕(魏文帝) 魏詩<4> 女性詩621 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1701 
http://blog.livedoor.jp/kanbuniinkai10/archives/67759532.html


Ⅱ.中唐詩・晩唐詩 
 唐を代表する中唐の韓愈の儒家としての考えのよくわかる代表作の一つ 
誰氏子 韓愈 韓退之(韓愈)詩<99-#2>Ⅱ中唐詩534 漢文委員会kanbuniinkai 紀頌之の漢詩ブログ1702 
http://blog.livedoor.jp/kanbuniinkai10-rihakujoseishi/archives/6145724.html


Ⅲ.杜甫詩1000詩集 
"●杜甫の全作品1141首を取り上げて訳注解説するブログ 
●詩人として生きていくことを決めた杜甫が理想の地を求めてっ旅をする
●人生としては4/5前で、全詩1/3を掲載済。" 
”成都紀行(11)”  鹿頭山 杜甫詩1000 <351>#3 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1703 杜甫1500- 525
 http://blog.livedoor.jp/kanbuniinkai10-tohoshi/archives/67759454.html


Ⅳ.漢詩・唐詩・宋詞詩詩集 
元和聖徳詩 韓退之(韓愈)詩 (12/22) 
http://kanshi100x100.blog.fc2.com/blog-entry-575.html
 

Ⅴ.晩唐五代詞詩・宋詞詩 
 森鴎外の小説 ”激しい嫉妬・焦燥に下女を殺してしまった『魚玄機』”彼女の詩の先生として登場する 晩唐期の詩人 温庭筠(おんていいん)の作品を訳註解説する。 
温庭筠 菩薩蛮 14首index(2) まとめ-2
 http://blog.livedoor.jp/kanbuniinkai10-godaisoui/archives/21300775.html
 

謝靈運詩   http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/1901_shareiun000.html
孟浩然の詩 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/209mokonen01.html
李商隠詩  http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/3991_rishoin000.html
女性詩人  http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/0josei00index.html

温庭筠 菩薩蛮 14首index(2)
森鴎外『魚玄機』より温庭筠について


温庭筠は大中元年に、三十歳で太原から出て、始て進士の試に応じた。自己の詩文は燭一寸を燃さぬうちに成ったので、隣席のものが呻吟するのを見て、これに手を仮して遣った。その後挙場に入る毎に七八人のために詩文を作る。その中には及第するものがある。ただ温庭筠のみはいつまでも及第しない。
これに反して場外の名は京師に騒いで、大中四年に宰相になった令狐綯も、温庭筠を引見して度々筵席に列せしめた。ある日席上で綯が一の故事を問うた。それは荘子に出ている事であった。温庭筠が直ちに答えたのは好いが、その詞は頗る不謹慎であった。「それは南華に出ております。余り僻書ではございません。相公も爕理の暇には、時々読書をもなさるが宜しゅうございましょう」と云ったのである。
また宣宗が菩薩蛮の詞を愛するので、令狐綯が塡詞して上った。実は温に代作させて口止をして置いたのである。然るに温庭筠は酔ってその事を人に漏した。その上かつて「中書堂内坐将軍をざせしむ」と云ったことがある。令狐綯が無学なのを譏ったのである。
温庭筠の名は遂に宣宗にも聞えた。それはある時宣宗が一句を得て対を挙人中に求めると、温庭筠は宣宗の「金歩揺」に対するに「玉条脱」を以てして、帝に激賞せられたのである。然るに宣宗は微行をする癖があって、温庭筠の名を識ってから間もなく、旗亭で温庭筠に邂逅した。温庭筠は帝の顔を識らぬので、暫く語を交えているうちに傲慢無礼の言をなした。
既にして挙場では、沈詢が知挙になってから、温庭筠を別席に居らせて、隣に空席を置くことになった。詩名はいよいよ高く、帝も宰相もその才を愛しながら、その人を鄙んだ。趙顓【ちょうせん】の妻になっている温庭筠の姉などは、弟のために要路に懇請したが、何の甲斐もなかった。

菩薩蠻0(8)











『菩薩蠻 八』

鳳凰相對盤金縷,牡丹一夜經微雨。
明鏡照新妝,鬓輕雙臉長。
畫樓相望久,欄外垂絲柳。
音信不歸來,社前雙燕回。


鳳凰 相對して金縷を盤す,牡丹 一夜にして微雨に經る。
明鏡 新妝を照らし,鬓輕 雙びて臉 長し。
畫樓 相望久,欄外 絲柳を垂るる。
音信 歸えり來らず,社前 雙燕 回える。


今朝もさびしい朝化粧、鳳凰のむかいあい、金糸をぬいとりが尾のからみ渦巻く紋様がある。昨日一夜の春の小糠雨に、庭の牡丹の花が濡れ潤いうつくしい。(この女も少し前は若くてうつくしさは小雨に潤う牡丹の花であったのだ。)
部屋に日がさしこみ、鏡にうつすお化粧したてのすがたに日に照らされる、さびしさにおとろえたせいか、頬もうすくなり、そして鬢にかかる雲形の髪も薄くなり、二つの頬はやつれて精彩がなくなっている。
飾られた高楼にのぼって、今日もまた久しくあの人の帰りをまちわびる。欄干のかなたには、しだれ柳が芽をふき、風にふかれてゆれている。
音も沙汰もかえってこないで、今年もまた社日にさきだって交尾する仲むつまじそうな燕がでたりはいったりしている。


菩薩蠻0(9)












『菩薩蠻 九』

牡丹花謝莺聲歇,綠楊滿院中庭月。
相憶夢難成,背窗燈半明。
翠鈿金壓臉,寂寞香閨掩。
人遠淚闌幹,燕飛春又殘。


牡丹 花謝【お】ち 鶯聲歇【や】む,綠楊【りょくよう】院に滿ち 中庭の月。
相憶【そうおく】の夢 成し難く,窗を背に燈び明りを半ばにする。
翠鈿【すいてん】の金 臉【ほほ】に壓【くず】す,寂寞【せきばく】として香 閨に掩う。
人遠く淚 闌幹【らんかん】し,燕飛 春 又殘る。


晩春になり牡丹の花がちりはじめ、うぐいすのこえもなきやむ初夏のころとなった。青柳のみどりはもはや中庭一面に繁り、月かげがさしている。
女の部屋のうちにあって、帰ってこない夫をせめて夢の中にでも逢いたいと思うのである、その夢をむすぶ高窓に背を向けて「知らない!」といってみる、燃やし続ける蝋燭の芯は半ばの明かりとなっている。
その顔に化粧を施し、頬に金の翠の鈿をつけている、いかにもうつくしいお化粧ではあるがひとりの閨は寂寞としたうれいにしずんでいる。
かこわれた部屋はひっそりとして人かげもなく、涙を流し続けて頬には、くっきりと涙の後がついている。また今年も燕が飛び交う、そして春はまたその名残を残していくだけなのだ。


菩薩蠻0(10)











『菩薩蠻 十』

滿宮明月梨花白,故人萬裏關山隔。
金雁一雙飛,淚痕沾繡衣。
小園芳草綠,家住越溪曲。
楊柳色依依,燕歸君不歸。


宮に滿つ月明り 梨花の白,故人 萬裏 關山の隔。
金雁 一雙飛,淚痕 繡衣に沾う。
小園 芳草の綠,家住 越溪の曲。
楊柳 色 依依なり,燕歸 君 歸らず。


後宮の庭に月は明るく照らし、梨の花がまっ白に咲き満ちている。あのお方はこないのはまるでとおいとおい国境の山のかなたに行ってしまったままかえってこないことと同じである。
季節は廻って金星が流れて空の上をつがいの雁が渡ってゆく、宮女の部屋にお渡りがなくなって随分経つながれる涙は刺繍の衣服をうるおしている。
又季節が廻り、宮殿の中庭の園にはもう春の草がみどりに萌えでている。そう、わたしもむかし越の国の美人西施が住んでいた若耶渓の「詞曲」のように出会ったのです。
わたしはまだまだ楊柳色のようの若々しくそしてなまめかしい体なのです。そしてまた燕は愛の巢に帰ってきます。愛する君は若い宮女に行っていて私の所に帰ってくれないのです。


菩薩蠻0(11)











『菩薩蠻 十一』 

南園滿地堆輕絮,愁聞一霎清明雨。
雨後卻斜陽,杏花零落香。
無言勻睡臉,枕上屏山掩。
時節欲黃昏,無聊獨倚門。


南園は地に滿つ輕絮堆るを,愁 清明の雨一霎するを聞く。
雨後 卻て斜陽なり,杏花 零落して香る。
言無くて睡臉を勻し,枕上に屏山掩う。
時節 黃昏にならんと欲す,無聊 獨り門に倚る。


いつのまにかことしも春の盛りを過ぎて行く、南園には初夏の兆しが、地面いっぱいに雪のように柳絮の花がつもる。愁いの気持ちで、ふりしきりる清明の小雨の音をきいている。
雨がふりすぎたあとには、傾いた日差しが照りかえして、杏の花が一面に散り落ち、良いにおいをあたりにただよわせる。
日暮れになり、寝所に入ろうとして、一言も言わないで、寝覚めのための顔、頬にお化粧をつくろう。枕の上には屏風のように女の体がおおっている。
今年の春も過ぎてしまう。時も季節も、私も黄昏になる。ただひとりでわびしく門にもたれて、あの方が私の所にかえってくることを待ちわびるのである。


菩薩蠻0(12)











『菩薩蠻』 十二 

雨晴夜台玲珑日,萬枝香袅紅絲拂。
閑夢憶金堂,滿庭萱草長。
繡簾垂箓簌,眉黛遠山綠。
春水渡溪橋,憑欄魂欲消。


雨晴れ夜合 玲瓏の日,萬枝 香裊【こうじょう】 紅絲拂う。
閑夢は金堂を憶う,庭に滿つ萱草長し。
繡簾 箓簌【ろくそく】を垂し,眉黛【びたい】遠山の綠。
春水 溪橋を渡り,欄に憑【もた】れて魂消さんと欲す。


雨が晴れあがり、潤ったねむの花にうららかな日の光がさしこむ。庭中の枝という枝にいっぱいにさいている紅い糸の匂い袋のようなうつくしい花が、ゆらゆらとゆれうごく。
寂しくしずかな夢だけしかなく、あの人と過ごした奇麗な座敷のことを憶いだすだけしかないのです。かなしいのは庭にいっぱい「忘れの花」が生えているのです。
刺繍をした簾には美しい総が垂れ下っている。そのすだれをかかげて、遠い山々をながめるとみどりのまゆずみを掃いたかのようにうすくかすんで、この体を持て余したまま、季節は夏の装いになってくる。
そしてまた、谷川にかかる橋の下を春の雪解け水がながれてゆく。欄干にもたれて、あの人を思うこころをきしてしまいたいとおもうのです。



菩薩蠻0(13)











『菩薩蠻』十三 
竹風輕動庭除冷,珠簾月上玲瓏影。
山枕隱濃妝,綠檀金鳳凰。
兩蛾愁黛淺,故國吳宮遠。
春恨正關情,畫樓殘點聲。


竹風 輕動して 庭除の冷,珠簾 月上りて瓏影するも玲なり。
山枕は濃妝を隱し,綠檀には金の鳳凰あり。
兩蛾は愁いて黛淺し,故國 吳宮の遠。
春恨 正に關情し,畫樓 點聲を殘す。


初夏のさわやかな風が竹の林を抜けて庭先から、軽やかに簾を動かして房に付いている風鈴がすきとおったように美しく鳴りつめたく響く。玉のすだれに月がさしのぼってあかるくすみわたった影をおとす。
閨に横向きで寝枕する女は今宵も待ち侘びて宵の濃い化粧のままある。綠壇でつられた枕には金の鳳風の紋様が彫描されている。
二つの眉はさびしそうにまゆずみがうすれている。むかし呉宮に送られた西施は、はるかにへだたった故国をなつかしくおもった。(今、ひとり待ち侘びる女は西施と同じ思いなのだ。)。
廻り廻って春は男女の交わりが始まるものであるのに待ち侘びる春の恨みはほんとに愛情に関連するものだ。夜明けが近くなったのか、飾られた高楼のうえで時をつげる太鼓の音の名残のようにがとぎれとぎれにきこえてくる。


菩薩蠻0(14)











『菩薩蠻十四』 

水精簾裏頗黎枕,暖香惹夢鴛鴦錦。
江上柳如煙,雁飛殘月天。
藕絲秋色淺,人勝參差剪。
雙鬂隔香紅,玉钗頭上風。


水精の簾の裏 頗黎【はり】の枕,香を暖め夢に惹れ鴛鴦【えんおう】の錦。
江上 柳如の煙,雁飛 月天に殘る。
藕絲【ぐうし】秋色淺く,人勝【じんしょう】參差【さんさ】の剪。
雙鬂【そうびん】香紅を隔ち,玉钗【ぎょくさ】頭上の風。


もう晩秋になろうというのに水晶のすだれの内側に、あの人ための玻璃の枕を用意している、あたたかくする香を焚いて、夢にしか現れない鴛鴦の錦のふすまに横になり、あの人のことを思う。
春になり大江のほとりには、煙と見まごうばかりに柳絮が飛ぶ、雁が有明けの月が残る空をわたってゆく。
おんなは、秋には藕絲のうすいた秋の色の衣服をきていて、人日には髪かざりの人勝をふそろいに飾ってまっていた。
左右の鬢にはうつくしい花のかんざしをへだて挿している。玉のかんざしは風に吹かれてゆらゆらゆれている。

温庭筠 菩薩蛮 十四首 index(1)

温庭筠詩集 菩薩蛮 十四首

◆◆◆2012年12月21日紀頌之の5つの漢文ブログ◆◆◆

Ⅰ.李白と李白に影響を与えた詩集
古代中国の結婚感、女性感について述べる三国時代の三曹の一人、曹丕魏文帝の詩

於凊河見輓船士新婚別妻一首 曹丕(魏文帝) 魏詩<3>玉台新詠集 女性詩620 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1697
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Ⅱ.中唐詩・晩唐詩
 唐を代表する中唐の韓愈の儒家としての考えのよくわかる代表作の一つ

誰氏子 韓愈 韓退之(韓愈)詩<99-#1>Ⅱ中唐詩534 漢文委員会kanbuniinkai 紀頌之の漢詩ブログ1702
http://blog.livedoor.jp/kanbuniinkai10-rihakujoseishi/archives/6144076.html


Ⅲ.杜甫詩1000詩集
●杜甫の全作品1141首のほとんどを取り上げて訳注解説するブログ 
●詩人として生きていくことを決めた杜甫が理想の地を求めてっ旅をする
●人生としては4/5前で、詩としては1/3を過ぎたあたり。 "

”成都紀行(11)”  鹿頭山 杜甫詩1000 <351>#2 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1699 杜甫1500- 524
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Ⅳ.漢詩・唐詩・宋詞詩詩集
元和聖徳詩 韓退之(韓愈)詩<80-#6> (12/21)
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Ⅴ.晩唐五代詞詩・宋詞詩
 森鴎外の小説 ”激しい嫉妬・焦燥に下女を殺してしまった『魚玄機』”彼女の詩の先生として登場する 晩唐期の詩人 温庭筠(おんていいん)の作品を訳註解説する。
温庭筠 菩薩蛮 14首index(1)
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謝靈運詩 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/1901_shareiun000.html
孟浩然の詩 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/209mokonen01.html
李商隠詩 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/3991_rishoin000.html
女性詩人 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/0josei00index.html
温庭筠 菩薩蛮 14首index(1)
森鴎外『魚玄機』より温庭筠について


温庭筠は大中元年に、三十歳で太原から出て、始て進士の試に応じた。自己の詩文は燭一寸を燃さぬうちに成ったので、隣席のものが呻吟するのを見て、これに手を仮して遣った。その後挙場に入る毎に七八人のために詩文を作る。その中には及第するものがある。ただ温庭筠のみはいつまでも及第しない。
これに反して場外の名は京師に騒いで、大中四年に宰相になった令狐綯も、温庭筠を引見して度々筵席に列せしめた。ある日席上で綯が一の故事を問うた。それは荘子に出ている事であった。温庭筠が直ちに答えたのは好いが、その詞は頗る不謹慎であった。「それは南華に出ております。余り僻書ではございません。相公も爕理の暇には、時々読書をもなさるが宜しゅうございましょう」と云ったのである。
また宣宗が菩薩蛮の詞を愛するので、令狐綯が塡詞して上った。実は温に代作させて口止をして置いたのである。然るに温庭筠は酔ってその事を人に漏した。その上かつて「中書堂内坐将軍をざせしむ」と云ったことがある。令狐綯が無学なのを譏ったのである。
温庭筠の名は遂に宣宗にも聞えた。それはある時宣宗が一句を得て対を挙人中に求めると、温庭筠は宣宗の「金歩揺」に対するに「玉条脱」を以てして、帝に激賞せられたのである。然るに宣宗は微行をする癖があって、温庭筠の名を識ってから間もなく、旗亭で温庭筠に邂逅した。温庭筠は帝の顔を識らぬので、暫く語を交えているうちに傲慢無礼の言をなした。
既にして挙場では、沈詢が知挙になってから、温庭筠を別席に居らせて、隣に空席を置くことになった。詩名はいよいよ高く、帝も宰相もその才を愛しながら、その人を鄙んだ。趙顓【ちょうせん】の妻になっている温庭筠の姉などは、弟のために要路に懇請したが、何の甲斐もなかった。

『菩薩蠻 一』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-1-1-#1 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1620

菩薩蠻(1)
菩薩蛮 (一) 
小山重疊金明滅,鬢雲欲度香顋雪。
懶起畫蛾眉。弄妝梳洗遲。
照花前後鏡。花面交相映。
新帖繡羅襦。雙雙金鷓鴣。

菩薩蠻 (一)
小山 重疊して 金 明滅,鬢の雲 度(わた)らんと欲(す)香顋の雪に。
懶げに起き 蛾眉を 畫く。妝を弄び 梳洗 遲し。
花を照らす 前後の 鏡。花面 交(こもご)も 相(あ)ひ映ず。
新たに帖りて 羅襦に綉りするは、雙雙 金の鷓鴣。

小山の屏風のような重なった髪型に金の簪がキラキラ輝いている。雲のような鬢は雪のように真っ白な頬の上にかかり渡っている。
ものうげに起きいでて眉をかき、お化粧をしながらも、髪をくしけずる手はゆっくりとしてすすまない。
花のようなすがたを、前とうしろからあわせ鏡で照らす。うつくしい顔がこもごも鏡にうつる。
新しく閨に張る薄いとばりがあり、刺繍のうすぎぬの襦袢がかけてある。一ツガイずつ向かい合わせになった金の鷓鴣の紋様がぬいとりされている。


『菩薩蠻 二』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-2-2-# 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1624
菩薩蠻(2)
 菩薩蠻 二
夜來皓月才當午,重簾悄悄無人語。
深處麝煙長,臥時留薄妝。
當年還自惜,往事那堪憶。
花露月明殘,錦衾知曉寒。

夜來 皓月【こうげつ】才【はじめ】て午に當る,簾を重ねうは悄悄として人語るを無し。
處を深くする麝煙【じゃえん】長く,臥せし時 薄妝【はくしょう】を留む。
年に當るは還りて自ら惜みしを,往事 那んぞ憶うを堪んや。
花露 月の明り殘【あま】り,錦の衾【ふすま】 曉寒【ぎょうかん】を知る。

あの人が来るのをまちわびて、眠られぬままにすごしていると、あかるくさえわたった月が、ちょうど中空にかかっている。幾重にもたれるすだれのうちは、ひっそりとしずまりかえり人声もいっさいない。
おくふかい後宮部屋のなかには、麝香の香煙がながくしずかにただよっている。臥所に入るときには、うす化粧の香りがあとにひろがりのこる。
かつては若いころはすぎ去ってゆく時を惜しむように愛し合う月日をすごしたものなのだ。今ひと年取ってしまうと以前のように愛してくれない、どうしてこんなせつない思いにたえることができようか。



『菩薩蠻 三』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-3-3-# 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1628
菩薩蠻(3)
菩薩蠻 三
蕊黃無限當山額,宿妝隱笑紗窗隔。
相見牡丹時,暫來還別離。
翠钗金作股,钗上蝶雙舞。
心事竟誰知?月明花滿枝。


蕊黃【ずいおう】すれど當に山額に限り無く,宿妝【しゅくしょう】紗窗の隔を隱笑す。
相見 牡丹の時,暫來 還って別離す。
翠钗【すいさ】金作の股,钗上 雙にす蝶の舞。
心事 竟に誰か知る?月明 花 枝に滿つ。


ひたいにお化粧した蕊黄はこのうえもなくうつくしいものだ、うすぎぬの窓をへだてて、昨夜から待ち侘びて崩れかけた化粧の宮女が、諦めの隠し笑いをしている。
あのお方と互い見合ったのは、牡丹の花のさく春であったが、しばらくのあいだやってきてくれたが、帰ったら別れてしまったままなのだ。
宮女がさしているのは、金の柄のついた翡翠のかんざしである。皮肉にもカンザシのうえには一つがいの蝶がむつまじく舞っている。
宮女のさびしいこころのうちにあるのは、けっきょくだれにもわかりはしないのだ。月明りのなかに枝いっぱいに咲いている花だけがそれを知っているのだ。



『菩薩蠻 四』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-4-4-# 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1632
菩薩蠻(4)
『菩薩蠻 四』

翠翹金縷雙鸂鵣,水紋細起春池碧。
池上海棠梨,雨晴紅滿枝。
繡衫遮笑靥,煙草粘飛蝶。
青瑣對芳菲,玉關音信稀。


翠翹【すいぎょう】金縷【まと】う雙【つがい】の鸂鵣【けいせき】,水紋 細に起き春池の碧。
池上 海棠【かいどう】梨【り】,雨晴れて紅枝に滿つ。
繡衫にて笑靥【えくぼ】を遮い,煙草粘りて飛ぶ蝶。
青瑣【せいき】芳菲に對す,玉關 音信稀れなり。


みどりの羽に金糸をまとった美しいつがいのおしどりが、池のうえに睦まじく戯れている。水紋がこまかくたちおこる春の池は深くみどり水を湛えている。
池のほとりには海棠の花がさき、雨あがりに紅の花が枝いっぱいにさきみちて、春のこころをただよわせている。
刺繍をした衫の袖でわかれたままの愁いに沈んでえくぼをおおいかくす。ぼんやりとした春かすみのなか春草にふれたり離れたり蝶がたわむれ飛ぶのである。
青漆で塗った東の門のほとりにはかぐわしい春の草が花をさかせるころとなったが、とおい西域の国境のかなた玉門関へいった人からの便りもまれにしかやってこない。

菩薩蠻(5)
『菩薩蠻 五』現代語訳と訳註

杏花含露團香雪,綠楊陌上多離別。
燈在月朧明,覺來聞曉鶯。
玉鈎褰翠幕,妝淺舊眉薄。
春夢正關情,鏡中蟬鬓輕。


杏花は露を含み香雪を團くす,綠楊 陌上には離別を多くする。
燈在りて月 明を朧【おぼろげ】にす,覺來りて曉の鶯を聞く。
玉鈎 翠幕を褰【かかげ】る,妝淺 舊眉の薄。
春夢 正に情を關わる,鏡中 蟬鬓【ぜんびょう】 輕くする。


中庭の杏の花は朝露を含んでまっしろな雪をまるくかためたようにうつくしい。すももの花がさくころには、青柳の大道のほとりに別離をする人が多いものだ。
閨で一人待つ部屋の燭燈は灯し続け、月はおぼろにかすんでいる。うとうとして目をさますと、暁にうぐいすの啼く声を聴くのである。
簾幕をひっかける玉製のかぎでみどりのとばりの幕をかかげた部屋があり、お化粧もくずれて浅くなっており、昨日の画き眉も薄く消えかかり、何もかも薄れて行っている。
春の夢はほんとうに別れの心情にかかわるものばかり、鏡の中にうつる蝉の羽のような鬢も、愁いのために薄くほつれてみえる。



『菩薩蠻 六』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-6-6 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1640
菩薩蠻(6)
『菩薩蠻 六』

寶函钿雀金鸂鵣,沈香閣上吳山碧。
楊柳又如絲,驛橋春雨時。
畫樓音信斷,芳草江南岸。
鸞鏡與花枝,此情誰得知。


寶函【ほうかん】鈿雀【てんじゃく】金の鸂鵣【けいちょく】,沈香【ちんこう】の閣上 吳山の碧【みどり】。
楊柳 又 絲の如し,驛橋 春雨【はるさめ】の時なり。
畫樓から音信 斷つ,芳草 江南の岸のあり。
鸞鏡と花枝とあり,此の情は誰か知るを得る。


あの人をまちわびている女妓が、目をさまし、うつくしい匣枕、鈿雀のかんざしと、金のおしどりにかざられたかんざしがそばにおちている。起き出すのも物憂い女妓は、朝のお化粧をして沈香のただよう樓閣のうえにのぼって、呉山のみどりの彼方をながめやる。
健康と無事を祈って折った青柳は又芽をふいて、糸のようにほそい枝を風になびかせている。驛亭にしっとりと春雨がふって、あの日ここであの人と別れを告げた。あれからどれほど月日がたったのか。
美しい高楼あの人を待ち侘びているけれど音信はとぎれたままなのだ。かんばしい春の草が江南の岸にはまたさきだした。
このさびしいこころは、鸞鳥を背に彫んだ鏡と花が咲き誇る枝だけがいつもみている。この心情はだれが察っしてくれるのだろうか。



『菩薩蠻 七』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-7-7-# 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1644
菩薩蠻(7)
『菩薩蠻 七』

玉樓明月長相憶,柳絲裊娜春無力。
門外草萋萋,送君聞馬嘶。
畫羅金翡翠,香燭銷成淚。
花落子規啼,綠窗殘夢迷。


玉樓明月長へに相ひ憶ふ、柳絲裊娜【じょうや】春力無し。
門外草萋萋たり、君を送れば馬の嘶くを聞けり。
畫【いろうつくしき】羅【うすぎぬ】金の翡翠、香【かぐはしき】燭消【とけ】て涙を成す。
花落ちて子規啼けば、綠窗【ろくそう】に殘夢迷ふ。


春の装いにかがやく高楼にのぼり、あかるい月かげがさしこむ、もうずいぶんな歳月になる、私のもとにかえってこないあの人を恋しく思う。柳のいとの様な腰つき、もっと魅力的にしているが、一人過ごす春の日、片思いのままは気力も失せて來る。
門外にでて春の行楽に幔幕を春草がまた青々としげる中に有る。あの人を見送ったときには、乗ってゆく馬のいななくのを聞いたものだった。(いまも馬が嘶いてもあの人は来てくれない。)
うすものの衾に金と翡翠で描かれているのを見るばかり、今宵も更けゆくままに、蝋燭も溶けて流れ、涙もとめどがない。
若い花はちりさり、ほととぎすは逢いたい一心で啼いて血を吐くのだ、部屋のみどり絹の上窓から思いを送るがどこかあの人のもとへ夢はまようのだろう。





『菩薩蠻 五』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-5-5-#5 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1636
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