韓愈 八月十五夜贈張功曹#2
君歌聲酸辭且苦,不能聽終淚如雨。洞庭連天九疑高,蛟龍出沒猩鼯號。
十生九死到官所,幽居默默如藏逃。下床畏蛇食畏藥,海氣溼蟄熏腥臊。
そこで君は歌いだし、その歌はむせぶ様なきわめて酸楚、であり、その言辞は極めて悽苦、終わりまで聴いていることができずに涙が雨のように落ちる。君の歌の中で、“洞庭湖は天に続くかと思われるほどにひろがり、九疑の山は高く、湖水のなかに蛟龍が出没し、山中では猩々【しょうじょう】や鼯鼠【むささび】が鳴く。”といい。私は九死に一生を得るという困難を経て、やっと転任先、配所の郴州臨武に着いたが、もとより、僻地であるところから、ひっそりした生活しかできなくて毎日黙りこんで、逃げ隠れしているような具合、人に顔を見せなかった。その上、其処は、瘴癘の地、寝台の下に毒蛇がひそんでいることがあったので心配し、食事には毒薬の入れてあるということもあったりして始終心配して、隠れ住んでいるように感じるのであった。おまけに、海から立ちのぼる気は湿気を帯びていて、なまぐさい臭いがあたりに漂って、とても耐えられなかった。
韓愈97-#2《 巻三17八月十五夜贈張功曹》 #2 韓愈(韓退之) 805年貞元21年 38歳<1572>
Ⅱ#2 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ6844
韓愈詩-韓愈97-#2
年:805年貞元21年 38歳
卷別: 卷三三八 文體: 七言古詩
詩題: 八月十五夜贈張功曹
【案:張功曹,署也。愈與署以貞元二十一年二月二十日赦自南方,俱徙掾江陵,至是俟命於郴,而作是詩。】
作地點: 郴州(江南西道 / 郴州 / 郴州)
及地點: 洞庭湖 (江南西道
岳州 岳州) 別名:洞庭
九疑山 (江南西道 無第二級行政層級 九疑山) 別名:蒼梧山
交遊人物/地點:
張署 當地交遊(江南西道 郴州 郴州)
八月十五夜贈張功曹 #1
(805年、貞元二十一年八月十五夜、仲秋の夜、江陵功曹参軍事に新たに任じられた張署君に贈る。) #1
【案:張功曹,署也。愈與署以貞元二十一年二月二十日赦自南方,俱徙掾江陵,至是俟命於郴,而作是詩。】
【張功曹は,張署のことである。韓愈と張署とは、805年貞元21年2月20日大赦するというので南方陽山の地を出発し、ともに流された張署が郴州臨武で縣令をしていたところで、ともに江陵に量移される命令が出るまで待機するようにということで待っている間に張署との因縁、これからの構想を述べたものである。】
纖雲四卷天無河,清風吹空月舒波。
宵のうちは、細い筋のような雲があったが、やがて四方の空に巻き散らされて跡形もなく消えた、天には天の川も見えず、すがすがしい風が空を吹きわたって、月は水面から上り、月影は波の上にのびている。
沙平水息聲影絕,一杯相屬君當歌。
川岸の平砂、渺渺として、水の動きは見えず、さながら休んでいるのであろう、流れの音もなく、葉擦れ音もなく、物の影もない、ひっそりとした中、君と相対座して、一杯の酒を君に勧め、心の内を互いに歌を歌って、さらけだそうとしよう。
#2
君歌聲酸辭且苦,不能聽終淚如雨。
そこで君は歌いだし、その歌はむせぶ様なきわめて酸楚、であり、その言辞は極めて悽苦、終わりまで聴いていることができずに涙が雨のように落ちる。
洞庭連天九疑高,蛟龍出沒猩鼯號。
君の歌の中で、“洞庭湖は天に続くかと思われるほどにひろがり、九疑の山は高く、湖水のなかに蛟龍が出没し、山中では猩々【しょうじょう】や鼯鼠【むささび】が鳴く。”といい。
十生九死到官所,幽居默默如藏逃。
私は九死に一生を得るという困難を経て、やっと転任先、配所の郴州臨武に着いたが、もとより、僻地であるところから、ひっそりした生活しかできなくて毎日黙りこんで、逃げ隠れしているような具合、人に顔を見せなかった。
下床畏蛇食畏藥,海氣溼蟄熏腥臊。
その上、其処は、瘴癘の地、寝台の下に毒蛇がひそんでいることがあったので心配し、食事には毒薬の入れてあるということもあったりして始終心配して、隠れ住んでいるように感じるのであった。おまけに、海から立ちのぼる気は湿気を帯びていて、なまぐさい臭いがあたりに漂って、とても耐えられなかった。
#3
昨者州前搥大鼓,嗣皇繼聖登夔皋。
赦書一日行萬里,罪從大辟皆除死。
遷者追迴流者還,滌瑕蕩垢清朝班。
州家申名使家抑,坎軻祗得移荊蠻。
#4
判司卑官不堪說,未免捶楚塵埃間。
同時輩流多上道,天路幽險難追攀。
君歌且休聽我歌,我歌今與君殊科。
一年明月今宵多,人生由命非由他,有酒不飲奈明何?
(八月十五夜張功曹に贈る)#1
【自註:張功曹は,署なり。愈と署とは以て貞元二十一年二月二十日赦され南方より,俱に徙って江陵に掾たり,是れに至て郴に於いて命を俟つ,而して是の詩を作る。】
繊雲【せんうん】四【よ】もに巻いて天に河【か】無く、清風空を吹いて月は波を舒【の】ぶ。
沙は平らに水息【や】んで声影絶え、一盃【いっぱい】相属【しょく】す君当【まさ】に歌うべし。
#2
君が歌は声酸【いた】み辞も且つ苦しく、終わるまで聴く能【あた】わずして涙雨の如し。
洞庭は天に連なり九疑【きゅうぎ】は高く、蛟竜【こうりゅう】出没して猩鼯【せいご】号【さけ】ぶ。
十生【じつせい】九死【きゅうし】 官所に到り、幽居黙黙として蔵逃せるが如し。
牀【しょう】を下れば蛇を畏れ食には薬を畏れ、海気濕蟄【しつちつ】して腥臊【せいそう】熏【くん】ず。
#3
昨者【さきごろ】州前【しゅうぜん】に大鼓を槌【う】ち、嗣皇【しこう】聖を継ぎて菱皐【きこう】を登【あ】ぐ。
赦書一日に万里を行き、罪の大辟【たへき】に従うは皆死を除かる。
遷者は追回し流者は還【かえ】し、瑕【きず】を滌【あら】い垢【あか】を蕩【そそ】いで朝【ちょう】 班【はん】を清む。
州家は名を申【の】べしも使家は抑え、坎軻【かんか】隻【ひとつ】荊蛮【けいばん】に移るを得しのみ。
#4
判司は卑官にして説【い】うに湛えず、未だ塵埃【じんあい】の間に捶楚【すいそ】せらるるを免れず。
同時の輩流 多く道に上るも、天路は幽険にして追攀【ついはん】し難し。
君が歌を且【しばら】く休【や】めて我が歌を聴け、我が歌は今君と科を殊【こと】にす。
一年の明月 今宵【こよい】多し、人生命【めい】に由る 他に由るに非ず、酒有れども飲まずんば明を奈何【いかん】せん
『八月十五夜贈張功曹』 現代語訳と訳註解説
(本文)
#2
君歌聲酸辭且苦,不能聽終淚如雨。
洞庭連天九疑高,蛟龍出沒猩鼯號。
十生九死到官所,幽居默默如藏逃。
下床畏蛇食畏藥,海氣溼蟄熏腥臊。
(下し文)
(現代語訳)
#2
そこで君は歌いだし、その歌はむせぶ様なきわめて酸楚、であり、その言辞は極めて悽苦、終わりまで聴いていることができずに涙が雨のように落ちる。
君の歌の中で、“洞庭湖は天に続くかと思われるほどにひろがり、九疑の山は高く、湖水のなかに蛟龍が出没し、山中では猩々【しょうじょう】や鼯鼠【むささび】が鳴く。”といい。
私は九死に一生を得るという困難を経て、やっと転任先、配所の郴州臨武に着いたが、もとより、僻地であるところから、ひっそりした生活しかできなくて毎日黙りこんで、逃げ隠れしているような具合、人に顔を見せなかった。
その上、其処は、瘴癘の地、寝台の下に毒蛇がひそんでいることがあったので心配し、食事には毒薬の入れてあるということもあったりして始終心配して、隠れ住んでいるように感じるのであった。おまけに、海から立ちのぼる気は湿気を帯びていて、なまぐさい臭いがあたりに漂って、とても耐えられなかった。
(訳注) #2
八月十五夜贈張功曹 #1
(805年、貞元二十一年八月十五夜、仲秋の夜、江陵功曹参軍事に新たに任じられた張署君に贈る。)
張署は愈と同時に臨武県へ流されたのだが、臨武県は彬州に属する。やはり郴州で命令を待つうち、これも江陵府の、功曹参軍に任ずるという辞令を受けたのである。そして出発の日を待つうち、たまたま中秋の名月の日が来て、張署が愈の宿を訪れ、酒を酌みかわしたところから、この詩が作られた。良くわからない罪で流罪となっている韓愈には次の赴任地に向かへという命が出ないのである。急進改革派、宦官筋からの裏工作によるものであったのだろうか、朝廷が混乱していただけなのかよくわかっていないが、宦官は儒者とは全く相いれないからどんなに些細な事でも、邪魔をするので、事務処理の邪魔をされたのかもしれない。
君歌聲酸辭且苦,不能聽終淚如雨。
そこで君は歌いだし、その歌はむせぶ様なきわめて酸楚、であり、その言辞は極めて悽苦、終わりまで聴いていることができずに涙が雨のように落ちる。
○聲酸 辛い、痛ましい、むせぶ様な調べ。きわめて酸楚、
○辭且苦 その言辞は極めて悽苦。
洞庭連天九疑高,蛟龍出沒猩鼯號。
君の歌の中で、“洞庭湖は天に続くかと思われるほどにひろがり、九疑の山は高く、湖水のなかに蛟龍が出没し、山中では猩々【しょうじょう】や鼯鼠【むささび】が鳴く。”といい。
○洞庭 洞庭湖。湖南省北東部にある淡水湖。中国の淡水湖としては鄱陽湖に次いで2番目に大きい。全体的に浅く、長江と連なっていて、その大量の水の受け皿となっており、季節ごとにその大きさが変わる。湖北省と湖南省はこの湖の北と南にあることからその名が付いた
○九疑 九疑山 湖南省寧遠縣の南六十支那里に在る山名、九峯竝び聳え、山形相似たるによりて名づく。
十生九死到官所,幽居默默如藏逃。―1
私は九死に一生を得るという困難を経て、やっと転任先、配所の郴州臨武に着いたが、もとより、僻地であるところから、ひっそりした生活しかできなくて毎日黙りこんで、逃げ隠れしているような具合、人に顔を見せなかった。
下牀畏蛇食畏藥,海氣濕蟄熏腥臊。
その上、其処は、瘴癘の地、寝台の下に毒蛇がひそんでいることがあったので心配し、食事には毒薬の入れてあるということもあったりして始終心配して、隠れ住んでいるように感じるのであった。おまけに、海から立ちのぼる気は湿気を帯びていて、なまぐさい臭いがあたりに漂って、とても耐えられなかった。
○下牀 寝台から降りる。
○畏蛇 毒蛇の心配があること。
○食畏藥 食事には毒薬の入っている恐れがある。
○海氣 海から立ちのぼる気
○濕蟄 空気中の水分が多いこと、湿気を帯びていること。
○熏腥臊 なまぐさい臭いがあたりに漂う。北回帰線付近の8月だから、まだ蒸しあつい日がある。











