韓愈 南山詩 #11
茫如試矯首,堛塞生怐懋。威容喪蕭爽,近新迷遠舊。
拘官計日月,欲進不可又。因緣窺其湫,凝湛閟陰嘼。
ここでは、定めて、山が善く見えるだろうといふので、茫然として、首を奉げたけれども、鼻の先に山がつかえて、何も見えないから、はては、煩悶をますばかりである。元來、この山は、遠望すれば、威容凛然としているけれども、側へくると、極めて平凡になって、蕭爽としてそびえて居る景色は、全く失われて、今まで見なかった新しい景色は、格別の趣もなく、やはりこれまで終南山を見た方がよかったと思われるので、心の中では迷うばかりである。されば、山全体を見るには、是非絶頂を窮めねばならないということだが、自分は、官吏で、種種の俗務に拘束されて居て、登山には、かなりの時日を要するから、それも出来ず、進もうと思っても、つづいて行くにも行かぬところから、その時も、亦た山を中止して仕舞った。しかし、折角、ここまできたのだから、どこか面白い景色はなかろうかというので、その邊を辿り行くと、例の谷川のところにきたり、そこには、一つの湫潭がある。その沼は、湛然としで碧色を凝らし、陰獸である蛟が、その主として棲んで居る。
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韓愈128 |
巻01-13 南山詩 |
#11(39~42) |
806年貞元22年 39歳-(1) |
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26分割(102) |
年:806年貞元22年 39歳-(1)<1657>
卷別: 卷三三六 文體: 五言古詩
詩題: 南山詩
作地點: 長安(京畿道 / 京兆府 / 長安)
及地點: 終南山 (京畿道 無第二級行政層級 終南山) 別名:南山、秦山
太白山 (京畿道 岐州 太白山) 別名:太白峰
昆明 (劍南道南部 嶲州 昆明)
杜陵 (京畿道 京兆府 萬年) 別名:杜墅、少陵
畢原 (京畿道 京兆府 萬年)
長安(京畿道 / 京兆府 / 長安)
澄源夫人湫廟 (京畿道 京兆府 萬年) 別名:湫、湫祠堂
藍田 (京畿道 京兆府 藍田)
交遊人物/地點:
#8
昆明大池北,去覿偶晴晝。
それから、昆明池の北岸までかえってきたのであつたが、そうしたら、からりと晴れた天気になっていた。
綿聯窮俯視,倒側困清漚。
昆明池の水面にうつむいて見ると終南山の山なみが端から端までつづいている、その眺めやる景色は、極めて宜しく、綿綿として長く績ける山の影を清く澄める池に例に映ってそばだち、逆さに傾きつつ、水面に入りきらない山々は困り顔に見えるのである。
微瀾動水面,踴躍躁猱狖。
水面に一ぱいところ狭きもので、湖面が却って迷惑に思いそうな位であり、そして、猿などが、木の上に居るが、糜爛が水面に動揺するとき、そこに寫れるを、自分の影とは知らす、動かされている。
驚呼惜破碎,仰喜呀不仆。
水面に映る猿の身が砕けようとするのをみて、そしてその影におどろき、さけび、仲間を呼び、ふと見あげて仲間がなお落ちていないことに気づき歯をむき出して泣き叫び喜んでいる。
#9
前尋徑杜墅,坌蔽畢原陋。
この前におとずれたとき、ここには猿などが人を恐れずして翠居する位、路の奇険は、いうまでもないので、唯だ水の此方から山を望んだだけ、その水を渡って、南山まで登って行かうといふ勇気も出す、その時も亦た失敗して仕舞ったが、今度は、杜陵から南山に登ろうと行って見たのであって、まもなく、畢原に差しかかると、頻りに塵埃が起って目を眩まし、いかにもうるさかったが、どうやらこうやらして、その原を横断した。
崎嶇上軒昂,始得觀覽富。
やがて山道に差しかかると、崎嶇甚だしく、やがて、少し高い処へ辿り着くと、眼界が豁然として開け、大に眺望を縦にすることができた。うねうねめぐり高く盛りあがった高い所に上れば視界はひらけて、やっとひろいながめを目にすることができる。
行行將遂窮,嶺陸煩互走。
その處を行き行きて、将に窮まろうとするとき、岡巒と平原とが交互に入り乱れて居て、地の高低は極めて甚だしい。だんだんとわけ入りそのまま頂きまで行こうとしたが、けわしいみねと、なだらかな丘陵とが面倒なほどいりまじって連なっている。
勃然思坼裂,擁掩難恕宥。
その岡などの為に、山が遮られて見えなくなるので、勃然として腹を立て、その岡をことごとく切ら開いて仕舞いたい、おのが眼界を壅蔽して居るから、断じて、容赦はできないと思ったものである。
#8
昆明【こんめい】大池の北に、去きて覿【み】れば偶【たまた】ま晴昼【せいちゅう】なり。
綿聯【めんれん】として俯【ふ】して視ることを窮【きわ】め,倒側【とうそく】して清漚【せいおう】に困【なや】む。
微瀾【びらん】の水面を動かせば,踊躍【ようやく】して猱狖【どうゆう】躁【さわ】ぐ。
驚き呼んで破碎【はさい】せんことを惜み,仰いで喜んで僕【たお】れざることを呀【か】す。
#9
前に尋ねしとき杜墅【としょ】に径すれば、岔蔽【ふんへい】として畢原【ひつ】陋【いや】し。
崎嘔【きく】として上ぼれば軒昂【けんこう】として、始めて観覧【かんらん】の富【ゆた】かなるを得たり。
行き行きて将に遂に窮めんとすれども、嶺陸【れいりく】煩【わず】らわしく互に走る。
勃然【ぼつぜん】として柝【さ】き裂かんことを思い、擁掩【ようえん】すること恕宥【じょゆう】し難し。
#10
巨靈與夸蛾,遠賈期必售。
むかし華山を裂いた巨霊や、愚公の手伝いをした兮蛾の餘勇を買えば、はじめて、そういう事ができると思われるので、定めて、その餘勇を買って居るだろうから、遠くに出かけて買ってきたいと思ったのである。
還疑造物意,固護蓄精祐。
しかし、よく考へると、この岡巒を作ったのは、もと造物主の神業で、その本意は、これを以て、山の精霊を保護するためである。
力雖能排斡,雷電怯呵詬。
されば、たとい巨霊や兮蛾の餘勇を買い得て、十分、その岡を切り開くちからがあるといえども、それでは、造物主の本意に運ぶことで、雷電を起して、ひどく叱りつけられることがないとも限らぬから、ここはやめておくほうが良いとする。
攀緣脫手足,蹭蹬抵積甃。
そこで仕方がないから、藤蘿に縋りついて、自分の手足を抜き取りながら、やつとの思いで、山を越し、礫が石だたみのように成って居る谷川のところへ、よろよろと、やつとの事で遣って来た。
#11
茫如試矯首,堛塞生怐懋。
ここでは、定めて、山が善く見えるだろうといふので、茫然として、首を奉げたけれども、鼻の先に山がつかえて、何も見えないから、はては、煩悶をますばかりである。
威容喪蕭爽,近新迷遠舊。
元來、この山は、遠望すれば、威容凛然としているけれども、側へくると、極めて平凡になって、蕭爽としてそびえて居る景色は、全く失われて、今まで見なかった新しい景色は、格別の趣もなく、やはりこれまで終南山を見た方がよかったと思われるので、心の中では迷うばかりである。
拘官計日月,欲進不可又。
されば、山全体を見るには、是非絶頂を窮めねばならないということだが、自分は、官吏で、種種の俗務に拘束されて居て、登山には、かなりの時日を要するから、それも出来ず、進もうと思っても、つづいて行くにも行かぬところから、その時も、亦た山を中止して仕舞った。
因緣窺其湫,凝湛閟陰嘼。
しかし、折角、ここまできたのだから、どこか面白い景色はなかろうかというので、その邊を辿り行くと、例の谷川のところにきたり、そこには、一つの湫潭がある。その沼は、湛然としで碧色を凝らし、陰獸である蛟が、その主として棲んで居る。#10
巨霊【きょれい】と誇蛾【かが】と、遠く賈【あざ】なって必ず售【う】れんことを期す。
還た疑ごう 造物の意、固く護って精祐【せいゆう】を蓄【たくお】うるかと。
力 排斡【はいあつ】するに能【た】えたりと雖も、雷電して呵詬【かこう】せんことを怯る。
攀緣【はんえん】すれば手足【しゅそく】を脱して、蹭蹬【そうとう】として積甃【せきしゅう】に抵【いた】る。
#11
茫如【ぼうじょ】として試みに首を矯【あ】ぐれば、堛塞【ひつそく】として怐愗【こうぼう】を生ず。
咸容【いよう】喪しなわれて蕭爽【しょうそう】たり、近新【きんしん】遠旧【えんきゅう】に迷う。
官に拘【つな】がれて日月を計【かぞ】うるに、進まんと欲っすれども又【ふたたび】すべからず。
因縁【いんえん】して其の湫【しゅう】を窺【うたが】えば、凝湛【ぎょうたん】として陰獸【いんきゅう】を閟【と】ざす。
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43 |
魚蝦可俯掇,神物安敢寇。 |
魚蝦【ぎょか】は俯して掇【ひろ】うべきも、神物は安んぞ敢えて冦【こう】せんや。 |
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44 |
林柯有脫葉,欲墮鳥驚救。 |
林柯【りんか】に脱【お】つる葉有り、堕ちんと欲っすれば鳥驚き救う。 |
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45 |
爭銜彎環飛,投棄急哺鷇。 |
争い銜【ふく】んで彎環【わんかん】として飛び、投げ棄つること鷇【こう】に哺するよりも急なり。 |
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46 |
旋歸道回睨,達櫱壯復奏。 |
鏇【めぐ】り帰って道より回【かえ】り睨【み】れば、達枿【たつげつ】として壮にして復た奏【あつ】まる。 |
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47 |
吁嗟信奇怪,峙質能化貿。 |
籲嗟【ああ】信に奇怪【きかい】なり、峙質【じしつ】も能く化貿【かぼう】す。 |
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48 |
前年遭譴謫,探歷得邂逅。 |
前年【ぜんねん】鑓鏑【けんたく】に遭い、探歴【たんれき】して邂逅【かいこう】することを得たり。 |
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49 |
初從藍田入,顧盻勞頸脰。 |
初じめ藍田【らんでん】より入りしとき、顧盻【こべん】して頸脰【けいとう】を労す。 |
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50 |
時天晦大雪,淚目苦朦瞀。 |
時に 天 晦【くろ】うして大いに雪ふり、涙の目は苦【はなは】だ矇瞀【もうぼう】たり。 |
『南山詩』現代語訳と訳註解説
(本文)
#11
茫如試矯首,堛塞生怐懋。
威容喪蕭爽,近新迷遠舊。
拘官計日月,欲進不可又。
因緣窺其湫,凝湛閟陰嘼。
(下し文)
#11
茫如【ぼうじょ】として試みに首を矯【あ】ぐれば、堛塞【ひつそく】として怐愗【こうぼう】を生ず。
咸容【いよう】喪しなわれて蕭爽【しょうそう】たり、近新【きんしん】遠旧【えんきゅう】に迷う。
官に拘【つな】がれて日月を計【かぞ】うるに、進まんと欲っすれども又【ふたたび】すべからず。
因縁【いんえん】して其の湫【しゅう】を窺【うたが】えば、凝湛【ぎょうたん】として陰獸【いんきゅう】を閟【と】ざす。
(現代語訳)
#11
ここでは、定めて、山が善く見えるだろうといふので、茫然として、首を奉げたけれども、鼻の先に山がつかえて、何も見えないから、はては、煩悶をますばかりである。
元來、この山は、遠望すれば、威容凛然としているけれども、側へくると、極めて平凡になって、蕭爽としてそびえて居る景色は、全く失われて、今まで見なかった新しい景色は、格別の趣もなく、やはりこれまで終南山を見た方がよかったと思われるので、心の中では迷うばかりである。
されば、山全体を見るには、是非絶頂を窮めねばならないということだが、自分は、官吏で、種種の俗務に拘束されて居て、登山には、かなりの時日を要するから、それも出来ず、進もうと思っても、つづいて行くにも行かぬところから、その時も、亦た山を中止して仕舞った。
しかし、折角、ここまできたのだから、どこか面白い景色はなかろうかというので、その邊を辿り行くと、例の谷川のところにきたり、そこには、一つの湫潭がある。その沼は、湛然としで碧色を凝らし、陰獸である蛟が、その主として棲んで居る。
(訳注)
《 巻01-13南山詩 》 #11
(南山をいろいろの角度から描写しようとした詩)
茫如試矯首,堛塞生怐愗。
ここでは、定めて、山が善く見えるだろうといふので、茫然として、首を奉げたけれども、鼻の先に山がつかえて、何も見えないから、はては、煩悶をますばかりである。
105 茫如 如は、然などと同じく形容詞につく語尾。ボーッとしたままで。なにげなく。
106 矯首 あたまを上向ける。
107 堛塞 堛は、土くれ。堛塞は、土くれがいっぱいつまっているさま。
108 恂悲 おろかなさま。ここでは、どうしてよいかわからず、途方にくれたことをいう。
威容喪蕭爽,近新迷遠舊。
元來、この山は、遠望すれば、威容凛然としているけれども、側へくると、極めて平凡になって、蕭爽としてそびえて居る景色は、全く失われて、今まで見なかった新しい景色は、格別の趣もなく、やはりこれまで終南山を見た方がよかったと思われるので、心の中では迷うばかりである。
109 威容 南山のりっぱなすがた。雄々しき姿。
110 蕭爽 ものさびしいさま。
111 近新迷遠旧 南山の近い新しい風景が、遠くから見ていた以前の風景とちがうので、迷ってしまうこと。
拘官計日月,欲進不可又。
されば、山全体を見るには、是非絶頂を窮めねばならないということだが、自分は、官吏で、種種の俗務に拘束されて居て、登山には、かなりの時日を要するから、それも出来ず、進もうと思っても、つづいて行くにも行かぬところから、その時も、亦た山を中止して仕舞った。
112 拘官 官吏の生活にしばられる。
113 計日月 日月をかぞえてみる。官吏として出動すべき月ロまでの日数を計算してみたわけである。
114 欲進不可又 この道から進もうとしたがそれ以上できない。
因緣窺其湫,凝湛閟陰獸。
しかし、折角、ここまできたのだから、どこか面白い景色はなかろうかというので、その邊を辿り行くと、例の谷川のところにきたり、そこには、一つの湫潭がある。その沼は、湛然としで碧色を凝らし、陰獸である蛟が、その主として棲んで居る。
115 囚縁窺其湫 杜墅より山にはいって、雨山の山中にある池を見たことである。・因縁:ついでにということ。其湫の湫は、いけ。これは、南山の中にあって雨乞いの場所であった炭谷湫をさす。韓愈には、「炭谷湫の祠堂に題す」という詩(集巻五)もある。
116 凝湛 瀞とに水がたたえられているさま。
117 閟 かくれすまわせている。
118 陰獸【いんきゅう】 獸は、畜と同じ。家畜という考え方でこの池に飼っている蛟のことをいう。蛟を畜とすることは、『礼記』「礼運篇」に見えるという。
















