碧城三首 李商隠15「恋の無題詩」
「恋する人へ打ち明けた思いの詩」

碧城 其三
七夕来時先有期、洞房簾箔至今垂。
七夕の日、天上で牽牛と織女が一年に一度の情交を楽しむというもの、地上でも古くには漢の武帝が延霊台で西王母と会ったという。それは先に使いの者がおとずれて約束を交していた。この碧き薄絹の帷、金箔玉の簾のある奥座敷、その今も垂れ下がったままにしてあるのは神たる仙女との愛を残していくためだ。
玉輪顧免初生魄、鐡網珊瑚未有枝。
夜空にかかる月も玉の輪のような麗しき初めて上がった閨で処女が待っているのを月に棲む媚薬作りの兎も見ている。鉄の強固な網で、海底に人知れず生育している珊瑚は、まだ幼なくで枝をのばしていなくて、鉄爪にかかってひきあげられるにはいたらないようなあどけない女性なのだ。
検輿神方敎駐景、収将鳳紙写相思。
そう、神仙の秘術、不老の法を探して、太陽をとめ、時間を停止させ夢の世界へ。また、この感情のとこしえに変わることのないよう、道教の聖者が祭文をしるすに用いる金鳳紙をもってきて私の恋情を書きつけておきたい。
武皇内伝分明在、莫道人間総不知。

「演武帝内伝」なる書物には、そうした甘美な交情のことがらがはっきりと書かれてあり、それ故に、人々よ、こうした現実を超える夢幻の世界、そしてその歓びなど、地上の人の知らないことと言ってはならない。私はそれをすべて知っているのだ。



七夕の日、天上で牽牛と織女が一年に一度の情交を楽しむというもの、地上でも古くには漢の武帝が延霊台で西王母と会ったという。それは先に使いの者がおとずれて約束を交していた。この碧き薄絹の帷、金箔玉の簾のある奥座敷、その今も垂れ下がったままにしてあるのは神たる仙女との愛を残していくためだ。
夜空にかかる月も玉の輪のような麗しき初めて上がった閨で処女が待っているのを月に棲む媚薬作りの兎も見ている。鉄の強固な網で、海底に人知れず生育している珊瑚は、まだ幼なくで枝をのばしていなくて、鉄爪にかかってひきあげられるにはいたらないようなあどけない女性なのだ。
そう、神仙の秘術、不老の法を探して、太陽をとめ、時間を停止させ夢の世界へ。また、この感情のとこしえに変わることのないよう、道教の聖者が祭文をしるすに用いる金鳳紙をもってきて私の恋情を書きつけておきたい。
「演武帝内伝」なる書物には、そうした甘美な交情のことがらがはっきりと書かれてあり、それ故に、人々よ、こうした現実を超える夢幻の世界、そしてその歓びなど、地上の人の知らないことと言ってはならない。私はそれをすべて知っているのだ。


碧城 其の三
七夕 来る時先ず期有り
洞房の簾箔今に至るまで垂る
宝輪 顧兎 初めて魄を生じ
鐡網 珊瑚 未だ枝有らず
神方を検し与えて景を駐め敎しめ
鳳紙を収め将って 相思を写す
武皇の内伝 分明に在り
道う莫れ 人間 総て知らずと



七夕来時先有期、洞房簾箔至今垂
七夕の日、天上で牽牛と織女が一年に一度の情交を楽しむというもの、地上でも古くには漢の武帝が延霊台で西王母と会ったという。それは先に使いの者がおとずれて約束を交していた。この碧き薄絹の帷、金箔玉の簾のある奥座敷、その今も垂れ下がったままにしてあるのは神たる仙女との愛を残していくためだ。
七夕有期 「漢武内伝」に見える漢の武帝劉徹(紀元前157-87)と西王母の逢瀬を指す。承華殿に閑居していた武帝の前に、青い鳥の化身の美女が現われ、妾は墉宮の王子登というもの、七月七日に道教西の理想郷の仙女西王母が来ることをお伝えにきましたと言った。武帝は延霊台に登って待ったところ、果して七夕の夜に西王母がやって来たという。期は会う約束。○洞房 奥まった私室。

玉輪顧兎初生魄、鐡網珊瑚未有枝
夜空にかかる月も玉の輪のような麗しき初めて上がった閨で処女が待っているのを月に棲む媚薬作りの兎も見ている。鉄の強固な網で、海底に人知れず生育している珊瑚は、まだ幼なくで枝をのばしていなくて、鉄爪にかかってひきあげられるにはいたらないようなあどけない女性なのだ。
玉輪顧兎 玉輪は月のたとえ。月中には桂の樹があり、また兎がすむと伝説される。兎は、愛の妙薬を臼でついている。前の二句にある洞房には桂が柱や梁がつかわれていることから、ここでの玉輪は女性を示すもの、○生魄 魄は月の影の部分。陰暦の十六日の月。新月前後のかすかな光。既望。処女の女性。初めて閨に入る女性を示す。ここの解釈が違っていて理解できない訳が多い。 ○鉄網珊瑚「神農本草経」に「珊瑚は海底の盤石の上に生ず一歳にして黄、三歳にして赤し。海人先ず鉄網を作りて水底に沈むれば中を貫いて生ず。網を絞りて之を出す。時を失して取らざれは則ち腐る。」とある。な玉輪 鉄網の二句には奥に隠された意味があると思われる。例えば西晋の傅玄(217-278)の雑詩の句「明月常には盈つるあたわず。」という月が女性の容姿の喩えであるように、恐らく「顧免初生魄」は、少くとも、愁いを知りそめた乙女の顔、そしてその瞳への聯想をいざなうように作られている。また、熟せば赤くなる珊瑚、だがまだ枝を生じないから網でひきあげられてはいない。セックスについて未成熟であるというこの一句にはエロティックな意味がある。



検輿神方敎駐景、収将鳳紙写相思
そう、神仙の秘術、不老の法を探して、太陽をとめ、時間を停止させ夢の世界へ。また、この感情のとこしえに変わることのないよう、道教の聖者が祭文をしるすに用いる金鳳紙をもってきて私の恋情を書きつけておきたい。
神方 神秘な不老長寿の法術。道教の神妙道の○駐景 景はひかり。時間をとめる。○鳳紙 道家で祭文をしるすのにこの紙を用いる。ここは後者の場合。

武皇内伝分明在、莫道人間総不知
「演武帝内伝」なる書物には、そうした甘美な交情のことがらがはっきりと書かれてあり、それ故に、人々よ、こうした現実を超える夢幻の世界、そしてその歓びなど、地上の人の知らないことと言ってはならない。私はそれをすべて知っているのだ
武皇内伝 後漢の歴史家班固に偽託される小説雑記。主に武帝後宮のことと武帝が仙を好んだことをしるす。唐の魏徴等の「隋書」経籍志には、「漢武帝内伝」二巻としるす。魏晋時代のの偽書である。○莫道道は云う。莫はしてはならぬ、禁止の詞。○人間 天上世界に対する人間の世界。