陸游 麗わしの人、唐琬。(4)
 七言絶句 沈園 二首  陸游75歳の作 
 
[結婚期間]  21-22歳
1. 釵頭鳳  33歳 偶然の再開
2. 絶句二首其一 63歳 菊採り枕嚢を縫い、
3. 絶句二首其二 63歳 「凄然」とした詩
4. 七言律詩 68歳 妄想はのぞき消しつくそう
5. 沈園 二首其一 75歳 春波綠
6. 沈園 二首其二 75歳 柳老不吹綿


(4-1)
沈園二首其一
城上斜陽畫角哀,沈園非復舊池臺。
城郭の上で、陽が傾いている中、いつもの夕の時を告げる角笛のもの悲しげな音色がもの悲しさを描いている。沈園は、既に面影は移ろいもはや昔の池の畔の高台ではなくなっている。 
傷心橋下春波綠,曾是驚鴻照影來。

悲しく思うきもちは橋の下を流れる春の川の緑色に澄んだ流れの中、かつてのしなやかな美人の姿を映し出したのでおどろいておおとりが飛び立つほどときめいた。


城郭の上で、陽が傾いている中、いつもの夕の時を告げる角笛のもの悲しげな音色がもの悲しさを描いている。沈園は、既に面影は移ろいもはや昔の池の畔の高台ではなくなっている。 
悲しく思うきもちは橋の下を流れる春の川の緑色に澄んだ流れの中、かつてのしなやかな美人の姿を映し出したのでおどろいておおとりが飛び立つほどときめいた。



(下し文)沈園しんえん二首 其の一    
城上じょうじょうの斜陽  畫角がかく 哀かなし,沈園しんえん 復また 舊きう池臺 ち だいに 非ず。
傷心  橋下  春波しゅん ぱ の綠,曾かつて是これ 驚鴻きょうこうの  影を照うつして來きたりしを。


城上斜陽畫角哀、沈園非復舊池臺。
城郭の上で、陽が傾いている中、いつもの夕の時を告げる角笛のもの悲しげな音色がもの悲しさを描いている。沈園は、既に面影は移ろいもはや昔の池の畔の高台ではなくなっている。 
城上 城市の方から。城郭の上。ここは ○斜陽 西に傾いた太陽。夕日。 ・ 角笛。朝夕の時を告げる。夕方の景色がもの悲しい○ また。 ○ 昔の。 ○池臺 池の畔の高台。池の中の高台。

傷心橋下春波綠,曾是驚鴻照影來。
悲しく思うきもちは橋の下を流れる春の川の緑色に澄んだ流れの中、かつてのしなやかな美人の姿を映し出したのでおどろいておおとりが飛び立つほどときめいた。
傷心 心をいためること。悲しく思うこと。 ○ 緑色に澄む。綠を ○曾是 かつて。以前に。 ○ かつて~ことがある。 ○驚鴻 おどろいて飛び立つおおとり。 ○照影來 姿を映し出してきた。 
春波綠は男女の情交を示す言葉で、水面の揺らめく波で、若き日のその時を思い出した。



沈園二首其二

夢斷香消四十年,沈園柳老不吹綿。
夢のような偶然の出逢いから色香も消え失せてしまって、四十年が経(た)つ。沈園のヤナギは、年老いて、柳絮を飛ばさなくなった。
此身行作稽山土,猶弔遺蹤一泫然。
この身も、やがては会稽山の墓地に埋葬されて、そこの土となることだろうが、なおも昔に想いを馳せて、もっぱら涙をはらはらと流している

夢のような偶然の出逢いから色香も消え失せてしまって、四十年が経(た)つ。沈園のヤナギは、年老いて、柳絮を飛ばさなくなった。
この身も、やがては会稽山の墓地に埋葬されて、そこの土となることだろうが、なおも昔に想いを馳せて、もっぱら涙をはらはらと流している

(下し文)沈園しんえん二首 其の二
夢は斷え 香りは消えて  四十年,沈園 柳は老いて  綿を吹かず。
此この身 行ゆくゆく  稽山の土と作ならんとも,猶  遺蹤いしょうを弔いたみて  一いつに 泫然げんぜんたり。


夢斷香消四十年,沈園柳老不吹綿。
夢のような偶然の出逢いから色香も消え失せてしまって、四十年が経(た)つ。沈園のヤナギは、年老いて、柳絮を飛ばさなくなった。
 前妻・唐琬の色香。 ○四十年 前妻・唐婉との別離以降の歳月。 ・柳老 年老いたヤナギ。陸游を示す。なお、ヤナギはヤナギでも楊の楊花は、男性の間を転々と移り行く女性を謂う。 ○不吹綿 柳絮を飛ばさなくなった。年老いたということ。陸游が年を取って男としての役割ができなくなったことをあらわす。


此身行作稽山土、猶弔遺蹤一泫然。
この身も、やがては会稽山の墓地に埋葬されて、そこの土となることだろうが、なおも昔に想いを馳せて、もっぱら涙をはらはらと流している。
 ゆくゆく。やがて。 ○稽山 会稽山(かいけいざん)のこと。浙江省紹興市の南南東にある大山。春秋時代、越王・勾践が呉王・夫差に敗れて、立て籠もったところ。謝朓、李白の詩がある。李白「送姪良携二妓赴会稽戯有此贈」「越女詞 其四」 ブログ越女詞五首其三 14其四 12-5其五稽山土 死んだ後、会稽山に埋葬されて、そこの土となることを謂う。○ なお。引き続いて。 ○ いたみあわれむ。弔古。古(いにしえ)をしのぶ。遺跡等で往事の人を祀ったり、昔に想いを馳せること。 ○遺蹤 残っているあと。あとかた。遺跡。 ○ ひとえに。もっぱら。いつに。 ○泫然 涙をはらはらと流すさま。