紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集 34 「辛未七夕」李商隠



辛未七夕 
恐是仙家好別離、故教迢逓作佳期。
察するに、朝廷のおかみも、仙界の世界でも別離させることが、お好きらしい。何故といって、こんなに長い間愛しい人と会う約束すらできなく隔てられていたのであるから。
由来碧落銀河畔、可要金風玉露時。
天界においてはもともと、あの高い大空の銀河の河畔で逢瀬をすることなのだから、ことさら同じように、秋風が吹き、星がきらめき露が下りはじめる一夕に限る必要はあるまいに。
清漏漸移相望久、微雲末接過来遅。
水時計は時を刻み、他人の部屋はうまくいっている。次第に夜もふけて、ふたりは長い間、望みをかなえているはずなのに、空は晴れ渡り、銀河を橋渡するはずのほのかな雲はつながらず、織女の渡河はなかなか実現しそうにない。
豈能無意酬烏鵲、惟與蜘蛛乞巧絲。

天上の恋人たちが会う為に、烏鵲が河をうずめて橋をかけてくれるということだが、せっかくの努力に酬いる気もないのであろう。ただ、地上の蜘蛛の五色の糸の七夕の飾り物や果物をお供えさせておくだけというのは、献身して働く者は放っておいて、権力を持ったものには厚遇しょうということなのか。


察するに、朝廷のおかみも、仙界の世界でも別離させることが、お好きらしい。何故といって、こんなに長い間愛しい人と会う約束すらできなく隔てられていたのであるから。
天界においてはもともと、あの高い大空の銀河の河畔で逢瀬をすることなのだから、ことさら同じように、秋風が吹き、星がきらめき露が下りはじめる一夕に限る必要はあるまいに。
水時計は時を刻み、他人の部屋はうまくいっている。次第に夜もふけて、ふたりは長い間、望みをかなえているはずなのに、空は晴れ渡り、銀河を橋渡するはずのほのかな雲はつながらず、織女の渡河はなかなか実現しそうにない。
天上の恋人たちが会う為に、烏鵲が河をうずめて橋をかけてくれるということだが、せっかくの努力に酬いる気もないのであろう。ただ、地上の蜘蛛の五色の糸の七夕の飾り物や果物をお供えさせておくだけというのは、献身して働く者は放っておいて、権力を持ったものには厚遇しょうということなのか。


辛未七夕(しんぴしちせき)
恐らくは是れ 仙家の別離を好むならん、故さらに迢逓(ちょうてい)に佳期を作さしむ。
由来 碧落 銀河の畔、要らず金風玉露の時なる可けんや。
清漏 漸く移って相望むこと久しく、徴雲は未だ接せず過り来ること遅し。
豈に能く鳥鵲(うじゃく)に酬ゆるに意無からんや、惟だ蜘蛛の巧糸を乞うに与す。

○辛未七夕 辛未はかのとひつじの年。851年がそれにあたる。李商隠40歳。徐州幕府で約二年いがそこを罷めて一時気長安に帰った時期であろうか。その年の11月には四川省梓州で書記を務めている。久方ぶりに長安の芸妓の女性に逢うことができるというので約束をしてあろう、ところが先約があったのだろう、自分のところになかなか来てくれない。この詩は力のあるものが横やりを入れてなかなか会えない気持ちを詠う。権力を持ったものの横暴がまかり通った時代であるということを示している。

恐是仙家好別離、故教迢逓作佳期。
察するに、朝廷のおかみも、仙界の世界でも別離させることが、お好きらしい。何故といって、こんなに長い間愛しい人と会う約束すらできなく隔てられていたのであるから。
仙家 天上の人人。○迢逓 迢かに遠いこと。時間的にも空間的にも。○ ことさら、○ ~しむ。使役の助詞。 ○佳期 愛人とあう時間、おうせ。李白「大堤曲」でも、愛人と会う逢瀬を示す。

由来碧落銀河畔、可要金風玉露時。
天界においてはもともと、あの高い大空の銀河の河畔で逢瀬をすることなのだから、ことさら同じように、秋風が吹き、星がきらめき露が下りはじめる一夕に限る必要はあるまいに。
由来 もともと。○碧落 道教でいう天上最高のところ。中唐の詩人白居易(772-846年)の長恨歌に「上は碧落を窮め下は黄泉。」と云うのも、仙界を訪ねてのこと。○金風 秋風。五行思想では、金は時節では秋、方位では西である。
 

清漏漸移相望久、微雲末接過来遅。
水時計は時を刻み、他人の部屋はうまくいっている。次第に夜もふけて、ふたりは長い間、望みをかなえているはずなのに、空は晴れ渡り、銀河を橋渡するはずのほのかな雲はつながらず、織女の渡河はなかなか実現しそうにない。
清漏 水時計の清らかな音。
 

豈能無意酬烏鵲、惟與蜘蛛乞巧絲。
天上の恋人たちが会う為に、烏鵲が河をうずめて橋をかけてくれるということだが、せっかくの努力に酬いる気もないのであろう。ただ、地上の蜘蛛の五色の糸の七夕の飾り物や果物をお供えさせておくだけというのは、献身して働く者は放っておいて、権力を持ったものには厚遇しょうということなのか。
烏鵲 七夕の夜、烏鵲が銀河の橋渡しをするという伝説。○蜘蛛乞巧 中国の七夕の飾りは、五彩の糸を七つの孔のある針に通し、女達は裁縫の上達を天孫すなわち織女星に願う。色色の瓜果を庭に供え、香燭をつけて翌日を待ち、朝に蜘蛛が網をくだものの上に掛けていると、その願いが聞き入れられるとする。その祭りを乞巧奠という。