揺落 李商隠  :紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集 58李商隠

詩は、草木揺落する秋吾に託して、僻地に流寓る孤独をだれかわからない女性にラブレターとして歌う。

揺落
揺落傷年日、羈留念遠心。
今、草も木も揺れ落ち、過ぎ去りゆく年をかなしみを覚える憂愁の季節、旅先に長逗留する私の心は、遙かな故郷をしきりに思う。
水亭吟断續、月幌夢飛沈。
水郷の旅館で、詩を詠じつつ作る私は、感情の途絶えと継続を続けている。月光は宿のとばりを照らしとお前とのことを思う、ある時には鳥
のようにまた魚のように、飛びまた沈むような夢のひと時を。
古木含風久、疎螢怯露深。
古木の梢は微風をしばらく抱きかかえる、一つ二つまばらに飛んで螢は露の深さを恐れて、河畔の茂みから姿をあらわしている。
人閑始遙夜、地迥更清砧。
人気なく閑散として静寂のなかで、秋の夜長がはじまる、へんぴな片田舎、澄み切ったきぬたの音がしみわたり心を震わせる。
結愛曾傷晩、端憂復至今。
たとえ平和な生活が約束されていても、私達は愛を結ぶことの遅かったことを悲しんだものだったのに、その時むすばれた前途への憂いは、現実のこととなり、その悲哀の中にのみずっと私は住むこととなった。
未諳滄海路、何處玉山岑。
東海のあおい仙境に向かう海路がある、貴い真珠があり、玉をもって輝く仙山がきりたっており、そこへ赴く道が何処にあるのかわからない。
灘激黄牛暮、雲屯白帝陰。
ここ黄牛山の山麓の日暮れ、はやせには急流が激しい水音を立てて流れ、雲のようなお前の姿が、彼方の白帝城に見えかくれ思いを寄せるのだ。
遙知霑灑意、不滅欲分襟。
その涙と悲しみは、私達が袖を分って別れた時のことを思い出す、あの時のそれにも劣らない気持ちは消えはしない。

今、草も木も揺れ落ち、過ぎ去りゆく年をかなしみを覚える憂愁の季節、旅先に長逗留する私の心は、遙かな故郷をしきりに思う。
水郷の旅館で、詩を詠じつつ作る私は、感情の途絶えと継続を続けている。月光は宿のとばりを照らしとお前とのことを思う、ある時には鳥のようにまた魚のように、飛びまた沈むような夢のひと時を。
古木の梢は微風をしばらく抱きかかえる、一つ二つまばらに飛んで螢は露の深さを恐れて、河畔の茂みから姿をあらわしている。
人気なく閑散として静寂のなかで、秋の夜長がはじまる、へんぴな片田舎、澄み切ったきぬたの音がしみわたり心を震わせる。
たとえ平和な生活が約束されていても、私達は愛を結ぶことの遅かったことを悲しんだものだったのに、その時むすばれた前途への憂いは、現実のこととなり、その悲哀の中にのみずっと私は住むこととなった。東海のあおい仙境に向かう海路がある、貴い真珠があり、玉をもって輝く仙山がきりたっており、そこへ赴く道が何処にあるのかわからない。
ここ黄牛山の山麓の日暮れ、はやせには急流が激しい水音を立てて流れ、雲のようなお前の姿が、彼方の白帝城に見えかくれ思いを寄せるのだ。
その涙と悲しみは、私達が袖を分って別れた時のことを思い出す、あの時のそれにも劣らない気持ちは消えはしない。


揺落す 年を傷むの日、萌留して遠きを念う心あり。
水亭に 吟 断続し、月幌に 夢 飛沈す。
古木は風を含むこと久しく、疎なる螢は露の深きを怯る。
人は閑かなり 始めて遙き夜、地は迥にして更に清き砧あり。
結愛 曾て晩きを傷み、端憂 復た今に至る。
未だ諳んぜず 滄海の路、何の処にか玉山の岑ある。
灘は激す 黄牛の暮、雲は屯す 白帝の陰。
逢かに知る 霑灑の意の、襟を分たんとするに減ぜざらんことを。



揺落傷年日、羈留念遠心。
今、草も木も揺れ落ち、過ぎ去りゆく年をかなしみを覚える憂愁の季節、旅先に長逗留する私の心は、遙かな故郷をしきりに思う。
傷年 過ぎ去りゆく年をかなしむ。劉宋の飽照の故人に贈るの詩に「歓び至るも時に留まらず、毎に感じて輒ち年を傷む。」○羈留 長逗留。


水亭吟断續、月幌夢飛沈。
水郷の旅館で、詩を詠じつつ作る私は、感情の途絶えと継続を続けている。月光は宿のとばりを照らしとお前とのことを思う、ある時には鳥のようにまた魚のように、飛びまた沈むような夢のひと時を。
 ちん。旅館、休憩所。○ 詩を詠じつつ作る。〇月幌 月夜のとばり。杜甫(712-770年)が月を観て妻子に寄せた詩「月夜」
今夜鄜州月、閨中只独看。
遥憐小児女、未解憶長安。
香霧雲鬟湿、清輝玉臂寒。
何時倚虚幌、双照涙痕乾。
今夜  鄜州(ふしゅう)の月、閨中(けいちゅう)  只だ独り看(み)るらん。
遥かに憐(あわ)れむ小児女(しょうじじょ)の、未(いま)だ長安を憶(おも)うを解(かい)せざるを。
香霧(こうむ)に雲鬟(うんかん)湿(うるお)い、清輝(せいき)に玉臂(ぎょくひ)寒からん。
何(いず)れの時か虚幌(きょこう)に倚(よ)り、双(とも)に照らされて涙痕(るいこん)乾かん。
と表現して以来、月幌の字には、妻を思う意が含められる。○夢飛沈 飛は鳥、沈は魚。「荘子」大宗師
笛に「夢に鳥と為って天に腐り、夢に魚となって淵に没む。」と。


古木含風久、疎螢怯露深。
古木の梢は微風をしばらく抱きかかえる、一つ二つまばらに飛んで螢は露の深さを恐れて、河畔の茂みから姿をあらわしている。


人閑始遙夜、地迥更清砧。
人気なく閑散として静寂のなかで、秋の夜長がはじまる、へんぴな片田舎、澄み切ったきぬたの音がしみわたり心を震わせる。


結愛曾傷晩、端憂復至今。
たとえ平和な生活が約束されていても、私達は愛を結ぶことの遅かったことを悲しんだものだったのに、その時むすばれた前途への憂いは、現実のこととなり、その悲哀の中にのみずっと私は住むこととなった。
端憂 劉宗の謝荘(421-466年)の月の賦に「陳王初め応(場)劉(楨)を喪い、端憂して暇多し。」と前例がある。悲しい一の事柄にのみかかわって、他になす事を知らぬ憂いという意味であろうか。


未諳滄海路、何處玉山岑。
東海のあおい仙境に向かう海路がある、貴い真珠があり、玉をもって輝く仙山がきりたっており、そこへ赴く道が何処にあるのかわからない。
滄海・玉山 錦瑟の詩。


灘激黄牛暮、雲屯白帝陰。
ここ黄牛山の山麓の日暮れ、はやせには急流が激しい水音を立てて流れ、雲のようなお前の姿が、彼方の白帝城に見えかくれ思いを寄せるのだ。
○灘 はやせ。○黄牛 峡谷の名。湖北省宜昌県西北にある黄牛山の山麓にある。○白帝 白帝城。四川省夔州にある山。梁の簡文帝蕭網(503-551年)の浮雲の詩に「憐むべし片雲生ず、暫く重く復た還た軽し。荊王の夢をして、白帝城を過ぐべからしめんとす。」とあるごとく、楚の懐王の夢枕にあらわれた神女の巫山というのは夔州にある故に、白帝の雲といえば、単なる実景ではなく、思い人を夢見る意味も含まれる。○ 山の北側。川では陰はみなみである。


遙知霑灑意、不滅欲分襟。
その涙と悲しみは、私達が袖を分って別れた時のことを思い出す、あの時のそれにも劣らない気持ちは消えはしない。
分襟 別離。


○韻 心、沈、深、砧、今、岑、陰、襟。