題僧壁 李商隠  :紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集 61
853年梓州李商隠42歳。
題借壁 李商隠47

この詩は、仏教の教えを4つの側面で捉えて詩にした。①命というもの、②物事の大きさということ、③事物の背景には、長い熟成がある、④経文の「おしえ」により生きる 
というものである。

題僧壁
捨生求道有前蹤、乞脳剜身結願重。
解脱への修行の道をもとめれば釈迦の誰も知る「おしえ」に示されている。餓えた虎の叫ぶのを聞いて、命を捨てよと。釈迦は、何一つ人に施すもののないときは、自分の脳味噌を人に与え、肉をさいて虎に施すことをも躊躇しなかった。それほど道を得ようとする願いは重く固いのだ。
大去便應欺粟顆、小來兼可隠針鋒。
大をみればこの大宇宙を一粒の粟の中に蔵し得るとなし、小さいこと考えれば、また尖った針の頭に、この多くの人々を受けて隠し得るものと説いている。
蚌胎未満思新桂、琥珀初成憶舊松。
海底の蛤が孕んだ真珠が、まだ円くひかり輝かぬうちにも、やがて月の上では新月のうちに桂が繁るだろうことを人が予想し、琥珀の一滴の輝きというものには、過去二千年の松の年輪がおもいめぐらされている。
若信貝多眞實語、三生同聴一樓鐘。

多羅樹の葉によって伝わる経文にかかれた真実を信じ、煩悩を捨て一心不乱に生きるなら、過去生、現在生、未来生、どこに生きようとこの高楼から響くこの鐘の音は同じように聞こえるのであろう。


解脱への修行の道をもとめれば釈迦の誰も知る「おしえ」に示されている。餓えた虎の叫ぶのを聞いて、命を捨てよと。釈迦は、何一つ人に施すもののないときは、自分の脳味噌を人に与え、肉をさいて虎に施すことをも躊躇しなかった。それほど道を得ようとする願いは重く固いのだ。
大をみればこの大宇宙を一粒の粟の中に蔵し得るとなし、小さいこと考えれば、また尖った針の頭に、この多くの人々を受けて隠し得るものと説いている。
海底の蛤が孕んだ真珠が、まだ円くひかり輝かぬうちにも、やがて月の上では新月のうちに桂が繁るだろうことを人が予想し、琥珀の一滴の輝きというものには、過去二千年の松の年輪がおもいめぐらされている。
多羅樹の葉によって伝わる経文にかかれた真実を信じ、煩悩を捨て一心不乱に生きるなら、過去生、現在生、未来生、どこに生きようとこの高楼から響くこの鐘の音は同じように聞こえるのであろう。



僧壁に題す
生を捨て 道を求めること 前蹤(ぜんしょう)有り、脳を乞(あたえ) 身を剜(さ)き 願を結ぶこと重。
大にしては便(すなわち) 応(まさ)に粟顆(ぞくか)を欺(あざむ)くべく、小にしては兼ねて針鋒に隠れる可(べし)。
蚌胎(ぼうだい) 未だ満たずして新しき桂を思い、琥珀(こはく) 初めて成り 旧き松を憶う。
若し貝多(ばいた)真実の語を信ずれば、三生 同じく聴かん一楼の鐘




○題僧壁 僧院の壁に書きつけた詩。李商隠は仏教への関心も深く、妻の死後、剣南東川節度使柳仲郢の書記として四川省の梓州へ赴いた時、常平山の慧義精舎経蔵院で写経を行った。これは宣宗大中7、8年頃(853・854年)晩年の作。


(命というもの)
捨生求道有前蹤、乞脳剜身結願重。
解脱への修行の道をもとめれば釈迦の誰も知る「おしえ」に示されている。餓えた虎の叫ぶのを聞いて、命を捨てよと。釈迦は、何一つ人に施すもののないときは、自分の脳味噌を人に与え、肉をさいて虎に施すことをも躊躇しなかった。それほど道を得ようとする願いは重く固いのだ。
捨生 求道身を捨てて無上の悟脱をもとめる。捨生は釈迦の前生に摩詞薩埵王子となって修行中、夜叉の化身の試しに応じ、崖の上から自分の体を投げ出して、飢えた虎に慈悲を垂れた有名な故事から出る言葉。なお梁の釈慧皎の「高僧伝」に亡身篇があり、中国における僧侶の捨生求道の事蹟を載せる。○前蹤 前例となる事柄、おしえ。○乞脳剜身   「因果経」に「菩薩は頭目脳体を以て、人に施すを以て、無上正直の道を求むるを為す。」と見える。乞は与える。剜はさく。


(物事の大きい、小さいということは)
大去便應欺粟顆、小來兼可隠針鋒。
大をみればこの大宇宙を一粒の粟の中に蔵し得るとなし、小さいこと考えれば、また尖った針の頭に、この多くの人々を受けて隠し得るものと説いている。
大去 去は語助詞。大きくなれば、というくらいの意味〕次句の小來の來も同じ。○欺粟顆 顆は粒に同じ。仏偏に「一粒の粟の中に世界を蔵す。」とある。○隠針鋒 北涼の曇無讖訳「大般涅槃経」に「尖頭針鋒も無量衆を受ける。」という句があるのをふまえる。



(物事の背景にあるものとは)
蚌胎未満思新桂、琥珀初成憶舊松。
海底の蛤が孕んだ真珠が、まだ円くひかり輝かぬうちにも、やがて月の上では新月のうちに桂が繁るだろうことを人が予想し、琥珀の一滴の輝きというものには、過去二千年の松の年輪がおもいめぐらされている。
蚌胎 蛤の胎盤。おなかに真珠の玉を抱いていること。○思新桂 月中に桂の樹があるという俗伝にもとづく。○琥珀初成 琥珀は樹脂の化石したもの。西晋の張葦の「博物志」に、松の脂は地中に冷ちて、千年すれば化して茯苓と為り、また千年すれば化して琥珀と為る、という。



(経文の「おしえ」により生きる)
若信貝多眞實語、三生同聴一樓鐘。
多羅樹の葉によって伝わる経文にかかれた真実を信じ、煩悩を捨て一心不乱に生きるなら、過去生、現在生、未来生、どこに生きようとこの高楼から響くこの鐘の音は同じように聞こえるのであろう。
貝多 貝多葉。印度の多蘿樹の葉。それに文字を書いたところから、印度の書物特に仏典を貝(多)葉という。〇三生 過去生、末来生、現在生をいう。




○韻  蹤、重、鋒、松、鐘。