無 題(白道縈廻入暮霞) 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-83


無 題
白道縈廻入暮霞、斑騅嘶断七香車。
この街の白門につづく道がある、女性の体はうね曲がってその中につつまれていく。あでやかななじみの芸妓は七香のなかで呻き、善がり声が響き渡る。
春風自共何人笑、枉破陽城十寓家。

万物が愛をはぐくむお誘いの風はわけもなく誘われるままに誰にたいしても微笑んだりしている、美女の微笑はことさらに陽城の十万家を滅ぼしたりするというのか。



無 題(白道縈廻入暮霞)の訳註と解説

(無題の本文)
白道縈廻入暮霞、斑騅嘶断七香車。
春風自共何人笑、枉破陽城十寓家。


(下し文)

白道廻して暮霞に入る、斑騅噺断す 七香車。

春風 自ら何人と共に笑い、枉げて破らん 陽城十万の家。


(現代訳)
この街の白門につづく道がある、女性の体はうね曲がってその中につつまれていく。あでやかななじみの芸妓は七香のなかで呻き、善がり声が響き渡る。
万物が愛をはぐくむお誘いの風はわけもなく誘われるままに誰にたいしても微笑んだりしている、美女の微笑はことさらに陽城の十万家を滅ぼしたりするというのか。


無題 楚の国にはことさら美女が多い。芸妓の微笑でみんなが夢中になってしまって陽城の十万家を滅ぼしてしまう。この街にある色町には美人が多いから誘われるとのってしまうという洒落の詩である。
 

白道縈廻入暮霞、斑騅嘶断七香車。
この街の白門につづく道がある、女性の体はうね曲がってその中につつまれていく。あでやかななじみの芸妓は七香のなかで呻き、善がり声が響き渡る。
白道 芸妓のいる色町の門は西にあり、白色である。そこへ続く道。李商隠「春雨」 五行思想からくる○縈廻 女性の肢体の曲線をあらわし、くねくね曲がる。○暮霞 「霞」はかすみではなく、朝晩の色鮮やかな雲。ここでは、雲は女性を示す。○斑騅 楚の国項羽の愛馬を「騅馬」という。気に云ったなじみの芸妓。〇七香車 多種の香木で作られた豪著な車。梁・簡文帝「烏棲曲」に「青牛丹戟七香車、憐むべし今夜 侶家に宿る」。



春風自共何人笑、枉破陽城十寓家。
万物が愛をはぐくむお誘いの風はわけもなく誘われるままに誰にたいしても微笑んだりしている、美女の微笑はことさらに陽城の十万家を滅ぼしたりするというのか。
春風 万物が愛をはぐくむお誘いの風。○自共 自然にわけもなく誘われるままに。 ○人笑 宋玉の「登徒子好色の賦」に楚の美女がほほえむと、陽城や下蔡の人々を夢中にさせた。○枉 ことさらに。○陽城 楚の国の地名。宋玉「登徒子好色の賦」(『文選』巻一九)の序に「婿然として一笑すれば、陽城を惑わし、下蔡を迷わす」。楚の美女がほほえむと、陽城や下蔡の人々を夢中にさせたという。 
この詩は、「人笑」と「陽城」の語で宋玉の「登徒子好色の賦」に基づき作られている、洒落の詩である。


○詩型 七言絶句。
○押韻 霞、車、家。



 宋玉 「登徒子好色賦」
 天下の美人は楚国にあり。楚の国のなまめかしくも美しい娘は、我が故郷に多い。
 その中でもとびきりの別嬪は、我が家の東隣の娘だ。その娘の肢体は適(縈廻)である。背は高くもなく低くもなく、表情は愛らしく化粧しなくともほんのり薄紅色。眉毛、膚、縊れた腰、歯並びなにもかも全て申し分ない。彼女がにっこり微笑む時、その美しさは抜群。形容のしようがない。もし洛陽、下蔡の道楽息子が一目見ると、ただそれだけでとろけて、のぼせることは間違いない。
 だが、この『東家之女(東隣の美人)』は、壁によじ登り常に私を盗み見し、既にまる三年になる。が、私は今に至っても彼女の愛情を受けていいない。

 さらに、登徒子について。
 「登徒大夫について言いますと、私と、はっきりと違います。彼の奥さん、髪は乱れ、耳は歪み、三口(ミツクチ)で、歯も欠け腰は曲がってあっちへ行ったりこっちへ来たり、全身、『できもの』でさらに重度の『痔』。しかしながら、登徒大夫は彼女を好み、既に妻との間に五人子供を造っています。」
 最後に宋玉は楚襄王に言う。
 「述べた通りのこれが事実です。一体全体どちらが好色でしょうか?これで明らかでしょう!」
 襄王は宋玉に道理があると認めた。
 これにより、人々は登徒子を好色男の代表とみなし、好色の人を即ち『登徒子』と呼ぶようになった。
 さらにこれから美人のたとえを『東家之子』又は『東家之女』と呼ぶようになった。美女を称して『東隣』とした李白「白紵辭其一」、『美人一笑』については「白紵辭其二」に見える。李商隠もこの詩を参考にしている。

李白81白紵辭其一  82白紵辭其二  83 巴女詞