藥轉 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-85

 
藥轉
鬱金堂北畫樓東、換骨神万上藥通。
香を焚きしめた鮮やかな黄色の奥座敷の北側、あでやかな色彩の楼閣の東側にある。仙骨に変わる神秘の方法、最上の仙薬こそがそこに通ずる手段なのだ。
露気暗連靑桂苑、風聾偏猟紫蘭叢。
佳人をあらわにするような雰囲気が暗いところまで続いている、春の誘いをもよおす桂樹の庭園である。風の音に混じって紫の蘭の花のくさむらの一部のあたりで鳥獣を追い立てるような声がしている。
長籌末必輸孫皓、香棗何勞問石崇。
長い竹べらがある、西晋の富豪孫酷は竹べらで局部がはれたがまだそこまでに、なっていないようだ。厠に香を焚き、侍女に香り高い棗よういさせる、それは何のためかと石崇に尋ねるまでもない彼らと同様の横暴ななふるまいをしているのだ。
憶事懐人兼得句、翠衾歸臥繍簾中。

いろんな故事をおもいだし、いろんな人を思ってこんな詩句ができた。自分もみどりのしとねにくるまった妓女がいる、刺繍のすだれの部屋の真ん中に帰り、臥せることにしよう。

薬 転
鬱金の堂の北 画楼の東、換骨 神方 上薬にして通ず。
露気 暗に連なる 青の桂苑、風声 偏猟にして紫蘭の叢。
長語末だ必ずしも孫皓に輸せず、香棗 何ぞ石崇に問うを労せん。
事を憶い人を懐いて兼ねて句を得たり、翠衾 歸りて臥さん 繍簾の中。


訳註と解説
(本文)
鬱金堂北畫樓東、換骨神万上藥通。
露気暗連靑桂苑、風聾偏猟紫蘭叢。
長籌末必輸孫皓、香棗何勞問石崇。
憶事懐人兼得句、翠衾歸臥繍簾中。

(下し文)
鬱金の堂の北 画楼の東、換骨 神方 上薬にして通ず。
露気 暗に連なる 青の桂苑、風声 偏猟にして紫蘭の叢。
長語末だ必ずしも孫皓に輸せず、香棗 何ぞ石崇に問うを労せん。
事を憶い人を懐いて兼ねて句を得たり、翠衾 歸りて臥さん 繍簾の中。
 
(現代語訳)

香を焚きしめた鮮やかな黄色の奥座敷の北側、あでやかな色彩の楼閣の東側にある。仙骨に変わる神秘の方法、最上の仙薬こそがそこに通ずる手段なのだ。
佳人をあらわにするような雰囲気が暗いところまで続いている、春の誘いをもよおす桂樹の庭園である。風の音に混じって紫の蘭の花のくさむらの一部のあたりで鳥獣を追い立てるような声がしている。
長い竹べらがある、西晋の富豪孫酷は竹べらで局部がはれたがまだそこまでに、なっていないようだ。厠に香を焚き、侍女に香り高い棗よういさせる、それは何のためかと石崇に尋ねるまでもない彼らと同様の横暴ななふるまいをしているのだ。
いろんな故事をおもいだし、いろんな人を思ってこんな詩句ができた。自分もみどりのしとねにくるまった妓女がいる、刺繍のすだれの部屋の真ん中に帰り、臥せることにしよう。


藥轉
薬転 薬が作用を発揮することにより、人が変わり、状況が変わる。



鬱金堂北畫樓東、換骨神万上藥通。
香を焚きしめた鮮やかな黄色の奥座敷の北側、あでやかな色彩の楼閣の東側にある。仙骨に変わる神秘の方法、最上の仙薬こそがそこに通ずる手段なのだ。
鬱金 鮮やかな黄色の座敷。鬱金草の香を焚いている。○堂北 座敷。主要な奥座敷。通常は西の方角に位置するが、その北側にある。○画楼 彩り鮮やかな楼閣。○換骨 服薬によって骨が変わり仙人の肉体になる。『漢武内伝』に服薬して仙人になる九年の過程を述べ、「六年にして骨を易う」。○神方 薬により仙人になる方法、処方。「碧城三首」其の三参照。○上薬 仙薬のなかで上中下のランクの最高のもの。

 

露気暗連靑桂苑、風聾偏猟紫蘭叢。
佳人をあらわにするような雰囲気が暗いところまで続いている、春の誘いをもよおす桂樹の庭園である。風の音に混じって紫の蘭の花のくさむらの一部のあたりで鳥獣を追い立てるような声がしている。
露気暗連 あらわにするような雰囲気が暗いところまで続いているこれが次の句の叢に掛かる。○青桂苑 青が五行思想で春を示す、桂は奥座敷の部屋の柱ほか材料であり、桂の植わる庭園は、屋外の情交の場所。○偏猟 叢の一部で狩りをしているような動きがある。○紫蘭叢 紫の蘭の咲き誇る草むら。美女の集う場をあらわす。「少年」詩に「別館覚め来たる雲雨の夢、後門帰り去る意蘭の叢」。これも武帝、西王母の逢い引きに連なる。西王母の来訪を知らせに来た使者は「西王母の紫蘭宮の玉女」であったと『漢武内伝』に見える。



長籌未必輸孫皓、香棗何勞問石崇。
長い竹べらがある、西晋の富豪孫酷は竹べらで局部がはれたがまだそこまでに、なっていないようだ。厠に香を焚き、侍女に香り高い棗よういさせる、それは何のためかと石崇に尋ねるまでもない彼らと同様の横暴ななふるまいをしているのだ。
長籌 厠籌のこと。用便、性交のあとで用いる竹べら。○輸孫皓 道世『法苑珠林』に見える呉の孫皓の故事を用いる。孫皓は仏像を厠に置き、廊箸を持たせた。下女をはべらせた前で仏像の頭に放尿して遊んでいると、陰部が腫れて激痛に苦しんだ。下女の一人が仏像を供養することを勧めたのに従うと、痛みは消えたという。「輸」は負けること。孫皓は「暴君」であり、無理やり群臣達に飲酒を強要した上で、監視の役人を側に置き、酩酊状態でわずかでも問題のある言動があれば処罰を加えた。また後宮に何千もの女性を入侍させ、意にそぐわない宮女を殺害し、宮殿内に引き込んだ川にその死体を遺棄したという。刑罰では残虐な方法を使い、人の顔を剥いだり、目玉をえぐったりもしたという。お気に入りの人物は重用し高官に取り立てた。○香棗何勞問石崇 これも周に関わる、『自氏六帖』 に見える故事を用いる。贅を極めたことで知られる西晋の石崇は廟の中にも下女を数十人はべらせ、棗の実をもたせた。将軍の王敦が訪れた時、それが臭気を防ぐために鼻に詰めるものであると知らず、棗を食べてしまったので下女たちの笑いものになったという。同時に、王敦だけは、全く動じる様子が無く、傲然としてサービスを受けたのである。これを見た石崇の侍女達は、「王敦殿は、将来きっと大それたことをするだろう」と言い合ったという。

 当時の上流階級は、厠(トイレ)に行くと、衣服を全て脱ぐという風習があった。上流階級の一人である石崇の家の厠では、煌びやかな服を着た侍女達が十数人も並んでいて、香を焚いて、仕立て下ろしの服を着せるというサービスをしていた。そのため大抵の客は、恥ずかしさのあまり厠に行きそびれたり、たとえ行っても恥ずかしさのあまり、落ち着かない表情とかをしていたのである(「世説新語」汰侈篇)



憶事懐人兼得句、翠衾歸臥繍簾中。
いろんな故事をおもいだし、いろんな人を思ってこんな詩句ができた。自分もみどりのしとねにくるまった妓女がいる、刺繍のすだれの部屋の真ん中に帰り、臥せることにしよう。
 故事。○ 薬物により、人格変化した人。○翠衾 みどりも五行思想では春であり、情交をするしとね。
 位置的な意味と行為にあたるという意味。



(解説)
○詩型 七言律詩。
○押韻 東、通、叢、宗、中。


快楽、淫欲の諸相を並べた詩であるが、ここでは、おそらく回春薬、覚せい剤による、人格の変化、状況が変化していくことを、洒落を用いながら詩にしている。歴代王朝で、常にこの薬中毒ということが問題になっている。李商隠の詩にも宦官、道教の金丹、回春薬、不老不死の薬というものが王朝をほろしていることを指摘している。
 当時の人々の間でも、後宮、富豪らか権力や、金ににより、豪奢、奢侈な生活だけでなく、薬物による頽廃し、やがて滅亡することを認識していた。

 この詩で、便所を舞台に、薬物により、変化していった故事に基づいた面白い着想の詩である。

 このほか、李商隠には、堕胎を詠んだ詩であるとか、さらには便秘の悩みがあった李商隠が通じ薬ですっきりした詩であるとかがある。