杜工部蜀中離席 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-86




杜工部蜀中離席

人生何處不離羣、世路干戈惜暫分。
人が生きていく上で、人の集まりからの別離しなくていいところがどこにあるというのか。今の世代の政治体制の上で戦乱はある、出征する兵士としばしの別れには別れに後ろ髪を引かれる。
雪嶺末歸天外使、松州猶駐殿前軍。
雪山の嶺である天涯の地に赴いた使者は故郷に帰ることない、松州には近衛軍団という一個旅団が駐留し続けている。
座中酔客延醒客、江上晴雲雜雨雲。
酒を飲む気にもなれないのに、酔客に引っ張り込まれた宴席がつづく。川辺のはるかな青空に何かを予感する雨雲がまじってきた。
美酒成都堪送老、當壚仍是卓文君。
こんなにうまい酒に恵まれた成都の地でこのまま晩年を過ごすのも悪くないとおもう。この地では酒を相手にしてくれるのは、やはり卓文君に限るというものだ。


(下し文)
人生 何れの処か群を離れざる、世路 千戈 暫くも分かるるを惜しむ。
雪嶺 末だ帰らず 天外の使、松州 猶お駐まる 殿前の軍。
座中の酔客 醒客を延べ、江上の暗雲 雨雲を雑う。
美酒 成都 老を送るに堪う、壚に当たるは仍お是れ卓文君。







杜工部蜀中離席 訳註と解説

(本文)
人生何處不離羣、世路干戈惜暫分。
雪嶺末歸天外使、松州猶駐殿前軍。
座中酔客延醒客、江上晴雲雜雨雲。
美酒成都堪送老、當壚仍是卓文君。


(下し文)
人生 何れの処か群を離れざる、世路 千戈 暫くも分かるるを惜しむ。
雪嶺 末だ帰らず 天外の使、松州 猶お駐まる 殿前の軍。
座中の酔客 醒客を延べ、江上の暗雲 雨雲を雑う。
美酒 成都 老を送るに堪う、壚に当たるは仍お是れ卓文君。


(現代語訳)

人が生きていく上で、人の集まりからの別離しなくていいところがどこにあるというのか。今の世代の政治体制の上で戦乱はある、出征する兵士としばしの別れには別れに後ろ髪を引かれる。
雪山の嶺である天涯の地に赴いた使者は故郷に帰ることない、松州には近衛軍団という一個旅団が駐留し続けている。
酒を飲む気にもなれないのに、酔客に引っ張り込まれた宴席がつづく。川辺のはるかな青空に何かを予感する雨雲がまじってきた。
こんなにうまい酒に恵まれた成都の地でこのまま晩年を過ごすのも悪くないとおもう。この地では酒を相手にしてくれるのは、やはり卓文君に限るというものだ。



杜工部蜀中離席
杜工部 杜甫は蜀(成都浣花渓)に滞在中、剣南東西川節度使であった厳武の庇護を受けてその参謀に取り立てられ、それに対応する朝廷の肩書きとして工部員外郎の官位を得たので、杜工部と呼ばれる。○離席 送別の宴席。



人生何處不離羣、世路干戈惜暫分。
人が生きていく上で、人の集まりからの別離しなくていいところがどこにあるというのか。今の世代の政治体制の上で戦乱はある、出征する兵士としばしの別れには別れに後ろ髪を引かれる。
離群 仲間と別れて一人で住まう。『礼記』檀弓の子夏の言葉「離群索居」 にもとづく。「索居」は離れて住むこと。○干戈 たてとはこ。戦乱をいう。杜甫「前出塞」其一、「月」「喜聞官軍已臨賊境二十韻」「観兵」杜甫の詩に頻見の語。



雪嶺末歸天外使、松州猶駐殿前軍。
雪山の嶺である天涯の地に赴いた使者は故郷に帰ることない、松州には近衛軍団という一個旅団が駐留し続けている。
雪嶺末歸天外使 杜甫「厳公の庁の宴に覇道の画図を詠ずるに同ず」詩に「剣閣 星橋の北、松州 雪嶺の東」。「松州」(四川省松播県)は蜀の北部、吐蕃と接する地。唐太宗の時に都督府が置かれ、境界の防備に当てた。そこに雪山(雪嶺)の山脈が横たわり、唐と吐蕃とを分ける。「殿前軍」は宮殿の前の軍の意味で、本来は近衛兵。辺境の武将は軍事費獲得のために朝廷の直轄であろうとしてこのように称した。
「嚴公廳宴,同詠蜀道畫圖」(得空字) 厳武の官邸の酒宴にあって蜀道の画図を観てともに詠じた詩。宝応元年成都においでの作。



座中酔客延醒客、江上晴雲雜雨雲。
酒を飲む気にもなれないのに、酔客に引っ張り込まれた宴席がつづく。川辺のはるかな青空に何かを予感する雨雲がまじってきた。
座中一句 世事と我が身を思えば酔う気にもなれないのに、宴会の席で酔った人に無理矢理勧められる。「延」は引き入れるの意。「酔客」-「醒客」 の対は『楚辞』漁父の 「衆人皆な酔いて我れ一人醒む」を思わせる。「座中」「江上」 の一聯は「酔客」「醒客」、「暗雲」「雨雲」を対にした、どちらも句中の対の技法を用いる。句中の対は杜甫から顕著になるといわれる。



美酒成都堪送老、當壚仍是卓文君。
こんなにうまい酒に恵まれた成都の地でこのまま晩年を過ごすのも悪くないとおもう。この地では酒を相手にしてくれるのは、やはり卓文君に限るというものだ。
當壚仍是卓文君 「壚」は酒に爛をつけるいろり、から、お酒のお相手となる。卓文君の故事にもとづく。蜀の司馬相如は世に出る前、卓文君と駆け落ちして、生活のために臨卭(四川省卭崍県)の地で飲み屋を開き、「文君をして盧に当たらしむ」(『漢書』司馬相如伝)。「盧」は「壚」に通じる。顔師古の注ではいろりではなく酒のかめを置くために土を盛った所という。




(解説)

○詩型 七言律詩。
○押韻 群・分・軍・雲・君。