無 題(照梁初有情) 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-90
無 題(照梁初有情)

無 題
照梁初有情、出水舊知名。
はじめての経験、その夜は眠れず朝を迎え、ういういしさを朝日が座敷のはりを照らす輝きに、嬉恥ずかしい新しい気持ちなのだ。水面の上に花開く蓮は古くからはじめて開く妓女の姿として知られている。
裙衩芙蓉小、釵茸翡翠輕。
きものの裾は小さな蓮のように開かれるのである。房が多いかんざしには羽飾りの軽やかな翡翠がきれいだ。
錦長書鄭重、眉細恨分明。
今頃になると来てくれない、昔から思いのたけをていねいに長い錦に織り込んだ、細く描いた眉には、恋のつらさが浮かび上がる。
莫近彈棋局、中心最不平。

しかし、いくら約束の日に来ないといってもお相手をきめる弾棋の盤には近づかない方がいい。心の中の思いは燃えたぎっていて、平静の気持ちでおられない。



無 題 訳註と解説
照梁初有情、出水舊知名。
裙衩芙蓉小、釵茸翡翠輕。
錦長書鄭重、眉細恨分明。
莫近彈棋局、中心最不平。


(下し文)無 題
梁を照らして初めて情有り、水より出でて旧より名を知らる。
裙衩 芙蓉小さく、欽茸 翡翠軽し。
錦長くして書は鄭重、眉細くして恨みは分明。
弾棋の局に近づくこと莫かれ、中心 最も平らかならず。

(現代語訳)
はじめての経験、その夜は眠れず朝を迎え、ういういしさを朝日が座敷のはりを照らす輝きに、嬉恥ずかしい新しい気持ちなのだ。水面の上に花開く蓮は古くからはじめて開く妓女の姿として知られている。
きものの裾は小さな蓮のように開かれるのである。房が多いかんざしには羽飾りの軽やかな翡翠がきれいだ。
今頃になると来てくれない、昔から思いのたけをていねいに長い錦に織り込んだ、細く描いた眉には、恋のつらさが浮かび上がる。
しかし、いくら約束の日に来ないといってもお相手をきめる弾棋の盤には近づかない方がいい。心の中の思いは燃えたぎっていて、平静の気持ちでおられない。




照梁初有情、出水舊知名。
はじめての経験、その夜は眠れず朝を迎え、ういういしさを朝日が座敷のはりを照らす輝きに、嬉恥ずかしい新しい気持ちなのだ。水面の上に花開く蓮は古くからはじめて開く妓女の姿として知られている。
照梁 はじめての経験、その夜は眠れず朝を迎え、ういういしさを朝日が座敷のはりを照らす輝きにたとえる。宋玉「神女の賦」(『文選』巻一九)に「其の始めて来たるや、耀として白日の初めて出でて屋梁を照らすが若し」。○初有情 「情」は恋心。恋を知りそめる年になったこと。○出水 清新な美しきを蓮の花が水面に開いたのにたとえる。曹植「洛神の賦」(『文選』巻一九)に「灼として芙蓉の淥波(緑波)を出ずるが若し」。梁・鐘嶸『詩品』に南朝宋・湯恵休が謝霊運と顔延之を比較して、「謝詩は芙蓉の水を出ずるが如く、顔詩は彩りを錯じえ金を鏤めるが如し」と、詩を評した比喩にも用いられる。○旧知名 古くからはじみめて開く妓女の姿として知られている。


裙衩芙蓉小、釵茸翡翠輕。
きものの裾は小さな蓮のように開かれるのである。房が多いかんざしには羽飾りの軽やかな翡翠がきれいだ。
裙衩 着物の合わせのすそを開く。切り込みの入った着物の裾。「裙衩」は蓮の花のように開かせる。○芙蓉 蓮の花。もすその模様としては、『楚辞』離騒に「芰荷を製して以て衣と為し、芙蓉を集めて以て裳と為す」とみえる。○叙茸 ふさふさした飾りをつけたかんざし。「茸」はにこけ。○翡翠 芸妓は翡翠の羽をかんざしの飾りとしてつける。宋玉「諷賦」(『芸文類架』巻二四)に「其の翡翠の釵を以て、臣の冠䋝(かんむりを結ぶひも)に挂く」とみえる。


錦長書鄭重、眉細恨分明。
今頃になると来てくれない、昔から思いのたけをていねいに長い錦に織り込んだ、、細く描いた眉には、恋のつらさが浮かび上がる。
錦長一句 錦を織って回文詩を夫に送った故事を用いる。前秦の竇滔の妻蘇恵は遠方にいる夫を思って、上から読んでも下から読んでも詩になる八百四十字を錦に織り込んで連綿たる思いを綴った(『晋書』列女伝)。回文詩の始まりとされる。○眉細一句 眉を細く描いて憂わしげな表情を作る化粧。後漢の時、外戚として権勢を振るった梁冀の家から始まり、都一円に流行した。『後漢書』五行志に「所謂愁眉なるものは、細くして曲折す」と説明される。

莫近彈棋局、中心最不平。
しかし、いくら約束の日に来ないといってもお相手をきめる弾棋の盤には近づかない方がいい。心の中の思いは燃えたぎっていて、平静の気持ちでおられない。
弾棋局 弾棋のゲームをする盤。「弾棋」は中央が鉢を伏せたように盛り上がった碁盤の両側からコマを弾いて相手のコマにあてるゲーム(『夢渓筆談』巻一六)。同じ音の「棋」(ゲームのこま)と「期」(逢い引き、またその約束)の掛けことばは、恋をうたう南朝の楽府に習見。○中心一句 盤の「中心」が盛り上がっているのと掛けて、「心中」が平らでないという。


○詩型 五言律詩。
・押韻 情・名・軽・明・平。

 
芸妓になって稽古してきた初めて接客をした。初めての夜は、夜明けまで眠らず、日の出を迎えた。ベットで横になったままでいると、梁に朝日が射してきた。
それなのに今は約束をしても来てくれない。大人になりそめて、恋の悲しみを知った女性をうたう。楽府のうたいぶりを借りた軽やかな艶詩。